日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

ホルモン受容体陰性乳癌に対して内分泌療法は勧められるか (薬物療法・効果予測因子・ID10390)

CQ36 乳癌診療ガイドライン1治療編(149-151ページ)
推奨グレード D ホルモン受容体陰性乳癌に対して,術後患者および転移・再発患者ともに内分泌療法は有用ではないので行うべきではない。
C1 再発巣はER,PgRの発現状況が原発巣と比べ変化している場合があるので,生検で陽転化していた場合,内分泌療法を行うことを考慮してもよい。

 推奨グレードを決めるにあたって

 タモキシフェンはホルモン受容体陰性乳癌に対する術後療法として,再発率の改善や予後の延長に寄与せず,かえって有害事象を増加させた。転移・再発乳癌に対する内分泌療法に関する報告は,後ろ向きの検討で症例数も少なく,有効性は示されていない。アロマターゼ阻害薬のホルモン受容体陰性乳癌に対する有効性を検討した臨床試験の報告はなく,有害である。以上よりグレードDとした。

 ただ,転移・再発巣は,原発巣のheterogeneityによりER,PgR,HER2受容体の発現状況が変化している場合があるため,受容体発現状況の確認や過去の検査方法を再検討する余地はあると考えられる。このような場合に内分泌療法を行うことが選択肢になり得ると考えられるが,予後改善のエビデンスはないため,グレードC1とした。

背景・目的

 タモキシフェンがインスリン様成長因子—1(IGF—1)の血中濃度を下げる作用があることなどから,以前はホルモン受容体陰性乳癌に対してもタモキシフェン投与が行われることがあったが,現在ではホルモン受容体の発現状況と内分泌療法の効果の相関は明確になってきている。また,ホルモン受容体陽性の判定基準設定値にも注意を要する。術後症例および転移・再発症例において,ホルモン受容体陰性乳癌に対する内分泌療法が有効であるか否かを検討した。

解 説

 NSABP B—23(n=2,008)では,腋窩リンパ節転移陰性かつホルモン受容体陰性乳癌に対する術後療法として,化学療法にタモキシフェンを加えた効果について検討された。その結果,月経状況にかかわらず,タモキシフェンはRFSおよびOSを改善しなかった1)

 IBCSG 13—93(n=1,246)では閉経前ER陰性腋窩リンパ節転移陽性乳癌において,術後化学療法施行後のタモキシフェン投与はDFSを改善せず,有害事象は有意に増加(HR:2.10,95%:CI,1.03—4.29)した2)

 スイスのジュネーブがん登録の研究(n=528)によれば,ER陰性乳癌においてはタモキシフェン投与により,乳癌死亡のリスクは逆に増加(HR:1.7,95%CI:1.1—2.9)した3)

 EBCTCGのメタアナリシスでも,タモキシフェンの5年投与による再発抑制効果はER陽性乳癌では50%の相対リスク改善が認められたのに対し,ER陰性乳癌では6%のみであった。このER陰性乳癌における6%の改善効果も,DCC法やEIA法を用いていたために,ホルモン受容体検査が偽陰性になっていたものと推測される。OSに関しても,ER陽性で28%の相対リスクの改善がみられたのに対して,ER陰性では-3%の悪化となり,ER陰性乳癌に対してタモキシフェンは無効であった4)

 閉経前の術後療法に関して,LH—RHアゴニストによる卵巣機能抑制とCMF療法を比較したZEBRAでは,LH—RHアゴニストはER陽性乳癌ではCMF療法とOS,DFSにおいて同等の有効性を示したのに対し,ER陰性乳癌ではOS,DFSとも有意に低かった5)

 閉経後乳癌に対するアロマターゼ阻害薬に関しては,その試験のほとんどがER and/or PgR陽性,もしくは不明乳癌を対象にしているため,ホルモン受容体陰性乳癌に対するアロマターゼ阻害薬の有効性を検討した臨床試験の報告はない。ホルモン受容体陰性転移・再発乳癌に対するタモキシフェンの有効性に関する報告は,後ろ向きの検討で症例数も少ない。いずれの報告においてもER陰性乳癌でのタモキシフェンの有効性は,ER陽性乳癌での有効性に比較して低い6)7)

