日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

ホルモン受容体陽性原発乳癌に対して術前内分泌療法は勧められるか (薬物療法・初期治療・ID10020)

CQ1 乳癌診療ガイドライン1治療編(005-008ページ)
推奨グレード C1 閉経後乳癌には,乳房温存手術の施行を目的にして術前内分泌療法(タモキシフェンまたはアロマターゼ阻害薬)を考慮してもよい。
C2 閉経前乳癌には勧められない。

推奨グレードを決めるにあたって

 閉経後では,至適治療期間や予後に与える影響は明らかではないものの,奏効率や乳房温存率が化学療法とほぼ同等であるというエビデンスがあるため,グレードC1とした。
 閉経前では,化学療法と比較して有害事象は少ないものの,奏効率が劣る可能性が高い。また,エビデンスも乏しいため,グレードC2とした。

背景・目的

 手術可能な乳癌に対して化学療法を行う場合,術前でも術後でも予後に関しては同等であるが,術前に行うことによって乳房温存率は改善する。ここでは術前の内分泌療法が,予後や乳房温存率が改善するかについて検討した。

解 説

(1)術前化学療法と術前内分泌療法の比較

 2つの非盲検ランダム化第Ⅱ相比較試験が行われた。
1)閉経後ホルモン受容体陽性StageⅡ,Ⅲ乳癌(n=239)を対象として,ドキソルビシン+パクリタキセル4サイクル(A+PAC)とアナストロゾール1 mg/日またはエキセメスタン25 mg/日の3カ月(AI)が比較検討された1)。奏効率(A+PAC:63.6%,AI:64.5%),乳房温存率(24%,33%),病理学的完全奏効(pCR)率(6%,3%)のすべてにおいて有意差は認めなかった。しかし,有害事象に関してはA+PACで血液毒性,消化器障害,末梢神経障害が有意に高率であった。
2)ER陽性かつPgR陽性,HER2陰性StageⅡ,Ⅲ乳癌(GEICAM/2006—03,n=95)を対象として,エピルビシン+シクロホスファミド4サイクル後にドセタキセル4サイクル(EC—DOC)と,閉経後はエキセメスタン25 mg/日24週,閉経前ではエキセメスタンにゴセレリンを追加し,比較検討がなされた(AI+GOS)2)。全体としての奏効率は,EC—DOCで良い傾向(EC—DOC:66%,AI+GOS:48%)であった。閉経前後で比較すると,閉経後では両群間に差は認めなかったのに対して(57%,52%),閉経前ではEC—DOC群で有意に良好であった(75%,44%)。pCR率や乳房温存率については両群間で差を認めなかったが,グレード3/4の有害事象はEC—DOC群で有意に高率であった(47%,9%)。
 これらの結果から,閉経後ホルモン受容体陽性乳癌では,術前の内分泌療法は奏効率や乳房温存率は化学療法と同等である可能性が示唆されるが,閉経前では内分泌療法は化学療法と比較して劣ると考えられる。
 これまでの多数の術前化学療法のエビデンスを踏まえると,閉経前乳癌で診断時に術後化学療法が必要と判断された場合には,術前薬物療法としては化学療法が勧められる。

