2019年10月23日更新

総説3 高濃度乳房問題について

1.乳がん検診

1)高濃度乳房問題に関する提言
米国コネチカット州において2009年に初めて「Breast Density Notification Law」が制定され,2017年末までに30州で,「Breast Density Notification Law」が州法として制定されている。日本でも2016年6月に一部のマスメディアが高濃度乳房に対する検診マンモグラフィの低感度について問題として取り上げたことから国民の関心が高まった。そこで,検診マンモグラフィ受診者に対して乳房構成を通知すべきか等,今後の対応について検討するよう厚生労働省より日本乳癌検診学会に依頼があったため,関連学会とワーキンググループを設置し高濃度乳房問題を検討することになった。その検討結果をもとに出された提言が,日本乳癌検診学会・日本乳癌学会・日本乳がん検診精度管理中央機構の乳がん検診の関係3団体の承認を得て,2017年3月に『対策型乳がん検診における「高濃度乳房」問題の対応に関する提言』として,その内容を各々の学会および機構のウェブサイトにて公表されている1)。その提言の骨子は以下の通りである。
◦対策型検診において受診者に乳房の構成(極めて高濃度,不均一高濃度,乳腺散在,脂肪性)を一律に通知することは現時点では時期尚早である。乳房の構成の通知は,今後検討が進み対象者の対応(検査法等)が明示できる体制が整ったうえで,実施されることが望ましい。
◦乳房の構成は受診者個人の情報であり,受診者への通知を全面的に妨げるものではない。通知するにあたって,市区町村には受診者から正しい理解が得られるような説明・指導とそのための体制整備が求められる。今後,受診者のニーズを踏まえたよりよい通知の方法について,対応を検討していく必要がある。
◦高濃度乳房の実態,乳房超音波検査などの検診方法の効果,高濃度乳房を正しく理解するための方策などを,国および関係各団体は協力して検討していく必要がある。

2)高濃度乳房問題に対する世界の現状
米国では,2009~2017年の8年間という長い年月をかけて,ようやく米国全州の約60%(30/50州)の州で高濃度乳房告知を法制化した。さらにこの30州の中で,補助的乳がん検診モダリティとして超音波検査の使用を保険で賄うように州法の条項に規定している州は,わずか5州(17%:5/30州)しかない。そして,米国の乳がん検診の受診形態は任意型乳がん検診であることに注意する必要がある。一方,米国以外の国々の現状としては,対策型乳がん検診を施行している欧州30カ国で構成されるEuropean Society of Breast Imaging(EUSOBI)において,高濃度乳房の告知を法制化している国はない1)。つまり,全世界において米国30州以外で乳房構成の告知を法制化している国はなく,しかもその30州においてもその後の対応として具体的な検査を指示できる州は非常に限られているという現状を,高濃度乳房問題を議論する前に知るべきである。高濃度乳房告知を法制化している米国30州におけるその後の対応は,基本的に家族歴,遺伝学的検査,生涯リスク評価などの乳癌発症リスクに応じて対応を選別しており,高濃度乳房全員に追加検査を推奨しているわけではないという事実は強調されるべきである。

3)高濃度乳房と乳がん検診マンモグラフィ
高濃度乳房が乳がん検診マンモグラフィに与える影響は2つある。1つ目として,高濃度乳房は乳腺実質内に脂肪の混在はほとんどなく,そのため乳腺実質と同じ濃度である乳癌病変が正常乳腺に隠される可能性が高くなり,病変検出率が低くなるという問題である。この現象はマスキング効果(masking effect)と呼ばれ,高濃度乳房の検診マンモグラフィの感度が他の乳房構成分類に比較して低い傾向になる原因である。宮城県と福井県における乳癌登録情報と照合したデータによると,検診マンモグラフィの感度は,極めて高濃度33.3~51.1%,不均一高濃度68.3~68.5%,乳腺散在78.9~79.2%,脂肪性90.7~100%であり,高濃度乳房で感度が低い1)。2つ目として,極めて高濃度の乳房は脂肪性乳房よりも乳癌発症リスクが高くなる傾向があることであり,欧米からこれまでに多数報告されている。カナダの研究によると乳癌のオッズ比は極めて高濃度の乳房の方と脂肪性乳房の方を比較すると,前者が4.74倍多く報告されている2)しかし,乳癌の発症リスクは人種や国別に大差があり,日本人以外のデータは参考にならない。このことは日本人女性はアメリカ人女性よりも高濃度乳房の比率が高いが,乳癌発症率(11人に1人)3)はアメリカ人(8人に1人)4)よりも明らかに低いことから理解できる。
日本における高濃度乳房の乳癌リスク評価は3件の症例対照研究5)~7)が行われているが,それらの研究における高濃度乳房の定義や基準は一定でなく,さらに現在使用している定義と異なる。これらの研究結果から日本人においても高濃度乳房が脂肪性乳房よりも乳癌発症リスクが高くなる傾向があることは理解できるが,直接性や一貫性が低い研究であり,さらにエビデンスレベルが高い報告ではないため,この分野におけるさらなる研究が必要と考えられる。
以上より,極めて高濃度乳房の女性は脂肪性乳房の女性と比較すると,乳癌発症リスクが高いことと高濃度乳房のマスキング効果の影響でマンモグラフィの乳癌感度が低いとする解釈は正しい。しかし,この解釈における重要な点は,エビデンスのある客観的な数字で表すデータがないということと,4つの乳房構成分類の極めて高濃度乳房と脂肪性乳房の両極端の2群間において比較された結果であり,高濃度乳房(極めて高濃度+不均一高濃度)に関しての結果ではないということに注意する必要がある。

