日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

化学療法終了後、内分泌療法中~終了後の妊娠は安全か (薬物療法・副作用対策・ID10480)

 化学療法,内分泌療法終了後の妊娠は安全か

CQ44-a 乳癌診療ガイドライン1治療編(184-186ページ)
推奨グレード B 卵巣機能が保たれていれば妊娠・出産は可能であり,化学療法や内分泌療法終了後に妊娠・出産しても周産期異常や奇形は増えないため,妊娠は安全と考えられる。

 内分泌療法中の妊娠は安全か

CQ44-b 乳癌診療ガイドライン1治療編(184-186ページ)
推奨グレード D タモキシフェンに催奇形性の問題があるため,内分泌療法中の妊娠は勧められない。

推奨グレードを決めるにあたって

 過去の報告から,化学療法および内分泌療法終了後の妊娠は安全であると考えられるため,グレードBとした。一方,タモキシフェン治療中の妊娠と催奇形性の関連は明らかであり,警鐘を鳴らす意味で,グレードDとした。

背景・目的

 かつては,妊娠が乳癌の再発を増す可能性や化学療法による催奇形性などの問題を漠然と危惧して,乳癌に対する化学療法終了後の妊娠は諦めるべきだとする風潮があった。しかし,さまざまな臨床試験や後ろ向き研究の結果,このような考えは必ずしも正しくないことがわかってきた。

解 説

(1)化学療法によって妊娠できなくなる可能性はどの程度あるのか

 閉経前の乳癌患者に化学療法を行った場合,化学療法薬による卵巣機能障害から,治療中・治療後に無月経となる患者が少なくない。閉経前症例にCMF療法を行った場合,平均68%の症例で無月経に至ると報告されている1)。無月経にかかわる因子としては,年齢,シクロホスファミドの総投与量が挙げられている2)~5)年齢が40歳未満の症例が無月経に至る割合は平均40%とされているのに対し,40歳以上の症例では平均76%とされている1化学療法で無月経となった後に再度月経周期が回復する症例の割合も,40歳未満と比較して40歳以上は低値であり,40歳以上の症例では無月経となった場合には恒久的である可能性が高い1)4)5)。したがって,化学療法を開始する前に患者の挙児希望を確認し,十分な情報提供を行うべきである。

 アンスラサイクリンを含むレジメンについては,CMF療法と比較して卵巣機能障害の増強は認められていない6)7)。タキサン系化学療法薬については,アンスラサイクリン系化学療法薬に追加投与した場合の卵巣機能への影響が検討されているが,一定の見解は得られていない8)

(2)乳癌治療後に妊娠すると再発しやすくなるのか

 乳癌治療後の妊娠が患者の生存率に悪影響を及ぼさないことが複数の症例対照研究により示されている。乳癌治療後に妊娠した群と,妊娠しなかった群を比較した研究が7つ報告されているが,リンパ節転移陽性群を対象とした1つの報告を除き,同等か妊娠群のほうが良好という結果であった。いわゆる“healthy mother effect(健康であると感じている女性が出産し,疾患の影響を受けている女性は出産しない)”がバイアスとなっている可能性もあるため,解釈は慎重であるべきであるが,現時点で妊娠が乳癌の再発リスクを高めるということを積極的に示唆するエビデンスはない9)~12また,授乳により乳癌が再発しやすくなるという根拠はなく,乳児に対しても悪影響を及ぼすことはないと考えられている。

(3)化学療法終了後に妊娠した場合,胎児の奇形の可能性は増えるのか

 化学療法終了後の妊娠・出産で胎児に異常や奇形を起こす頻度は,一般女性の妊娠・出産の場合と同じであると考えられている9)~13

(4)化学療法または内分泌療法薬使用後はいつから妊娠が可能か

 化学療法が卵巣に直接的影響を与える期間は短いとされているが,念のため,数回月経を確認した後に妊娠するほうがよいと考えられる。例えばメトトレキサートの場合は投与終了後,数週間~数カ月は腎臓や肝臓に残っているため,少なくとも投与終了後3カ月は妊娠を避けるほうがよい14)タモキシフェン内服中は催奇形性のリスクがあるので妊娠は避けるべきである。タモキシフェンの代謝産物が体内から検出されなくなるまでには,内服終了後約2カ月かかるといわれている15)。このため,タモキシフェン終了後,2カ月は妊娠を避けるほうがよい。また,妊娠中のトラスツズマブ使用に関してはメタアナリシスによると有害事象として羊水過少が最も多く,健康な新生児が生まれた割合は52.5%であったと報告されており,トラスツズマブ使用中も妊娠を避けるべきと考えられる16妊娠期に化学療法を行って,その後出産した場合には,化学療法薬による乳児の免疫抑制や細胞代謝を妨げる可能性を考慮し,産婦人科医,小児科医と相談したうえで授乳開始時期を決定するべきである。

 以上より,乳癌の術後薬物療法終了後も,卵巣機能が保たれていれば妊娠・出産は可能である。妊娠の可能性がある患者に対しては,薬物療法を開始する前に挙児希望を確認し,乳癌の予後や薬物療法による卵巣機能障害の可能性などについて十分な情報を提供のうえ,挙児希望が強い場合には,不妊治療医へのコンサルテーションを勧めるべきである。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,“Antibiotics,Antineoplastic”,“Antineoplastic Agents”,Fertility,Pregnancy,Neoplasms/therapyのキーワードを用いて検索した。また,各文献のPubMedでのrelated articlesとハンドサーチによる文献を参考にした。

参考文献

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