日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

乳腺悪性葉状腫瘍の遠隔転移に対して化学療法は勧められるか (薬物療法・特殊病態・ID10300)

CQ28 乳癌診療ガイドライン1治療編(119-121ページ)
推奨グレード B ドキソルビシンやイホスファミド等,軟部肉腫に対して用いる薬剤の使用が勧められる。

推奨グレードを決めるにあたって

 乳腺悪性葉状肉腫は稀な疾患で,遠隔転移に対する化学療法の有効性について前向きの比較試験はないが,実地診療においては,軟部肉腫に準じた薬物療法を実践することが勧められるため,グレードBとした。

背景・目的

 乳腺原発の葉状腫瘍は極めて稀な疾患であり,分葉状に増殖するという意味で“phyllodes tumor”の名称がついている。その大半では局所再発は比較的多いものの臨床的に良性腫瘍の経過をとり,治療は外科的切除が基本となる。遠隔転移を伴った場合の治療法についての報告は多くはない。葉状腫瘍は肉腫の一型であり,上皮性腫瘍である乳癌とは異なる疾患として取り扱う必要がある。

解 説

 葉状腫瘍は,その名が示すように植物の葉に類似した渦巻状の病理組織像を呈する腫瘍である。線維腺腫と似た形態をとるため,診断には十分な検体量を確保した針生検または切開生検が必要である。乳腺原発の葉状腫瘍は乳腺全腫瘍の0.3~0.9%を占めるにすぎない1)。その組織学的特徴により,良性型・境界型・悪性型に分類される2)。良性型でも局所再発に注意が必要で,再発時に悪性転化し得る3)。悪性型は13~40%が遠隔転移をきたす。遠隔転移の好発部位は肺であり,胸膜,骨,脳にも転移するため,軟部肉腫のガイドラインに準じて術後2年間は6カ月ごとの胸部X線やCTによる経過観察が推奨される。

 乳腺悪性葉状腫瘍の遠隔転移に対する薬物療法は,軟部肉腫に対する薬物療法に準じて行われるのが一般的である4)5)。発生頻度が低いため少数例の後ろ向きの解析が報告されているのみであり,しかもそれらは薬物療法に特化した報告ではない4)。肉腫に対して単独で20%以上の有効性が示されているのは,アンスラサイクリンであるドキソルビシン,エピルビシンとアルキル化薬のイホスファミドである。それぞれを単独で,もしくは併用して(ドキソルビシン+イホスファミド)使用される4)6)。イホスファミドを用いる際には出血性膀胱炎の合併に注意が必要で,その頻度はシクロホスファミドより高い。そのため,対策としては薬物使用時に,①大量補液による尿量の確保,②ウロミテキサン(メスナ)の投与を必ず行う。アンスラサイクリンやイホスファミド以外では,タキサンやゲムシタビン,ダカルバジンなどが効果のある薬物として候補に挙がる7)8)9)。いくつかの化学療法併用レジメンも考案されているが,生存期間で単独療法に勝るというデータはない。最近では分子標的治療薬の開発が進み,スニチニブの著効例や10),軟部肉腫(n=372)に対するパゾパニブの第Ⅲ相試験(PALETTE)11)が報告されている。PALETTEではアンスラサイクリンやイホスファミド,ゲムシタビンを含む一次治療以降の軟部肉腫に対してパゾパニブを投与し,主要評価項目のPFSはパゾパニブ投与群で4.6カ月とプラセボ群の1.6カ月に対して有意な延長(HR:0.31,95%CI:0.24—0.40)を認めた。OSに差はなかった。有害事象として倦怠感,高血圧,下痢,食思不振を認めた。ただし,PALETTEには乳腺悪性葉状腫瘍症例はほとんど含まれていない。なお,葉状腫瘍の20~40%はホルモン受容体陽性であるが内分泌療法には反応しないため,その使用は推奨されない12)

