日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

男性乳癌に対して薬物療法は勧められるか (薬物療法・特殊病態・ID10350)

背景・目的

(1)疫学と病態の特徴

 男性の乳癌罹患率は女性患者の1%程度の頻度であり,女性に比べ5~10歳程度高い年齢層に発症する。発症のリスク因子は,男性乳癌の家族歴,高エストロゲンを呈する睾丸疾患(停留睾丸,睾丸炎の既往,外傷),高エストロゲンを呈する状態(Klinefelter症候群,エストロゲンやテストステロンの使用,肥満,5αリダクターゼ抑制作用を有する男性型脱毛症治療薬や前立腺治療薬),胸壁放射線照射の既往,運動不足等である。男性乳癌患者の約15~20%は家族歴を有する。遺伝性乳癌卵巣癌症候群の原因遺伝子の一つであるBRCA2胚細胞変異が5~15%に認められる。一方,BRCA1胚細胞変異は0~4%である。女性乳癌と比較し,組織型は浸潤性乳管癌がほとんどであり,浸潤性小葉癌や非浸潤性乳管癌は少ない。ER陽性率は90%,PgR陽性率も80%とホルモン受容体陽性が多く,トリプルネガティブ乳癌は少ないが,HER2発現は一定した見解が得られていない。

(2)予 後

 男性乳癌患者の予後は女性乳癌患者と比べて大きな差はない。従来,男性乳癌は女性乳癌より悪性度が高いものが多いために予後不良と考えられてきた。しかし現在は,OSが女性乳癌に比べて低いのは,男性乳癌の好発年齢がやや高いことや,進行癌で発見される割合が女性乳癌より高いことに起因すると考えられている。女性乳癌患者と予後を比較した比較的最近のデータでは,背景となる予後因子を調整すると,女性乳癌とDFS,OSともほとんど差がないことが報告されている。

 術後薬物療法

CQ33-a 乳癌診療ガイドライン1治療編(133-135ページ)
推奨グレード B 術後内分泌療法としてタモキシフェンの投与が勧められる。
C2 術後内分泌療法としてアロマターゼ阻害薬の投与は基本的には勧められない。
B 術後化学療法や抗HER2療法は,女性乳癌に準じて行うことが勧められる。

推奨グレードを決めるにあたって

ランダム化比較試験の結果はないが,基本的には男性乳癌も女性乳癌のガイドラインに従って治療すべきであり,エビデンスが少ない分一段階推奨グレードを下げ,術後内分泌療法,化学療法および抗HER2療法を行うことを,グレードBとした。アロマターゼ阻害薬についてはデータが少ないことに加え,後向き研究でタモキシフェンよりも劣る可能性があり,現時点では術後内分泌療法の基本をタモキシフェンとし,アロマターゼ阻害薬は推奨できないため,グレードC2とした。

解 説

 男性乳癌に対する術後薬物療法の有効性に関しては,無治療と薬物療法のランダム化比較試験の結果がなく,基本的には女性乳癌の術後薬物療法のガイドラインに従って行う1)

1)内分泌療法

 男性乳癌に対するタモキシフェン投与の有効性は,ランダム化比較試験はないものの,複数の後ろ向き研究により示されている2)~4)。ただ,タモキシフェンの副作用(性欲減退,体重増加,ホットフラッシュ,気分変調や陰うつ感)は女性よりも多く発現し,約20%で継続困難となったとの報告がある5)

 アロマターゼ阻害薬についてはドイツの地域がん登録をもとに術後内分泌療法(タモキシフェン207人,アロマターゼ阻害薬50人)を施行した257人が後向きに解析されている6)。アロマターゼ阻害薬を投与された患者のOSはタモキシフェンを投与された患者のOSより不良であった(死亡率 タモキシフェン18%,アロマターゼ阻害薬32%,HR:1.55,95%CI:1.13—2.13)。アロマターゼ阻害薬は,男性乳癌に対する術後内分泌療法としての有効性を示す前向き試験のデータはまだなく,アロマターゼ阻害薬はエストロゲン抑制効果が男性では閉経後の女性ほど強くない7)現時点では,術後内分泌療法としてアロマターゼ阻害薬は推奨できるだけの根拠に乏しい。

 以上より,ホルモン受容体陽性男性乳癌に対する術後内分泌療法としては,タモキシフェンの投与が推奨される。

2)化学療法

 術後化学療法を行った11人(CAF療法10人,CMF療法1人)の腋窩リンパ節転移陽性男性乳癌患者では,historical controlと比較して,DFS,OSが良好であった8)。米国国立癌研究所からの報告9)では,24人の腋窩リンパ節転移陽性男性乳癌患者を対象にCMFを行ったところ,5年生存率が80%であった。米国M. D. アンダーソンがんセンターからの報告3)では男性乳癌156人中32人に化学療法(術後84%,術前6%,両者9%)を施行(アンスラサイクリン含有レジメン81%,タキサン併用9%,CMF 16%)した。リンパ節転移陽性において化学療法は再発および死亡リスクを統計学的には有意ではないが低減する傾向があった(再発HR:0.88,95%CI:0.44—1.73,乳癌死HR:0.78,95%CI:0.39—1.55)。

 以上より,男性乳癌に対する化学療法のデータは少ないものの,化学療法の作用機序,男女間で癌の病態に大きな差がないことを考慮に入れると,術後化学療法の適応およびレジメンの選択は,女性乳癌に準じた治療が妥当である。

3)分子標的治療

 HER2陽性女性乳癌,特に腋窩リンパ節転移陽性乳癌に対するトラスツズマブのアンスラサイクリンおよびタキサンへの追加効果が示されていることから,HER2陽性男性乳癌に対してもトラスツズマブの投与を考慮することが合理的である。ただし,トラスツズマブ使用により心機能低下が報告されており10),男性へのトラスツズマブ投与による心毒性が女性と比較して同等であるかは不明であり,注意を要する。

