日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

総論 (薬物療法・効果予測因子・ID10380)

乳癌診療ガイドライン1治療編(145-148ページ)

 効果予測因子とは,その因子の有無と治療法の効果との間に関連を有する因子のことである。ただ,効果予測因子の有無と治療効果に関連があったとしても,よほど相関が高くないと日常臨床で使用することは難しい。臨床で使用できる代表的な効果予測因子は,内分泌療法におけるホルモン受容体の発現と抗HER2療法におけるHER2遺伝子増幅ならびに蛋白の過剰発現である。これらは,発現がある場合にはある程度の割合で治療効果が見込める一方で,発現がない場合には治療効果が見込めないため,治療方針決定の際に不可欠となっている。なお,予後因子とは,その因子の有無と予後が相関する因子のこと(例えば,腋窩リンパ節転移や腫瘍径,核異型度など)を指し,その因子の有無で治療効果が変わるかどうかは問題とされない。

(1)内分泌療法の効果予測因子
①ホルモン受容体と検査法1)

 エストロゲン受容体(estrogen receptor:ER)とプロゲステロン受容体(progesterone receptor:PgR)の2種類が,内分泌療法の効果予測因子として利用されてきたが,現在ではPgRは予後因子と考えられている2)

 かつてはdextran coated charcoal ligand binding assay(DCC)法でそれらの発現が測定されていた。DCC法には凍結した生の組織が必要で,採取から凍結までの時間が結果に影響を及ぼす点や,検査に提出される組織片が腫瘍を代表する保証がない点,小さな乳癌では癌組織をこの検査に提出すると病理検査が難しくなるなどの問題点を有していた。抗原抗体反応を応用したenzyme immunoassay(EIA)法も用いられたが,これもDCC法と同様の問題を有していた。近年,腫瘍組織のホルマリン固定パラフィン切片を用いたホルモン受容体の免疫組織化学的方法(immunohistochemical staining;IHC法)が,検査の簡便性や,小さな腫瘍でも問題なく検査でき,また腫瘍組織の代表的な部分で判定できることなどの利点により急速に普及した。さらに,IHC法でのホルモン受容体の判定結果のほうがDCC法の結果よりも正確に予後を反映することが示されてから3),世界的にIHC法が標準となった。

 ただ,IHC法は用いられる抗体や染色方法が統一されておらず,さらに抗原賦活化の方法や組織の固定時間によって染色性が変わるため,そのquality controlが問題である。また,陽性,陰性の判定方法の統一がなされていないことも問題である。一般的には,腫瘍細胞の染色強度と染色された細胞の比率の両方を加味する方法(Allred Scoreなど),あるいは染色強度を評価せず染色された腫瘍細胞の比率のみで判定する方法(J—Scoreなど)のいずれかが用いられる。ERの場合,Allred Scoreでは3~8が陽性と判定される。染色細胞の比率で判定する場合は10%をカットオフ値とすることが多かったが,2009年のザンクトガレンコンセンサス会議での推奨内容では,IHC法でわずかでも染まる細胞がある症例に対して術後内分泌療法を行うことが推奨され4),また,American Society of Clinical Oncology/College of American Pathologists(ASCO/CAP)では腫瘍細胞の1%以上染まっていれば陽性とすることを推奨している5)。しかし,これらのいずれも,この閾値の設定が妥当かどうかの検証は十分には行われておらず,染色割合が低い場合(例<10%)には,内分泌療法の有用性が低いことが懸念される2)。なお,ASCO/CAPのガイドラインでは組織の取り扱いや固定法,使用すべき抗体の種類,判定の仕方などIHCを行う際の推奨内容を示している5)

②ホルモン受容体の発現と内分泌療法の有用性1)6)薬物CQ 36参照

 この関連はまず,転移・再発乳癌で調べられた。その結果,ER陽性PgR陽性乳癌での効果が最も良好であるが,ER陽性PgR陰性,ER陰性PgR陽性がそれに続き,ER陰性PgR陰性でも低率ながら内分泌療法に反応するとされる。これらの結果は通常,原発巣におけるホルモン受容体の情報を用いたものであるが,原発巣と転移巣とでそのホルモン受容体の状況が変化している場合がある7)。上記のER陰性PgR陰性乳癌で内分泌療法に反応した症例は検査結果が偽陰性であったか,あるいは転移巣のホルモン受容体の状況が変わっていた可能性もある8)。可能であれば転移巣のホルモン受容体を調べることが勧められる。

 術後療法でもERの発現は内分泌療法の効果予測因子として極めて重要である。ER陽性であればタモキシフェンの効果が期待できるが,ER陰性であればタモキシフェンの効果はないことがDCC法を用いた検討で確認されている9)。PgRについては,タモキシフェンの投与と非投与で比較したランダム化比較試験のメタアナリシスでは,タモキシフェンの効果予測因子とはならなかった10)。また,PgRはタモキシフェンだけでなくアロマターゼ阻害薬の効果予測因子ともならないと考えられている。

