日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

乳癌治療として補完・代替療法は勧められるか (薬物療法・その他・ID10510)

CQ47 乳癌診療ガイドライン1治療編(194-196ページ)
推奨グレード D 乳癌の進行抑制や延命効果の目的で補完・代替療法は行うべきでない。
C1 標準的な癌治療に伴う症状の緩和や不安の軽減などを目的とした補完・代替療法には検討の余地がある。

推奨グレードを決めるにあたって

 2014年米国の統合腫瘍学会からガイドラインが発表され,補完・代替療法(complementary and alternative medicine;CAM)に関する推奨グレードが提示されたが,抗腫瘍効果,再発抑制,延命など,抗腫瘍効果に関する十分な証拠は得られていないため,グレードDとした。

 CAMの中には心理的不安や症状緩和に対する効果が認められるものもあり,標準的な治療を優先したうえで,検討してもよいため,グレードC1とした。

背景・目的

 癌患者における補完・代替療法(complementary and alternative medicine;CAM)の普及率は海外では48~87%,国内では44.6%と広く使用されている1)2)CAMの利用傾向や目的は民族背景で異なる。白人女性は食事療法や精神療法,アフリカ系女性は瞑想などを好み,中国系女性は漢方を好む傾向をもつ1。わが国のCAM利用者の9割近くはアガリクスや漢方,サメの軟骨などの製品を使用する傾向があり,2000年の国内全体の漢方薬市場は実に2,000億円を超えている23利用目的に関しては,欧米では癌の進行に伴う痛みなどの症状緩和や心理的不安の軽減,通常の癌治療に伴う有害事象の症状緩和などを主な目的としている一方で,わが国では癌に対する直接的な治療効果(癌の進行抑制や延命効果)を目的にCAMを使用している人が多い。国内CAM利用者の半数以上は十分な情報収集や専門医師への相談を行わずに,広告やインターネットなどの情報,友人や家族からの勧めをもとに利用している状況である2)。専門医師はそのような状況を放置してはならず,CAMに関する科学的な知識をもつ必要がある。

解 説

 CAMは大まかに次の5つに分類される4)。①代替医療システム(伝統医学系統,民間療法,東洋医学など),②エネルギー療法(気功,レイキなど),③肉体的療法(カイロプラクティック,マッサージ療法など),④精神・心体介入(精神療法,催眠,瞑想など),⑤薬物学・生物学に基づく療法(漢方,サメ軟骨などの民間療法,食事療法,および免疫療法も含まれる)。

 2004年に設立された米国の統合腫瘍学会(Society for Integrative Oncology;SIO)では,1990~2013年に報告された乳癌とCAMに関する4900論文から203編のランダム化比較試験をレビューし,2014年にガイドライン5)を発表した。この中でグレード分類が示され,各グレードはGrade A:確実な有益性が認められる,Grade B:一定の有益性が認められる,Grade C:無益ではない,Grade D:有益性は認められない,Grade H:有害であると定義された。

 瞑想,ヨガ,リラクセーションは,不安や気分障害を有する乳癌患者に対し確実な有益性が認められ(Grade A),ストレスやうつ,疲労の軽減やQOLの改善には,一定の有益性が認められる(Grade B)と格付けされた。ストレス管理,マッサージ,音楽療法,エネルギー療法などもGrade Bとされた。針治療は化学療法中の嘔気(CINV)に対してはGrade Bとされたが,疲労,不安やうつに関しては気功,リフレクソロジーなどとともにGrade Cと分類された。ホットフラッシュに対する大豆,放射性皮膚障害に対するアロエやヒアルロン酸クリーム,CINVに対するグルタミン,疲労に対するガラナなどには有益性は認められなかった(Grade D)。唯一acetyl—L—carnitineのみがタキサンに対する末梢神経障害に対して有害である(Grade H)とされた。その他138種のCAMに関しては十分なエビデンスは得られなかった。

 ランダム化比較試験より容認されるCAMとしては,乳癌の肥満患者に対する脂肪摂取制限6)7),化学療法中の悪心に対する鍼治療8),内分泌療法によるホットフラッシュに対する鍼治療の効果9),痛みや不安に対するマッサージ療法,適度な運動,サポートグループ10)やリラクセーションなどによる心理療法や心体介入などが挙げられる。

 日本人を対象とした報告11)12)からは,心理療法やサポートが乳癌患者の症状改善や感情の向上に役立つことが示唆されている。

 抗腫瘍効果,再発抑制,延命に関する十分な証拠は得られておらず,この点に関する推奨はされていない。

 アガリクス摂取による劇症肝炎13のように,CAMには報告されていない重篤な有害事象が起こる可能性があり,安易に利用を勧めることがあってはならない。また,CAMを利用したいと希望する患者に対しては,標準的な治療を行わずにCAMのみを選択することは病状の進行や生命予後の短縮に結びつく可能性が高く,科学的根拠に基づいてその効果と安全性をしっかりと説明する必要がある14)

