日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

非浸潤性乳管癌に対する乳房温存手術後の内分泌療法は勧められるか (薬物療法・初期治療・ID10100)

CQ9 乳癌診療ガイドライン1治療編(037-039ページ)
推奨グレード C1 ホルモン受容体陽性の場合,タモキシフェンの5年投与を考慮してもよい。

 推奨グレードを決めるにあたって

 非浸潤性乳管癌に対する乳房温存手術後にタモキシフェンの投与は温存乳房内再発および対側乳癌の発生を減少させるものの,ベネフィットとリスクを考え,グレードC1とした。

背景・目的

 非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ;DCIS)の予後は極めて良好であるが,手術後の浸潤癌局所再発を起こした場合は乳癌死のリスクが増える。それゆえ,初期治療における局所コントロールが非常に重要となる1)。放射線療法はDCISの術後温存乳房内再発を約半数に減少させるが2),本項ではホルモン受容体陽性DCISに対する内分泌療法の,①温存乳房内再発の減少を目指した局所療法としての意義,②対側乳癌予防の意義ならびに,③OSに与える意義について検証する(外科CQ 1参照)。

 解 説

(1)タモキシフェン

 DCISの乳房温存手術後に,タモキシフェン(20 mg/日,5年間)を追加することが,DCISと浸潤癌を合わせた乳癌イベント発生率を下げるかを検証したランダム化比較試験が2件報告されている3)4)

 NSABP B—24:DCIS患者1,804人が,外科療法+放射線療法(50 Gy)+プラセボ群と外科療法+放射線療法+タモキシフェン群にランダム化割り付けされた3)5)。患者背景はホルモン受容体が判明している人が732人,50歳以上が66%,腫瘍径2 cm以下が95%,切除断端陽性が16%であった。

 乳癌イベント累積発生率は術後5年でタモキシフェン群8.2%・プラセボ群13.4%,術後14.5年でタモキシフェン群20%・プラセボ群31%とタモキシフェン群において有意に少なかった。サブグループ解析にて,ホルモン受容体陽性乳癌,50歳未満,comedo壊死を伴う乳癌,切除断端陽性乳癌でタモキシフェンはより効果的であった。多変量解析では年齢(50歳以上)とタモキシフェンの投与歴のみが,乳癌の再発減少と関連しており5),ER陰性乳癌ではタモキシフェンのメリットはなかった。有害事象では,ほてり,腟分泌,深部静脈血栓症,子宮内膜癌(1.53人/1,000人・年vs 0.45人/1,000人・年)がタモキシフェン群で多くみられている。子宮内膜癌による死亡はなかった。

 UKCCCR:2×2要因実験デザインを用いて,DCIS患者1,701人が乳房温存手術後に,放射線療法(50 Gy)+タモキシフェン,放射線療法単独,タモキシフェン単独,手術後無治療の4群にランダム化割り付けされた4)6)。患者背景は,50歳以上が90%以上,断端は全例で陰性であった。追跡期間中央値12.7年において温存乳房内再発,対側乳癌の減少を認めたが,生存率には差を認めなかった。この試験においてはタモキシフェンによる有害事象の比較は行われていない。

 コクランによるシステマティック・レビューで上記2試験の統合解析が行われた。術後タモキシフェンによる再発抑制効果は,温存乳房内においては非浸潤癌(HR:0.75,95%CI:0.61—0.92),浸潤癌(HR:0.79,95%CI:0.62—1.01)の結果であり,浸潤癌の再発を減少させる有意な効果は認めなかった。また,対側乳房においては非浸潤癌(RR:0.50,95%CI:0.28—0.87),浸潤癌(RR:0.57,95%CI:0.39—0.83)といずれの発症も減少させた。全再発イベントを1症例防ぐために必要なタモキシフェンの投与症例数(治療必要数)は15であった。乳癌死の減少は認めなかった。

