日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

閉経後ホルモン受容体陽性乳癌の術後内分泌療法としてアロマターゼ阻害薬は勧められるか (薬物療法・初期治療・ID10080)

CQ7 乳癌診療ガイドライン1治療編(028-032ページ)
推奨グレード A アロマターゼ阻害薬の5年投与は強く勧められる。
A タモキシフェンを2~3年投与後に,アロマターゼ阻害薬に変更し,計5年投与することが強く勧められる。
A アロマターゼ阻害薬を2年投与後にタモキシフェンに変更し,計5年投与することが強く勧められる。
B タモキシフェンを5年投与後に,アロマターゼ阻害薬に変更し,順次投与することが勧められる。
D タモキシフェンとアロマターゼ阻害薬の併用は実施すべきではない。

推奨グレードを決めるにあたって

 閉経後ホルモン受容体陽性乳癌に対して,アロマターゼ阻害薬を含む術後5年間の治療は複数の臨床試験によってその有効性が確立されており,グレードAとした。

 タモキシフェンを5年間投与した後のアロマターゼ阻害薬の順次追加投与で,術後5年以降の再発を有意に改善したため,グレードBとした。

 タモキシフェンにアロマターゼ阻害薬を併用することの有用性はないため,グレードDとした。

背景・目的

 閉経後ホルモン受容体陽性乳癌の術後の標準治療はタモキシフェンの5年投与であった。しかし,タモキシフェンと第三世代アロマターゼ阻害薬との複数のランダム比較試験の結果から,アロマターゼ阻害薬の有効性が示された。タモキシフェンとアロマターゼ阻害薬との比較試験,タモキシフェンとアロマターゼ阻害薬の順次投与とタモキシフェンやアロマターゼ阻害薬単独治療を比較する試験や,タモキシフェンまたはアロマターゼ阻害薬5年投与終了後の内分泌療法の方針について検討した(薬物CQ 9参照)。

解 説

(1)アロマターゼ阻害薬とタモキシフェンを比較する試験

 ATACは,閉経後早期乳癌患者を対象に術後療法としてアナストロゾール単独と,タモキシフェン単独,アナストロゾールとタモキシフェンの併用療法のそれぞれ5年投与を比較した3群の二重盲検第Ⅲ相試験である1)。アナストロゾール単独群は,タモキシフェン単独群に比較して,OSに有意差は認めていないが,DFSを改善した(HR:0.91,95%CI:0.83—0.99)。併用群は,中間解析の時点でタモキシフェン群のDFSを上回る可能性が低いため中止された。本試験の結果から,アナストロゾールとタモキシフェンの併用は避けるべきである。

 BIG 1—98は,閉経後ホルモン受容体陽性乳癌患者を対象とした,レトロゾール5年,レトロゾール2年→タモキシフェン3年,タモキシフェン2年→レトロゾール3年,タモキシフェン5年の4群の二重盲検第Ⅲ相試験である2)。レトロゾール単独群,タモキシフェン単独群,タモキシフェンとレトロゾールのおのおのの順次投与での比較解析が行われ,レトロゾールを含む群でOSに有意な改善は認めなかったが,DFSと遠隔再発に改善を認めた。レトロゾール5年と比較して,タモキシフェン2年→レトロゾール3年の順次投与は早期再発が多い傾向があったが,レトロゾール2年→タモキシフェン3年はレトロゾール単独群と再発イベントに有意な差はなかった3)

 ATACとBIG 1—98のタモキシフェン5年とアロマターゼ阻害薬5年の比較を統合したメタアナリシス(n=9,856)の結果では,アロマターゼ阻害薬はタモキシフェンに比較し,再発を23%減少させたが,乳癌による死亡を減少させることはできなかった4)

 以上の結果より,術後治療として,タモキシフェンよりもアロマターゼ阻害薬の5年投与が推奨される。ただし,アロマターゼ阻害薬による有害事象が強い場合はタモキシフェンへの変更も可能である。

(2)タモキシフェンからアロマターゼ阻害薬への順次変更(スイッチ)を比較した試験

 閉経後早期乳癌の術後治療でタモキシフェンを投与されている患者を対象に,アロマターゼ阻害薬の有用性を検討する臨床試験がいくつか報告されている。

 IES 031は術後タモキシフェンを2~3年投与された閉経後早期乳癌患者を対象に,エキセメスタンにスイッチして合計5年間の治療群(スイッチ群)と,そのままタモキシフェンを投与して合計5年間の治療群を比較した二重盲検第Ⅲ相試験である。OSに有意差は認めなかったが,エキセメスタン群でDFSの延長(HR:0.76,95%CI:0.66—0.88)を認めた5)

 ABCSG—8,ARNO 95,ITAの3つの試験のメタアナリシスでは,試験ごとにタモキシフェン単独と比較してアナストロゾールへのスイッチ群のEFSは有意差を認めたもののOSには差がなかった。メタアナリシスではスイッチ群のほうがタモキシフェン単独よりOSが良好(HR:0.71,95%CI:0.52—0.98)であった6)

 タモキシフェンと,アロマターゼ阻害薬へのスイッチを比較した試験のメタアナリシス(n=9,015)では,タモキシフェン単独に比較してスイッチ群は再発を29%〔standard error(SE)6%〕,乳癌による死亡を22%(SE 9%)低下させた4)

 閉経後ホルモン受容体陽性乳癌を対象に,エキセメスタンの5年投与とエキセメスタンへのスイッチを比較した試験(TEAM)の結果では,5年DFSに有意差を認めなかった8)

