2020年8月23日更新

CQ1.閉経前ホルモン受容体陽性乳癌に対する術後内分泌療法として何が推奨されるか?

1.初期治療

推 奨
① タモキシフェンの使用を強く推奨する。
 〔推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:強、合意率100%[19/19]〕

② LH-RHアゴニストとタモキシフェンの併用を強く推奨する。
 〔推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:強、合意率89%[17/19]〕

③ LH-RHアゴニストとアロマターゼ阻害薬の併用を弱く推奨する。
 〔推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:中、合意率79%[15/19]〕

背景・目的

閉経前ホルモン受容体陽性乳癌における術後タモキシフェン単独、LH-RHアゴニスト単独、タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬とLH-RHアゴニストの併用を比較する試験が行われている。タモキシフェン単独、LH-RHアゴニストとタモキシフェン併用、およびLH-RHアゴニストとアロマターゼ阻害薬併用の臨床的意義について検討した。

解 説

①タモキシフェン

タモキシフェン5年内服とタモキシフェン内服なしを比較した20試験(n=10,645)を対象としたEarly Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group (EBCTCG)によるメタアナリシス1)では、術後5年間のタモキシフェン投与により、年齢、閉経状況、リンパ節転移や化学療法併用の有無にかかわらず、ホルモン受容体陽性乳癌において再発リスク(ハザード比(HR) 0.61, 95%CI 0.50-0.75)および死亡リスク(HR 0.78, 95%CI  0.74-0.8)を減少することが示された。
タモキシフェンによる特徴的な有害事象としては、子宮内膜癌の罹患リスクの上昇がある。EBCTCGのメタアナリシスでは、子宮内膜癌の罹患リスクは2.4倍に増加したが、子宮内膜癌による死亡リスクに有意な上昇は認めなかった。子宮内膜癌の罹患リスクは、55歳以上の女性に認められたが、54歳以下の女性では罹患リスクの有意な上昇は認めなかった(→総論「タモキシフェンによる子宮悪性腫瘍」参照)。そのほかの有害事象 (脳卒中 リスク比1.37、深部静脈血栓 リスク比 2.30、心血管イベント リスク比 0.89) については、コントロールと比較して有意なリスク上昇を認めなかった。
このメタアナリシスは20試験を対象としたものであり、エビデンスの強さは「強」とした。益と害のバランスについては、有害事象の発症という「害」に比べて、乳癌再発および乳癌死の減少という「益」が大きく上回ると考えられた。また、患者の希望に関してもバラツキは少ないと考えられた。
以上より、エビデンスの程度、益と害のバランス、患者の希望などを勘案し、推奨は「タモキシフェンの使用を強く推奨する」とした。
しかしながら、腫瘍径が5mm以下の腋窩リンパ節転移陰性・ホルモン受容体陽性乳癌(T1aN0乳癌)に対する内分泌療法の有用性を示すエビデンスは十分ではない。NSABP-B21ランダム化比較試験2)のT1a,bN0乳癌のサブセット解析では放射線単独群(332名)とタモキシフェン単独群(334名)、放射線+タモキシフェン群(334名)の比較では(T1aが28%、ER陽性が57%、閉経前が24%含まれる)8年のOSはどの群にも有意差はなく93から94%であり、遠隔再発率もそれぞれ3.3%, 3.2%, 1.6% (p=0.28)の結果であった。このグループにおける遠隔再発率、全生存率は90%以上と予後良好であり、T1aN0乳癌において内分泌療法による絶対的利益は得られるとしても小さい。しかし、いくつかの報告でホルモン受容体陽性T1aN0乳癌において組織学異型度、若年、脈管侵襲、Ki67高値が予後不良因子として抽出されており、これらを有する場合に術後内分泌療法の「益」がより期待できる可能性がある。