4)乳房構成の分類
乳房構成の分類は乳房内乳腺の性状に着目して,乳腺内の脂肪比率をその評価基準とし,定性的(視覚的)に「脂肪性乳房」「乳腺散在乳房」「不均一高濃度乳房」「極めて高濃度乳房」の4つに分類することが推奨されている1)8)。また,乳房構成の判定は病変が正常乳腺実質に隠される危険性を考慮しており,病変の検出が容易かどうかというマンモグラムの感度を示す基準でもある6)
なお,乳腺濃度や乳房濃度という用語の使用は適切ではなく,乳房内の乳腺の性状を意味する「乳房構成」が正しい用語である。

5)高濃度乳房を補うマンモグラフィの補助的乳がん検診モダリティ
現時点では高濃度乳房を補うマンモグラフィの補助的乳がん検診モダリティとして,乳癌死亡率低減効果を示すモダリティは存在しない。超音波検査やMRIは高濃度乳房に対して感度を上昇させるが,特異度は下がり偽陽性率が増加する9)。さらに超音波検査やMRIで追加される検診発見乳癌が過剰診断につながる可能性も否定できないため,真に有効であると判断できるエビデンスレベルの高いデータが示されるまでは,対策型乳がん検診として高濃度乳房を補うマンモグラフィの補助的乳がん検診モダリティを導入することには慎重であるべきである。しかし,任意型乳がん検診においては,利益と不利益に関する十分な説明のもと個々の受診者の価値観と責任に基づいて,高濃度乳房への個別化対応としての補助的乳がん検診モダリティの施行は現時点でも可能である。補助的乳がん検診モダリティを提供する施設は,提供するモダリティの精度管理と品質保証を行う義務がある。

参考文献

1) 日本乳癌検診学会,日本乳癌学会,日本乳がん検診精度管理中央機構.対策型乳がん検診における「高濃度乳房」問題の対応に関する提言.2017.http://www.jabcs.jp/pages/dbwg.html(日本乳癌検診学会),http://jbcs.gr.jp/wg(日本乳癌学会),http://www.qabcs.or.jp/news/entry-900.html(日本乳がん検診精度管理中央機構)

2) Boyd NF, Martin LJ, Yaffe MJ, Minkin S. Mammographic density and breast cancer risk:current understanding and future prospects. Breast Cancer Res. 2011;13(6):223. [PMID:22114898]

3) Siegel R, Ma J, Zou Z, Jemal A. Cancer statistics, 2014. CA Cancer J Clin. 2014;64(1):9—29. [PMID:24399786]

4) 国立がん研究センターがん情報サービス.最新がん統計.2017.https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/sum
mary.html

5) Kotsuma Y, Tamaki Y, Nishimura T, Tsubai M, Ueda S, Shimazu K, et al. Quantitative assessment of mammographic density and breast cancer risk for Japanese women. Breast. 2008;17(1):27—35. [PMID:17716895]

6) Nagata C, Matsubara T, Fujita H, Nagao Y, Shibuya C, Kashiki Y, et al. Mammographic density and the risk of breast cancer in Japanese women. Br J Cancer. 2005;92(12):2102—6. [PMID:26908327]

7) Nagao Y, Kawaguchi Y, Sugiyama Y, Saji S, Kashiki Y. Relationship between mammographic density and the risk of breast cancer in Japanese women:a case—control study. Breast Cancer. 2003;10(3):228—33. [PMID:12955035]

8) 植松孝悦.日本のDense Breast対応の現状.日本乳癌検診学会誌.2016;25(3):205—10.

9) Uematsu T. The need for supplemental breast cancer screening modalities:a perspective of population—based breast cancer screening programs in Japan. Breast Cancer. 2017;24(1):26—31. [PMID:27259342]

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