日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

HER2 陽性転移・再発乳癌に対する抗HER2 療法は勧められるか (薬物療法・転移・再発乳癌の治療・ID10220)

 一次抗HER2療法

(一次治療の定義は背景・目的を参照)

CQ20-a 乳癌診療ガイドライン1治療編(086-090ページ)
推奨グレード A トラスツズマブとペルツズマブとドセタキセルの併用療法は強く勧められる。
B 化学療法とトラスツズマブの併用療法は勧められる。
C1 比較的緩徐に進行する無症状の転移・再発乳癌の場合,トラスツズマブ単独療法から開始することを考慮してもよい。
C2 化学療法とラパチニブ併用療法は基本的に勧められない。

推奨グレードを決めるにあたって

 2014年のコクランライブラリーのメタアナリシス1)の結果から,HER2陽性転移・再発乳癌に対する抗HER2療法(トラスツズマブあるいはラパチニブ)の使用は推奨される。一次治療は,CLEOPATRAの結果からトラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセルが最も推奨されるためにグレードA,トラスツズマブ+化学療法をグレードBとした。トラスツズマブ単独は化学療法併用と比較してOSが劣らないというエビデンスはないが,ある程度の効果があり,極めて忍容性が高いため,非常に限られた患者群への初回治療として考慮してよいと考え,グレードC1とした。一次治療としてのラパチニブと化学療法の併用は効果および忍容性ともにトラスツズマブと化学療法の併用に劣るため,グレードC2とした。

背景・目的

 HER2陽性転移・再発乳癌に対しては,HER2/neu(erbB—2)受容体に対するモノクローナル抗体であるトラスツズマブやペルツズマブ,トラスツズマブと化学療法薬を結合した抗体薬物複合体であるトラスツズマブエムタンシン(T—DM1),EGFR(HER1)・HER2に対する経口チロシンキナーゼ阻害薬であるラパチニブなどの抗HER2療法をどのように使うかが重要である。本項ではHER2陽性転移・再発乳癌に対する一次療法として抗HER2療法と化学療法との併用療法および抗HER2療法の単独療法の有効性について検証する。

 抗HER2療法における一次治療の定義は,Stage IV乳癌および術前・術後に抗HER2療法未使用あるいは術前・術後に抗HER2療法使用の場合は抗HER2療法終了後ある程度の期間経過した再発乳癌に対する初回の抗HER2療法とする。この期間についてはUpToDateでは6カ月,一方,ASCOガイドライン2014では12カ月と定めている。

 二次治療の定義は,抗HER2療法による一次治療中および治療後の増悪,あるいは,術前・術後に抗HER2療法使用の場合は,抗HER2療法投与中および終了後,短い期間(6~12カ月未満)に再発した乳癌に対する治療とする。

 解 説

 コクランライブラリーによる2014年の転移・再発乳癌に関するメタアナリシス1)では,HER2陽性転移・再発乳癌に対するトラスツズマブを含む抗HER2療法の有効性および安全性が検討されている。HER2陽性転移・再発乳癌に対してトラスツズマブを含む治療は,トラスツズマブを含まない治療に比較し,有意に奏効率が増加(HR:1.58,95%CI:1.38—1.82)し,OS(HR:0.82,95%CI:0.71—0.94)およびPFS(HR:0.82,95%CI:0.71—0.94)を改善した。一方,有害事象である心不全(HR:3.49,90%CI:1.88—6.47)や左室機能低下率(HR:2.65,90%CI:1.48—4.74)が有意に増加した。しかしながらこの心機能低下は可逆的であり,他の有害事象の有意な増加は認めなかった。

 ペルツズマブ(本項(2)参照)およびT—DM1(薬物CQ 20—b参照)は後述のように標準治療に比較し,奏効率を増加させ,PFS,OSを延長する。ラパチニブも標準治療と比較し,OSの改善は明らかではないが,奏効率を増加し,PFSを延長させる(薬物CQ 20—b参照)。

 以上より,HER2陽性転移・再発乳癌に対して抗HER2療法の使用は強く勧められる。HER2陰性転移・再発乳癌に対するトラスツズマブの効果はないため使用すべきではない。

