CQ18.周術期化学療法においてアンスラサイクリンまたはタキサン系薬剤が未使用のとき,HER2陰性転移・再発乳癌に対する一次化学療法として何が推奨されるか?

2.転移・再発乳癌

推 奨
・アンスラサイクリン,タキサンの投与を強く推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:中,合意率:83%(10/12)〕

・S―1の投与を弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:73%(8/11)〕

・カペシタビンの投与を行わないことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:3,エビデンスの強さ:中,合意率:75%(9/12)〕

・ゲムシタビンの投与を行わないことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:3,エビデンスの強さ:中,合意率:75%(9/12)〕

・ビノレルビンの投与を行わないことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:3,エビデンスの強さ:中,合意率:83%(10/12)〕

・エリブリンの投与を行わないことを弱く推奨する。
〔推奨の強さ:3,エビデンスの強さ:中,合意率:83%(10/12)〕

背景・目的

転移・再発乳癌は,現行の薬物療法では治癒が困難であり,治療の目的は生存期間の延長とQOLの改善である。転移・再発乳癌の一次化学療法としてどのような治療が推奨されるか検証した。
本ガイドラインにおける「一次・二次化学療法の定義」は,転移・再発後に「最初に行う化学療法」は,その再発時期にかかわらず,すべて「一次化学療法」とし,その次の化学療法を「二次化学療法」とした(薬物:2.転移・再発乳癌 総説5)参照)。

「一次化学療法(転移・再発後に最初に行う化学療法)」で推奨されるレジメンを決めるための因子として,「周術期化学療法の内容」と「転移・再発までの期間」が挙げられる。また,周術期化学療法としてアンスラサイクリンを使用した場合にはその総投与量も考慮しなければならない(薬物:2.転移・再発乳癌 総説2)3)参照)。

本CQでは,「周術期化学療法においてアンスラサイクリンまたはタキサン系薬剤が使用されていない場合」を対象として解析を行った。

解 説

1)アンスラサイクリン

アンスラサイクリンを含むレジメンと,CMFなどアンスラサイクリンとタキサンいずれも含まないレジメンを比較した8試験のメタアナリシスを行った結果,アンスラサイクリンを含むレジメンがOS(HR 0.79,95%CI 0.69-0.92,p=0.002),ORR(HR 1.29,95%CI 1.07-1.56,p=0.008)で有意に優れていた。PFS,QOL,毒性に関してはデータが不足していた。

2)タキサン

タキサン単剤と,アンスラサイクリンを含むレジメンを比較した5試験のメタアナリシスを行った結果,OS,PFS,ORRは同等であった。QOLの評価がされていた2試験ではいずれも差は認められなかった1)2)。また,タキサンとアンスラサイクリンの併用レジメンと,アンスラサイクリンを含むレジメンを比較した12試験のメタアナリシスを行った結果,併用によってORRは改善するがOS,PFSは同等であった。また,併用によって毒性は有意に増悪した。QOL評価は1試験のみで行われており差は認められなかった3)。

3)S―1

タキサンに対するS―1の非劣性試験であるSELECT BC試験の結果が報告されており,OS中央値はタキサンで37.2カ月,S-1で35.0カ月と非劣性が証明され(HR 1.05,95%CI 0.86-1.27),TTFも同等であった4)。一方,PFSではHR 1.18,95%CI 0.99-1.40と非劣性マージン1.33を上回っており,非劣性は証明されなかった。QOL評価ではS-1がタキサンに比べて優れていた。両薬剤で毒性のプロファイルは大きく異なり,タキサンでは脱毛,末梢神経障害,浮腫,筋肉痛および関節痛の発現頻度が高く,口内炎,下痢,悪心および食欲不振はS-1で高い結果であった。