 日本では閉経後術後早期乳癌患者706人を対象としてタモキシフェン5年とアナストロゾールスイッチ群を比較した試験N—SAS BC03が実施された7)。その結果,タモキシフェン単独と比較してアナストロゾールスイッチ群は日本人でも欧米人と同程度にDFSが改善される(HR:0.69,95%CI:0.42—1.14)ことが示唆された。主要な副作用である血栓症と骨折は両群で差がなかったが,これは日本人におけるそれらの疾患のベースラインリスクの低さに起因しているのではないかと推察された。

 以上から術後2~3年のタモキシフェンを投与されている閉経後ホルモン受容体陽性乳癌患者に対しては,アロマターゼ阻害薬へスイッチし,計5年間投与することが推奨される。ただし,順次投与はアロマターゼ阻害薬単独投与を超える治療ではなく,また最適な変更時期は不明である。

(3)タモキシフェンまたはアロマターゼ阻害薬5年投与終了後の追加内分泌療法(長期治療)

 タモキシフェンを5年間内服した場合,ホルモン受容体陽性乳癌の5年間の累積再発率は15%,15年間の累積再発率は33%であり,再発の約半数は術後5年以降に起こる9)。閉経後ホルモン受容体陽性乳癌に対して,タモキシフェンの5年投与終了後にアロマターゼ阻害薬を順次追加投与することの有効性が検討されている10)~13)

 MA.17は,タモキシフェンを5年投与後の閉経後ホルモン受容体陽性早期乳癌患者を対象とした,レトロゾールの5年投与群とプラセボ群との二重盲検第Ⅲ相試験であるが,レトロゾール群でDFSの改善(HR:0.67,95%CI:0.51—0.89)を認めた。OSには有意差を認めなかったが,リンパ節転移陽性のサブグループでOS改善の傾向が示された11)。有害事象はホットフラッシュ,関節炎,関節痛,筋肉痛がレトロゾール群で有意に多く,性器出血はプラセボ群で多かった。

 ABCSG—6aは,タモキシフェン5年投与後の健存者を対象に,アナストロゾールを3年間追加投与した群と経過観察群を比較した非盲検第Ⅲ相試験で,アナストロゾール群はRFSが有意に改善した12)

 NSABP B—33は,タモキシフェン5年投与後にエキセメスタン2年群とプラセボ2年群に割り付けされた二重盲検第Ⅲ相試験である。DFSとRFSはエキセメスタン群で延長したが,OSの改善を認めなかった13)

 Late MA.17は,タモキシフェン5年投与後のプラセボ群を対象に,試験開始5年後に患者の意思に基づきレトロゾールを投与した群と非投与群に分けた試験である。DFSは投与群のほうが良好(HR:0.37,95%CI:0.23—0.61)であった14)

 以上の報告から,タモキシフェン5年投与終了後のアロマターゼ阻害薬の順次追加投与は有用ではあるが,その効果や安全性に関する情報に関して患者に十分な説明を行う必要がある。アロマターゼ阻害薬の追加投与期間については3年間または5年間となっている。5年以上の投与については,今後の臨床試験(NSABP B—42,NCIC—CTG MA.17R,SOLEなど)の結果が待たれる。現在,わが国においてアナストロゾール5年間とアナストロゾール10年間を比較する臨床試験(N—SAS BC05;AERAS)が行われ,2012年末までに約1,700人の登録が終了し,2017年まで研究が継続中である。

(4)アロマターゼ阻害薬同士の比較

 閉経後ホルモン受容体陽性乳癌を対象としてエキセメスタンとアナストロゾールを比較したMA.27ではEFSに有意差は認められず,OSも同等であった15)。有害事象による内服中止はそれぞれ33.8%と29.4%に認められ,エキセメスタン群でビリルビン高値,ざ瘡,男性化,心房細動が多く,アナストロゾール群で不正出血,高脂血症などが多く認められた。新たに骨粗鬆症と診断された頻度はそれぞれ31%と35%であったが,骨折率は4%で有意差はなかった。また,アナストロゾールとレトロゾールを比較したFACEも進行中である16)

 検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms,Postmenopause,postmenopausal,“Chemotherapy,Adjuvant”,adjuvant chemotherapy,adjuvant therapy,Postoperative Care,postoperative,Antineoplastic Combined Chemotherapy Protocols,Drug Administration Schedule,Aromatase Inhibitors,Tamoxifenのキーワードを用いて検索した。またUpToDate 2014の“Adjuvant endocrine therapy for non—metastatic,hormone receptor—positive breast cancer”の項を参照した。

参考文献

1) Cuzick J, Sestak I, Baum M, Buzdar A, Howell A, Dowsett M, et al;ATAC/LATTE investigators. Effect of anastrozole and tamoxifen as adjuvant treatment for early—stage breast cancer:10—year analysis of the ATAC trial. Lancet Oncol. 2010;11(12):1135—41.
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2) BIG 1—98 Collaborative Group, Mouridsen H, Giobbie—Hurder A, Goldhirsch A, Thürlimann B, Paridaens R, et al. Letrozole therapy alone or in sequence with tamoxifen in women with breast cancer. N Engl J Med. 2009;361(8):766—76.
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3) Regan MM, Neven P, Giobbie—Hurder A, Goldhirsch A, Ejlertsen B, Mauriac L, et al;BIG 1—98 Collaborative Group;International Breast Cancer Study Group(IBCSG). Assessment of letrozole and tamoxifen alone and in sequence for postmenopausal women with steroid hormone receptor—positive breast cancer:the BIG 1—98 randomised clinical trial at 8・1 years median follow—up. Lancet Oncol. 2011;12(12):1101—8.
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15) Goss PE, Ingle JN, Pritchard KI, Ellis MJ, Sledge GW, Budd GT, et al. Exemestane versus anastrozole in postmenopausal women with early breast cancer:NCIC CTG MA.27——a randomized controlled phase Ⅲ trial. J Clin Oncol. 2013;31(11):1398—404.
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