(1)化学療法とトラスツズマブ

 上記のコクランライブラリーによるメタアナリシス1)では,HER2陽性転移・再発乳癌に対する一次治療としてのトラスツズマブとタキサン併用療法はタキサン単独療法と比較して有意な奏効率の増加(HR:1.72,95%CI:1.23—2.38),PFS(HR:0.53,95%CI:0.42—0.68),OSの延長(HR:0.80,95%CI:0.65—0.99)を認めた。一方,有害事象では,両者併用により左室機能低下率(HR:2.4,95%CI:1.17—4.91)を有意に増加した。しかしながらこの心機能低下は可逆的であり,他の有害事象の有意な増加は認めなかった。よってHER2陽性転移・再発乳癌に対しては,タキサンに加え,トラスツズマブを併用することが推奨される。

 多施設共同比較試験であるTRAVIOTA2)においてトラスツズマブとビノレルビン併用療法は,トラスツズマブとタキサン併用療法と比較して遜色のない結果であった。さらに,HERNATA3)ではトラスツズマブとドセタキセル併用とトラスツズマブとビノレルビン併用の効果に差は認められなかったが,ビノレルビン群では有意に有害事象が少なく,一次治療として考慮してもよい。

 トラスツズマブによる有害事象の主なものは心駆出率の低下である。心機能障害(NYHA ⅢもしくはⅣ)の発生率は,アンスラサイクリン+シクロホスファミド+トラスツズマブでは27%,パクリタキセル+トラスツズマブでは13%,トラスツズマブ単独では3~7%であった4)。アンスラサイクリンとトラスツズマブを併用することで心不全のリスクが有意に高くなるため,従来,転移・再発乳癌において両薬は併用すべきではないとされてきた。しかし,アンスラサイクリンの中でも心毒性が少ないとされるエピルビシンを用いた臨床試験(HERCULES5))では,ドキソルビシンを用いた従来の結果と比べて心不全の発症割合は極めて少なかった。トラスツズマブ使用時には定期的に心機能を検査し,無症状であるが20%以上心駆出率が低下した場合や心駆出率が40%未満となった場合にはいったん中止,30%以上心駆出率が低下し,動悸,息切れ,頻脈などの心不全症状が現れた場合などにはトラスツズマブの永久中止が望ましい。心機能障害は可逆性であることが多く,回復した際にはトラスツズマブの再投与を考慮してもよい。しかし,心機能低下が再度起こるケース(約4割)も報告されているため,再投与は慎重にすべきである6)

 トラスツズマブと複数の化学療法薬との併用は,一般に奏効率の増加やPFSの延長は認めるが,OSの延長はなく,グレード3以上の有害事象が有意に増加する7)。このためトラスツズマブと複数の化学療法薬との併用は勧められない。

(2)ペルツズマブ+トラスツズマブ+タキサン併用療法

 ペルツズマブは,HER2に対してトラスツズマブとは異なるエピトープに結合し,HER2とHER1,3,4との二量体化を阻害する薬である。

 ペルツズマブ+トラスツズマブ+ドセタキセル(ペルツズマブ群)vsプラセボ+トラスツズマブ+ドセタキセル(対照群)の二重盲検下第Ⅲ相試験(CLEOPATRA)(n=808)において,奏効率(ペルツズマブ群80%,対照群69%)8),PFS(観察期間中央値30カ月,ペルツズマブ群18.7カ月,対照群12.4カ月,HR:0.66,95%CI:0.58—0.81)9)およびOS(観察期間中央値50カ月,ペルツズマブ群56.5カ月,対照群40.8カ月,HR:0.68,95%CI:0.56—0.84)10)はペルツズマブ群で有意に延長していた。安全性においてペルツズマブ群が対照群より2%以上多く認められたグレード3以上の有害事象は,好中球減少(53% vs 51%),発熱性好中球減少症(13% vs 7%),下痢(68% vs 48%)であったが,ペルツズマブを追加することにより心毒性は増強しなかった9)

 ペルツズマブ+トラスツズマブ+パクリタキセルの第Ⅱ相試験11)(n=69)では,全体のPFSは19.5カ月(95%CI:14~20カ月)であり,一次療法(n=51)に限定するとPFSは24.2カ月(95%CI 14カ月—not reached)であった。グレード3以上の有害事象は,倦怠感6%,下痢,末梢神経障害,AST/ALT上昇および手足症候群が3%,口内炎と嘔気が2%であり,発熱性好中球減少症はなかった。ペルツズマブ+トラスツズマブ+パクリタキセルでは良好な効果と高い忍容性が示された。