転移・再発乳癌に対する治療

CQ33-b 乳癌診療ガイドライン1治療編(135-137ページ)
推奨グレード B ホルモン受容体陽性乳癌に対する一次治療として,タモキシフェンが勧められる。
C1 ホルモン受容体陽性乳癌に対する二次以降の治療はタモキシフェン以外の内分泌療法を考慮してもよい。
B 生命を脅かす危険のある臓器転移を有する,あるいは,ホルモン受容体陰性の場合,女性乳癌に準じて化学療法を行うことが勧められる。
B HER2陽性乳癌に対しては,女性乳癌に準じて抗HER2療法と化学療法の併用療法を行うことが勧められる。

推奨グレードを決めるにあたって

 転移・再発男性乳癌に対する順次内分泌療法についてのエビデンスは極めて限られるものの,治療目的は根治ではなく延命とQOLの改善であることを考慮して,グレードC1とした。ランダム化比較試験の結果はないが,基本的には男性乳癌も女性乳癌のガイドラインに従って治療すべきであり,エビデンスが少ない分一段階推奨グレードを下げ,内分泌療法,化学療法,抗HER2療法を行うことは,グレードBとした。

解 説

 転移・再発男性乳癌の患者数が少ないために,研究報告が少なく,利用できる男性乳癌でのエビデンスは限られたものでしかない。ランダム化比較試験の報告はなく,症例集積の報告のみである。

(1)内分泌療法

 タモキシフェンの奏効率はホルモン受容体陰性乳癌も含めて,全体(n=203)で約49%であり,そのうちのホルモン受容体陽性乳癌(n=21)では奏効率81%であったとの報告がある11)。その他の内分泌療法でaminoglutethimide(未承認),エストロゲン,megestrol acetate(未承認),アンドロゲン,LH—RHアゴニストなどのホルモン受容体陽性乳癌に対する奏効率は50~70%である12)。しかし,有害事象はタモキシフェンより強い傾向にある。男性乳癌においては女性乳癌と同様に一次内分泌療法で効果が得られた場合は二次治療以降の効果も期待されるため,ホルモン感受性がある場合は順次内分泌療法が勧められる13)

 アロマターゼ阻害薬の男性乳癌での有用性はまだ確立されていない。アロマターゼ阻害薬のpooled analysis(n=24)10)では,PR 2人(8.3%),SD 9人(37.5%)であり,治療期間中央値は6カ月であった。さらに,アロマターゼ阻害薬の有効性と血中エストラジオール値の低下に関連性を認めたとの報告がある。また,レトロゾールとLH—RHアゴニストの併用した19人の報告12)では,奏効率37%,クリニカルベネフィット率75%,PFS中央値12.5カ月,OS中央値36カ月であった。グレード3,4の有害事象はなかった。アロマターゼ阻害薬単独あるいはアロマターゼ阻害薬とLH—RHアゴニストの併用が行われた23人の報告13)では,PR 26%,SD 57%であった。LH—RHアゴニストの追加の有無で効果に差はなかった。グレード3,4の有害事象は認められず忍容性は高かった。

 男性乳癌に対するフルベストラントのpooled analysisで解析された23人(一次・二次治療40%,三次治療以降60%)では,PR 26.1%,SD 7人47.8%,PD 26.1%であり,PFS中央値は5カ月であった14)。グレード3,4の有害事象はなかったが,ホットフラッシュを18.2%に認めた。

 以上より,ホルモン受容体陽性転移・再発男性乳癌に対する一次治療薬はタモキシフェンであるが,二次以降の治療として未使用の内分泌療法を考慮してもよい。

(2)化学療法・抗HER2療法

 これまでの報告をまとめると化学療法の奏効率は,全体(n=105)では約40%,CMF(n=21)では33%,CAF(n=8)では63%である11)。男性乳癌に対するタキサンのデータは報告されていないが,転移・再発女性乳癌に対するタキサンの有効性は示されていることから,女性乳癌に準じた化学療法を考慮することは合理的である。また,抗HER2療法についてもエビデンスは乏しいが,女性乳癌に準じて治療を行うことが合理的である。

 以上より,転移・再発男性乳癌に対する化学療法・抗HER2療法のデータは限られるものの,化学療法・抗HER2療法の作用機序,男女間で癌の病態に大きな差がないことを考慮に入れると,転移・再発男性乳癌に対する化学療法・抗HER2療法の適応およびレジメンの選択は,女性乳癌のそれに準じて行うのが妥当である。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedで,“Breast Neoplasms,Male”,Therapeutics,Drug Therapyのキーワードを用いて検索し,一部をハンドサーチで追加した。また,UpToDate 2014 Topic 779 Version 30.0の“Breast cancer in men”を参考にした。

参考文献

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3) Giordano SH, Perkins GH, Broglio K, Garcia SG, Middleton LP, Buzdar AU, et al. Hortobagyi GN. Adjuvant systemic therapy for male breast carcinoma. Cancer. 2005;104(11):2359‒64.
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4) Fogh S, Hirsch AE, Langmead JP, Goldberg SI, Rosenberg CL, Taghian AG, et al. Use of tamoxifen with postsurgical irradiation may improve survival in estrogen and progesterone receptor‒positive male breast cancer. Clin Breast Cancer. 2011;11(1):39‒45.
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5) Pemmaraju N, Munsell MF, Hortobagyi GN, Giordano SH. Retrospective review of male breast cancer patients:analysis of tamoxifen‒related side‒effects. Ann Oncol. 2012;23(6):1471‒4.
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