③HER2と内分泌療法

 ホルモン受容体が陽性であってもHER2陽性(以下参照)である場合,内分泌療法の効果が悪いことが示唆されている11)ものの,HER2陽性が臨床的に有用な内分泌療法の効果予測因子とまではいえない。

(2)抗HER2療法の効果予測因子について

 HER2蛋白は抗HER2療法の主たる標的分子であり,効果予測因子は,HER2遺伝子の増幅あるいはHER2蛋白の過剰発現の有無である。前者には腫瘍組織に対してfluorescence in situ hybridization(FISH)法やchromogenic in situ hybridization(CISH)法,dual color in situ
hybridization(DISH)法が,後者にはIHC法が用いられる。いずれも通常,ホルマリン固定のパラフィン切片が用いられる。抗HER2療法の臨床効果は,HER2検査が陽性の症例にしか期待できない。

 一般的な検査手順は,費用が安く簡便な点からまずIHC法で検査し,その結果が0あるいは1+の場合は陰性,3+の場合は陽性,2+の場合は費用が高く手間はかかるがFISH法を用いて増幅の有無を調べ,増幅があれば陽性なければ陰性と判定する。ASCO/CAP12)でHER2検査のガイドラインが2013年に改訂された。詳細は病理診断ガイドラインを参照のこと(病理CQ 10CQ 11参照)。

 IHC法の結果とFISH法の結果が食い違う,すなわち,IHC法で0あるいは1+であってもFISH法で増幅ありとなったり,IHC法で3+であってもFISH法で増幅なしとなる場合がある。用いる組織が新鮮凍結材料であれば両者の結果は非常によく一致するが,ホルマリン固定パラフィン包埋することで食い違いが起こるとされる。

 HER2についてもホルモン受容体と同様に,原発巣と転移巣で発現状況が異なる場合があるため,可能であれば転移巣のHER2検査を行うことが勧められる8)

(3)化学療法の効果予測因子

 化学療法の効果予測因子は,例えばTOPOII,P53など,これまで種々検討されてきたが,臨床的に有用といえるものは少ない。

①ホルモン受容体と化学療法1)13)

 ホルモン受容体が化学療法の効果予測因子となるかどうかは,術後化学療法においてよく調べられている。

 ER陽性の場合は,ER陰性に比して純粋な術後化学療法の効果は劣るという報告がある。

 EBCTCGのメタアナリシスの結果では,登録時50歳未満の患者に限れば,ERの有無にかかわらず術後化学療法で同等の効果が出ている。しかし,閉経前でER陽性乳癌の場合,化学療法によって起こることが多い無月経が間接的な内分泌療法となり,ER陽性乳癌の予後が純粋な化学療法のみの効果以上に改善している可能性がある。そこで,化学療法の有無で比較したランダム化比較試験の登録時年齢が50~60歳の患者のメタアナリシスの結果をみると,ER陰性の場合,その相対的な再発率低下の程度はER陽性乳癌のほぼ2倍であることが示されている10)。また,比較的最近の術後化学療法に関するランダム化比較試験の結果をみると,後ろ向きの研究ではあるが,より効果が大きいとされる化学療法のレジメンでER陰性乳癌にその効果がより明瞭に認められている14)。一方で,タキサンの追加効果はERの状況に関係なく認められるというメタアナリシスの結果もある15)

②HER2と化学療法13)

 HER2と化学療法の効果との関係は術後化学療法においてよく調べられている。ランダム化比較試験の結果を後ろ向きに解析した結果では,アンスラサイクリンに関しては,HER2陽性乳癌でその効果が大きいことがほぼ一貫して示されており,効果予測因子となる可能性がある。ただし,このことは前向きの臨床試験では確認されていない。一方,術後療法でのタキサンの効果についても,HER2の状況とその効果との関連がランダム化比較試験の後ろ向き解析で検討されているが,相反する報告があり,実臨床での利用は適当ではない。

③遺伝子発現プロファイルと化学療法

 遺伝子発現プロファイルであるOncotype DXが,ER陽性乳癌における化学療法の効果予測因子となることが示されている。病理学的な因子を相補するものとして,臨床応用されている(薬物CQ 37参照)。

参考文献

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2) Dowsett M, Houghton J, Iden C, Salter J, Farndon J, A’Hern R, et al. Benefit from adjuvant tamoxifen therapy in primary breast cancer patients according oestrogen receptor, progesterone receptor, EGF receptor and HER2 status. Ann Oncol. 2006;17(5):818‒26.
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3) Harvey JM, Clark GM, Osborne CK, Allred DC. Estrogen receptor status by immunohistochemistry is superior to the ligand‒binding assay for predicting response to adjuvant endocrine therapy in breast cancer. J Clin Oncol. 1999;17(5):1474‒81.
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4) Goldhirsch A, Ingle JN, Gelber RD, Coates AS, Thürlimann B, Senn HJ;Panel members. Thresholds for therapies:highlights of the St Gallen International Expert Consensus on the primary therapy of early breast cancer 2009. Ann Oncol. 2009;20(8):1319‒29.
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