 CAMに関しては,Office of Cancer Complementary and Alternative Medicine(OCCAM)15)やSIO16),米国国立代替医療センター(National Center for Complementary and Alternative Medicine;NCCAM)17),M. D. アンダーソンがんセンター18)のホームページに詳細な情報が掲載されており,患者への情報提供に有用である。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms,Aromatherapy,Massage,Relaxation,Psychotherapy,Complementary Therapiesのキーワードを用いて検索した。また,UpToDate2014の“Complementary and alternative therapies for cancer”を参考にした。

参考文献

1) DiGianni LM, Garber JE, Winer EP. Complementary and alternative medicine use among women with breast cancer. J Clin Oncol. 2002;20(18 Suppl):34S‒8S.
→PubMed

2) Hyodo I, Amano N, Eguchi K, Narabayashi M, Imanishi J, Hirai M, et al. Nationwide survey on complementary and alternative medicine in cancer patients in Japan. J Clin Oncol. 2005;23(12):2645‒54.
→PubMed

3) Hyodo I, Eguchi K, Nishina T, Endo H, Tanimizu M, Mikami I, et al. Perceptions and attitudes of clinical oncologists on complementary and alternative medicine:a nationwide survey in Japan. Cancer. 2003;97(11):2861‒8.
→PubMed

4) Eisenberg DM, Davis RB, Ettner SL, Appel S, Wilkey S, Van Rompay M, et al. Trends in alternative medicine use in the United States, 1990‒1997:results of a follow‒up national survey. JAMA. 1998;280(18):1569‒75.
→PubMed

5) Greenlee H, Balneaves LG, Carlson LE, Cohen M, Deng G, Hershman D, et al;Society for Integrative Oncology Guidelines Working Group. Clinical practice guidelines on the use of integrative therapies as supportive care in patients treated for breast cancer. J Natl Cancer Inst Monogr. 2014;2014(50):346‒58.
→PubMed

6) Chlebowski RT, Blackburn GL, Thomson CA, Nixon DW, Shapiro A, Hoy MK, et al. Dietary fat reduction and breast cancer outcome:interim efficacy results from the Women’s Intervention Nutrition Study. J Natl Cancer Inst. 2006;98(24):1767‒76.
→PubMed

7) Kroenke CH, Fung TT, Hu FB, Holmes MD. Dietary patterns and survival after breast cancer diagnosis. J Clin Oncol. 2005;23(36):9295‒303.
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8) Ezzo J, Vickers A, Richardson MA, Allen C, Dibble SL, Issell B, et al. Acupuncture‒point stimulation for chemotherapy‒induced nausea and vomiting. J Clin Oncol. 2005;23(28):7188‒98.
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9) Walker EM, Rodriguez AI, Kohn B, Ball RM, Pegg J, Pocock JR, et al. Acupuncture versus venlafaxine for the management of vasomotor symptoms in patients with hormone receptor‒positive breast cancer:a randomized controlled trial. J Clin Oncol. 2010;28(4):634‒40.
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10) Goodwin PJ, Leszcz M, Ennis M, Koopmans J, Vincent L, Guther H, et al. The effect of group psychosocial support on survival in metastatic breast cancer. N Engl J Med. 2001;345(24):1719‒26.
→PubMed

11) Matsuda A, Yamaoka K, Tango T, Matsuda T, Nishimoto H. Effectiveness of psychoeducational support on quality of life in early‒stage breast cancer patients:a systematic review and meta‒analysis of randomized controlled trials. Qual Life Res. 2014;23(1):21‒30.
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12) Hirai K, Motooka H, Ito N, Wada N, Yoshizaki A, Shiozaki M, et al. Problem‒solving therapy for psychological distress in Japanese early‒stage breast cancer patients. Jpn J Clin Oncol. 2012;42(12):1168‒74.
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13) Mukai H, Watanabe T, Ando M, Katsumata N. An alternative medicine, Agaricus blazei, may have induced severe hepatic dysfunction in cancer patients. Jpn J Clin Oncol. 2006;36(12):808‒10.
→PubMed

14) Han E, Johnson N, DelaMelena T, Glissmeyer M, Steinbock K. Alternative therapy used as primary treatment for breast cancer negatively impacts outcomes. Ann Surg Oncol. 2011;18(4):912‒6.
→PubMed

15) http://cam.cancer.gov/health_definitions.html

16) http://www.integrativeonc.org/

17) http://nccam.nih.gov/health/whatiscam/

18) http://www.mdanderson.org/departments/CIMER/

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