日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

原発乳癌に対してアンスラサイクリンにタキサンを追加した術後化学療法は勧められるか (薬物療法・初期治療・ID10120)

CQ11 乳癌診療ガイドライン1治療編(043-046ページ)
推奨グレード B リンパ節転移陽性乳癌に対する術後療法としてアンスラサイクリンにタキサンを順次または同時併用することは勧められる。
C1 リンパ節転移陰性乳癌に対してもタキサンを追加することを考慮してもよい。

推奨グレードを決めるにあたって

 タキサンを追加することの有用性を示した複数の第Ⅲ相試験や統合解析の結果が報告されている。リスクとベネフィットの観点から,リンパ節転移陽性乳癌ではグレードB,リンパ節転移陰性乳癌ではグレードC1とした。

背景・目的

 タキサンがアンスラサイクリンとは異なった作用機序を有し,アンスラサイクリン耐性転移乳癌に対して有効であるとの臨床的根拠から,タキサンにはアンスラサイクリンとは交差耐性が少ないと考えられ,術後化学療法にタキサンを追加することにより治療効果の向上が期待される。リンパ節転移陽性例を対象に,アンスラサイクリンにタキサンを追加する意義を確認する多くの臨床試験が行われ,一部の試験では再発リスクの高いリンパ節転移陰性例も対象としている。

 解 説

(1)術後化学療法としてのタキサン

 2012年にEBCTCGより発表された乳癌術後化学療法に関する123のランダム化比較試験の統合解析(n=100,000)では,アンスラサイクリンレジメンにタキサンを併用することで,乳癌による死亡リスクの減少(RR:0.86,SE:0.04,two—sided significance[2p]=0.0005)が認められている。ただし,アンスラサイクリンレジメンをタキサンの追加サイクル分だけ延長した群と比較した試験では,タキサンの追加で乳癌による死亡リスクの減少は認めていない1)。この効果は,年齢,リンパ節転移の有無,腫瘍径,分化度,エストロゲン受容体発現の有無,タモキシフェン使用の有無と関係なく均一に認められる。すなわち,年齢,ホルモン受容体発現の有無にかかわらず,また,リンパ節転移陰性であるが,再発のリスクが高いと予想される患者でもタキサンの追加効果が期待できる。

(2)術後化学療法としてのパクリタキセル

 CALGB 93442)やNSABP B—283),M. D. アンダーソンがんセンタートライアル4)を先駆けとし,多くのランダム化第Ⅲ相比較試験が行われた。術後アンスラサイクリンとアンスラサイクリン+タキサンを比較した試験の統合解析では,術後アンスラサイクリンへのパクリタキセル追加により,DFSのHR:0.80(95%CI:0.74—0.86,p<0.00001),OSの0.83(95%CI:0.75—0.92,p=0.004)と有意に改善した5)。この統合解析で解析されたパクリタキセルを含む6つのランダム化第Ⅲ相比較試験のうち,3つではリンパ節転移陰性例も対象としている。

(3)術後化学療法としてのドセタキセル

 BCIRG 0016),PACS 017)をはじめ複数の試験が行われている。統合解析では,術後アンスラサイクリンへのドセタキセル追加により,DFSのHR:0.86(95%CI:0.8—0.92,p<0.00001),OSのHR:0.87(95%CI:0.79—0.95,p=0.003)と有意に改善した5)。このメタアナリシスで解析されたドセタキセルを含む7つのランダム化第Ⅲ相比較試験のうち,3つではリンパ節転移陰性例も対象としている。

(4)アンスラサイクリンとタキサンは順次投与か同時投与か

 メタアナリシスで解析された13試験のうち,パクリタキセルで1試験,ドセタキセルでは3試験でアンスラサイクリンとタキサンの同時併用が,残りの試験では順次投与が行われている5)。同時併用が行われた4試験のうちBCIRG 0016)ではDFS(HR:0.72,95%CI:0.59-0.88,p=0.001),OS(HR:0.70,95%CI:0.53-0.91,p=0.008)ともに,ECTO8)ではDFS(HR:0.73,95%CI記載なし,p=0.03)のみがタキサン追加により有意に改善した。しかし,メタアナリシスでのsensitivity analysisでは,順次投与ではDFS,OSともにタキサン治療による有意な改善が示されたが,同時併用ではDFSの改善のみが有意であった5)

