日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

乳癌特殊型では組織型に応じた薬物療法を行うことが勧められるか (薬物療法・特殊病態・ID10370)

CQ35 乳癌診療ガイドライン1治療編(141-144ページ)
推奨グレード B 組織型に応じた薬物療法を行うことが勧められる。
  • 粘液癌に対する薬物療法は,ホルモン受容体陽性・腋窩リンパ節転移陰性であれば,内分泌療法単独が推奨される。
  • 管状癌に対する薬物療法は,ホルモン受容体陽性・腋窩リンパ節転移陰性であれば,内分泌療法単独または薬物療法なしが推奨される。
  • 腺様囊胞癌はトリプルネガティブであっても腋窩リンパ節転移陰性であれば化学療法を省略することが推奨される。
  • 髄様癌,アポクリン癌,浸潤性小葉癌に対する薬物療法は浸潤性乳管癌に準じて行うことが推奨される。

 背景・目的

 乳癌全体の約10%を占める乳癌特殊型に対する術後薬物療法の基準は必ずしも明確にされていない。例外として,乳癌特殊型である腺様囊胞癌(adenoid cystic carcinoma)は予後が非常に良好なため,トリプルネガティブ乳癌であっても腋窩リンパ節転移陰性であれば化学療法は必要ないかもしれない,とのコメントがザンクトガレンコンセンサス会議の推奨文に添えられた1)。また,米国National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドライン2)においても,比較的予後の良好な「管状癌,粘液癌」は「浸潤性乳管癌,浸潤性小葉癌」などとは異なるdecision treeで記載されている。

 本CQでは,乳癌特殊型における術後薬物療法は,浸潤性乳管癌と同様に考えてもよいか,あるいは,その特殊型の特性に応じてアレンジすべきなのか,今までに出されたエビデンスをもとに考察した。なお,本CQで取り上げた乳癌特殊型は,頻度は少ないものの臨床上問題となる可能性があるものか,比較的頻度が多いものに限定した。

解 説

(1)粘液癌(mucinous carcinoma)

 粘液癌の発生頻度は約3%である3)。純型と混合型に亜分類され,純型の予後は良好であるが,混合型の予後は浸潤性乳管癌と同等とされている3)。NCIのがん登録(Surveillance Epidemiology and End Results;SEER)をもとにした純型粘液癌11,400症例を対象とした解析によると,ER陽性の割合は約94%と通常の浸潤性乳管癌の約75%と比較して高く,組織学的に低分化である割合は通常の浸潤性乳管癌が約44%であるのに対して粘液癌では9%と低率であった4)。粘液癌全体の予後は比較的良好であり,浸潤性乳管癌の10年生存率が73%であるのに対して,粘液癌の10年生存率は92%であった4)。粘液癌における腫瘍径は独立した予後因子ではあるが,腋窩リンパ節転移の有無と比較すると予後への影響は相対的に低い4)。理由として,腫瘍量の多くを粘液が占めることによると考えられている4)。粘液癌の腋窩リンパ節転移陽性の割合は約12%と浸潤性乳管癌の36%より低いが,粘液癌における腋窩リンパ節転移の有無は,浸潤性乳管癌と同様に強い予後不良因子である4)

 以上より,ER強陽性で組織学的に高分化な典型的な粘液癌であれば,ホルモン受容体陽性・腋窩リンパ節転移陰性の粘液癌の術後薬物療法は,内分泌療法単独が推奨される。ホルモン受容体陽性・腋窩リンパ節転移陽性の場合は,化学療法の追加を考慮する。ホルモン受容体陰性の粘液癌の場合は,通常の浸潤性乳管癌に準じた薬物療法が推奨される。

(2)管状癌(tubular carcinoma)

 管状癌の発生頻度は0.3%であり,ER陽性,PgR陽性,HER2陰性の症例が多い3)。単施設における管状癌73例の報告5)によると,ER陽性が約85%,PgR陽性が約93%で,全症例のうち47例(64%)は手術療法のみで術後薬物療法は施行されなかったにもかかわらず,中央値93カ月のフォローアップ期間で,死亡例はなく,局所再発を4%に認めたのみであった。また,他の単施設での管状癌307例の報告6)では,約14%(46/307)に腋窩リンパ節転移を認めたものの,全症例の10年乳癌特異的生存率(breast cancer—specific survival)は約97%と非常に良好な結果であった。この報告では,全症例のうち89例(29%)は手術のみで術後薬物療法は施行されなかった。

 以上より,ホルモン受容体陽性・腋窩リンパ節転移陰性の管状癌は非常に予後良好であり,術後薬物療法は,内分泌療法単独または薬物療法なしが推奨される。ホルモン受容体陽性・腋窩リンパ節転移陽性の場合は,化学療法の追加を考慮する。ホルモン受容体陰性の場合は,通常の浸潤性乳管癌に準じた薬物療法が推奨される。

(3)腺様囊胞癌(adenoid cystic carcinoma)

 腺葉囊胞癌の発生頻度は約0.1%である3)。唾液腺などにみられる同名の癌と同様の組織像を示す極めて稀な疾患である7)。エストロゲン受容体陰性・プロゲステロン受容体陰性・HER2陰性のいわゆるトリプルネガティブ乳癌の所見を示す症例が多いにもかかわらず,10年生存率は約95%と極めて良好なことが特徴である8)。2013年のザンクトガレンコンセンサス会議では,極めて良好な予後を理由に,本特殊型に対してはトリプルネガティブ乳癌であっても腋窩リンパ節転移陰性であれば化学療法は行わなくてもよいだろうと述べられている1)

(4)髄様癌(medullary carcinoma)

