FQ14.BRCA遺伝子変異陽性乳癌患者の薬物療法(周術期,進行・再発)として何が勧められるか?

3.その他(特殊病態、副作用対策など)

ステートメント
BRCA遺伝子変異陽性の再発高リスク初発乳癌に対して,PARP阻害薬であるオラパリブ(保険適用外)の再発予防効果の有用性を検討する臨床試験が進行中である。
BRCA遺伝子変異陽性の進行・再発乳癌に対して,PARP阻害薬は従来の化学療法と比較し無増悪生存期間(PFS)の延長効果が示されており,適応拡大が期待される。

背 景

乳癌におけるBRCA遺伝子変異を有する症例は5%と少なく,転帰または予後に関する情報は小規模な臨床試験の結果しかない。しかしながら,BRCA遺伝子変異が明らかとなった女性における生涯の乳癌発症率は約49~57%と高率であり,予防方法の確立は重要な課題である。

トリプルネガティブ乳癌(TNBC)の約20%がBRCA遺伝子変異,特にBRCA1遺伝子変異陽性であり,BRCA1遺伝子変異陽性乳癌患者の多くがトリプルネガティブ乳癌とされている。

解 説

BRCA遺伝子はDNA修復や細胞周期,転写を調節する機能をもち,BRCA遺伝子に異常をきたすとDNA修復経路に異常が発生しDNA損傷が蓄積されるため,プラチナ製剤などのDNA損傷を引き起こす薬剤や,PARP〔poly(ADP―riborse)polymerase〕阻害薬に対する感受性が高いことが報告されている。

BRCA1/2遺伝子が正常に機能していない細胞において,PARPを阻害すると相同組み換えによるDNA修復酵素が働かず,相同組み換え修復不全(homologous recombination deficiency;HRD)となり,これにより細胞は合成致死へ誘導される。

BRCA遺伝子に変異がない野性型においても,他のエピジェネティックな変化によって,結果としてBRCA遺伝子変異と似た状態になることがあり,これらは「BRCAness」とされ,このBRCAnessを高精度に評価する方法の開発が進んでいる。

1)周術期

術前化学療法については,TNBCにプラチナ製剤を用いたランダム化第Ⅱ相試験が複数あり,pCRの改善が報告されている1)2)。ドイツで行われたGeparSixto(GBG 66)試験1)では,TNBCないしHER2陽性乳癌患者を対象とし,TNBC患者(n=315)に対してはパクリタキセル+リポソーム化ドキソルビシン+ベバシズマブ併用化学療法にカルボプラチン併用の有無で比較した。TNBCでの乳房および腋窩リンパ節のpCR率はカルボプラチン併用群で53.2%,非併用群で36.9%であった。米国のCALGB 40603試験2)ではTNBC(n=443)を対象に,パクリタキセル単独,パクリタキセルにカルボプラチンないしベバシズマブ,あるいは両者の併用を行い,その後dose dense AC療法を行った。乳房および腋窩リンパ節のpCR率はカルボプラチン併用群で54%,非併用群で41%とカルボプラチン併用で有意に改善した。しかし,いずれの試験でもカルボプラチン併用により毒性は増強した。

TNBC患者では他のサブタイプよりもBRCA1遺伝子変異の頻度が高く,その多くがいわゆるbasal-like typeの発現をしていることが知られており,TNBCでのBRCA遺伝子変異の有無による薬剤感受性の検討が進められている。TNBCに対する術前カルボプラチン+エリブリンの第Ⅱ相試験において,HRDがpCRの予測因子であったと報告された3)BRCA遺伝子変異はプラチナ感受性の重要なバイオマーカーであるが,PARP阻害薬やプラチナ製剤の作用機序にはHRDによる合成致死が重要であり,BRCA遺伝子の機能不全を含むHRDがこれら薬剤のバイオマーカーとなることが示唆されている。

術後補助療法における臨床試験は少ないが,術前・術後化学療法終了後のBRCA遺伝子変異陽性の再発高リスク患者に対して,PARP阻害薬であるオラパリブ追加の有用性を検証する第Ⅲ相試験(OlympiA試験)が現在進行中である。

2)進行・再発

進行再発乳癌においても,TNBC,特にBRCA遺伝子変異陽性においてプラチナ製剤が有効であったことが複数の第Ⅱ相試験で報告されている4)5)。PARP阻害薬であるiniparib(未承認)は,第Ⅱ相試験でゲムシタビンとカルボプラチンへの上乗せ効果が示されたが,第Ⅲ相試験の結果では,全生存率に有意な改善が示されなかった6)7)。これは,TNBC全体を対象にしているため,PARP阻害薬が有効なターゲットを絞り込めていないことが影響している可能性が高い。よって,この結果をもってiniparibが乳癌に無効という根拠にはならないが,現在は他のPARP阻害薬の臨床試験が進行中である。
オラパリブ単剤の有効性をみる多施設共同第Ⅱ相試験において,既往レジメン3以上の転移乳癌に対する奏効率は12.9%,CBR 47%という結果であった。最も多くみられた有害事象は疲労感,悪心,嘔吐であり,Grade 3以上の貧血が54%の患者に認められた8)

