日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

乳癌脳転移および髄膜播種に薬物療法は勧められるか (薬物療法・転移・再発乳癌の治療・ID10270)

CQ25 乳癌診療ガイドライン1治療編(106-108ページ)
推奨グレード C1 乳癌脳転移に対する標準治療である放射線療法や外科療法が勧められるが,それらの既治療患者では薬物療法を考慮してもよい。
C2 乳癌髄膜播種に対する薬物の髄腔内投与の有用性は確立しておらず,基本的に勧められない。

 推奨グレードを決めるにあたって

 脳転移に対する標準治療は局所治療であり,これと比較した薬物療法の試験がなく,薬物療法による脳転移への効果は認められるが治療として推奨するレベルではないため,グレードC1とした。また,髄膜播種に対する薬物の髄腔内投与の有効性は極めて限定的であり,基本的には勧められないため,グレードC2とした。

背景・目的

 脳転移は乳癌患者の10~16%にみられるとされる1)。脳以外の転移を有する乳癌については全身治療が進歩するとともに制御期間の延長が認められており,脳転移巣のコントロールが今後の重要な課題となってきている。また,髄膜播種は乳癌の3~34%にみられ,しばしば治療に難渋する病態である2)。本項では,乳癌脳転移および髄膜播種に対して薬物療法が有用かどうかを検証する。

解 説

(1)脳転移に対する薬物療法

 多くの化学療法薬は,生理的な条件下では血液脳関門をほとんど通過できないはずであるが,乳癌脳転移に対して化学療法が有効との報告がある。その理由として,脳転移病巣によって血液脳関門が破壊され,相対的に透過性を増した脳転移巣内の腫瘍血管を介して,化学療法薬の濃度が治療レベルまで到達可能となるためであると考えられている1)

 しかし,多くの乳癌治療薬の臨床試験は脳転移を除外基準にしており,乳癌脳転移の化学療法の有効性を検討した臨床試験はほとんどない。最も大きな症例集積は,さまざまな化学療法レジメンで治療した乳癌脳転移100人の報告である3)。これによると,10人に完全奏効,40人に部分奏効が得られており,腫瘍再燃後も37%の患者で奏効が得られた。また,CMFまたはCAFで治療した乳癌脳転移22人の報告によると,奏効率は59%であった4)。シスプラチンとエトポシド併用化学療法で乳癌脳転移56人に38%の奏効率の報告もある5)

 内分泌療法(タモキシフェン,酢酸メゲステロール,レトロゾール)の脳転移への効果については奏効例の症例報告のみで,臨床試験で有効性は確認されていない。トラスツズマブはモノクローナル抗体で分子量が大きいため血液脳関門を通過し難く,通常の静脈内投与では乳癌脳転移に有効ではない6)と考えられていたが,田村らは64Cu—DOTA—トラスツズマブを用いたPET検査でトラスツズマブが血液脳関門を通過することを示している7)。ラパチニブは小分子化合物であるため血液脳関門を通過し,脳転移に有効な可能性がある。脳転移に対するラパチニブ単独療法の奏効率は2.6~6%,PFSの中央値は2.4~3.0カ月8),ラパチニブ単独治療が抵抗性となった後のラパチニブ・カペシタビン併用療法の効果をみたEGF 105084では奏効率は20%,PFS中央値は3.65カ月であり,カペシタビンによる脳転移に対する抗腫瘍効果の可能性も示された9)。また,脳転移初再発例に対するラパチニブとカペシタビンの併用療法の有効性を検討したLANDSCAPEでは,脳腫瘍体積が50%以上縮小した割合は65.9%,TTP 5.5カ月,全脳照射までの期間8.3カ月という比較的良好な成績も報告されており10),脳転移初発例の治療オプションとなる可能性がある。さらに,Japan Clinical Oncology Groupによる脳転移を有するHER2陽性転移・再発乳癌の後ろ向き解析(n=432)では,脳転移発症後のトラスツズマブとラパチニブの両者の使用はどちらか一方の使用のみ,あるいは,両者未使用に比較し,生存期間が長いことが示された11)。しかしながら,現在までに脳転移に対する薬物療法は標準治療である放射線療法や外科療法との比較試験による優越性は示されておらず,脳転移に対しては局所療法を優先することが勧められる。

