日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

HER2 陽性原発乳癌に対して術後化学療法+トラスツズマブは勧められるか (薬物療法・初期治療・ID10140)

CQ13 乳癌診療ガイドライン1治療編(051-054ページ)
推奨グレード A HER2陽性原発乳癌に対する術後化学療法+トラスツズマブは強く勧められる。

背景・目的

 HER2陽性術後乳癌に対して,アンスラサイクリン系薬剤とタキサン系薬剤による化学療法にトラスツズマブを追加することで,再発を抑制し生存率を向上させられるかどうかを検証した。HER2陽性乳癌とは,乳がんHER2検査病理部会によるガイドラインに示された,浸潤部癌細胞のHER2が陽性のものである(http://www.jbcs.gr.jp/News/20150120up/HER2_2015.pdf)1)

解 説

(1)術後治療としてのトラスツズマブのメタアナリシス

 HER2陽性乳癌に対する化学療法へのトラスツズマブの追加効果についてのメタアナリシス(8試験,n=11,911)が2012年に報告されている2)。そのうち術前治療の2試験を除く術後トラスツズマブの6つの臨床試験を下に示す。

P51_表

 メタアナリシスの結果,トラスツズマブの投与期間や投与スケジュール(化学療法と同時併用あるいは順次併用)にかかわらず,DFS(HR:0.60,95%CI:0.50—0.71),OS(HR:0.66,95%CI:0.57—0.77)は有意に改善した。OSに関するサブ解析では,6カ月以上のトラスツズマブ投与のOSは良好である(HR:0.67,95%CI:0.57—0.80)。しかしながら,6カ月未満では有意差はない(HR:0.55,95%CI:0.27—1.11)。トラスツズマブと化学療法の併用療法は,同時併用でOSを改善した(HR:0.64,95%CI:0.53—0.76)が,順次併用では改善しなかった(HR:0.85,95%CI:0.43—1.67)。一方,トラスツズマブ追加によりうっ血性心不全は増加し(HR:5.11,95%CI:3.00—8.72),左室心駆出率は低下した(HR:1.83,95%CI:1.36—2.47)。この心毒性はトラスツズマブの6カ月以上投与で高率であったが,併用化学療法では差がなかった。

(2)術後トラスツズマブの至適投与期間

 多くの術後トラスツズマブ試験(HERA,NCCTG N9831,NSABP B—31,BCIRG 006,PACS 04,PHAREなど)でトラスツズマブの投与期間は1年であった。唯一,1年以上のトラスツズマブ投与期間を検討したHERAはトラスツズマブの2年投与,1年投与,未投与を比較した3)。観察期間8年(中央値)で2年投与と1年投与の,DFS(HR:1.05,95%CI:0.85—1.29),OS(HR:1.05,95%CI:0.86—1.28)はともに有意差を認めなかった。左室駆出率に関するイベント(<50%かつベースラインから10%以上低下)は1年投与に比し,2年投与で高率(7.2% vs 4.1%)であった。

 一方,1年以下のトラスツズマブ投与期間を検討した試験にはSOLD(9週vs 1年;NCT00593697),Short—HER(3カ月vs 1年;NCT00629278),PERSEPHONE(6カ月vs 1年;NCT00712140),FinHerまたPHAREがある。PHARE4)はHER2陽性早期乳癌の術後療法におけるトラスツズマブの1年投与と6カ月投与の有効性および安全性についての非劣性比較試験である。観察期間42.5カ月(中央値)においてトラスツズマブ1年投与に対する6カ月投与の非劣性は証明されなかった(HR:1.28,95%CI:1.05—1.56)。しかし多くの短期投与試験は継続中である。それゆえ,現時点では,トラスツズマブの投与期間は1年が標準である。