 髄様癌の発生頻度は約0.03~8%であり,発生頻度のばらつきが目立つことから診断基準が統一されていないと考えられる3)。ER,PgR,HER2陰性のいわゆるトリプルネガティブ乳癌に分類される症例が多いのが特徴である3)。NCIのがん登録(SEER)における髄様癌1,617例の解析によると,ERおよびPgR陰性の症例が多く,組織学的グレードも高いものが多かった9)。IBCSGの13試験に登録された髄様癌127症例の解析によると,約80%の症例がER陰性またはPgR陰性であり,組織学的グレード3の症例が86%を占めた10)。同報告によると,髄様癌の予後は,ホルモン受容体陰性やグレード3の症例が多いにもかかわらず通常型の浸潤性乳管癌よりも良いという結果であった10)。しかしながら,診断基準が統一されていないため,標準的な薬物療法を考慮する。

(5)アポクリン癌(apocrine carcinoma)

 アポクリン癌は浸潤癌であり,その発生頻度は0.45~0.65%である3)。予後は良好とする報告から不良とする報告までさまざまであるが,通常型の浸潤性乳管癌とあまり変わらないとする報告が最も多い3)11)。ER,PgR,HER2は陰性の症例が多い3)。日本人におけるアポクリン癌73例を対象とした検討によると,ER陽性率は15%,PgR陽性率は約19%であった12)。エビデンスは限られるが,術後薬物療法は通常の浸潤性乳管癌に準じて行うことが妥当と考えられる。

(6)浸潤性小葉癌(invasive lobular carcinoma)

 浸潤性小葉癌の発生頻度は約5%で,近年,増加傾向にある3)。浸潤性小葉癌は,浸潤性乳管癌と比べて,ホルモン受容体陽性の割合が高く,組織学的グレード3の割合が低いことが知られている13)14)。予後は比較的良好とされているが,浸潤性乳管癌よりも晩期の再発症例がやや多いとの報告もある13)。再発部位はおおむね浸潤性乳管癌と同じであるが,腹膜播種などの通常の浸潤性乳管癌にはみられない再発形式をとることがある15)。浸潤性小葉癌に対する術後薬物療法は通常の浸潤性乳管癌に準じて行うことが推奨される。

 以上より,乳癌特殊型に対しては,情報が限られていて科学的根拠は十分でないものの,それぞれの組織型の生物学的特徴に応じて薬物療法を検討してもよいと考えられる。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedで,Breast Neoplasms/therapy,other histologic type,unusual histological type,breast neoplasms,breast,neoplasms,cancer,tubular carcinoma,mucinous carcinoma,medullary carcinoma,adenoid cystic carcinoma,apocrine carcinoma,therapy,drug therapy,chemotherapy,humans,のキーワードを用いて検索し,さらにハンドサーチを用いて文献を検索した。

参考文献

1) Goldhirsch A, Winer EP, Coates AS, Gelber RD, Piccart‒Gebhart M, Thürlimann B, et al;Panel members. Personalizing the treatment of women with early breast cancer:highlights of the St Gallen International Expert Consensus on the Primary Therapy of Early Breast Cancer 2013. Ann Oncol. 2013;24(9):2206‒23.
→PubMed

2) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Breast Cancer ver. 3 2014. http://www.nccn.org/

3) 日本乳癌学会編.乳腺腫瘍学 (第1版).東京,金原出版,2012.

4) Di Saverio S, Gutierrez J, Avisar E. A retrospective review with long term follow up of 11,400 cases of pure mucinous breast carcinoma. Breast Cancer Res Treat. 2008;111(3):541‒7.
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5) Sullivan T, Raad RA, Goldberg S, Assaad SI, Gadd M, Smith BL, et al. Tubular carcinoma of the breast:a retrospective analysis and review of the literature. Breast Cancer Res Treat. 2005;93(3):199‒205.
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6) Livi L, Paiar F, Meldolesi E, Talamonti C, Simontacchi G, Detti B, et al. Tubular carcinoma of the breast:outcome and loco‒regional recurrence in 307 patients. Eur J Surg Oncol. 2005;31(1):9‒12.
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7) 日本乳癌学会編.臨床・病理 乳癌取扱い規約 (第17版).東京,金原出版,2012.

8) Vranic S, Bender R, Palazzo J, Gatalica Z. A review of adenoid cystic carcinoma of the breast with emphasis on its molecular and genetic characteristics. Hum Pathol. 2013;44(3):301‒9.
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9) Li CI, Uribe DJ, Daling JR. Clinical characteristics of different histologic types of breast cancer. Br J Cancer. 2005;93(9):1046‒52.
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10) Huober J, Gelber S, Goldhirsch A, Coates AS, Viale G, Öhlschlegel C, et al. Prognosis of medullary breast cancer:analysis of 13 International Breast Cancer Study Group (IBCSG) trials. Ann Oncol. 2012;23(11):2843‒51.
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13) Pestalozzi BC, Zahrieh D, Mallon E, Gusterson BA, Price KN, Gelber RD, et al;International Breast Cancer Study Group. Distinct clinical and prognostic features of infiltrating lobular carcinoma of the breast:combined results of 15 International Breast Cancer Study Group clinical trials. J Clin Oncol. 2008;26(18):3006‒14.
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14) Orvieto E, Maiorano E, Bottiglieri L, Maisonneuve P, Rotmensz N, Galimberti V, et al. Clinicopathologic characteristics of invasive lobular carcinoma of the breast:results of an analysis of 530 cases from a single institution. Cancer. 2008;113(7):1511‒20.
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15) Ferlicot S, Vincent‒Salomon A, Médioni J, Genin P, Rosty C, Sigal‒Zafrani B, et al. Wide metastatic spreading in infiltrating lobular carcinoma of the breast. Eur J Cancer. 2004;40(3):336‒41.
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