日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

化学療法による悪心・嘔吐の予防に対して5-HT3 受容体拮抗型制吐薬、デキサメタゾン、ニューロキニン1(NK1)受容体アンタゴニストは勧められるか (薬物療法・副作用対策・ID10430)

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CQ39 乳癌診療ガイドライン1治療編(167-170ページ)
推奨グレード A 高度リスクの化学療法に対して5—HT3受容体拮抗型制吐薬,デキサメタゾン,ニューロキニン1(NK1)受容体アンタゴニストの併用が強く勧められる。
A 中等度リスクの化学療法に対する急性嘔吐にデキサメタゾンと5—HT3受容体拮抗型制吐薬の併用は強く推奨される。
C1 軽度リスクの化学療法に対する急性嘔吐にデキサメタゾンを考慮してもよい。なお,遅発性嘔吐の予防は推奨されない。
C2 最小リスクの化学療法に制吐薬は推奨されない。

推奨グレードを決めるにあたって

 高度リスクの化学療法に対する急性および遅発性嘔吐に対しては国内外から複数のランダム化比較試験が報告されており,グレードAとした。軽度リスクに対してはエビデンスの高い試験は存在しないため,グレードC1とした。最小リスクに対しては推奨されないため,グレードC2とした。

背景・目的

 乳癌の化学療法に用いられる薬剤は嘔吐リスクとして,高度(催吐性)リスク(嘔吐頻度>90%;ドキソルビシンまたはエピルビシンとシクロホスファミドとの併用療法),中等度リスク(嘔吐頻度30~90%;ドキソルビシン,エピルビシン,シクロホスファミド,イリノテカンなど),軽度リスク(嘔吐頻度10~30%;パクリタキセル,ドセタキセル,ゲムシタビン,メトトレキサート,5—FUなど),最小度リスク(嘔吐頻度10%未満;ビノレルビンなど)に分けられる。化学療法による嘔吐は,以下のように「急性嘔吐」「遅発性嘔吐」さらに「予期性嘔吐」に分類される。制吐薬使用にあたっては薬剤の催吐性リスクを適正に評価して,個々の症例に応じた適切な悪心・嘔吐予防対策を行うことが大切である。

解 説

(1)急性嘔吐(化学療法施行から24時間以内に生じる嘔吐)
①高度リスク

 5—HT3受容体拮抗型制吐薬,デキサメタゾンとニューロキニン1(NK1)受容体アンタゴニスト(アプレピタント,ホスアプレピタント)の3剤を併用することが推奨される(ASCO,MASCC,NCCNガイドライン)。これら3剤を併用することで良好な制吐作用を得られることが示されている1)。5—HT3受容体拮抗型制吐薬は,薬剤間で効果に差はないこと2)3),交差耐性のないことが示されている4)。注射薬と経口薬の等量を投与した場合,効果は同等である3)。また,投与量と効果の間に用量依存性は認められていないこと5),分割投与の有用性は認められないことから6),5—HT3受容体拮抗型制吐薬を化学療法施行前に投与する場合は,必要量の単回投与とする。新規5—HT3受容体拮抗薬であるパロノセトロンは,急性嘔吐の予防効果は他の5—HT3受容体拮抗薬と同等であるが,遅発性嘔吐の予防において優れていることからパロノセトロンがより好ましい7)。アプレピタントは化学療法当日の第1日に125 mg,第2~3日目に80 mgの投与が一般的である。しかし悪心が遷延する場合は5日目までの追加投与は可能である。アプレピタントは肝臓の代謝酵素であるCYP3A4に対する阻害作用を有するため,コルチコステロイドの代謝が抑制される。したがって,アプレピタントとコルチコステロイドを併用する場合には,第1日目のデキサメタゾンは12 mg(注射薬:9.9 mg)とする。