(2)髄膜播種に対する薬物療法

 乳癌髄膜播種に関しては,以前よりメトトレキサートなどの化学療法薬の髄注療法が試みられてきたが2),全身療法のみと全身治療と髄腔内投与の併用を比較した臨床試験(n=35)によると,髄腔内投与を加えないほうがむしろ良好な成績を示し12),乳癌髄膜播種に対する化学療法薬の髄注療法の意義は確立していない。

 以上より,乳癌脳転移および髄膜播種に対する薬物療法の臨床試験は限られており,その有用性はまだ明らかとはいえない。乳癌脳転移に対しては,放射線療法や外科療法が第一選択と考えられる。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms/drug therapy,Breast Neoplasms/therapy,Brain Neoplasms/secondary,leptomeningealのキーワードを用いて検索した。さらにUpToDate 2014の“Management of brain metastases in breast cancer”および“Treatment of leptomeningeal metastases(carcinomatous meningitis)”の項を参考にした。

参考文献

1) Lin NU, Bellon JR, Winer EP. CNS metastases in breast cancer. J Clin Oncol. 2004;22(17):3608‒17.
→PubMed

2) DeAngelis LM, Boutros D. Leptomeningeal metastasis. Cancer Invest. 2005;23(2):145‒54.
→PubMed

3) Rosner D, Nemoto T, Lane WW. Chemotherapy induces regression of brain metastases in breast carcinoma. Cancer. 1986;58(4):832‒9.
→PubMed

4) Boogerd W, Dalesio O, Bais EM, van der Sande JJ. Response of brain metastases from breast cancer to systemic chemotherapy. Cancer. 1992;69(4):972‒80.
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5) Franciosi V, Cocconi G, Michiara M, Di Costanzo F, Fosser V, Tonato M, et al. Front‒line chemotherapy with cisplatin and etoposide for patients with brain metastases from breast carcinoma, nonsmall cell lung carcinoma, or malignant melanoma:a prospective study. Cancer. 1999;85(7):1599‒605.
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6) Bendell JC, Domchek SM, Burstein HJ, Harris L, Younger J, Kuter I, et al. Central nervous system metastases in women who receive trastuzumab‒based therapy for metastatic breast carcinoma. Cancer. 2003;97(12):2972‒7.
→PubMed

7) Tamura K, Kurihara H, Yonemori K, Tsuda H, Suzuki J, Kono Y, et al. 64Cu‒DOTA‒trastuzumab PET imaging in patients with HER2‒positive breast cancer. J Nucl Med. 2013;54(11):1869‒75.
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8) Lin NU, Carey LA, Liu MC, Younger J, Come SE, Ewend M, et al. Phase Ⅱ trial of lapatinib for brain metastases in patients with human epidermal growth factor receptor 2‒positive breast cancer. J Clin Oncol. 2008;26(12):1993‒9.
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9) Lin NU, Diéras V, Paul D, Lossignol D, Christodoulou C, Stemmler HJ, et al. Multicenter phase Ⅱ study of lapatinib in patients with brain metastases from HER2‒positive breast cancer. Clin Cancer Res. 2009;15(4):1452‒9.
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10) Bachelot T, Romieu G, Campone M, Diéras V, Cropet C, Dalenc F, et al. Lapatinib plus capecitabine in patients with previously untreated brain metastases from HER2‒positive metastatic breast cancer (LANDSCAPE):a single‒group phase 2 study. Lancet Oncol. 2013;14(1):64‒71.
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11) Hayashi N, Niikura N, Masuda N, Takashima S, Nakamura R, Watanabe K, et al. Prognostic factors of HER2‒positive breast cancer patients who develop brain metastasis:a multicenter retrospective analysis. Breast Cancer Res Treat. 2015;149(1):277‒84.
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12) Boogerd W, van den Bent MJ, Koehler PJ, Heimans JJ, van der Sande JJ, Aaronson NK, et al. The relevance of intraventricular chemotherapy for leptomeningeal metastasis in breast cancer:a randomised study. Eur J Cancer. 2004;40(18):2726‒33.
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