日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

ホルモン受容体陽性 HER2 陽性転移・再発乳癌に対する内分泌療法単独あるいは内分泌療法と抗HER2 療法の併用は勧められるか (薬物療法・転移・再発乳癌の治療・ID10230)

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CQ21 乳癌診療ガイドライン1治療編(095-097ページ)
推奨グレード C1 内分泌療法単独を考慮してもよい。
C1 閉経後の場合,内分泌療法と抗HER2療法(トラスツズマブあるいはラパチニブ)の併用を考慮してもよい。

推奨グレードを決めるにあたって

 閉経後ホルモン受容体陽性HER2陽性乳癌に対する内分泌療法単独と抗HER2療法と内分泌療法併用の比較試験の結果からは併用群で有意に奏効率は増加し,PFSも延長したが,OSの延長は得られていない。化学療法と抗HER2療法と化学療法の併用では併用群は有意にOSが延長しており(薬物CQ 20参照),ホルモン受容体陽性であってもHER2陽性であれば抗HER2療法と化学療法が強く推奨される。ただし,症状を有する転移がなく,進行が比較的緩徐な閉経後ホルモン受容体陽性HER2陽性転移・再発乳癌に対しては,内分泌療法単独もしくは抗HER療法(トラスツズマブあるいはラパチニブ)と内分泌療法併用は妥当と考えられ,グレードC1とした。閉経前についても同様で内分泌療法単独をグレードC1としたが,抗HER2療法と内分泌療法との併用は比較試験のデータがないため,推奨グレードをつけることはできない。

背景・目的

 ホルモン受容体陽性かつHER2陽性乳癌では,エストロゲン受容体(ER)とHER2の間にクロストークが存在すると考えられている。HER2はERやERの転写共役因子のリン酸化を介してERシグナルを活性化することができ,一方,ERは膜型ERからHER2を刺激することができると考えられている。これが内分泌療法抵抗性の一因と考えられている。転移・再発乳癌におけるHER2発現と内分泌療法不応性(内分泌療法開始後6カ月以内の治療終了と定義)との関連を検討したメタアナリシス(15試験,n=2,379)では,HER2陽性はHER2陰性に比較し,内分泌療法不応性が高いことが示されている(リスク比:1.42,95%CI:1.32—1.52)1)。この2つの治療標的(ERとHER2)を同時に抑えることにより抗腫瘍効果が増強すると考えられている。本項では,複数の比較試験より,ホルモン受容体陽性HER2陽性転移・再発乳癌に対する内分泌慮法単独と抗HER2療法と内分泌療法併用の効果と安全性について検討する。

解 説

(1)トラスツズマブと内分泌療法との併用療法

 eLEcTRA2)(n=92)では,ER陽性,HER2陽性乳癌のレトロゾール単独療法(Arm A:n=31)とレトロゾール・トラスツズマブ併用療法(Arm B:n=26)をランダム化し,比較した。されにHER2発現の有無によりレロトゾールの効果が異なるかを検討するためにER陽性,HER2陰性乳癌のレトロゾール単独(Arm C:n=35)が追加検討された。Arm AとArmBの比較では,Arm BはArm Aに比較し,統計学的には有意ではないが,TTP(3.3カ月vs 14.1カ月,HR:0.67,95%CI:0.35—1.29)が長く,奏効率(13% vs 27%,オッズ比2.49,95%CI:0.64—9.70),クリニカルベネフィット率(clinical benefit rate:CBR)(39% vs 65%,オッズ比2.99,95%CI:1.01—8.84)とも良好な傾向であった。Arm AとArm Cの比較は背景が異なり,比較した結果の解釈には注意が必要であるが,Arm CはArm Aと比較し,奏効率(13% vs 11%,オッズ比0.87,95%CI:0.20—3.82)には差がなかったが,TTP(3.3カ月vs 15.2カ月,HR:0.71,95%CI:0.52—0.96)を延長し,CBR(39% vs 77%,オッズ比5.34,95%CI:1.83—15.58)は良好であった。

