日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

B 型肝炎ウイルス感染やその既往のある乳癌患者に対して化学療法は勧められるか (薬物療法・その他・ID10500)

CQ46 乳癌診療ガイドライン1治療編(190-193ページ)
推奨グレード B B型肝炎ウイルス(HBV)感染やその既往のある乳癌患者に化学療法は勧められる。ただし,化学療法前にはHBV感染のスクリーニングを行い,HBV再活性化リスクの高い場合は,肝臓専門医へのコンサルテーションを行うなど,十分な配慮を要する。

推奨グレードを決めるにあたって

 ランダム化比較試験の実施が困難であり,エビデンスの多くは後ろ向き検討によるものであるが,化学療法施行前にHBV感染スクリーニングを行い,HBV再活性化リスクの高い患者(HBs抗原陽性,HBV DNA高値)には核酸アナログの予防投与を行うことで,化学療法が安全に行える可能性は高いため,グレードBとした。

背景・目的

 B型肝炎ウイルス(HBV)感染患者において免疫抑制・化学療法によりHBVが再増殖することをHBV再活性化という。HBV再活性化はキャリアからの再活性化と既往感染者(HBs抗原陰性,かつHBc抗体またはHBs抗体陽性)からの再活性化に分類される。HBV再活性化による肝炎は重症化しやすく,また原疾患の治療を困難にさせるため,その予防が重要である。日本肝臓学会のB型肝炎治療ガイドラインが2014年6月に改訂されている。化学療法施行の際はこれに従いHBV再活性化対策を行うことが重要である。B型肝炎ウイルス感染や既往のある乳癌患者に対して化学療法施行時のHBV再活性化リスクと再活性化予防について検討した。

解 説

 化学療法を行ったときのHBV再活性化のリスク因子は,化学療法前のHBV—DNA量(real time PCRにおける検出の有無)(オッズ比8.4),ステロイドの使用(オッズ比2.7),悪性リンパ腫(オッズ比5.0)または乳癌(オッズ比4.2)である1)。HBs抗原陽性乳癌患者の検討(主なレジメンはAC,CMF)では,41人中24人(59%)が化学療法中に肝炎を発症,うち10人にHBVの再活性化を認めた2)

 核酸アナログであるラミブジンの予防投与によってHBs抗原陽性の癌患者における化学療法中のHBV再活性化を抑制できることが報告されている。2007年に米国NIHの研究者らが行ったラミブジン予防投与に関する14の臨床試験のシステマティック・レビュー(うちランダム化比較試験は小規模なものが2本,多くは悪性リンパ腫患者が対象)では,ラミブジン予防投与を受けた患者と対照群の患者において,HBV関連肝不全0人/108人vs 21人/162人,HBV関連死亡4人/208人vs 27人/394人と,ラミブジン予防投与がHBV再活性化に関連した有害事象および死亡のリスクを減らす可能性があることが示唆されている3)。乳癌患者を対象とした前向きコホート研究は1件のみであり,化学療法開始7日以内前よりラミブジン100 mg/日の内服を開始し,化学療法終了8週間後まで継続することにより,historical controlに比べ肝炎発症割合が約1/5程度に抑制されることが報告されている4)

 HBs抗原陽性かつ正常肝機能で乳癌術後化学療法が施行された患者165例に対する後ろ向き研究の報告でもラミブジンの予防投与は非投与と比較し,アンスラサイクリン,ステロイドの使用割合が高かったにもかかわらず,肝炎発症割合と術後化学療法の途中中止割合を有意に減少した。また最活性化に関しては有意差はなかったが,ラミブジン予防投与により発生を抑制できた5)

 国内でも,抗悪性腫瘍薬によるB型肝炎ウイルスの再活性化の実態解明についての研究が行われ,「B型肝炎治療ガイドライン(第2.1版)」の「6—3.HBV再活性化」の項に詳説されており参考になる6)。このガイドラインによると,化学療法の対象となる全例でHBs抗原,HBc抗体,HBs抗体を測定し,①HBs抗原陽性の場合には予防的核酸アナログの投与を,②HBs抗原陰性でもHBc抗体またはHBs抗体陽性の場合にはリアルタイムPCR法でHBV—DNAを定期的にモニタリングし,再活性化を早期に発見して核酸アナログを投与することを推奨している(図1)。

P191_図1

図1 B型肝炎治療ガイドライン(第2.1版)(文献6より許可を得て転載)

補足:血液悪性疾患に対する強力な化学療法中あるいは終了後に,HBs抗原陽性あるいはHBs抗原陰性例の一部にHBV再活性化によりB型肝炎が発症し,その中には劇症化する症例があり,注意が必要である。また,血液悪性疾患または固形癌に対する通常の化学療法およびリウマチ性疾患・膠原病などの自己免疫疾患に対する免疫抑制療法においてもHBV再活性化のリスクを考慮して対応する必要がある。通常の化学療法および免疫抑制療法においては,HBV再活性化,肝炎の発症,劇症化の頻度は明らかでなく,ガイドラインに関するエビデンスは十分ではない。また,核酸アナログ投与による劇症化予防効果を完全に保証するものではない。

