日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

炎症性乳癌に対して集学的治療は勧められるか (薬物療法・特殊病態・ID10340)

CQ32 乳癌診療ガイドライン1治療編(131-132ページ)
推奨グレード B 炎症性乳癌に対しては,化学療法を施行したのち,適切な局所治療(外科療法,放射線療法)を施行する集学的治療が勧められる。

背景・目的

 炎症性乳癌(inflammatory breast cancer;IBC)は,全浸潤性乳管癌の0.5~2%の比較的稀な疾患であるが,その頻度は増加傾向にあり,予後は不良であることが知られている1)。本項では,炎症性乳癌に対してどのような治療が推奨されるかを検討する。

解 説

 「乳癌取扱い規約」では,炎症性乳癌は「通常腫瘤は認めず,皮膚のびまん性発赤,浮腫,硬結を示す」臨床的特徴を有する病態とされ,「T4d」に分類される2)。病理学的には,「真皮内リンパ管の腫瘍塞栓」を呈することが多いが,炎症性乳癌の診断には必須ではない。Intrinsic subtype別のpCR率,DFSおよびOSはnon—IBCと同様の傾向を示す。ホルモン受容体陽性はnon—IBCでは予後良好であるがIBCではHER2発現の有無にかかわらず予後不良の傾向がある3)。2011年に炎症性乳癌の診断・治療に関する国際エキスパートパネル(international expert panel on inflammatory breast cancer)が開かれ,炎症性乳癌の診断基準として,①急速に発症した乳房皮膚の紅斑・浮腫であり,橙皮状皮膚(peau d’orange)や熱感を伴うこともあるが,触知可能な腫瘤を伴うかどうかは問わない,②病悩期間は6カ月以内,③紅斑は乳房皮膚の少なくとも1/3を占めること,④浸潤性乳管癌との病理診断,の4つが提唱された。さらに,針生検により浸潤性乳管癌であることを確認することに加えて,炎症性乳癌と臨床診断する全患者に対して,少なくとも2カ所の皮膚へのパンチ生検を施行することが強く推奨された。ホルモン受容体とHER2状況の検索は薬物療法選択のために必須である4)

 炎症性乳癌に対しては集学的治療(化学療法とそれに引き続いて適切な局所療法を行うこと)が推奨される。化学療法として,HER2陰性乳癌に対しては,アンスラサイクリンとタキサンを組み合わせた治療を行うべきである4)~7)。アンスラサイクリンを基調としたレジメンが標準治療と考えられているが7),近年,タキサンの有効性も報告されており8),炎症性乳癌においても通常の乳癌と同様,アンスラサイクリンとタキサンを順次併用した組合せが最も有効性の高いレジメンの一つと考えられている9)。HER2陽性の炎症性乳癌に対しては抗HER2療法と化学療法を組み合わせた薬物療法を行うべきである。

 化学療法の治療効果は,視触診による身体所見と画像診断を組み合わせて評価しなければならない4)。化学療法後の標準的な局所療法は,乳房切除術と放射線治療である。局所療法は化学療法による治療効果を考慮して決めるのが妥当である。化学療法後の手術と放射線治療の組み合わせにより比較的良好な局所制御が得られることがあるが,予後への影響は大きくないかもしれない10)。外科療法が行われる場合,推奨される術式は乳房切除術のみである4)。Skin sparing mastectomyは禁忌であり,乳房温存手術も臨床試験の一環としてのみ行われるべきである4)

 全身治療としての薬物療法と局所療法の外科療法および放射線治療を有効に活用した症例のほうが個々の治療のみであった症例と比べ予後が良好であった9)

 局所再発のリスクが高いため,化学療法後に乳房切除術を施行した患者に対しては,乳房切除術後胸壁照射が推奨される4)放射線CQ 9参照)。

 化学療法および適切な局所療法を施行したあとの術後化学療法のデータはほとんどない。ホルモン受容体陽性の患者には内分泌療法を追加すべきである。また,HER2陽性乳癌に対しては,術後トラスツズマブ療法を行うことが推奨される。以上より,炎症性乳癌に対しては,化学療法を施行したのち,適切な局所療法(外科療法および放射線療法)を施行する集学的治療が推奨される。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms/therapy,inflammatory,Inflammatory Breast Neoplasms,のキーワードを用いて検索し,治療に関する文献に絞り込んだ。さらにUpToDate 2014の“Inflammatory breast cancer:Pathology and molecular pathogenesis”を二次資料とした。

参考文献

1) Hance KW, Anderson WF, Devesa SS, Young HA, Levine PH. Trends in inflammatory breast carcinoma incidence and survival:the surveillance, epidemiology, and end results program at the National Cancer Institute. J Natl Cancer Inst. 2005;97(13):966‒75.
→PubMed

2) 日本乳癌学会編.臨床・病理 乳癌取扱い規約 (第17版).東京,金原出版,2012.

3) Masuda H, Brewer TM, Liu DD, Iwamoto T, Shen Y, Hsu L, et al. Long‒term treatment efficacy in primary inflammatory breast cancer by hormonal receptor‒ and HER2‒defined subtypes. Ann Oncol. 2014;25(2):384‒91.
→PubMed

4) Dawood S, Merajver SD, Viens P, Vermeulen PB, Swain SM, Buchholz TA, et al. International expert panel on inflammatory breast cancer:consensus statement for standardized diagnosis and treatment. Ann Oncol. 2011;22(3):515‒23.
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5) Esteva FJ, Hortobagyi GN. Locally advanced breast cancer. Hematol Oncol Clin North Am. 1999;13(2):457‒72, vii.
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6) Jaiyesimi IA, Buzdar AU, Hortobagyi G. Inflammatory breast cancer:a review. J Clin Oncol. 1992;10(6):1014‒24.
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7) Bauer RL, Busch E, Levine E, Edge SB. Therapy for inflammatory breast cancer:impact of doxorubicin‒based therapy. Ann Surg Oncol. 1995;2(4):288‒94.
→PubMed

8) Johnston S, Trudeau M, Kaufman B, Boussen H, Blackwell K, LoRusso P, et al. Phase Ⅱ study of predictive biomarker profiles for response targeting human epidermal growth factor receptor 2 (HER‒2) in advanced inflammatory breast cancer with lapatinib monotherapy. J Clin Oncol. 2008;26(7):1066‒72.
→PubMed

9) Dawood S, Ueno NT, Cristofanilli M. The medical treatment of inflammatory breast cancer. Semin Oncol. 2008;35(1):64‒71.
→PubMed

10) Perez CA, Fields JN, Fracasso PM, Philpott G, Soares RL Jr, Taylor ME, et al. Management of locally advanced carcinoma of the breast. Ⅱ. Inflammatory carcinoma. Cancer. 1994;74(1 Suppl):466‒76.
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