CQ6.BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異をもつ女性が乳房温存可能な乳癌に罹患した場合であっても乳房全切除術が勧められるか?

6.癌遺伝子診断と乳癌発症予防

推 奨
BRCA遺伝子変異を有する女性には乳房温存手術が可能であっても,患者が乳房温存手術を強く希望する場合以外は,乳房全切除術を行うことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:とても弱い,合意率:100%(12/12)〕

背景・目的

BRCA1BRCA2は癌抑制遺伝子の一つで,DNA2本鎖切断の修復過程に重要な働きをする。したがって生殖細胞系列にBRCA1およびBRCA2遺伝子変異を有する患者は放射線感受性が高く,二次癌を誘発するリスクが懸念される。そこでBRCA遺伝子変異を有する遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の乳癌に対して,放射線療法を必要とする乳房温存手術の安全性,有効性を検討する。

解 説

害のアウトカムとして乳房内再発リスク(重要度9点),乳癌再発リスク(重要度8点),乳癌死亡リスク(重要度7点),不安(重要度6点),益のアウトカムとして医療コスト(重要度4点)を設定した。

これまでにBRCA遺伝子変異を有する乳癌で乳房温存手術の安全性,有効性を検討したランダム化比較試験は存在しない。よってBRCA遺伝子変異を有する乳癌で放射線療法を伴う乳房温存手術を受けた患者は散発性乳癌で乳房温存手術を受けた患者に比べて予後に差があるのか,同側・対側の二次癌発症に差があるのか,について検討する。

海外ではランダム化比較試験が存在しないものの,BRCA遺伝子変異を有する乳癌の乳房温存手術に関する研究は以前より行われており,長期成績やメタアナリシスの報告が複数ある。アメリカ,カナダなどの11施設から乳房温存手術を受けたBRCA遺伝子変異を認める乳癌160人と散発性乳癌445人の症例対照研究(観察期間中央値7年)が報告されており,10年および15年の乳房内再発率はBRCA遺伝子変異を有する群で12%,24%,散発群で9%,17%であり,有意差はなかった(p=0.19)。卵巣摘出後では乳房内再発の差はさらに小さくなった(p=0.37)。対側乳癌の発症はBRCA遺伝子変異を有する群では10年,15年でそれぞれ26%,39%であり,散発群の3%,7%と比べて有意に高率であった(p<0.0001)。しかし,タモキシフェンを内服することによりBRCA遺伝子変異群で対側乳癌の発症を有意に抑制し〔HR 0.31(p=0.05)〕,特に両側卵巣摘出術未施行群ではHR 0.13とさらに抑制した。しかし卵巣摘出後ではタモキシフェンの抑制効果は認められなかった〔HR 0.46(p=0.15)〕1)

Valachisらは10の研究をプール解析で乳房温存手術後の乳房内再発率で比較したところ,BRCA遺伝子変異群では17.3%,散発群では11%であり,相対リスク(RR) 1.45(95%CI 0.98-2.14)で有意差を認めなかった。しかしながら観察期間を7年以上とするとRR 1.51(95%CI 1.15-1.98)と有意差を認めた。乳房内再発を下げる因子は化学療法と卵巣摘出術であった。対側乳癌に関してはRR 3.56(95%CI 2.50-5.08)とBRCA遺伝子変異群で有意に高く,タモキシフェン内服,高年齢で低下していた2)

今回のわれわれの乳房内再発をアウトカムとしたメタアナシスの結果〔HR 1.43(95%CI 1.12-1.84)〕もBRCA遺伝子変異のある乳癌で乳房温存手術を行った場合,散発性乳癌に比べて乳房内再発のリスクが有意に高まる可能性が示された(図1)1)3)4)

ただBRCA遺伝子変異を認める乳癌の予後について考察された14の論文のレビューでは,ほとんどの研究において,乳房温存手術後の乳房内再発リスクはBRCA遺伝子変異を有する乳癌群と散発性乳癌との間で初発乳癌発症後5年のフォローアップ期間では有意差が認められなかった。有意差が認められた研究は卵巣摘出術および術後タモキシフェンを服用している人を含んでいないものであった。一方,フォローアップ期間が5~10年ではBRCA遺伝子変異を有する乳癌群が乳房内再発のリスクが高くなっており,真の乳房内再発ではなく新生癌の可能性も考えられるが,BRCA遺伝子変異のある乳腺組織における放射線感受性や放射線後の発症の関連性についてのエビデンスはないとされている(二次資料①)。