②LH-RHアゴニスト+タモキシフェン併用

SOFT試験(n=2,033)3)とE-3193試験/INT-0142試験(n=337)4)の統合解析では、タモキシフェンにLH-RHアゴニストを追加することで、無病生存期間(DFS)、全生存期間(OS)のいずれも有意な改善を示した(DFS: HR 0.77, 95%CI 0.64-0.93, OS: HR 0.69, 95%CI 0.51-0.93)。なお、E-3193試験は、化学療法を行っていない腋窩リンパ節転移陰性のいわゆる再発低リスクに分類されるような患者が対象でありDFS, OSに差は認めていない(DFS: HR 0.86 ,95%CI 0.48-1.55, OS: HR 0.84, 95%CI 0.37-1.91)4)。また、SOFT試験では、化学療法未施行例が47%、化学療法を施行した患者が53%含まれており、化学療法未施行例のDFSは、E-3193と同様に、LH-RHアゴニストの上乗せ効果を示していない(HR: 0.76, 95%CI 0.52-1.12)。一方、化学療法施行例では、LH-RHアゴニストの上乗せ効果を認めた(DFS: HR 0.76 , 95%CI 0.60-0.97, OS: HR 0.59, 95%CI 0.42-0.84)。全母集団においてDFS、OSの改善は示されているものの、特に再発リスクが高い対象集団(腋窩リンパ節転移陽性で化学療法を必要とするような症例)や若年層においてその効果が高く示唆されることから、このような患者に対して、タモキシフェンにLH-RHアゴニストを併用する意義は高いと考えられる。一方で、ホットフラッシュなど有害事象の増加が認められる。本CQでの解析で対象としたSOFT試験、E-3193試験は、何れも質の高い試験であることから、エビデンスの強さは「強」とした。
益と害のバランスについては、再発リスクの高い患者にとって、LH-RHアゴニスト併用による再発抑制効果という「益」が、有害事象の増加などの「害」を上回ると考えられた。しかし、再発リスクの低い腋窩リンパ節転移陰性症例の場合、LH-RHアゴニストを併用した場合、「益」が「害」に優るとは言えないと考えられた。したがって、特に、このような再発リスクの低い腋窩リンパ節転移陰性患者においては、患者の希望のバラツキは大きいと考えられた。
以上より、エビデンスの程度、益と害のバランス、患者の希望などを勘案し、推奨は「LH-RHアゴニストとタモキシフェンの併用を強く推奨する」とした。

③LH-RHアゴニスト+アロマターゼ阻害薬併用

ABCSG-12試験5)とSOFT/TEXT試験3)の報告を用いた統合解析を行った結果、タモキシフェン+LH-RHアゴニストに対して、アロマターゼ阻害薬+LH-RHアゴニストでは、DFS : HR 0.92, 95%CI 0.63-1.34, p=0.66、OS: HR 1.22, 95%CI 0.74-1.99、p=0.431であり、両者の治療効果に差は認めなかった。重篤な有害事象について全体としては有意な差を認めていない (HR 1.06, 95%CI 0.94-1.18) が、有害事象のプロファイルが異なり、LH-RHアゴニスト+アロマターゼ阻害薬では筋骨格症状,骨粗鬆症が多く,LH-RHアゴニスト+タモキシフェンでは血栓症、子宮内膜異常が多くみられた(ホルモン療法の至適投与期間についてはCQ3参照)。ABCSG-12試験とSOFT/TEXT試験の間でDFS、OSの結果にバラツキがあるため、エビデンスの強さは「中」とした。タモキシフェンが使用できない場合については、LH-RHアゴニスト+アロマターゼ阻害薬は考慮しうると考える。なお、SOFT試験の登録患者の一部を対象としたSOFT-EST Substudyにおいて、LH-RHアゴニスト+アロマターゼ阻害薬を使用した症例のなかで、血清エストラジオール値が低下しない例が報告されたため6)、LH-RHアゴニスト+アロマターゼ阻害薬を使用する場合は、血清エストラジオール値を定期的に確認する必要がある。なお、アロマターゼ阻害薬の本邦における適応は閉経後乳癌である。
益と害のバランスについては、腋窩リンパ節転移陽性で化学療法を必要とするような再発リスクの高い患者7, 8)にとって、再発抑制効果による「益」が期待されるが、「害」に「益」が確実に優るとは言えない。患者の希望にはバラツキがあると考えられた。
以上より、エビデンスの程度、益と害のバランス、患者の希望などを勘案し、推奨は「LH-RHアゴニストとアロマターゼ阻害薬の併用を弱く推奨する」とした。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Premenopause”,“Chemotherapy, Adjuvant”,“Antineoplastic Agents, Hormonal”のキーワードで検索した。医中誌、Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2018年12月までとし,PubMedから1261編、Cochrane Libraryから1390編、医中誌から25編が抽出され、それ以外にハンドサーチで8編の論文が追加された。