4)カペシタビン

カペシタビン単剤を一次治療でアンスラサイクリンおよびタキサンと比較したのは1試験のみで,65歳以上を対象にカペシタビンとペグ化リポソーム塩酸ドキソルビシンを比較している5)。ここではOS,PFSに差は認められなかったが,症例数が少なく(n=78),エビデンスとして不十分であると判断した。カペシタビンと他剤の併用療法をアンスラサイクリンおよびタキサンと比較した4試験のメタアナリシスを行った結果,OS,PFS,ORRに差は認められなかった。また,アンスラサイクリンおよびタキサンに対してカペシタビンの上乗せ効果を検証した2試験の解析では,カペシタビンを併用することによってPFSを改善するもののOS,ORRに差は認められなかった。

5)ゲムシタビン

ゲムシタビン単剤を一次治療でアンスラサイクリンおよびタキサンと比較したのは1試験のみで,60歳以上を対象にゲムシタビンとエピルビシン単剤を比較している6)。ここではOS,TTP,ORRいずれもエピルビシン群で良好であった。アンスラサイクリンおよびタキサンに対してゲムシタビンの上乗せ効果を検証した5試験のメタアナリシスを行った結果,ゲムシタビンを同時併用することによってPFSを改善するもののOS,ORRに差は認められなかった

6)ビノレルビン

ビノレルビン単剤を一次治療でアンスラサイクリンおよびタキサンと比較した試験はない。ビノレルビンと他剤の併用療法をアンスラサイクリンおよびタキサンと比較した3試験のメタアナリシスを行った結果,OS,PFS,ORRに差は認められなかった。また,アンスラサイクリンおよびタキサンに対してビノレルビンの上乗せ効果を検証した2試験の解析では,ビノレルビンを併用することによってPFS,ORRを改善するもののOSに差は認められなかった。

7)エリブリン

エリブリンを一次治療でアンスラサイクリンおよびタキサンと比較したランダム化試験はない。
以上の各薬剤のエビデンスの強さに関しては,アンスラサイクリン,タキサン,カペシタビン,ゲムシタビン,ビノレルビンは各試験のバイアスリスクを考慮して,エビデンスの強さは「中」とした。S―1に関しては1試験のみであるが試験の質の高さから,エビデンスの強さは「中」とした。

「益と害のバランス」については,アンスラサイクリンは,アンスラサイクリン・タキサンを含まないレジメンに対してOSの優越性を示しており,毒性(害)を勘案しても有用と考えられ,一次化学療法として「益」が勝ると判断した。

また,アンスラサイクリンと効果が同等であったタキサンも,アンスラサイクリンと同様に,他のレジメンと比較し有用と考えられ,「益」が勝ると考えた。

S―1は,タキサンに対して非劣性が証明され,脱毛がなくQOLで優越性が示されており,一次化学療法として「益」が「害」に勝ると考えた。

カペシタビンは,S―1と同様に脱毛はないが,一次治療でアンスラサイクリンおよびタキサンと比較したデータが乏しく,一次化学療法として「益」が勝るとはいえないと考えた。

ゲムシタビンは,一次治療の有効性を示したデータがないことから,一次化学療法として「益」が勝るとはいえないと判断した。

ビノレルビンは脱毛は少ないが,ゲムシタビン同様に一次治療の有効性を示したデータがないことから,一次化学療法として「益」が勝るとはいえないと判断した。

エリブリンは,一次治療のランダム化比較試験がないことから,一次化学療法として「益」が勝るとはいえないと判断した。

患者の希望については,アンスラサイクリン,タキサンは脱毛などの有害事象があるため,ばらつきがあると考えられた。S―1は脱毛がなくQOLで優れていることから患者希望のばらつきは少ないと考えられた。カペシタビンも脱毛がないため患者希望のばらつきは少ないと考えられた。ゲムシタビン,ビノレルビンは,有害事象は比較的少ないものの,一次化学療法のデータが不足していることから,患者希望にはばらつきがあると考えられた。エリブリンは,生存期間の延長や脱毛への考え方など個々の価値観によって患者の希望は多様であると考えられた。