(2)アロマターゼ阻害薬

 DCISに対する術後内分泌療法として,NSABP B—35(NCT00053898)やIBIS—Ⅱ(NCT00072462)などのアロマターゼ阻害薬の有用性に関するランダム化比較試験が現在行われているが,結果の報告はまだなされていないため,現時点での使用は勧められない。

 以上より,DCISに対する乳房温存手術後にタモキシフェンを投与することは,温存乳房内再発および対側乳癌を減少させる。ただし,温存乳房内再発の減少効果は放射線療法のほうが大きく,タモキシフェンはこれに代わるものではない。DCISに対する乳房切除術後の内分泌療法は対側乳癌を減少させると考えられるものの全生存率の向上を証明するデータはなく,また副作用とのバランスを考えた場合に投与すべきかどうかを検討した報告もない。

 現時点では非浸潤癌術後の局所再発リスクを予測することは困難であるため78,乳癌の再発を抑制するメリットと,ほてりなどの症状によるQOLの低下および深部静脈血栓症や子宮内膜癌,白内障のリスク上昇などの副作用を患者とともに話し合い,投与の可否を決定することが勧められる。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms/therapy,“Carcinoma,Intraductal,Noninfiltrating”,Carcinoma in Situ,“Carcinoma,Ductal,Breast”,DCIS,“Antineoplastic Agents,Hormonal”のキーワードを用いて検索した。

参考文献

1) Wapnir IL, Dignam JJ, Fisher B, Mamounas EP, Anderson SJ, Julian TB, et al. Long—term outcomes of invasive ipsilateral breast tumor recurrences after lumpectomy in NSABP B—17 and B—24 randomized clinical trials for DCIS. J Natl Cancer Inst. 2011;103(6):478—88.
→PubMed

2) Goodwin A, Parker S, Ghersi D, Wilcken N. Post—operative radiotherapy for ductal carcinoma in situ of the breast. Cochrane Database Syst Rev. 2009;(4):CD000563.
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3) Fisher B, Dignam J, Wolmark N, Wickerham DL, Fisher ER, Mamounas E, et al. Tamoxifen in treatment of intraductal breast cancer:National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project B—24 randomised controlled trial. Lancet. 1999;353(9169):1993—2000.
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4) Houghton J, George WD, Cuzick J, Duggan C, Fentiman IS, Spittle M;UK Coordinating Committee on Cancer Research;Ductal Carcinoma in situ Working Party;DCIS trialists in the UK, Australia, and New Zealand. Radiotherapy and tamoxifen in women with completely excised ductal carcinoma in situ of the breast in the UK, Australia, and New Zealand:randomised controlled trial. Lancet. 2003;362(9378):95—102.
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5) Allred DC, Anderson SJ, Paik S, Wickerham DL, Nagtegaal ID, Swain SM, et al. Adjuvant tamoxifen reduces subsequent breast cancer in women with estrogen receptor—positive ductal carcinoma in situ:a study based on NSABP protocol B—24. J Clin Oncol. 2012;30(12):1268—73.
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6) Cuzick J, Sestak I, Pinder SE, Ellis IO, Forsyth S, Bundred NJ, et al. Effect of tamoxifen and radiotherapy in women with locally excised ductal carcinoma in situ:long—term results from the UK/ANZ DCIS trial. Lancet Oncol. 2011;12(1):21—9.
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7) MacAusland SG, Hepel JT, Chong FK, Galper SL, Gass JS, Ruthazer R, et al. An attempt to independently verify the utility of the Van Nuys Prognostic Index for ductal carcinoma in situ. Cancer. 2007;110(12):2648—53.
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8) Yi M, Meric—Bernstam F, Kuerer HM, Mittendorf EA, Bedrosian I, Lucci A, et al. Evaluation of a breast cancer nomogram for predicting risk of ipsilateral breast tumor recurrences in patients with ductal carcinoma in situ after local excision. J Clin Oncol. 2012;30(6):600—7.
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