日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

化学療法施行にあたりインフルエンザワクチン接種は勧められるか (薬物療法・その他・ID10490)

CQ45 乳癌診療ガイドライン1治療編(187-189ページ)
推奨グレード B 接種は勧められる。

推奨グレードを決めるにあたって

 化学療法中のインフルエンザワクチン投与の安全性に関する報告は少ないが,免疫能が低下している患者でも予防的な意義は明らかであることが証明されているため,グレードBとした。

背景・目的

 化学療法中は一時的な免疫能低下状態となるため感染の高リスク群である。その状態でインフルエンザに罹患すると重篤な状況になることが懸念されるほか,化学療法のスケジュールが遅延する可能性もあり,インフルエンザワクチン投与が検討されるが,一方,化学療法中のワクチン投与の安全性や有効性も懸念される。

解 説

 化学療法の期間は一時的な免疫能低下状態となるため,インフルエンザに罹患すると入院を必要とする肺炎などの重篤な合併症がもたらされ,さらには死亡する危険性が増加する1)~4)。現在のインフルエンザワクチンは,ウイルスをエーテルで処理して発熱物質などになる脂質成分を除き,免疫に必要なウイルス粒子表面の赤血球凝集素(HA)を密度勾配遠沈法により回収して主成分とした,HAワクチンといわれる不活化ワクチンである1)。わが国における季節性インフルエンザワクチン製造株の決定過程は,国立感染症研究所が流行状況を検討して次シーズンの流行予測を行い,さらにWHOにより出される北半球次シーズンのワクチン推奨株を考慮して最終的に選定し,これに基づいて厚生労働省が決定している。現在はA型のH3N2(A香港型)とH1N1(Aソ連型)およびB型の3種のインフルエンザウイルスが世界中で共通した流行株となっているため,原則としてインフルエンザワクチンはこの3種類の混合ワクチンとなっており,選定されるウイルス株は毎年異なるため毎年の接種が望ましい1)。ワクチンの感染予防効果は有効率として70~90%が期待されているが,ワクチン株の免疫抗原予測と流行株との一致の程度により,シーズンごとの有効性の変動は大きい。2009年3月末にメキシコで新型インフルエンザ(ブタインフルエンザ,H1N1)が確認され,その後世界中に感染が拡大(パンデミック)した。季節性インフルエンザワクチンは新型インフルエンザに対しての予防効果はなく,また新型インフルエンザワクチンも季節性インフルエンザに対する予防効果がないため,両方のワクチン接種が必要である2)

 化学療法中のインフルエンザワクチン投与の安全性に関する報告は少ないが,特に重篤な有害事象が増加するという報告はなく3),化学療法以外の乳癌症例も含めた解析であるが,接種部位の疼痛(12.7%),頭痛(12%),鼻汁(10%),疲労感(9.2%),8~12時間程度の微熱など軽度の有害事象を認めた4)

 免疫能が低下した患者に対するインフルエンザワクチンは,血清学的な反応は健常人と比較して劣る可能性はあるものの,予防的な医学的な意義は明らかであることがメタアナリシスにより示されている56固形癌に対する化学療法施行中の骨髄機能が抑制された状態におけるインフルエンザ抗体の産生能を検討した研究は,6件の症例対照研究,4件の症例集積が存在する4)7)~11)。症例対照研究では,固形癌患者のインフルエンザ抗体の産生能に関しては対照(健康人)群と比較して変わらないとするものが4件,劣るとしたものが2件あった3)4)7)~12)

 投与時期に関しては,FEC含有レジメンにおける抗体産生能を比較すると,治療4日目と16日目に接種した場合,3週後の抗体産生能は治療4日目接種のほうが高いが,健常人には劣ると報告されている11)。同じグループからの続報でも,乳癌症例の場合,早期(化学療法後5日まで)の投与のほうが抗体産生能は高かったと報告されている12)

 また,化学療法開始より少なくとも2週間前の接種が望ましいというレビューがある7)13)ため,具体的な接種時期を推奨するエビデンスはないが,化学療法開始前なら2週間前までに,また治療中であれば骨髄機能の最下点(nadir)の時期を避けて接種することが望ましい。

 以上より,感染の高リスクである化学療法中における癌患者に対しては,不活化インフルエンザワクチン接種が推奨され,本人と接する機会の多い家族や医療従事者にもワクチン接種が望まれる。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Influenza Vaccines,influenza vaccination,Neoplasms,cancerのキーワードを用いて検索した。また,UpToDate 2014を参考にした。小児での報告は除いた。

参考文献

1) 国立感染症研究所感染症情報センター.http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/index.html

2) 米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention). http://www.cdc.gov/flu/

3) Nordøy T, Aaberge IS, Husebekk A, Samdal HH, Steinert S, Melby H, et al. Cancer patients undergoing chemotherapy show adequate serological response to vaccinations against influenza virus and Streptococcus pneumoniae. Med Oncol. 2002;19(2):71‒8.
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4) Vilar‒Compte D, Cornejo P, Valle‒Salinas A, Roldán‒Marin R, Iguala M, Cervantes Y, et al. nfluenza vaccination in patients with breast cancer:a case‒series analysis. Med Sci Monit. 2006;12(8):CR332‒6.
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6) Beck CR, McKenzie BC, Hashim AB, Harris RC, Zanuzdana A, Agboado G, et al. Influenza vaccination for immunocompromised patients:summary of a systematic review and meta‒analysis. Influenza Other Respir Viruses. 2013;7 Suppl 2:72‒5.
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