注1)  免疫抑制・化学療法前に,HBVキャリアおよび既往感染者をスクリーニングする。まずHBs抗原を測定して,HBVキャリアかどうか確認する。HBs抗原陰性の場合には,HBc抗体およびHBs抗体を測定して,既往感染者かどうか確認する。HBs抗原・HBc抗体およびHBs抗体の測定は,高感度の測定法を用いて検査することが望ましい。また,HBs抗体単独陽性(HBs抗原陰性かつHBc抗体陰性)例においても,HBV再活性化は報告されており,ワクチン接種歴が明らかである場合を除き,ガイドラインに従った対応が望ましい。

注2)  HBs抗原陽性例は肝臓専門医にコンサルトすること。全ての症例で核酸アナログ投与にあたっては肝臓専門医にコンサルトするのが望ましい。

注3)  初回化学療法開始時にHBc抗体,HBs抗体未測定の再治療例および既に免疫抑制療法が開始されている例では,抗体価が低下している場合があり,HBV DNA定量検査などによる精査が望ましい。

注4)  既往感染者の場合は,リアルタイムPCR法によりHBV DNAをスクリーニングする。

注5) a.リツキシマブ・ステロイド,フルダラビンを用いる化学療法および造血幹細胞移植例は,既往感染者からのHBV再活性化の高リスクであり,注意が必要である。治療中および治療終了後少なくとも12か月の間,HBV DNAを月1回モニタリングする。造血幹細胞移植例は,移植後長期間のモニタリングが必要である。

     b.通常の化学療法および免疫作用を有する分子標的薬を併用する場合においても頻度は少ないながら,HBV再活性化のリスクがある。HBV DNA量のモニタリングは1~3か月ごとを目安とし,治療内容を考慮して間隔および期間を検討する。血液悪性疾患においては慎重な対応が望ましい。

     c.副腎皮質ステロイド,免疫抑制薬,免疫抑制作用あるいは免疫修飾作用を有する分子標的治療薬による免疫抑制療法においても,HBV再活性化のリスクがある。免疫抑制療法では,治療開始後および治療内容の変更後少なくとも6か月間は,月1回のHBV DNA量のモニタリングが望ましい。6か月後以降は,治療内容を考慮して間隔および期間を検討する。

注6) 免疫抑制・化学療法を開始する前,できるだけ早期に投与を開始するのが望ましい。ただし,ウイルス量が多いHBs抗原陽性例においては,核酸アナログ予防投与中であっても劇症肝炎による死亡例が報告されており,免疫抑制・化学療法を開始する前にウイルス量を低下させておくことが望ましい。

注7)  免疫抑制・化学療法中あるいは治療終了後に,HBV—DNAが2.1 log copies/ml以上になった時点で直ちに投与を開始する。免疫抑制・化学療法中の場合,免疫抑制薬や免疫抑制作用のある抗腫瘍薬は直ちに投与を中止せず,対応を肝臓専門医と相談するのが望ましい。

注8) 核酸アナログはエンテカビルの使用を推奨する。

注9) 下記の条件を満たす場合には核酸アナログ投与の終了を検討してよい。

     スクリーニング時にHBs抗原陽性例ではB型慢性肝炎における核酸アナログ投与終了基準を満たす場合。

     スクリーニング時にHBc抗体陽性またはHBs抗体陽性例では,

     (1)免疫抑制・化学療法終了後,少なくとも12か月間は投与を継続すること。

     (2)この継続期間中にALT(GPT)が正常化していること。(但しHBV以外にALT異常の原因がある場合は除く)

     (3)この継続期間中にHBV DNAが持続陰性化していること。

注10)核酸アナログ投与終了後少なくとも12か月間は,HBV DNAモニタリングを含めて厳重に経過観察する。経過観察方法は各核酸アナログの使用上の注意に基づく。経過観察中にHBV DNAが2.1 log copies/ml以上になった時点で直ちに投与を再開する。

 HBV再活性化予防の方法としてラミブジンとの直接比較はないものの,ガイドラインでは耐性株出現リスクの低いエンテカビルの使用を推奨している。同様に米国のAmerican Association for the Study of Liver Disease(AASLD)のガイドライン7)において,HBV保持者に化学療法を行う場合,12カ月以内の短期化学療法の場合はラミブジンまたはtelvibudine(未承認),12カ月以上の長期化学療法の場合はラミブジン耐性株の出現のリスクが高いためエンテカビルまたはテノホビルを推奨している。

 化学療法の内容としては,ステロイドやアンスラサイクリン系抗腫瘍薬を含む化学療法で再活性化が比較的多くみられる。新規薬剤のHBV再活性化に関する情報は,医薬品医療機器総合機構(PMDA)による副作用情報などを参考とする8)

