日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

閉経前または閉経期乳癌の術後内分泌療法としてアロマターゼ阻害薬の単独使用は勧められるか (薬物療法・初期治療・ID10070)

CQ6 乳癌診療ガイドライン1治療編(025-027ページ)
推奨グレード D 閉経前乳癌に対して,アロマターゼ阻害薬の単独使用は行うべきではない。
C2 閉経期または化学療法後に無月経状態になった患者に対して,アロマターゼ阻害薬の単独使用は基本的に勧められない。

推奨グレードを決めるにあたって

閉経前乳癌に対するアロマターゼ阻害薬単独の有効性を支持するデータはなく,理論的にもその有効性はないと考えられるため,グレードDとした。

 閉経期または化学療法後の無月経に対してアロマターゼ阻害薬を投与することで卵巣機能が回復することがあり,予後に影響する可能性も示唆されているため,グレードC2とした。

背景・目的

 内分泌療法薬の選択については閉経状況により大きく左右される。アロマターゼ阻害薬は,閉経後ホルモン受容体陽性乳癌の標準治療薬として術後療法,転移・再発例の治療に汎用されている。閉経は「卵巣機能の衰退または消失によって起こる月経の永久的な閉止」と定義され,通常,更年期女性において1年以上月経をみなければ閉経(menopause)と判断される。閉経期とは卵巣の活動性が次第に消失し,閉経に至るまでの時期をいう1)。日本産科婦人科学会の報告によると,日本人女性の閉経年齢は中央値50.5歳(正常範囲45~56歳)である1

 閉経前乳癌および閉経期乳癌にアロマターゼ阻害薬を単独で使用するのが適切かどうかを検証した。

解 説

(1)閉経前の転移・再発乳癌を対象として,アロマターゼ阻害薬の有用性を検証した研究について
①第一世代アロマターゼ阻害薬

 閉経前の転移・再発乳癌を対象として,aminoglutethimide(未承認)の有用性を検証した小規模の研究が2件報告されている2)3)。1件の報告では,転移・再発乳癌患者18人を対象としてaminoglutethimide+酢酸コルチゾン併用療法が実施され,奏効率は27.8%であった3)。別の検討では,転移・再発乳癌患者18人に同様の治療が実施されたが,奏効例は認められなかった3)

 Aminoglutethimideのエストロゲン血中濃度への影響については3件の報告があり,いずれもエストロゲン血中濃度を閉経後レベルまで抑制することはできなかった2)~4)

②第二世代アロマターゼ阻害薬

 4—hydroxyandrostenedione(未承認)について,少数例での検討が1件報告されている5)。閉経前,閉経周辺期の転移・再発乳癌患者5人に対して4—hydroxyandrostenedioneが投与されたが,奏効例は認められなかった。また,aminoglutethimide同様,治療中のエストロゲン血中濃度を閉経後レベルまで抑制することはできなかった。

③第三世代アロマターゼ阻害薬

 レトロゾールの前臨床試験において,エストロゲン血中濃度抑制とそれに伴うゴナドトロピンレベルの上昇の結果,多数の卵巣囊胞が形成されたとする報告がある6)

 前臨床試験の知見,第一,第二世代アロマターゼ阻害薬での検討の結果から,閉経前乳癌での第三世代アロマターゼ阻害薬単独の有用性を検証する臨床試験は実施されていない。

 以上より,閉経前乳癌に対するアロマターゼ阻害薬単独使用の有用性を支持するデータはなく,閉経前には単独で使用すべきでない。

(2)閉経期および化学療法後に無月経状態になった患者に対するアロマターゼ阻害薬について

 閉経前乳癌に対する化学療法施行後に無月経状態(chemotherapy—induced amenorrhea;CIA)になった場合,アロマターゼ阻害薬を安易に使用すべきでないとする注意喚起が米国臨床腫瘍学会からなされた7)。この報告によると,化学療法施行後に無月経状態となった乳癌45人(年齢の中央値47歳:39~52歳)にアロマターゼ阻害薬を投与したところ,12人(26.7%)に卵巣機能の回復(10人に月経再開,1人に妊娠,1人に血中エストロゲン高値)が確認された。卵巣機能回復年齢の中央値は44歳,閉経期間の中央値は12カ月(4~59カ月),アロマターゼ阻害薬投与期間の中央値は6カ月(3~18カ月)であった7)。アナストロゾールを投与した別の報告(年齢の中央値46歳:44~52歳)でも投与開始1.8カ月(0.7~3.8カ月)で13/45人(28.9%)に卵巣機能の回復を認めた。この報告では卵巣機能回復に影響したのは年齢のみで,BMI,タモキシフェン投与歴,ベースラインの各種血中ホルモン濃度などに有意差は認めなかった8)