(3)術後トラスツズマブの適応

 上述の複数の臨床試験の登録基準である浸潤腫瘍径1 cm以上を術後トラスツズマブの適応とするのが一般的である。しかし,腫瘍径が1 cm以下でリンパ節転移陰性でも再発リスクが高いとの後ろ向きの報告5)があり,NCCNガイドライン(2014年第1版)6)では低いレベルのエビデンスではあるもののトラスツズマブの投与は推奨されている。なお,BIG 1—01ではHERAに登録された症例の心関連イベント(追跡期間中央値8年)を報告し,心毒性の発生率は低く,また多くは可逆性であったと結論付けている。しかしながら,トラスツズマブの2年投与群と1年投与群は無投与群と比較した結果,重篤なうっ血性心不全の発生率は1%以下であるが左室駆出率低下はそれぞれ7.2%,4.1%。0.9%であり,トラスツズマブ投与群は高い発生率であった7)

 1 cm以下リンパ節転移陰性では,治療によって恩恵を受ける患者よりも,心毒性などの有害事象が生じる患者が多くなる可能性も指摘されており,年齢や治療前の心機能評価は検討課題である8

(4)併用化学療法レジメン

 NSABP B—319)(n=2,043)やNCCTG N98319)(n=3,505)などの複数の臨床試験はアンスラサイクリンとタキサンの順次併用である。BCIRG 00610)(n=3,222)ではAC4サイクル後にドセタキセル4サイクル(ACT)を標準アームとして,AC4サイクル後にドセタキセルとトラスツズマブの同時併用を行い,トラスツズマブを計1年投与する群(ACTH)とドセタキセル,カルボプラチン,トラスツズマブの同時投与を6サイクル行い,その後計1年のトラスツズマブ投与を行う群(TCH)を比較した第Ⅲ相試験が行われた。本試験では,リンパ節転移陰性乳癌が29%,腫瘍径2 cm以下が40%含まれており,早期乳癌の割合が高かった。ACTに対しACTH,TCHともに有意にDFS,OSを改善した。また,非アンスラサイクリン系レジメンであるTCH群は,アンスラサイクリン系レジメン群(ACT群とACTH群)より心関連有害事象や白血病の発症が少なかった。

 現在,非アンスラサイクリンレジメンには2つの第Ⅱ相臨床試験の報告がなされている。腫瘍径3 cm以下でリンパ節転移陰性の早期乳癌406例を対象としたパクリタキセル(毎週×12回)+トラスツズマブ併用の試験では追跡期間中央値4年で3年生存率は98.7%(95%CI:97.6—99.8)であった11)。また,早期乳癌486例を対象としたドセタキセル(75 mg/m2)+シクロホスファミド(600 mg/m2)の4サイクルにトラスツズマブ1年を併用した試験の2年DFSはTOP2A増幅群:190症例で97.8%(95%CI:94.2—99.2%),TOP2A非増幅群:248例で97.9%(95%CI:94.9—99.1)であった12)これらの非アンスラサイクリンレジメンの臨床試験の追跡期間は十分ではないが比較的早期のHER2陽性乳癌やアンスラサイクリンが適応外(心疾患やその既往)である場合は選択肢となる。

 なお,ペルツズマブ+トラスツズマブ+化学療法は再発乳癌に保険適応として使用可能であるが,術後療法の有効性・安全性を評価する試験(Aphinity:NCT01358877)は現在,解析中であり結果が待たれる。

(5)化学療法を行わない術後トラスツズマブ単独治療

 術後に化学療法を行わずにトラスツズマブを単独で行うことに関し,これを支持するあるいは反論する根拠はない。術後トラスツズマブの意義を示した上記臨床試験はすべて化学療法と併用したものである。70歳以上のHER2陽性乳癌に対する術後トラスツズマブ単独治療とトラスツズマブ+化学療法を比較する第Ⅲ相試験〔N—SAS BC07(RESPECT),UMIN 000002349〕13)がわが国で行われ,2014年10月に登録が終了した。その結果によってこの疑問に対する回答が得られると考えられる。

 

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms,HER2,Human Epidermal Growth Factor Receptor 2,positive,overexpressing,“Receptor,erbB—2”のキーワードを用いて検索した。San Antonio Breast Cancer Symposiumなどの国際学会での発表等はハンドサーチで検索し,NCCN Clinical Practice Guideline 2014 ver. 1およびUpToDate 2014を参考にした。

