日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

化学療法誘発性閉経予防・妊孕性維持のために化学療法中にLH-RH アゴニストを使用することは勧められるか (薬物療法・副作用対策・ID10470)

CQ43 乳癌診療ガイドライン1治療編(181-183ページ)
推奨グレード C1 LH—RHアゴニストの使用は化学療法誘発性閉経の割合は減少する可能性があり,検討してもよい。
C2 妊孕性維持を目的としたLH—RHアゴニストの使用についてのエビデンスは乏しく,勧められない。

推奨グレードを決めるにあたって

 LH—RHアゴニストによる化学療法誘発性閉経の予防が,必ずしも妊孕性の維持をもたらすとはいえないことに留意する必要がある。複数のエビデンスからLH—RHアゴニストが化学療法誘発性閉経の割合を減少させることが期待されるため,グレードC1とした。POEMSでは,LH—RHアゴニスト使用群で妊娠率が高くかつ出産数も多かったものの,妊娠は副次評価項目であったことから統計学的に有意とはいえず,また観察数が少ないことから推奨するにはエビデンスが十分ではないと考え,妊孕性維持目的ではグレードC2とした。

背景・目的

 化学療法薬による卵巣機能不全は,稀発月経や無月経(無排卵症)として現れ,chemotherapy—induced amenorrhea(CIA)と称される。化学療法時にLH—RHアゴニストを併用し,卵胞発育を抑制して未成熟卵胞優位の状態をつくり,卵巣機能を保護する試みが行われている。

解 説

 一般にCIAは化学療法開始後1年以内に生じる3カ月以上の無月経(無排卵症)とされ,その発症頻度は化学療法の使用薬剤やレジメンにより異なり,20~100%という報告がある1)

 動物実験による検討結果および初経前の若年女性のほうが,CIA発症率が低いという知見から,成熟卵胞に比べ,未成熟卵胞のほうが,化学療法による障害を受けにくいことが推測される。これらに基づき,化学療法時にLH—RHアゴニストを併用し,卵胞発育を抑制して未成熟卵胞優位の状態をつくり,化学療法による卵巣への障害を保護する「卵巣機能保護作用」に関する試みが考えられた。

 1996年,Blumenfeldらは悪性リンパ腫の若年女性の化学療法において,LH—RHアゴニスト併用療法が早発閉経の発症率を低下させることを初めて報告した2)。乳癌においては,Recchiaらが,64人の閉経前術後乳癌患者においてアンスラサイクリン系中心の化学療法後,観察期間55カ月で86%に規則的な月経が回復したというpreliminaryな報告をしている3)

 前向きの試験としてCMF施行時にLH—RHアゴニストの併用のある群とない群とさらにタモキシフェンのある群とない群の2×2群を比較したZIPPの結果では,LH—RHアゴニストのみを追加したほうが治療終了1年後の無月経の割合が少ないと報告された4)

 LH—RHアゴニストによる卵巣機能保護効果を主要評価項目としたランダム化比較試験に関しては7件論文化されているが,比較的症例数が多い2件について解説する。Del Mastroらは,18~45歳であるStageⅠ,Ⅱ,Ⅲの化学療法が対象となる閉経前乳癌患者281人を対象として,化学療法にtriptorelin(未承認)を加える併用群と対照群に割り付け,早発閉経率が対照群で25.9%に対してtriptorelin投与群で8.9%,絶対差は-17%と有意にtriptorelin投与群で早発閉経率が低かったこと,対照群で満期妊娠1件,併用群で妊娠3件(満期妊娠1件,早期産1件,妊娠中絶1件)があったことを報告している(PROMISE—GIM6)5)。Badawyらは78人の18~40歳の乳癌患者をFAC療法にゴセレリンを加える併用群と対照群にランダムに割り付け,併用群では35人(89.6%)に月経が回復し,対照群では13人(33.3%)のみであったと報告しているが,その後の妊娠については触れられていない6)。コクラン・レビューでも閉経前女性に対する化学療法誘発性閉経を予防するLH—RHアゴニストの意義について検討されている7)。このレビューの対象としたランダム化比較試験は2009年までに論文化された4試験のみを対象としているため,上述した2試験のうちBadwyら(n=78)しか含まれておらず,レビュー対象の3試験の患者数を含めても合計157例と症例数は多くないが,LH—RHアゴニスト(皮下注または筋注)投与により化学療法誘発性閉経の割合は減少するが,妊娠の割合は変わらないと結論付けている7)早発閉経の定義が試験により異なること,長期間のフォローアップがなされていないこと,妊孕性がこれらの研究の主要評価項目でないことに注意する必要がある。なお,LH—RHアゴニストを化学療法に併用するタイミングは,化学療法開始の少なくとも1週間前から投与を開始し,最後の化学療法終了時までとなっている。