(3)トラスツズマブエムタンシン(T—DM1)

 T—DM1はトラスツズマブに微小管重合体阻害薬誘導体のエムタンシンを結合させた抗体薬物複合体である。トラスツズマブとドセタキセルとの併用とT—DM1を比較したランダム化第Ⅱ相試験12)(n=137)ではPFS,奏効率ともT—DM1のほうが良好であった(PFS:9カ月vs 14カ月,HR:0.59,95%CI:0.36—0.97,奏効率;58% vs 64%)。また,T—DM1では,発熱性好中球減少症,下痢,末梢性浮腫,脱毛は少ないが,血小板減少,肝トランスアミナーゼの上昇,頭痛は多かった。T—DM1は一次治療としても期待されるが,本試験は第Ⅱ相試験であり,またOSについてのデータはなく,現時点で一次治療としては推奨されない。

(4)トラスツズマブによる単独療法

 HERTAX13)(n=99)においてHER2陽性転移・再発乳癌に対するトラスツズマブとドセタキセルの順次投与(トラスツズマブ→ドセタキセル)と併用療法(トラスツズマブ+ドセタキセル)との比較試験が行われた。併用療法群のPFSと順次投与群におけるトラスツズマブ→ドセタキセル全体の期間までを含めたPFSに有意差はなかった。OSは併用療法(31カ月)のほうが順次投与(20カ月)と比較して約10カ月の改善を認めたが,有意差には至っていない。有害事象については,感覚性末梢神経障害は順次投与群(62%)のほうが併用群(31%)に比較し少なかった。他の有害事象については両群間に差がなかった。

 JO 1736014)(n=108)においても同様に,順次投与(トラスツズマブ→ドセタキセル+トラスツズマブ)と比較して併用療法(ドセタキセル+トラスツズマブ)の奏効率は有意に良好であったが,順次投与群におけるドセタキセル+トラスツズマブの治療期間まで含めた奏効期間は有意差がなかった。しかし,主要評価項目であるOSは併用療法群で有意な改善を認め,試験の中止が勧告された。ただし,いまだイベント数が少ないため,確定的な結論は得られていない。有害事象についてはトラスツズマブ単独治療時には高血圧を4%認めるのみで,ドセタキセルとの併用群で認められる好中球減少(79%),発熱性好中球減少(8%),貧血(4%),肝機能異常(4%),便秘(4%),食欲不振(2%),浮腫(4%)はトラスツズマブ単独投与では認められず,トラスツズマブ単独投与の忍容性は高いと考えられる。

 トラスツズマブ単独がトラスツズマブと化学療法併用と比較しOSが劣るという確証は得られておらず,比較的緩徐に進行する無症状の転移・再発乳癌の場合に限っては,トラスツズマブ単独療法から開始することを考慮してもよい。ただし,トラスツズマブ単独療法後に他の抗HER2療法を単独で順次投与する比較試験のエビデンスはない。このため基本的には,トラスツズマブ単独療法で増悪後は化学療法と抗HER2療法の併用を行う。

(5)化学療法とラパチニブ

 一次治療におけるタキサン+ラパチニブ併用療法とタキサン+トラスツズマブ併用療法(24週以降はそれぞれラパチニブまたはトラスツズマブ単独投与)の国際共同第Ⅲ相試験(EGF108919/COMPLETE15):n=652)の追跡期間中央値13.6カ月での中間解析結果では,PFSがラパチニブ併用群においてトラスツズマブ併用群に比べ短いという結果が示された(8.8カ月vs 11.4カ月,HR:1.33,p=0.01)。さらに,重篤な有害事象もトラスツズマブ併用群に比べラパチニブ併用群で有意に多かった。OSにおいては今のところ差は認められていないが,中間解析の結果をもって試験は中止された。