 HBVスクリーニングに対する費用対効果については一定の見解がない。R—CHOP療法施行予定のリンパ腫患者において,全例スクリーニング,肝炎症状発症時にスクリーニング,ハイリスク時症例のみスクリーニングの3群にて比較したところ,全例スクリーニングが最も対費用効果が高かった9)。それに対し固形癌を対象とした比較ではハイリスク時症例のみスクリーニング群が最も費用対効果が高かった10)

 以上より,乳癌患者や乳癌の化学療法レジメンに限定したエビデンスは十分ではないが,ステロイドやアンスラサイクリン系抗腫瘍薬を含む化学療法を施行する際は十分に注意し,HBs抗原陽性例についてはエンテカビルなどの核酸アナログを予防に速やかに投与することによって化学療法中の肝炎発症のリスクを下げられる可能性があるため,肝臓専門医に適切にコンサルテーションのうえ化学療法を行うことが勧められる。なお,HBVキャリアや既往感染のある患者に化学療法を行う場合には,肝炎リスクの評価および予防方法に関して,肝臓専門医にコンサルテーションすることが推奨される。

 C型肝炎ウイルス保持者に関しては,血液疾患および乳癌を対象とした30~40例規模の症例集積11)~14)があり,化学療法による重症肝炎の発症リスクは高くないとされている。しかしながらエビデンスは十分とはいえず,化学療法を行う際には十分な注意を要する。

 検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms/drug therapy,hepatitis bのキーワードを用いて検索した。

参考文献

1) Yeo W, Zee B, Zhong S, Chan PK, Wong WL, Ho WM, et al. Comprehensive analysis of risk factors associating with Hepatitis B virus (HBV) reactivation in cancer patients undergoing cytotoxic chemotherapy. Br J Cancer. 2004;90(7):1306‒11.
→PubMed

2) Yeo W, Chan PK, Hui P, Ho WM, Lam KC, Kwan WH, et al. B virus reactivation in breast cancer patients receiving cytotoxic chemotherapy:a prospective study. J Med Virol. 2003;70(4):553‒61.
→PubMed

3) Loomba R, Rowley A, Wesley R, Liang TJ, Hoofnagle JH, Pucino F, et al. Systematic review:the effect of preventive lamivudine on hepatitis B reactivation during chemotherapy. Ann Intern Med. 2008;148(7):519‒28.
→PubMed

4) Yeo W, Ho WM, Hui P, Chan PK, Lam KC, Lee JJ, et al. Use of lamivudine to prevent hepatitis B virus reactivation during chemotherapy in breast cancer patients. Breast Cancer Res Treat. 2004;88(3):209‒15.
→PubMed

5) Lee HJ, Kim DY, Keam B, Lee JH, Han SW, Oh DY, et al. Lamivudine prophylaxis for hepatitis B virus carrier patients with breast cancer during adjuvant chemotherapy. Breast Cancer. 2014;21(4):387‒93.
→PubMed

6) 日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会編.B型肝炎治療ガイドライン(第2.1版).2014. http://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatitis_b

7) Lok ASD, McMahon BJ. AASLD Practice Guidelines:Chronic hepatitis B:update 2009. http://www.aasld.org/practiceguidelines/Pages/NewUpdatedGuidelines.aspx

8) 医薬品医療機器総合機構(PMDA) 副作用情報 http://www.pmda.go.jp/safety/info‒services/drugs/adr‒info/0001.html#r=s&r=s

9) Zurawska U, Hicks LK, Woo G, Bell CM, Krahn M, Chan KK, et al. B virus screening before chemotherapy for lymphoma:a cost‒effectiveness analysis. J Clin Oncol. 2012;30(26):3167‒73.
→PubMed

10) Day FL, Karnon J, Rischin D. Cost‒effectiveness of universal hepatitis B virus screening in patients beginning chemotherapy for solid tumors. J Clin Oncol. 2011;29(24):3270‒7.
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11) Zuckerman E, Zuckerman T, Douer D, Qian D, Levine AM. Liver dysfunction in patients infected with hepatitis C virus undergoing chemotherapy for hematologic malignancies. Cancer. 1998;83(6):1224‒30.
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12) Shah J, Yoshida EM, Connors J, Gill S. Hepatic dysfunction during and after lymphoma chemotherapy in patients with hepatitis C. J Clin Gastroenterol. 2006;40(7):636‒8.
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13) D’Angelo S, Deutscher M, Dickler M, Weinstock DM. Hepatitis C virus infection does not preclude standard breast cancer‒directed therapy. Clin Breast Cancer. 2009;9(1):51‒2.
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14) Morrow PK, Tarrand JJ, Taylor SH, Kau SW, Theriault RL, Hortobagyi GN, et al. Effects of chronic hepatitis C infection on the treatment of breast cancer patients. Ann Oncol. 2010;21(6):1233‒6.
→PubMed

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