推奨決定会議では,カペシタビンの推奨を決めるための1回目の投票では,「行うことを弱く推奨する」が42%(5/12)であり,「行わないことを弱く推奨」が58%(7/12)であり合意には至らなかった。その後,単剤一次治療のデータが乏しいこと,S―1と同程度の推奨が可能かどうかが確認され,2回目の投票では「行うことを弱く推奨する」が33%(4/12)であり,「行わないことを弱く推奨」が67%(8/12),3回目の投票では「行うことを弱く推奨する」が25%(3/12)であり,「行わないことを弱く推奨」が75%(9/12)となり「行わないことを弱く推奨」することに決定した。ビノレルビンは,83%(10/12)の合意率で「行わないことを弱く推奨」となった。エリブリンは,83%(10/12)の合意率で「行わないことを弱く推奨」に決定した。

以上より,エビデンスの程度,益と害のバランス,患者の希望などを勘案し,推奨は「アンスラサイクリン,タキサンの投与を強く推奨する」「S―1の投与を弱く推奨する」,「カペシタビン,ゲムシタビン,ビノレルビン,エリブリンの投与を行わないことを弱く推奨する」とした。今回の改訂では,GRADE方式によりガイドラインを作成しており,前版と推奨が異なる箇所が存在する。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“Neoplasm Metastasis”,“Neoplasm Recurrence, Local”,“Anthracycline”,“Taxoids”,“Tegafur”,“Cisplatin”,“taxane”のキーワード,および“first line”の同義語で検索した。医中誌・Cochrane Libraryも同等のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,460件がヒットした。これらに対して一次スクリーニング,二次スクリーニングを行い,薬剤ごとにシステマティック・レビューを行った。

エビデンス総体システマティックレビューメタアナリシス

参考文献

1)Kramer JA, Curran D, Piccart M, de Haes JC, Bruning PF, Klijn JG, et al. Randomised trial of paclitaxel versus doxorubicin as first―line chemotherapy for advanced breast cancer:quality of life evaluation using the EORTC QLQ―C30 and the Rotterdam symptom checklist. Eur J Cancer. 2000;36(12):1488―97. [PMID:10930796]

2)Katsumata N, Watanabe T, Minami H, Aogi K, Tabei T, Sano M, et al. Phase Ⅲ trial of doxorubicin plus cyclophosphamide(AC), docetaxel, and alternating AC and docetaxel as front―line chemotherapy for metastatic breast cancer:Japan Clinical Oncology Group trial(JCOG9802). Ann Oncol. 2009;20(7):1210―5. [PMID:19254942]

3)Sledge GW, Neuberg D, Bernardo P, Ingle JN, Martino S, Rowinsky EK, et al. Phase Ⅲ trial of doxorubicin, paclitaxel, and the combination of doxorubicin and paclitaxel as front―line chemotherapy for metastatic breast cancer:an intergroup trial(E1193). J Clin Oncol. 2003;21(4):588―92. [PMID:12586793]

4)Takashima T, Mukai H, Hara F, Matsubara N, Saito T, Takano T, et al;SELECT BC Study Group. Taxanes versus S―1 as the first―line chemotherapy for metastatic breast cancer(SELECT BC):an open―label, non―inferiority, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2016;17(1):90―8. [PMID:26617202]

5)Smorenburg CH, de Groot SM, van Leeuwen―Stok AE, Hamaker ME, Wymenga AN, de Graaf H, et al. A randomized phase Ⅲ study comparing pegylated liposomal doxorubicin with capecitabine as first―line chemotherapy in elderly patients with metastatic breast cancer:results of the OMEGA study of the Dutch Breast Cancer Research Group BOOG. Ann Oncol. 2014 Mar;25(3):599―605. [PMID:24504445]

6)Feher O, Vodvarka P, Jassem J, Morack G, Advani SH, Khoo KS, et al. First―line gemcitabine versus epirubicin in postmenopausal women aged 60 or older with metastatic breast cancer:a multicenter, randomized, phase Ⅲ study. Ann Oncol. 2005;16(6):899―908. [PMID:15821120]

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