②中等度リスク

 5—HT3受容体拮抗型制吐薬とデキサメタゾンの併用を基本とするが,NCCNガイドラインでは状況に応じてNK1受容体アンタゴニストの追加を考慮してもよいとしている。新規5—HT3受容体拮抗薬であるパロノセトロンは,急性嘔吐の予防効果は他の5—HT3受容体拮抗薬と同等であるが,遅発性嘔吐の予防において優れていることから,5—HT3受容体拮抗型制吐薬の中ではパロノセトロンがより好まれる(ASCO,MASCC,NCCNガイドライン)7)

③軽度リスク化学療法前にデキサメタゾンを単独投与するか,状況に応じて,メトクロプラミドまたはプロクロルペラジンを投与する。
④最小度リスク

 必ずしも制吐薬は必要ない。

(2)遅発性嘔吐(化学療法施行から24時間以降に生じる嘔吐)
①高度リスク

 デキサメタゾンとNK1受容体アンタゴニスト(アプレピタント,ホスアプレピタント)の2剤を併用することが推奨される(ASCO,MASCC,NCCNガイドライン)。また,前述した新規5—HT3受容体拮抗薬のパロノセトロンは,急性嘔吐の予防効果は他の5—HT3受容体拮抗薬と同等であるが,遅発性嘔吐の予防において優れていることが示された7)。遅発性嘔吐の予防対策としては急性嘔吐の防止が重要である。

②中等度リスク

 デキサメタゾンと5—HT3受容体拮抗型制吐薬を投与する。カルボプラチンを使用する際は高度リスクに準じて投与する。

③軽度リスク

 必ずしも制吐薬は必要ない。

④最小度リスク

 必ずしも制吐薬は必要ない。

(3)予期性嘔吐(化学療法施行前に生じる嘔吐)

 予期性嘔吐を予防するには,急性嘔吐と遅発性嘔吐を可能な限りコントロールすることが最重要である。予期性嘔吐がいったん起こったときには2つの対処方法がある。第一には心理学的方法により,化学療法に対する異常な過敏度を行動学的に解除することである。第二に,心理学的方法の代替あるいは追加選択肢としてベンゾジアゼピン系薬剤(処方例:治療前夜と当日の朝にロラゼパム0.5~2 mgを経口投与)を使用することが勧められる。

(4)他の制吐薬等の使い方

 状況に応じて,高度・中等度リスクの化学療法薬に対する制吐薬に,ベンゾジアゼピン系薬剤(ロラゼパム)を追加併用してもよい。また,デキサメタゾンによる副作用予防に,H2ブロッカーまたはプロトンポンプ阻害薬を追加併用してもよい。

 日常臨床で制吐薬として頻用されているメトクロプラミド,フェノチアジンなどは,化学療法による嘔吐に対しては単独で投与すべきでなく,デキサメタゾンや5—HT3受容体拮抗型制吐薬に併用して用いるのが適切と考えられる。なお,メトクロプラミドと比較し抗精神病薬であるオランザピンは高度催吐性リスク患者の突出性悪心嘔吐を有意に抑制した報告がなされ期待される薬剤である。NCCNガイドライン2013で推奨されているが,わが国では保険適応外である8

 その他,新規薬剤として,新規NK1受容体拮抗薬netupitantと5—HT3受容体拮抗薬パロノセトロンの配合剤であるnetupitant/palonosetronがある。本薬剤はAC療法に伴う嘔吐の抑制効果がパロノセトロンよりも優れていることが示され9),2014年10月に米国ではFDAより急性および遅発性の悪心嘔吐の予防適応で承認を取得している。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,CR3124,(1,2,3,9—tetrahydro—3—((5—methyl—1H—imidazol—4—yl)methyl)—9—(3—amino—(N—fluorescien—thiocarbamoyl)—propyl)—4H—carbazol—4—one),3—(2—(4’—piperonylpiperazinyl)indolyl)carboxaldehyde,SC 51296,2—(1—(4—piperonyl)piperazinyl)benzothiazole,N—(8—methyl—8—azabicyclo(3.2.1)oct—3—yl)—4—hydroxy—3—quinolinecarboxamide,pancopride,BRL 46470,azasetron,DAU 6215,Granisetron,5 ht3 receptor antagonist,Receptors,Serotonin,5—HT3/antagonists and inhibitors,steroids,Nausea,Vomiting,chemotherapy,Neoplasms,Drug Therapyのキーワードを用いて検索した。さらに検索結果を症例報告を除いた治療にかかわる文献に限定した。ASCOガイドライン2013,MASCCガイドライン2010,NCCNガイドライン2014,制吐薬適正使用ガイドライン2010年5月(第1版,日本癌治療学会編)を参考にした。また,UpToDate 2014の“Prevention and treatment of chemotherapy—induced nausea and vomiting”の項を参考にした。