 以上のように乳腺悪性葉状腫瘍に対する薬物療法の有用性は単アームでの検討で示されているだけである。ただ稀少な疾患であるゆえに大規模な比較試験によるエビデンスの構築は今後も困難と考えられるため,現状では個々の症例に応じて軟部肉腫に準じた薬物療法を行うのが妥当である。乳腺悪性葉状腫瘍に対する術後化学療法の有用性については,少数例ながら前向きに検討した報告がある。ドキソルビシンとダカルバジンを併用した17人(7人に放射線治療追加)と非治療の11人で,両群間の無再発生存期間に有意差は認めなかったため,現時点では術後化学療法は推奨されない9

 検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,phyllodesまたはphyllodes tumor,ifosfamideまたはifomide,chemotherapy,agedのキーワードを用いて検索した。さらにUpToDate 2014の“Phyllodes tumors of the breast”を参考にして作成した。

参考文献

1) Tan EY, Tan PH, Yong WS, Wong HB, Ho GH, Yeo AW, Wong CY. Recurrent phyllodes tumours of the breast:pathological features and clinical implications. ANZ J Surg. 2006;76(6):476‒80.
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2) Guerrero MA, Ballard BR, Grau AM. Malignant phyllodes tumor of the breast:review of the literature and case report of stromal overgrowth. Surg Oncol. 2003;12(1):27‒37.
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3) Barrio AV, Clark BD, Goldberg JI, Hoque LW, Bernik SF, Flynn LW, et al. Clinicopathologic features and long‒term outcomes of 293 phyllodes tumors of the breast. Ann Surg Oncol. 2007;14(10):2961‒70.
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4) Confavreux C, Lurkin A, Mitton N, Blondet R, Saba C, Ranchère D, et al. Ray‒Coquard I. Sarcomas and malignant phyllodes tumours of the breast‒‒a retrospective study. Eur J Cancer. 2006;42(16):2715‒21.
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5) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Breast Cancer ver3. 2014. http://www.nccn.org

6) Kapiris I, Nasiri N, A’Hern R, Healy V, Gui GP. Outcome and predictive factors of local recurrence and distant metastases following primary surgical treatment of high‒grade malignant phyllodes tumours of the breast. Eur J Surg Oncol. 2001;27(8):723‒30.
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7) Köstler WJ, Brodowicz T, Attems Y, Hejna M, Tomek S, Amann G, et al. Docetaxel as rescue medication in anthracycline‒ and ifosfamide‒resistant locally advanced or metastatic soft tissue sarcoma:results of a phase Ⅱtrial. Ann Oncol. 2001;12(9):1281‒8.
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8) Losa R, Fra J, López‒Pousa A, Sierra M, Goitia A, Uũa E, et al. Phase Ⅱ study with the combination of gemcitabine and DTIC in patients with advanced soft tissue sarcomas. Cancer Chemother Pharmacol. 2007;59(2):251‒9.
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9) Morales‒Vásquez F, Gonzalez‒Angulo AM, Broglio K, Lopez‒Basave HN, Gallardo D, Hortobagyi GN, et al. Adjuvant chemotherapy with doxorubicin and dacarbazine has no effect in recurrence‒free survival of malignant phyllodes tumors of the breast. Breast J. 2007;13(6):551‒6.
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10) Park IH, Kwon Y, Kim EA, Lee KS, Ro J. Major response to sunitinib (Sutene) in metastatic malignant phyllodes tumor of breast. Invest New Drugs. 2009;27(4):387‒8.
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11) van der Graaf WT, Blay JY, Chawla SP, Kim DW, Bui‒Nguyen B, Casali PG, et al;EORTC Soft Tissue and Bone Sarcoma Group;PALETTE study group. Pazopanib for metastatic soft‒tissue sarcoma (PALETTE):a randomised, double‒blind, placebo‒controlled phase 3 trial. Lancet. 2012;379(9829):1879‒86.
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12) Sapino A, Bosco M, Cassoni P, Castellano I, Arisio R, Cserni G, et al. Estrogen receptor‒beta is expressed in stromal cells of fibroadenoma and phyllodes tumors of the breast. Mod Pathol. 2006;19(4):599‒606.
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