 ドキソルビシン後にドセタキセルを順次投与するAC→Tと同時併用するATおよびTAC(いずれも4サイクル)とを比較したNSABP B-30では,OSでAC→Tが勝る結果であった(vs AT,HR:0.83,95%CI記載なし,p=0.034;vs TAC,HR:0.86,95%CI記載なし,p=0.086)9)。しかし,AC→TとTAC(6サイクル)を比較したBCIRG 005では,DFS,OSいずれも同等との結果であり,アンスラサイクリンとタキサンの併用方法には結論が得られていない10)。有害事象では特に血液毒性が同時併用で増強し,NSABP B-30では同時併用群でG-CSFが予防投与されている。

(5)順次投与のタキサンは毎週投与がよいか3週毎投与がよいか

 ECOG 1199では,T1-3 N1-2あるいはT2-3 N0乳癌に対して,AC療法4サイクル後にパクリタキセルあるいはドセタキセルを毎週あるいは3週毎に順次投与する4群の比較試験が行われた11)。DFSにはタキサンの種類や治療スケジュールによる差を認めなかったが,パクリタキセル3週毎投与を対照として各治療を比較すると,DFSではパクリタキセル毎週投与(HR:1.27,p=0.006)とドセタキセル3週毎投与(HR:1.23,p=0.02)が,OSではパクリタキセル毎週投与(HR:1.32,p=0.01)が勝る結果であった。

(6)腫瘍細胞の生物学的特性によってタキサン追加の無効な対象を選択できるか

 CALGB 9344の後ろ向き研究で,HER2とERを測定できた症例のみを対象として,それぞれの発現とDFSを検討したところ,HER2陰性/ER陽性ではパクリタキセルによる上乗せ効果がみられなかったが,他のHER2とERの組合せではパクリタキセルの追加効果がみられた12)。また,BCIRG 001のホルモン受容体陽性例の後ろ向き研究では,HER2陽性あるいは細胞増殖マーカーであるKi67高発現例ではTACがFACよりも良好なDFSを示したが,HER2陰性かつKi67低発現例ではTACがFACに勝らなかった13)。PACS 01の後ろ向き研究では,ER陽性乳癌におけるドセタキセル感受性因子はHER2ではなくKi67と報告された14)。さらに,Nitzらは,後ろ向きのサブセット解析ではあるが,Ki67が20%未満においてEC療法に続くドセタキセル順次療法のFEC療法に対する優越性を認めておらず,アンスラサイクリン→ドセタキセルは過剰治療である可能性が示唆されている15)。一方,Ki67が20%以上ではEC療法に続くドセタキセルの優越性が証明されている。

 以上より,リンパ節転移陽性早期乳癌に対する術後療法としてアンスラサイクリンにタキサンを順次または同時併用することは有用である。高リスクリンパ節転移陰性乳癌については,GEICAMからFACとFAC順次パクリタキセルとを比較した第Ⅲ相試験と,FACとTACを比較した第Ⅲ相試験がそれぞれ報告されている16)17)。いずれの試験においてもタキサンを含むレジメンはFACよりもDFSで有意に優れていたが(HR:0.766,95%CI記載なし,p=0.0441,HR:0.68,95%CI記載なし,p=0.01),OSには差は認めていない。また,タキサン追加の意義を示した統合解析5)で採用された13試験のうち6試験やECOG 119911)ではリンパ節転移陰性も対象としており,再発リスクが高いと考えられる場合にタキサン併用を検討することは妥当と考えられる。これらの試験での高リスクの定義は一定していないが,4つの試験では腫瘍径が2 cmを超えるものを,2つの試験では腫瘍径が1 cmを超えるものを対象としている。

 アンスラサイクリン後のタキサンの至適投与法については,パクリタキセルであれば毎週投与,ドセタキセルなら3週毎の投与と考えられる。Ki67の値によるluminal Aタイプでは,アンスラサイクリンへタキサンの上乗せ効果が極めて低い可能性が示唆されるが,いずれも単試験の後ろ向き研究であり,いまだ確立されたものとはいえず,今後さらに研究すべき重要な課題である。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedで,Breast Neoplasms,Chemotherapy,Adjuvant,adjuvant chemotherapy,adjuvant therapy,Antineoplastic Combined Chemotherapy Protocols,Doxorubicin,paclitaxel,docetaxel,albumin-bound paclitaxelのキーワードを用いて検索した。

参考文献

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