 Foxらは24人を対象に,同等薬のリュープロライドを用いて,同様の報告を行い,5人で6回の妊娠を確認できたが,うち3回は流産,1回はダウン症候群で流産,1回は正常妊娠,1回は妊娠継続中と報告し8)その後の出産に対する影響には問題が残る可能性が示唆されている。

 2014年のASCO年次総会においてLH—RHアゴニストを化学療法に併用することでER陰性乳癌患者が閉経となるのを防ぐことができるかという第Ⅲ相比較試験の結果が発表された(n=257)9)。LH—RHアゴニストは化学療法誘発性の閉経を抑制していた(HR:0.30,95%CI:0.09—0.97)。副次目的にて妊娠についても検討していて,LH—RHアゴニスト使用群にやや妊娠率が高かった(オッズ比2.45,p=0.03)が,まだ観察数は不十分であり有用性の結論は出せない。

 いずれの報告も化学療法併用の安全性は良好であったと報告している。しかし,いまだLH—RHアゴニスト併用化学療法後の妊孕性に関するデータは不十分であり,ASCOのFertility Preservationに関するガイドラインにおいても,臨床試験以外での使用は慎重にすべきだとされている10)。また,ホルモン受容体陽性乳癌では,化学療法後の月経回復により乳癌再発の危険性が増すという懸念があるが,これを支持する直接的なエビデンスはない。

 以上より,早発閉経予防目的では効果が期待できるものの,エビデンスが不十分なため妊孕性維持の目的でのLH—RHアゴニスト使用は勧められない。

 検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Neoplasms/drug therapy,Gonadotropin—Releasing Hormone/analogs and derivatives,lhrh,lh—rh,analog,analogs,analogue,analogues,Infertility,Fertility,Pregnancyのキーワードを用いて検索した。

参考文献

1) Bines J, Oleske DM, Cobleigh MA. Ovarian function in premenopausal women treated with adjuvant chemotherapy for breast cancer. J Clin Oncol. 1996;14(5):1718‒29.
→PubMed

2) Blumenfeld Z, Avivi I, Linn S, Epelbaum R, Ben‒Shahar M, Haim N. Prevention of irreversible chemotherapy‒induced ovarian damage in young women with lymphoma by a gonadotrophin‒releasing hormone agonist in parallel to chemotherapy. Hum Reprod. 1996;11(8):1620‒6.
→PubMed

3) Recchia F, Sica G, De Filippis S, Saggio G, Rosselli M, Rea S. Goserelin as ovarian protection in the adjuvant treatment of premenopausal breast cancer:a phase Ⅱ pilot study. Anticancer Drugs. 2002;13(4):417‒24.
→PubMed

4) Sverrisdottir A, Nystedt M, Johansson H, Fornander T. Adjuvant goserelin and ovarian preservation in chemotherapy treated patients with early breast cancer:results from a randomized trial. Breast Cancer Res Treat. 2009;117(3):561‒7.
→PubMed

5) Del Mastro L, Boni L, Michelotti A, Gamucci T, Olmeo N, Gori S, et al. Effect of the gonadotropin‒releasing hormone analogue triptorelin on the occurrence of chemotherapy‒induced early menopause in premenopausal women with breast cancer:a randomized trial. JAMA. 2011;306(3):269‒76.
→PubMed

6) Badawy A, Elnashar A, El‒Ashry M, Shahat M. Gonadotropin‒releasing hormone agonists for prevention of chemotherapy‒induced ovarian damage:prospective randomized study. Fertil Steril. 2009;91(3):694‒7.
→PubMed

7) Chen H, Li J, Cui T, Hu L. Adjuvant gonadotropin‒releasing hormone analogues for the prevention of chemotherapy induced premature ovarian failure in premenopausal women. Cochrane Database Syst Rev. 2011;(11):CD008018.
→PubMed

8) Fox KR, Scialla J, Moore H. Preventing chemotherapy‒related amenorrhea using leuprolide adjuvant chemotherapy for early‒stage breast cancer. Proc Am Soc Clin Oncol. 2003;22:13 [abstract 50].

9) Moore HC, Unger JM, Phillips KA, Boyle F, Hitre E, Porter D, et al;POEMS/S0230 Investigators. Goserelin for ovarian protection during breast‒cancer adjuvant chemotherapy. N Engl J Med. 2015;372(10):923‒32.
→PubMed

10) Lee SJ, Schover LR, Partridge AH, Patrizio P, Wallace WH, Hagerty K, et al;American Society of Clinical Oncology. American Society of Clinical Oncology recommendations on fertility preservation in cancer patients. J Clin Oncol. 2006;24(18):2917‒31.
→PubMed

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