(2)閉経後乳癌

1)タモキシフェンとアロマターゼ阻害薬の比較
 タモキシフェンまたはレトロゾール2.5 mgによる4カ月間の二重盲検第Ⅲ相試験(n=324)では,レトロゾールが奏効率(タモキシフェン36%,レトロゾール55%)と乳房温存率(35%,45%)において有意に高率であった3)4)。タモキシフェンまたはアナストロゾール1 mg 3カ月間の二重盲検第Ⅲ相試験(PROACT,n=451)では,両群間で奏効率(35.4%,39.5%)に有意差はなかった5)。また,3カ月間のタモキシフェンあるいはアナストロゾール1 mg,または両者併用の二重盲検第Ⅲ相試験(IMPACT,n=330)でも,3群間に奏効率(36%,37%,39%)と乳房温存率の差を認めなかった6)。
2)アロマターゼ阻害薬間の比較
 ホルモン受容体強陽性StageⅡ,Ⅲ乳癌に対する非盲検ランダム化第Ⅱ相比較試験(ACOSOG Z1031,n=377)では,アナストロゾール,エキセメスタン,レトロゾールが16~18週の3群間で比較されたが,奏効率に有意差はなかった(69%,75%,63%)7)。また,乳房温存率も同等であり(77%,68%,68%),Ki67減少率や術前内分泌療法症例の予後因子であるPEPI(preoperative endocrine prognostic index)スコアについても3群間に差は認められなかった。
3)術前内分泌療法の至適治療期間
 術前内分泌療法は,いまだ標準治療として確立した治療ではなく,至適な治療期間は明示できない。しかし,乳房温存率の向上は,術前薬物療法の目的であり,そのために必要な至適投与期間について検討した。わが国で行われた閉経後ホルモン受容体陽性乳癌に対する術前エキセメスタン4~6カ月投与の第Ⅱ相試験(JFMC 34 06—01,n=116)において,治療前に49.1%の症例が温存手術予定であったが,6カ月の治療によって76.1%に温存手術が施行でき,術前治療として安全かつ有効であったと結論している8)。エキセメスタンで4カ月と6カ月を比較したほかの第Ⅱ相試験では(n=51),同等の奏効率と温存率であったという報告もある9)。
 一方,長期投与の有用性を示唆する報告もある。66歳以上の閉経後ホルモン受容体陽性StageⅡ,Ⅲ乳癌を対象としたレトロゾールによる術前内分泌療法70人の第Ⅱ相試験では,最長12カ月のレトロゾールによる治療が行われた10)。奏効が得られるまでの期間は3.9カ月(中央値)で,最大効果が得られるまでの期間は4.2カ月(中央値)であったが,37%は6~12カ月の間に最大縮小効果が得られていた。腫瘍縮小効果を観察した試験であるが,別のレトロゾールのコホート研究(n=120)でも,4カ月,8カ月および12カ月で比較したところ,12カ月で有意に奏効率が高かったと報告されている11)。術前内分泌療法で最大縮小効果を得るためには,治療効果が得られている場合は治療継続したほうがよいという考え方もある。
 現在,わが国で行われている術前のレトロゾール6カ月投与により腫瘍が増大しなかった症例に対して,術後の化学療法を省略の可能性を検証する臨床試験(N—SAS BC06)では,術前治療の結果,治療前に乳房切除術を予定していた症例の55.3%(83/150例)が温存手術に変更されたことが報告された12)。
 以上から乳房温存率の改善の観点から治療中に増悪を認めない場合は,少なくとも3~4カ月の治療期間は必要であり,6カ月程度行うことが有効である可能性が高い。

