日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

閉経前ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対して内分泌療法は勧められるか (薬物療法・転移・再発乳癌の治療・ID10190)

一次内分泌療法 

CQ17-a 乳癌診療ガイドライン1治療編(069-070ページ)
推奨グレード A LH—RHアゴニストとタモキシフェンの併用が強く勧められる。

背景・目的

 閉経前ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対して,生命に危険を及ぼす転移がない場合は,まず内分泌療法を考慮すべきである1)。しかし,転移・再発乳癌にはStage Ⅳなどの内分泌療法未治療例もあれば,術後内分泌療法後の転移・再発乳癌もある。前治療の有無,術後薬物療法終了からの期間等も考慮し,一次治療の手段としてどのような治療が推奨されるか検証した。

解 説

(1)内分泌療法抵抗性

 内分泌療法抵抗性に関しては,明確な基準はないものの,術後内分泌療法終了から再発までの期間を一つの基準としていることが多い。術後内分泌療法投与中および終了後時間が経過していない場合の再発では内分泌療法抵抗性があり,一方,術後内分泌療法終了後時間が経過している場合の再発では内分泌療法抵抗性がないと考えられている。臨床試験では,この内分泌療法抵抗性を分ける術後内分泌療法終了後の期間を12カ月としていることが多い。

 これらを踏まえ,一次内分泌療法の定義は,Stage Ⅳ乳癌および周術期に内分泌療法未使用の再発乳癌,あるいは,術後内分泌療法終了後時間が経過している(約12カ月以上)経過した再発乳癌に対する初回の内分泌療法とする。この場合,術後内分泌療法として用いた薬の再投与も可能である。

 二次治療の定義は,一次内分泌療法抵抗性乳癌に対する次の内分泌療法である。つまり,一次内分泌療法中および治療後の増悪,あるいは,周術期に内分泌療法使用の場合は,内分泌療法投与中および終了から時間が経過していない(約12カ月以内)に再発した乳癌に対する治療とする。

(2)一次内分泌治療のエビデンス

 ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対する一次内分泌療法としてタモキシフェン,卵巣機能抑制,およびその両者併用が挙げられる。それぞれの治療法を比較したランダム化比較試験やそれらのメタアナリシスの結果が報告されている。

 タモキシフェンと卵巣機能抑制(外科的切除あるいは放射線照射)を比較した4試験220人のランダム化比較試験のメタアナリシス2)では,奏効率,PFS,OSで両群に差を認めなかった。

 LH—RHアゴニストとタモキシフェンの併用とLH—RHアゴニスト単独を比較した4試験506人のランダム化比較試験のメタアナリシス3)ではOSにおいて(2.5年vs 2.9年;HR:0.78,95%CI:0.63—0.96)と両者併用が有意に優れていた。有害事象では,ほてり感や不正出血などで差を認めなかった。

 また,161人の閉経前転移・再発乳癌患者に対するLH—RHアゴニスト単独,タモキシフェン単独およびその両者併用とのランダム化比較試験において,OS(2.5年,2.9年,3.7年;LH—RHアゴニストvs併用HR:1.95,95%CI:1.23—3.10,タモキシフェンvs併用HR:1.63,95%CI:1.03—2.59)と両者併用が各単独投与に比べ有意に優れていた4)

(3)一次内分泌療法の治療方針

 以上より,転移・再発乳癌に対する一次内分泌療法として卵巣機能抑制(LH—RHアゴニスト,外科的切除,放射線照射)とタモキシフェンの併用が強く勧められる。卵巣機能抑制の方法としては,歴史的に外科的切除,放射線照射も行われてきたが,合併症を鑑みると,LH—RHアゴニストが勧められる。

 二次以降の内分泌療法

CQ17-b 乳癌診療ガイドライン1治療編(070-072ページ)
推奨グレード B 二次以降の内分泌療法として,LH—RHアゴニストと閉経後に用いる内分泌療法薬との併用(一部保険適応外),または,酢酸メドロキシプロゲステロンが勧められる。

推奨グレードを決めるにあたって

 二次治療以降に関する比較試験の結果は少ないが,転移・再発乳癌に対する内分泌療法の基本は,少しでも内分泌感受性があると判断され,生命に危険を及ぼさない転移であれば可能な限り内分泌療法を継続することであり,グレードBとした。

背景・目的

 ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対する治療方針は,生命に危険の及ばない状態であれば可能な限り内分泌療法の継続することである。一次内分泌療法で効果が認められた転移・再発乳癌では,一次内分泌療法抵抗性となっても二次内分泌療法の効果が期待できる。さらに,二次内分泌療法に効果が得られた場合は三次内分泌療法においても効果が期待される。そこで一次内分泌療法抵抗性転移・再発乳癌の二次以降の内分泌療法として,どのような治療が推奨されるか検証した。