 転移・再発巣は,原発巣のheterogeneityによりER,PgR,HER2受容体の発現状況が変化している場合があり,ER陽転化率は5.7~10.0%と報告されている8)9)。そのため過大な侵襲を伴うおそれがなければ転移再発巣の生検を行い,その受容体発現状況に合わせた治療を行うことは有用であると考えられる。ただ,再発巣121症例の生検を行い,原発巣と転移巣の受容体発現状況の一致した群と不一致であった群との比較にて,無増悪生存期間および全生存期間に有意差はみられなかったとする報告もある10)。この結果は生検の精度や陽性閾値の問題と考えられるため,組織生検は十分注意する必要がある。

 以上,ホルモン受容体陰性乳癌に対して,術後症例および転移・再発症例ともに,内分泌療法は有用ではないので,行うべきではない。

 しかし,過去にDCC法やEIA法を用いて「ホルモン受容体陰性」と判定された転移・再発症例は,IHC法で再検するとホルモン受容体陽性と判定される可能性があり,陽性閾値の設定にも注意を払う必要がある。可能な場合にはIHC法にてホルモン受容体の発現状況を確認することが望まれる。その結果,ホルモン受容体陽転化あるいは陰転化の可能性も鑑み,内分泌療法を行うことの是非を決定することが勧められる(IHC法について薬物:効果予測因子総論参照)。

 検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms/drug therapy,endocrine therapy,hormone therapy,hormonal therapy,Receptors,Estrogen,negative,“Antineoplastic Agents,Hormonal/therapeutic use”のキーワードを用いて検索した。さらに検索結果から症例報告を除いた治療にかかわる文献に限定した。ほかにUpToDate 2014の“Hormone receptors in breast cancer:Clinical utility and guideline recommendations to improve test accuracy”の項を参照した。

参考文献

1) Fisher B, Anderson S, Tan—Chiu E, Wolmark N, Wickerham DL, Fisher ER, et al. Tamoxifen and chemotherapy for axillary node—negative, estrogen receptor—negative breast cancer:findings from National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project B—23. J Clin Oncol. 2001;19(4):931‒42.
→PubMed

2) International Breast Cancer Study Group, Colleoni M, Gelber S, Goldhirsch A, Aebi S, Castiglione‒Gertsch M, Price KN, et al. Tamoxifen after adjuvant chemotherapy for premenopausal women with lymph node‒positive breast cancer:International Breast Cancer Study Group Trial 13‒93. J Clin Oncol. 2006;24(9):1332‒41.
→PubMed

3) Merglen A, Verkooijen HM, Fioretta G, Neyroud‒Caspar I, Vinh‒Hung V, Vlastos G, et al. Hormonal therapy for oestrogen receptor‒negative breast cancer is associated with higher disease‒specific mortality. Ann Oncol. 2009;20(5):857‒61.
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4) Tamoxifen for early breast cancer:an overview of the randomised trials. Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group. Lancet. 1998;351(9114):1451‒67.
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5) Kaufmann M, Jonat W, Blamey R, Cuzick J, Namer M, Fogelman I, et al;Zoladex Early Breast Cancer Research Association (ZEBRA) Trialists’ Group. Survival analyses from the ZEBRA study. Goserelin (Zoladex) versus CMF in premenopausal women with node‒positive breast cancer. Eur J Cancer. 2003;39(12):1711‒7.
→PubMed

6) Howell A, Harland RN, Barnes DM, Baildam AD, Wilkinson MJ, Hayward E, et al. Endocrine therapy for advanced carcinoma of the breast:relationship between the effect of tamoxifen upon concentrations of progesterone receptor and subsequent response to treatment. Cancer Res. 1987;47(1):300‒4.
→PubMed

7) Barnes DM, Harris WH, Smith P, Millis RR, Rubens RD. Immunohistochemical determination of oestrogen receptor:comparison of different methods of assessment of staining and correlation with clinical outcome of breast cancer patients. Br J Cancer. 1996;74(9):1445‒51.
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8) Gong Y, Han EY, Guo M, Pusztai L, Sneige N. Stability of estrogen receptor status in breast carcinoma:a comparison between primary and metastatic tumors with regard to disease course and intervening systemic therapy. Cancer. 2011;117(4):705‒13.
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9) Nishimura R, Osako T, Okumura Y, Tashima R, Toyozumi Y, Arima N. Changes in the ER, PgR, HER2, p53 and Ki‒67 biological markers between primary and recurrent breast cancer:discordance rates and prognosis. World J Surg Oncol. 2011;9:131.
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10) Amir E, Miller N, Geddie W, Freedman O, Kassam F, Simmons C, et al. Prospective study evaluating the impact of tissue confirmation of metastatic disease in patients with breast cancer. J Clin Oncol. 2012;30(6):587‒92.
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