さらに,オラパリブ単剤と医師が選択した標準的な化学療法を比較した第Ⅲ相試験(OlympiAD試験9))では,PFSは中央値7.0カ月 対4.2カ月で有意に延長を示した(HR 0.58,95%CI 0.43-0.80,p=0.0009)。なお,全生存期間中央値は両群に差を認めていない(HR 0.90,95%CI 0.63-1.29,p=0.57)。

以上のように,プラチナ製剤・PARP阻害薬の有用性は臨床試験で示されているものの,どのプラチナ製剤をどのように他の薬剤との組み合わせていくのか,また長期成績についても明らかでなく,日本ではプラチナ製剤は保険未承認であることも課題である。PARP阻害薬については第Ⅲ相試験でPFS延長が示され,米国食品医薬品局(FDA)にて審査中である(審査終了予定日は2018年第1四半期)。PARP阻害薬の適応拡大とBRCAnessの指標としてのHRD因子の評価,コンパニオン診断としてのHRDアッセイの開発が進むことが期待されている。

検索キーワード・参考にした二次資料

PubMedで“Breast Neoplasms”,“BRCA1 Protein”,“BRCA2 Protein”,“Genes, BRCA1”,“Genes, BRCA2”のキーワードで検索した。検索期間は2016年11月までとし,52件がヒットした。

参考文献

1)von Minckwitz G, Schneeweiss A, Loibl S, Salat C, Denkert C, Rezai M, et al. Neoadjuvant carboplatin in patients with triple―negative and HER2―positive early breast cancer(GeparSixto;GBG 66):a randomised phase 2 trial. Lancet Oncol. 2014;15(7):747―56. [PMID:24794243]

2)Sikov WM, Berry DA, Perou CM, Singh B, Cirrincione CT, Tolaney SM, et al. Impact of the addition of carboplatin and/or bevacizumab to neoadjuvant once―per―week paclitaxel followed by dose―dense doxorubicin and cyclophosphamide on pathologic complete response rates in stageⅡ to Ⅲ triple―negative breast cancer:CALGB 40603(Alliance). J Clin Oncol. 2015;33(1):13―21. [PMID:25092775]

3)Kaklamani VG, Jeruss JS, Hughes E, Siziopikou K, Timms KM, Gutin A, et al. PhaseⅡ neoadjuvant clinical trial of carboplatin and eribulin in women with triple negative early―stage breast cancer(NCT01372579). Breast Cancer Res Treat. 2015;151(3):629―38. [PMID:26006067]

4)Isakoff SJ, Mayer EL, He L, Traina TA, Carey LA, Krag KJ, et al. TBCRC009:A multicenter phaseⅡ clinical trial of platinum monotherapy with biomarker assessment in metastatic triple―negative breast cancer. J Clin Oncol. 2015;33(17):1902―9. [PMID:25847936]

5)Byrski T, Dent R, Blecharz P, Foszczynska―Kloda M, Gronwald J, Huzarski T, et al. Results of a phaseⅡ open―label, non―randomized trial of cisplatin chemotherapy in patients with BRCA1―positive metastatic breast cancer. Breast Cancer Res. 2012;14(4):R110. [PMID:22817698]

6)O’Shaughnessy J, Osborne C, Pippen JE, Yoffe M, Patt D, Rocha C, et al. Iniparib plus chemotherapy in metastatic triple―negative breast cancer. N Engl J Med. 2011 Jan 20;364(3):205―14. [PMID:21208101]

7)O’Shaughnessy J, Schwartzberg L, Danso MA, Miller KD, Rugo HS, Neubauer M, et al. Phase Ⅲ study of iniparib plus gemcitabine and carboplatin versus gemcitabine and carboplatin in patients with metastatic triple―negative breast cancer. J Clin Oncol. 2014;32(34):3840―7. [PMID:25349301]

8)Kaufman B, Shapira―Frommer R, Schmutzler RK, Audeh MW, Friedlander M, Balmana J, et al. Olaparib monotherapy in patients with advanced cancer and a germline BRCA1/2 mutation. J Clin Oncol. 2015;33(3):244―50. [PMID:25366685]

9)Robson M, Im SA, Senkus E, Xu B, Domchek SM, Masuda N, et al. Olaparib for metastatic breast cancer in patients with a germline BRCA mutation. N Engl J Med. 2017;377(6):523―33. [PMID:28578601]

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