参考文献

1) 乳がんHER2検査病理部会作成.HER2検査ガイド 乳癌編[第四版]―抗HER2薬の適正な症例選択のための―.2014年4月 http://www.jbcs.gr.jp/News/20150120up/HER2_2015.pdf
→PubMed

2) Moja L, Tagliabue L, Balduzzi S, Parmelli E, Pistotti V, Guarneri V, et al. Trastuzumab containing regimens for early breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2012;4:CD006243.
→PubMed

3) Goldhirsch A, Piccart‒Gebhart MJ, Procter M, de Azambuja E, Weber HA, Untch M, et al;the HERA Study Team. General Session 5. (S5‒2)HERA TRIAL:2 years versus 1 year of trastuzumab after adjuvant chemotherapy in women with HER2‒positive early breast cancer at 8 years of median follow up.Abstracts:Thirty‒Fifth Annual CTRC‒AACR San Antonio Breast Cancer Symposium‒‒Dec 4‒8, 2012; San Antonio, TX. Cancer Res. 2012;72(24 Suppl 3):S5‒2.

4) Pivot X, Romieu G, Debled M, Pierga JY, Kerbrat P, Bachelot T, et al;PHARE trial investigators. 6 months versus 12 months of adjuvant trastuzumab for patients with HER2‒positive early breast cancer (PHARE):a randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2013;14(8):741‒8.
→PubMed

5) Gonzalez‒Angulo AM, Litton JK, Broglio KR, Meric‒Bernstam F, Rakkhit R, Cardoso F, et al. High risk of recurrence for patients with breast cancer who have human epidermal growth factor receptor 2‒positive, node‒negative tumors 1 cm or smaller. J Clin Oncol. 2009;27(34):5700‒6.
→PubMed

6) http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/breast.pdf

7) de Azambuja E, Procter MJ, van Veldhuisen DJ, Agbor‒Tarh D, Metzger‒Filho O, Steinseifer J, et al. Trastuzumab‒associated cardiac events at 8 years of median follow‒up in the Herceptin Adjuvant trial (BIG 1‒01). J Clin Oncol. 2014;32(20):2159‒65.
→PubMed

8) Kelly CM, Pritchard KI, Trudeau M, Andreopoulou E, Hess K, Pusztai L. Coping with uncertainty:T1a,bN0M0 HER2‒positive breast cancer, do we have a treatment threshold? Ann Oncol. 2011;22(11):2387‒93.
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9) Romond EH, Perez EA, Bryant J, Suman VJ, Geyer CE Jr, Davidson NE, et al. Trastuzumab plus adjuvant chemotherapy for operable HER2‒positive breast cancer. N Engl J Med. 2005;353(16):1673‒84.
→PubMed

10) Slamon D, Eiermann W, Robert N, Pienkowski T, Martin M, Press M, et al;Breast Cancer International Research Group. Adjuvant trastuzumab in HER2‒positive breast cancer. N Engl J Med. 2011;365(14):1273‒83.
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11) Tolaney SM, Barry WT, Dang CT, Yardley DA, Moy B, Marcom PK, et al. Adjuvant paclitaxel and trastuzumab for node‒negative, HER2‒positive breast cancer. N Engl J Med. 2015;372(2):134‒41.
→PubMed

12) Jones SE, Collea R, Paul D, Sedlacek S, Favret AM, Gore I Jr, et al. Adjuvant docetaxel and cyclophosphamide plus trastuzumab in patients with HER2‒amplified early stage breast cancer:a single‒group, open‒label, phase 2 study. Lancet Oncol. 2013;14(11):1121‒8.
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13) Sawaki M, Tokudome N, Mizuno T, Nakayama T, Taira N, Bando H, et al. Evaluation of trastuzumab without chemotherapy as a post‒operative adjuvant therapy in HER2‒positive elderly breast cancer patients:randomized controlled trial [RESPECT (N‒SAS BC07)]. Jpn J Clin Oncol. 2011;41(5):709‒12.
→PubMed

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