また最近のレビューで,BRCA遺伝子変異を有する乳癌4,021人の放射線療法+乳房温存手術と乳房全切除術の25本の論文を対象とし,同側・対側乳癌発症,生存率を検討したものがある5)。このレビューの考察で,BRCA遺伝子変異を有する乳癌に対する乳房温存手術の安全性・有効性の正確なエビデンスが提示できない理由として,① ランダム化比較試験がなく,サンプルバイアスが高いこと,② 乳癌家族歴そのものが予後のリスクファクターであること,③ BRCA遺伝子変異乳癌のほうが一般の乳癌に比べて追跡期間が長く追跡調査の対象となること,④ 対象となる一般の乳癌の多くがBRCA遺伝学的検査を行っていないこと,⑤ 予後因子となる病理学的特徴の記載が少ないことなどが挙げられている。結果は,乳房内再発はBRCA遺伝子変異を有する乳癌と一般の乳癌で統計学的有意差がなかった。1論文のみ有意差があったが,真の乳房内再発でなく,新生癌がほとんどであったこと,乳房内再発は化学療法により低下したとされている。また乳房温存手術と乳房全切除術では対側乳癌発症率に照射歴による有意差はないこと3)5),乳房温存手術を受けたBRCA遺伝子変異を有する乳癌と213人の散発性乳癌では急性期の皮膚・肺障害や乳房痛,晩期性反応の皮膚,皮下組織,肺,骨への影響で差がなかったこと5)6)BRCA遺伝子変異を有する乳癌の乳房温存手術と乳房全切除術による生存率への影響は化学療法により有意差は認められなくなること5)7)が報告されている(☞乳癌診療ガイドライン①治療編2018年版,放射線療法FQ1参照)。

以上よりBRCA遺伝子変異を有する乳癌に対する,放射線療法を伴う乳房温存手術のランダム化比較試験はなく,すべて後ろ向き研究の報告・レビューにおいては乳房全切除術と比較して,乳房内再発・対側乳癌発症リスク,生存率への影響に関しては明らかなエビデンスはないが,いずれもサンプルサイズが少ないこと,長期的にみると新生癌の発症リスクの可能性があることから,術前にBRCA遺伝子変異陽性が判明している場合においては,患者が乳房温存手術を強く希望する場合以外は乳房全切除術を行うことを弱く推奨する。

検索キーワード

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Genes,BRCA1”,“Genes,BRCA2”,“Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome”,“Mastectomy”,“Neoplasm Recurrence,Local”のキーワードと同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2012年~2017年6月とし,246件がヒットした。本CQに対して文献検索を行った結果,PubMed 19編,医中誌5編が抽出され,それ以外に1編の論文が追加された。一次スクリーニングで9編の論文が抽出され,二次スクリーニングにて内容が適切でないと判断した論文を除外し,最終的に3編の論文を対象に定性的および定量的システマティック・レビューを実施した。

参考にした二次資料

① Bordeleau L, Panchal S, Goodwin P. Prognosis of BRCA―associated breast cancer:a summary of evidence. Breast Cancer Res Treat. 2010;119(1):13―24. [PMID:19789974]

参考文献

1)Pierce LJ, Levin AM, Rebbeck TR, Ben―David MA, Friedman E, Solin LJ, et al. Ten―year multi―institutional results of breast―conserving surgery and radiotherapy in BRCA1/2―associated stageⅠ/Ⅱ breast cancer. J Clin Oncol. 2006;24(16):2437―43. [PMID:16636335]

2)Valachis A, Nearchou AD, Lind P. Surgical management of breast cancer in BRCA―mutation carriers:a systematic review and meta―analysis. Breast Cancer Res Treat. 2014;144(3):443―55. [PMID:24567198]

3)Pierce LJ, Phillips KA, Griffith KA, Buys S, Gaffney DK, Moran MS, et al. Local therapy in BRCA1 and BRCA2 mutation carriers with operable breast cancer:comparison of breast conservation and mastectomy. Breast Cancer Res Treat. 2010;121(2):389―98. [PMID:20411323]

4)Kirova YM, Savignoni A, Sigal―Zafrani B, de La Rochefordiere A, Salmon RJ, This P, et al. Is the breast―conserving treatment with radiotherapy appropriate in BRCA1/2 mutation carriers? Long―term results and review of the literature. Breast Cancer Res Treat. 2010;120(1):119―26. [PMID:20033769]

5)Hallam S, Govindarajulu S, Huckett B, Bahl A. BRCA1/2 mutation―associated breast cancer, wide local excision and radiotherapy or unilateral mastectomy:a systematic review. Clin Oncol(R Coll Radiol). 2015;27(9):527―35. [PMID:26113392]

6)Pierce LJ, Strawderman M, Narod SA, Oliviotto I, Eisen A, Dawson L, et al. Effect of radiotherapy after breast―conserving treatment in women with breast cancer and germline BRCA1/2 mutations. J Clin Oncol. 2000;18(19):3360―9. [PMID:11013276]

7)Seynaeve C, Verhoog LC, van de Bosch LM, van Geel AN, Menke―Pluymers M, Meijers―Heijboer EJ, et al. Ipsilateral breast tumour recurrence in hereditary breast cancer following breast―conserving therapy. Eur J Cancer. 2004;40(8):1150―8. [PMID:15110878]

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