 TAnDEM3)(n=207)では,アナストロゾール単独とアナストロゾール・トラスツズマブ併用の比較試験が行われた。併用は単独に比し,PFS(4.8カ月vs 2.4カ月,HR:0.63,95%CI:0.47—0.84)を延長し,奏効率(20.3% vs 6.8%),CBR(42.7% vs 27.9%)ともに良好であったが,OS(28.5カ月vs 23.9カ月,log—rank p=0.325)の改善には至らなかった。有害事象については併用群で疲労(20% vs 8%),嘔吐(21% vs 9%),発熱(18% vs 7%)が多かったが,重篤な有害事象は両群とも稀であった。

(2)ラパチニブと内分泌療法との併用療法(保険適応外)

 EGF300084)において,レトロゾール単独とレトロゾール・ラパチニブ併用との比較試験が行われた。ホルモン受容体陽性,HER2陽性(n=219)においては,併用により,PFS(3.0カ月vs 8.2カ月,HR:0.71,95%CI:0.53—0.96)を延長し,奏効率(15% vs 28%)およびCBR(29% vs 48%,オッズ比0.4,95%CI:0.2—0.8)を改善した。観察期間の中央値が1.8年でイベント数がまだ少なく,OSの延長効果は認めなかった。重篤な有害事象は併用で下痢(10% vs 1%)と皮疹(1% vs 0%)が有意に多かった。

 以上のように,抗HER2療法と内分泌療法の併用療法は内分泌療法単独と比較して奏効率やPFSは優れるが,OSの改善には至っていない。一方,化学療法単独と抗HER2療法と化学療法との併用の比較では併用によりOSの改善を認めている。基本的にはホルモン受容体陽性であってもHER2陽性であれば,転移・再発乳癌に対する一次治療は抗HER2療法と化学療法の併用が強く勧められる(薬物CQ 20参照)。しかしながら,上記のエビデンスより,症状を有する転移がなく,進行が比較的緩徐な閉経後ホルモン受容体陽性HER2陽性転移・再発乳癌に対しては,内分泌療法単独もしくは抗HER療法(トラスツズマブあるいはラパチニブ)と内分泌療法併用を考慮してもよい。

 閉経前を対象とした抗HER2療法と内分泌療法との併用の比較試験の結果はなく,閉経前に抗HER2療法と内分泌療法との併用を推奨するエビデンスはない。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms/drug therapy,Neoplasm Metastasis,secondary,metasta,advanced,recurren,“Neoplasm Recurrence,Local”,trastuzumab,lapatinib,her2,her—2,“Genes,erbB—2”,erbB—2,Antineoplastic Agentsのキーワードを用いて検索した。加えて重要文献をハンドサーチで検索した。さらに“Systemic therapy for patients with advanced human epidermal growth factor receptor—2 positive breast cancer:American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline,J Clin Oncol 2014;32:2078—2099”およびUpToDate 2014の“Systemic treatment for HER2—positive metastatic breast cancer”の項を参考にした。

参考文献

1) De Laurentiis M, Arpino G, Massarelli E, Ruggiero A, Carlomagno C, Ciardiello F, et al. A meta-analysis on the interaction between HER—2 expression and response to endocrine treatment in advanced breast cancer. Clin Cancer Res. 2005;11(13):4741-8.
→PubMed

2) Huober J, Fasching PA, Barsoum M, Petruzelka L, Wallwiener D, Thomssen C, et al. Higher efficacy of letrozole in combination with trastuzumab compared to letrozole monotherapy as first-line treatment in patients with HER2-positive, hormone-receptor-positive metastatic breast cancer- results of the eLEcTRA trial. Breast. 2012;21(1):27-33.
→PubMed

3) Kaufman B, Mackey JR, Clemens MR, Bapsy PP, Vaid A, Wardley A, et al. Trastuzumab plus anastrozole versus anastrozole alone for the treatment of postmenopausal women with human epidermal growth factor receptor 2-positive, hormone receptor-positive metastatic breast cancer:results from the randomized phase Ⅲ TAnDEM study. J Clin Oncol. 2009;27(33):5529-37.
→PubMed

4) Johnston S, Pippen J Jr, Pivot X, Lichinitser M, Sadeghi S, Dieras V, et al. Lapatinib combined with letrozole versus letrozole and placebo as first-line therapy for postmenopausal hormone receptor-positive metastatic breast cancer. J Clin Oncol. 2009;27(33):5538-46.
→PubMed

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