 さらに,CIA後にタモキシフェンを2年投与後閉経状態が継続していたにもかかわらず,アロマターゼ阻害薬投与により卵巣機能が回復することが示されている。イタリアでの前向きの探索的検討では,化学療法による閉経が確認され,術後タモキシフェンを2年投与された53人について,エキセメスタンにスイッチ後の卵巣機能回復(月経回復あるいは生化学的に閉経が否定される状態)について検討された9)。エキセメスタンによる卵巣機能回復は12人(32%)で認められ,卵巣機能回復までの期間は5.4カ月であった。しかも卵巣機能回復が得られた患者は閉経状態であった患者に比べ予後不良であった。卵巣機能回復の予測因子は年齢(48歳未満)であった。閉経期についても同様な状態と考えるのが妥当である。

 閉経期および化学療法施行後に無月経状態になった患者に対してアロマターゼ阻害薬を投与すると卵巣機能の回復が認められる可能性があるため,その単独使用には慎重でなければならない。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms,Premenopause,premenopausal,Aromatase Inhibitors,monotherapy,single—agent,aloneのキーワードを用いて検索した。UpToDate 2014を参考にした。

参考文献

1) 日本産科婦人科学会編.産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第3版.日本産科婦人科学会,2014

2) Santen RJ, Samojlik E, Wells SA. Resistance of the ovary to blockade of aromatization with aminoglutethimide. J Clin Endocrinol Metab. 1980;51(3):473—7.
→PubMed

3) Harris AL, Dowsett M, Jeffcoate SL, McKinna JA, Morgan M, Smith IE. Endocrine and therapeutic effects of aminoglutethimide in premenopausal patients with breast cancer. J Clin Endocrinol Metab. 1982;55(4):718—22.
→PubMed

4) Wander HE, Blossey HC, Nagel GA. Aminoglutethimide in the treatment of premenopausal patients with metastatic breast cancer. Eur J Cancer Clin Oncol. 1986;22(11):1371—4.
→PubMed

5) Stein RC, Dowsett M, Hedley A, Gazet JC, Ford HT, Coombes RC. The clinical and endocrine effects of 4—hydroxyandrostenedione alone and in combination with goserelin in premenopausal women with advanced breast cancer. Br J Cancer. 1990;62(4):679—83.
→PubMed

6) Shetty G, Krishnamurthy H, Krishnamurthy HN, Bhatnagar S, Moudgal RN. Effect of estrogen deprivation on the reproductive physiology of male and female primates. J Steroid Biochem Mol Biol. 1997;61(3—6):157—66.
→PubMed

7) Smith IE, Dowsett M, Yap YS, Walsh G, Lønning PE, Santen RJ, et al. Adjuvant aromatase inhibitors for early breast cancer after chemotherapy—induced amenorrhoea:caution and suggested guidelines. J Clin Oncol. 2006;24(16):2444—7.
→PubMed

8) Henry NL, Xia R, Banerjee M, Gersch C, McConnell D, Giacherio D, et al. Schott AF, Pearlman M, Stearns V, Partridge AH, Hayes DF. Predictors of recovery of ovarian function during aromatase inhibitor therapy. Ann Oncol. 2013;24(8):2011—6.
→PubMed

9) Guerrero A, Gavilá J, Folkerd E, Ortiz B, Martínez F, García A, et al. Incidence and predictors of ovarian function recovery(OFR)in breast cancer(BC)patients with chemotherapy—induced amenorrhea(CIA)who switched from tamoxifen to exemestane. Ann Oncol. 2013;24(3):674—9.
→PubMed

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