 この結果から一次治療として,トラスツズマブと化学療法が使用可能な状況においては,ラパチニブと化学療法の併用は勧められない。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms/drug therapy,Neoplasm Metastasis,secondary,metasta,advanced,recurren,“Neoplasm Recurrence,Local”,trastuzumab,lapatinib,her2,her—2,“Genes,erbB—2”,erbB—2,Antineoplastic Agentsのキーワードを用いて検索した。加えて重要文献をハンドサーチで検索した。さらに“Systemic therapy for patients with advanced human epidermal growth factor receptor—2 positive breast cancer:American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline,J Clin Oncol 2014;32:2078—2099”およびUpToDate 2014の“Systemic treatment for HER2—positive metastatic breast cancer”の項を参考にした。

参考文献

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二次以降の抗HER2療法

(二次治療の定義はCQ 20—aの背景・目的を参照) 

CQ20-b 乳癌診療ガイドライン1治療編(091-094ページ)
推奨グレード A トラスツズマブエムタンシンが勧められる。
C1 トラスツズマブエムタンシン既治療の場合は,トラスツズマブやラパチニブを含むレジメンを考慮してもよい。

推奨グレードを決めるにあたって

 トラスツズマブエムタンシン(T—DM1)既治療後に抗HER2療法を行うことを検討した比較試験の結果はないが,HER2陽性乳癌の場合,基本的に抗HER2療法の継続が勧められるため,T—DM1既治療の場合は二次治療以降でエビデンスのあるトラスツズマブと化学療法薬の併用,ラパチニブとカペシタビンの併用,あるいはトラスツズマブとラパチニブの併用は行ってもよいと考えられ,グレードC1とした。

背景・目的

 トラスツズマブ投与中もしくは投与後に病勢進行(PD)となったHER2陽性転移・再発乳癌に対する二次治療以降のトラスツズマブ,ラパチニブおよびT—DM1について有効性と安全性を検証した。

解 説

(1)トラスツズマブ治療歴を有する転移・再発乳癌に対しての抗HER2療法

①ラパチニブとカペシタビンの併用療法
 EGF 1001511)2)において,化学療法やトラスツズマブで病勢が進行したHER2陽性転移・再発乳癌(n=324)に対するカペシタビン単独とラパチニブとカペシタビン併用との比較が行われた。TTP(8.4カ月vs 4.4カ月,p<0.001),奏効率(22% vs 14%,p=0.09)において併用群のほうが優れていた。中間解析において併用療法の有用性が明らかになり,新規症例の組み入れが中止された。有害事象は,併用により下痢(60%),消化不良(11%),皮疹(27%)などの増加が認められる。下痢ではグレード3を10%未満,グレード4を1%以下の症例に認めた。投与開始6日以内に下痢が起こり,7~9日間継続することが多い3)下痢が発生した場合には,食事療法・水分摂取を行いながら早期にロペラミド(初回4 mg,2回目以降2 mgを4時間毎)を開始し,下痢が12時間以上止まるまで投与を継続すべきである4

(2)トラスツズマブ投与中,投与後に病勢が進行した場合の抗HER2療法

①トラスツズマブと化学療法の併用
 GBG 26/BIG 03—055)6)において,トラスツズマブ既治療(術後療法も含まれる)の転移・再発乳癌(n=156)に対するカペシタビン単独とカペシタビンとトラスツズマブ併用とのランダム化比較試験が行われた。併用群において,奏効率(48.1% vs 27.0%,OR 2.50,p=0.0115),TTP(8.2カ月vs 5.6カ月,HR:0.69,95%CI:0.48—0.97)ともに良好であったが,OS(24.9カ月vs 20.6カ月,HR:0.94,p=0.734)の改善には至らなかった。

②トラスツズマブとラパチニブの併用
 EGF1049007)において,トラスツズマブ投与中に進行した転移・再発乳癌(n=296)に対するラパチニブ単独とラパチニブとトラスツズマブ併用とのランダム化比較試験が行われた。併用によりPFS(11.1カ月vs 8.1カ月,HR:0.74,p=0.011)およびOS(14カ月vs 9.5カ月,HR:0.74;p=0.026)の延長が認められた。