参考文献

1) Hesketh PJ, Grunberg SM, Gralla RJ, Warr DG, Roila F, de Wit R, et al;Aprepitant Protocol 052 Study Group. The oral neurokinin‒1 antagonist aprepitant for the prevention of chemotherapy‒induced nausea and vomiting:a multinational, randomized, double‒blind, placebo‒controlled trial in patients receiving high‒dose cisplatin―the Aprepitant Protocol 052 Study Group. J Clin Oncol. 2003;21(22):4112‒9.
→PubMed

2) del Giglio A, Soares HP, Caparroz C, Castro PC. Granisetron is equivalent to ondansetron for prophylaxis of chemotherapy‒induced nausea and vomiting:results of a meta‒analysis of randomized controlled trials. Cancer. 2000;89(11):2301‒8.
→PubMed

3) Gralla RJ, Navari RM, Hesketh PJ, Popovic W, Strupp J, Noy J, et al. Single‒dose oral granisetron has equivalent antiemetic efficacy to intravenous ondansetron for highly emetogenic cisplatin‒based chemotherapy. J Clin Oncol. 1998;16(4):1568‒73.
→PubMed

4) de Wit R, de Boer AC, vd Linden GH, Stoter G, Sparreboom A, Verweij J. Effective cross‒over to granisetron after failure to ondansetron, a randomized double blind study in patients failing ondansetron plus dexamethasone during the first 24 hours following highly emetogenic chemotherapy. Br J Cancer. 2001;85(8):1099‒101.
→PubMed

5) Tsavaris N, Kosmas C, Vadiaka M, Kanelopoulos P, Kontos A, Katsorida M, et al. Ondansentron and dexamethasone treatment with different dosing schedules (24 versus 32 mg) in patients with non‒small‒cell lung cancer under cisplatin‒based chemotherapy:a randomized study. Chemotherapy. 2000;46(5):364‒70.
→PubMed

6) Kaizer L, Warr D, Hoskins P, Latreille J, Lofters W, Yau J, et al. Effect of schedule and maintenance on the antiemetic efficacy of ondansetron combined with dexamethasone in acute and delayed nausea and emesis in patients receiving moderately emetogenic chemotherapy:a phase Ⅲ trial by the National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group. J Clin Oncol. 1994;12(5):1050‒7.
→PubMed

7) Saito M, Aogi K, Sekine I, Yoshizawa H, Yanagita Y, Sakai H, et al. Palonosetron plus dexamethasone versus granisetron plus dexamethasone for prevention of nausea and vomiting during chemotherapy:a double‒blind, double‒dummy, randomised, comparative phase Ⅲ trial. Lancet Oncol. 2009;10(2):115‒24.
→PubMed

8) Navari RM, Nagy CK, Gray SE. The use of olanzapine versus metoclopramide for the treatment of breakthrough chemotherapy‒induced nausea and vomiting in patients receiving highly emetogenic chemotherapy. Support Care Cancer. 2013;21(6):1655‒63.
→PubMed

9) Aapro M, Rugo H, Rossi G, Rizzi G, Borroni ME, Bondarenko I, et al. A randomized phase Ⅲ study evaluating the efficacy and safety of NEPA, a fixed‒dose combination of netupitant and palonosetron, for prevention of chemotherapy‒induced nausea and vomiting following moderately emetogenic chemotherapy. Ann Oncol. 2014;25(7):1328‒33.
→PubMed

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