(3)閉経前乳癌

 LH—RHアゴニストで卵巣機能を抑制した状態でタモキシフェンやアロマターゼ阻害薬による閉経前乳癌に対する術前内分泌療法の報告は少なく,温存率をエンドポイントにした試験はない。わが国で閉経前ホルモン受容体陽性乳癌に対して,ゴセレリン+アナストロゾールとゴセレリン+タモキシフェンの有効性および安全性に関する盲検第Ⅲ相ランダム化比較試験(STAGE,n=196)が行われた13)。その結果,6カ月の投与における奏効率(70.4% vs 50.5%)およびKi67減少率(0.35,95%CI:0.24—0.51)は,ともにアナストロゾール群で優れていた。
 術後内分泌療法においては(薬物CQ 6参照),SOFT,TEXTの結果から卵巣機能を抑制してエキセメスタンを使用することにより,タモキシフェン単独と比較して無病生存期間を延長する可能性が報告された14)。しかし,ABCSG—12ではゴセレリン+アナストロゾールはゴセレリン+タモキシフェンと比較して無再発生存率は同等であるが,生存率で有意に劣ったと報告されており15),結果は一致していない。
 さらに上述のように閉経前乳癌では,術前の内分泌療法は化学療法よりも奏効率で劣る可能性があり,閉経前乳癌に対する術前内分泌療法は,閉経後と比べても明らかにエビデンスに乏しく,化学療法禁忌および拒否の症例以外では,しかるべき臨床試験でのみ行われるべきである。
 以上より,閉経後ではホルモン受容体陽性原発乳癌に対して,術前内分泌療法によって乳房温存率が改善するが,予後に関する報告はなく,術前内分泌療法の効果と予後の関係は明らかではない。現時点では術前内分泌療法の効果に基づいて術後化学療法の必要性を推定することはできない。したがって,閉経後であっても予後改善の面からは術前内分泌療法は確立された治療法とはいえない。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms,Neoadjuvant Therapy,Preoperative Care,neoadjuvant,preoperative,“Antineoplastic Agents,Hormonal”,“Receptors,LHRH”,Gonadotropin—Releasing Hormone,Aromatase Inhibitors,Progesterone,Estrogen Antagonists のキーワードを用いて検索した。また,ハンドサーチでSan Antonio Breast Cancer SymposiumやASCO年次総会の抄録から検索した。さらに,UpToDate 2014を参考にした。

参考文献

1) Semiglazov VF, Semiglazov VV, Dashyan GA, Ziltsova EK, Ivanov VG, Bozhok AA, et al. Phase 2 randomized trial of primary endocrine therapy versus chemotherapy in postmenopausal patients with estrogen receptor—positive breast cancer. Cancer. 2007;110(2):244—54.
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2) Alba E, Calvo L, Albanell J, De la Haba JR, Arcusa Lanza A, Chacon JI, et al;GEICAM. Chemotherapy(CT)and hormonotherapy(HT)as neoadjuvant treatment in luminal breast cancer patients:results from the GEICAM/2006—03, a multicenter, randomized, phase—Ⅱ study. Ann Oncol. 2012;23(12):3069—74.
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3) Eiermann W, Paepke S, Appfelstaedt J, Llombart—Cussac A, Eremin J, Vinholes J, et al;Letrozole Neo—Adjuvant Breast Cancer Study Group. Preoperative treatment of postmenopausal breast cancer patients with letrozole:A randomized double—blind multicenter study. Ann Oncol. 2001;12(11):1527—32.
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5) Smith IE, Dowsett M, Ebbs SR, Dixon JM, Skene A, Blohmer JU, et al. IMPACT Trialists Group. Neoadjuvant treatment of postmenopausal breast cancer with anastrozole, tamoxifen, or both in combination:the Immediate Preoperative Anastrozole, Tamoxifen, or Combined with Tamoxifen(IMPACT)multicenter double—blind randomized trial. J Clin Oncol. 2005;23(22):5108—16.
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6) Cataliotti L, Buzdar AU, Noguchi S, Bines J, Takatsuka Y, Petrakova K, et al. Comparison of anastrozole versus tamoxifen as preoperative therapy in postmenopausal women with hormone receptor—positive breast cancer:the Pre—Operative “Arimidex” Compared to Tamoxifen(PROACT)trial. Cancer. 2006;106(10):2095—103.
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8) Toi M, Saji S, Masuda N, Kuroi K, Sato N, Takei H, et al. Ki67 index changes, pathological response and clinical benefits in primary breast cancer patients treated with 24 weeks of aromatase inhibition. Cancer Sci. 2011;102(4):858—65.
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14) Pagani O, Regan MM, Walley BA, Fleming GF, Colleoni M, Láng I, et al;TEXT and SOFT Investigators;International Breast Cancer Study Group. Adjuvant exemestane with ovarian suppression in premenopausal breast cancer. N Engl J Med. 2014;371(2):107—18.
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