解 説

(1)二次内分泌療法以降のエビデンス

 閉経前転移・再発乳癌に対する二次内分泌療法のエビデンスは乏しいのが現状である。タモキシフェンと卵巣摘出の一次治療として効果を比較したメタアナリシスの中で,タモキシフェンと卵巣摘出とをクロスオーバーし,それぞれの二次内分泌療法の効果を検討している2)。一次治療タモキシフェン109人中34人で二次治療に卵巣摘出が施行されている。一次治療タモキシフェン投与後の二次治療卵巣摘出の奏効率は23%であり,SDの割合は36%であった。一次治療タモキシフェン奏効例は非奏効例に比べ二次治療の卵巣摘出の奏効率が高いことが示されている。一方,一次治療卵巣摘出111人中54人で二次治療タモキシフェンが施行されている。一次治療卵巣摘出後における二次治療タモキシフェンの奏効率は9%,SDの割合は34%であった。

 LH—RHアゴニスト+タモキシフェン不応後の二次治療としてLH—RHアゴニスト+アロマターゼ阻害薬(保険適応外)を用いたわが国からの第Ⅱ相試験(n=37)の報告がある。奏効率18.9%,CBR 62.2%,PFS中央値7.3カ月であった5)

 タモキシフェンやLH—RHアゴニスト+アロマターゼ阻害薬治療歴のある26人に対する二次治療としてのゴセレリン+フルベストラントの併用(保険適応外)の報告がある。CBR 58%,TTP 6カ月,OS 32カ月であった6)

 上記の結果から,エビデンスレベルは高くはないが一次内分泌療法にタモキシフェン使用後の二次内分泌療法は,卵巣機能抑制または一次内分泌療法に推奨されている卵巣機能抑制+タモキシフェンであり,一次内分泌療法に卵巣機能抑制を行った場合は卵巣機能抑制+タモキシフェンが推奨される。一次内分泌療法にLH—RHアゴニスト+タモキシフェン使用後の二次内分泌療法は,LH—RHアゴニスト+アロマターゼ阻害薬(保険適応外),LH—RHアゴニスト+フルベストラント(保険適応外)もオプションの一つと考えられる。

 酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)については,閉経前転移・再発乳癌に対する一次内分泌療法としての卵巣機能抑制とMPAのランダム化比較試験(n=40)の中で,卵巣機能抑制後増悪した患者に対する二次内分泌療法としてのMPAの効果は,10人のうち6人に奏効を得ている7)ただし,MPAは血栓症や体重増加などの有害事象の面から上記の内分泌療法施行後の使用が推奨される。

(2)二次内分泌療法の治療方針

 以上より,閉経前ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対する二次以降の内分泌療法は,LH—RHアゴニストや卵巣摘出,卵巣放射線照射等の卵巣機能抑制を行い,閉経後転移・再発乳癌に対する内分泌療法の方針と同様の治療(抗エストロゲン薬,アロマターゼ阻害薬,フルベストラント),またはMPAを行う。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms/drug therapy,Hormone Replacement Therapy,“Antineoplastic Agents,Hormonal”,Neoplasm Metastasis,secondary,Metastasis,metasta,recurrenのキーワードを用いて検索し,さらに検索結果を症例報告を除いた治療に関する文献に限定した。加えて重要文献をハンドサーチで検索した。ほかにUpToDate 2014の“Treatment approach to metastatic hormone receptor—positive breast cancer:Endocrine therapy”の項を参考にした。

参考文献

1) Hortobagyi GN. Treatment of breast cancer. N Engl J Med. 1998;339(14):974‒84.
→PubMed

2) Crump M, Sawka CA, DeBoer G, Buchanan RB, Ingle JN, Forbes J, et al. An individual patient‒based meta‒analysis of tamoxifen versus ovarian ablation as first line endocrine therapy for premenopausal women with metastatic breast cancer. Breast Cancer Res Treat. 1997;44(3):201‒10.
→PubMed

3) Klijn JG, Blamey RW, Boccardo F, Tominaga T, Duchateau L, Sylvester R;Combined Hormone Agents Trialists’ Group and the European Organization for Research and Treatment of Cancer. Combined tamoxifen and luteinizing hormone‒releasing hormone (LHRH)agonist versus LHRH agonist alone in premenopausal advanced breast cancer:a meta‒analysis of four randomized trials. J Clin Oncol. 2001;19(2):343‒53.
→PubMed

4) Klijn JG, Beex LV, Mauriac L, van Zijl JA, Veyret C, Wildiers J, et al. Combined treatment with buserelin and tamoxifen in premenopausal metastatic breast cancer:a randomized study. J Natl Cancer Inst. 2000;92(11):903‒11.
→PubMed

5) Nishimura R, Anan K, Yamamoto Y, Higaki K, Tanaka M, Shibuta K, et al. Efficacy of goserelin plus anastrozole in premenopausal women with advanced or recurrent breast cancer refractory to an LH‒RH analogue with tamoxifen:results of the JMTO BC08‒01 phase Ⅱ trial. Oncol Rep. 2013;29(5):1707‒13.
→PubMed

6) Bartsch R, Bago‒Horvath Z, Berghoff A, DeVries C, Pluschnig U, Dubsky P, et al. Ovarian function suppression and fulvestrant as endocrine therapy in premenopausal women with metastatic breast cancer. Eur J Cancer. 2012;48(13):1932‒8.
→PubMed

7) Martoni A, Longhi A, Canova N, Pannuti F. High‒dose medroxyprogesterone acetate versus oophorectomy as first‒line therapy of advanced breast cancer in premenopausal patients. Oncology. 1991;48(1):1‒6.
→PubMed

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