 上記GBC26/BIG02—05およびEGF104900を含むコクランライブラリーによる2014年の転移・再発乳癌についてのメタアナリシス8)では,トラスツズマブ投与中,投与後に病勢が進行した場合のトラスツズマブ,ラパチニブあるいは両者併用のPFS(HR:0.72,95%CI:0.59—0.88)は有意に改善したが,OS(HR:0.87,95%CI:0.68—1.12)については延長の傾向はあったが有意差はなかった。しかしながら,これらの試験では試験治療終了後に50%以上の患者で抗HER2療法のクロスオーバーがなされており,抗HER2療法の継続投与の真のベネフィットの大きさは不明である。

③T—DM1
 T—DM1はトラスツズマブに微小管重合体阻害薬誘導体のDM1(emtansine)を結合させた抗体薬物複合体である。

 HER2陽性局所進行性または転移・再発乳癌でタキサンおよびトラスツズマブに治療歴がある991人を対象として,二次治療としてT—DM1とカペシタビンとラパチニブ併用(XL群)の二重盲検下ランダム化第Ⅲ相試験(EMILIA)9)が行われた。プライマリー・エンドポイントであるPFSはT—DM1群で有意に延長した(9.6カ月vs 6.4カ月:HR:0.65,95%CI 0.55—0.77)。また,OSの中間解析において,T—DM1群はXL群より有意に良好であった(31カ月vs 25カ月,HR:0.68,0.55—0.85)。奏効率もT—DM1群43.6%,XL群30.8%とT—DM1群で良好であった。安全性では,血液毒性においてT—DM1群,XL群でそれぞれ血小板減少症(12.9% vs 0.2%),好中球減少症(2% vs 4.3%),発熱性好中球減少症(0% vs 1%)であった。一方,非血液毒性ではT—DM1群でXL群より多く認められたグレード3以上の有害事象は,AST(4.3% vs 0.8%)およびALT(2.9% vs 1.4%)上昇のみで,下痢(1.6% vs 20.7%),嘔吐(0.8% vs 4.5%)などの消化器症状はXL群に多い結果であった。

(3)三次治療以降で推奨される治療方法

①2レジメン以上の抗HER2療法施行後のT—DM1
 TH3RESA10)(n=602)において2種以上の抗HER2療法の既治療例を対象としてT—DM1と担当医選択の治療(TPC)を2対1で割り付けしランダム化比較試験が行われた。TPCの68%はトラスツズマブと化学療法の併用が選択された。T—DM1はTPCと比較すると奏効率(31% vs 9%,p<0.0001)の増加,PFS(6.2カ月vs 3.3カ月,HR:0.53 95%CI:0.42—0.66)およびOS(中央値not reached vs 14.9カ月,HR:0.55,95%CI:0.37—0.83)の延長を認めた。さらにT—DM1はTPCよりもグレード3以上の有害事象が少なく,唯一血小板減少のみT—DM1で多かった。

②その他
 上述のGBG 26/BIG 03—05において,PD後の三次治療で抗HER2療法を受けた群(約9割がトラスツズマブ+化学療法)は受けなかった群と比較してその後の生存期間が有意に良好であったが,両群間で患者背景にバイアスがあるため解釈には注意が必要である6)

 以上より,二次治療以降の抗HER2療法としては,EMILIAやTH3RESAの結果からはT—DM1を使用することによりトラスツズマブあるいはラパチニブを含むレジメンよりもOSを延長することが明らかである。よって,トラスツズマブ投与中,投与後に病勢が進行した場合の抗HER2療法としてはT—DM1が推奨される。三次治療以降もT—DM1未使用例ではT—DM1が勧められる。トラスツズマブあるいはラパチニブと化学療法との併用,およびトラスツズマブとラパチニブの併用はT—DM1使用後に使用する。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms/drug therapy,Neoplasm Metastasis,secondary,metastatic,metastasis,advanced,recurrent,recurrence,“Neoplasm Recurrence,Local”,“Genes,erbB—2”,her2,her—2,Antineoplastic Agents,positive,trastuzumab,“trastuzumab—DM1 conjugate”のキーワードを用いて検索した。加えて重要文献をハンドサーチで検索した。さらに“Systemic therapy for patients with advanced human epidermal growth factor receptor—2 positive breast cancer:American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline,J Clin Oncol 2014;32:2078—2099”およびUpToDate 2014の“Systemic treatment for HER2—positive metastatic breast cancer”の項を参考にした。

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