一次スクリーニングで61編の論文が抽出され、二次スクリーニングで34編の論文が抽出された。無再発生存期間、全生存期間、有害事象について、タモキシフェンについてはEBCTCGにより行われたメタアナリシスを採用し、LH-RHアゴニストとタモキシフェンの併用については2編についてメタアナリシスを、4編について定性的システマティック・レビュー行い、LH-RHアゴニスト+アロマターゼ阻害薬については、1編のRCTと、1編の統合解析について、定性的システマティック・レビューおよびメタアナリシスを行った。

エビデンス総体システマティックレビューメタアナリシス

参考文献

1)Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG), Davies C, Godwin J, Gray R, Clarke M, Cutter D, et al. Relevance of breast cancer hormone receptors and other factors to the efficacy of adjuvant tamoxifen:patient—level meta—analysis of randomised trials. Lancet. 2011; 378(9793): 771—84. [PMID: 21802721]

2)Fisher B, Bryant J, Dignam JJ, Wickerham DL, Mamounas EP, Fisher ER, et al ; National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project. Tamoxifen, radiation therapy, or both for prevention of ipsilateral breast tumor recurrence after lumpectomy in women with invasive breast cancers of one centimeter or less. J Clin Oncol. 2002;20(20):4141-9. [PMID: 12377957]

3)Francis PA, Pagani O, Fleming GF, Walley BA, Colleoni M, Láng I, et al ; SOFT and TEXT Investigators and the International Breast Cancer Study Group. Tailoring adjuvant endocrine therapy for premenopausal breast cancer. N Engl J Med. 2018;379(2):122-137. [PMID: 29863451]

4)Tevaarwerk AJ, Wang M, Zhao F, Fetting JH, Cella D, Wagner LI, et al. Phase Ⅲ comparison of tamoxifen versus tamoxifen plus ovarian function suppression in premenopausal women with node—negative, hormone receptor—positive breast cancer(E—3193, INT—0142): a trial of the Eastern Cooperative Oncology Group. J Clin Oncol. 2014; 32(35): 3948—58. [PMID: 25349302]

5)Gnant M, Mlineritsch B, Stoeger H, Luschin—Ebengreuth G, Knauer M, Moik M, et al; Austrian Breast and Colorectal Cancer Study Group, Vienna, Austria. Zoledronic acid combined with adjuvant endocrine therapy of tamoxifen versus anastrozol plus ovarian function suppression in premenopausal early breast cancer: final analysis of the Austrian Breast and Colorectal Cancer Study Group Trial 12. Ann Oncol. 2015; 26(2): 313—20. [PMID: 25403582]

6)Bellet M, Gray KP, Francis PA, Láng I, Ciruelos E, Lluch A, et al. Twelve-month estrogen levels in premenopausal women with hormone receptor-positive breast cancer receiving adjuvant triptorelin plus exemestane or tamoxifen in the suppression of ovarian function trial (SOFT): The SOFT-EST substudy. J Clin Oncol. 2016;34(14):1584-93. [PMID: 26729437]

7) Regan MM, Francis PA, Pagani O, Fleming GF, Walley BA, Viale G, et al. Absolute benefit of adjuvant endocrine therapies for premenopausal women with hormone receptor—positive, human epidermal growth factor receptor 2—negative early breast cancer: TEXT and SOFT trials. J Clin Oncol. 2016; 34(19): 2221—31. [PMID: 27044936]

8) Saha P, Regan MM, Pagani O, Francis PA, Walley BA, Ribi K, et al; SOFT; TEXT Investigators; International Breast Cancer Study Group. Treatment efficacy, adherence, and quality of life among women younger than 35 years in the international breast cancer study group TEXT and SOFT adjuvant endocrine therapy trials. J Clin Oncol. 2017; 35(27): 3113—22. [PMID: 28654365]

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