日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

総論:原発乳癌の外科治療 (外科療法・総論・ID20550)

乳癌診療ガイドライン1治療編(208-210ページ)

総論:原発乳癌の外科治療

はじめに

 癌に対する外科療法は,侵襲性というデメリットはあるが,局所の病変を完全に取り除くことができる点においては他のモダリティより一日の長がある。かつては,乳癌はまずバリアの役割をもつ所属リンパ節に転移し,それから全身に広がるというHalstedの理論に基づき,所属リンパ節やそのリンパ路を含めて局所を可能な限り取り除くことが望ましいとされており,腋窩リンパ節郭清を伴う胸筋合併切除術が標準的術式であった1)。その後,乳癌はその診断の時点から全身病であるというFisherの理論が登場し,外科療法を含む局所療法の差異は予後に影響しないと考えられようになった2)。しかし,現在では乳癌は初期の段階では全身病ではないが,その後,ある時点から全身病になるという考え方が主流である。したがって,局所に癌がとどまっている症例に対しては外科療法が根治に有用である可能性が高い。また,再発乳癌であっても,局所再発のみの場合は外科療法を中心とした集学的治療により完治の可能性がある。遠隔転移を伴う場合では,原発巣あるいは転移巣に対する外科療法が予後改善に有用であるかは不明であるが,局所制御には有用である。

(1)乳房に対する外科治療

 1980年代は,Halsted理論に基づき,ほとんどすべての乳癌患者に腋窩リンパ節郭清に加えて大胸筋,小胸筋を含む乳房切除術が行われていた。その後,検診の普及による早期乳癌の増加やランダム化比較試験の結果を受けて術式の縮小化が進んだ3)。まず,胸筋温存乳房切除術が胸筋合併切除乳房切除術と比較して再発率および生存率が同等であることがランダム化比較試験にて確認された4)5)。さらに,腫瘍径が小さい場合には,整容性の保持が可能である乳房温存手術+放射線療法が胸筋温存乳房切除術と比較して同等の生存率を示すことがランダム化比較試験により証明された6)。これらのエビデンスから,StageⅠ,Ⅱの浸潤性乳管癌に対して,腫瘍径などの適応条件を満たす場合は乳房温存療法が勧められている(外科CQ 2参照)。

 腫瘍径が大きく乳房温存手術の適応とならない場合でも,術前薬物療法により腫瘍の縮小が得られれば,乳房の温存が可能となる(外科CQ 4参照)。

(2)腋窩に対する外科治療

 従来,乳癌の外科的治療においては腋窩リンパ節郭清が標準治療とされてきたが,近年,腋窩郭清の意味が見直されつつある。病理学的腋窩リンパ節転移個数は,現在でも最も有力な予後規定因子であり,術後薬物療法や放射線療法の決定に重要な情報となるが,腋窩郭清が予後を改善するかどうかについてはいまだにcontroversialである。NSABP B—04の結果によると,臨床的腋窩リンパ節転移陰性(N0)乳癌患者において,予防的に腋窩郭清を施行した群は再発時のみ郭清を行う郭清省略群と比べて無遠隔転移生存および全生存率において差を認めなかった2)が,その後のB—04を含む6つのトライアルのメタアナリシスでは,予防的腋窩郭清群において予後改善効果がみられている7)。3,083例の乳房切除術(腋窩郭清を含む)を受けた乳癌症例を対象として胸壁照射の有無による予後を比較したランダム化試験であるDBCG 82 b and cでは,局所再発率のみならず,遠隔転移率も非照射群64%,照射群53%と照射群の成績が有意に改善していた8)。メタアナリシスの結果からも,局所治療により局所制御のみではなく,生存率も改善することが示されている9)

 郭清による合併症として同側上肢のリンパ浮腫,感覚異常や運動障害などが生じ得るため,不要な腋窩郭清は省略することが望ましい。理論的に病理学的腋窩リンパ節転移陰性の患者における腋窩リンパ節郭清は不要であるが,センチネルリンパ節生検が登場する以前は病理学的腋窩リンパ節転移を確認するには腋窩郭清以外に方法がなかった。つまり,センチネルリンパ節生検とは腋窩郭清なしに病理学的所属リンパ節転移の有無を確認する方法である。センチネルリンパ節とは腫瘍からのリンパ流を最初に受けるリンパ節であり,1992年にMortonらにより悪性黒色腫においてその有用性が示された10)。その後,さまざまな固形癌に対しても応用され,乳癌においては色素法,ラジオアイソトープ法および両者の併用法が報告されている(外科CQ 9参照)。

 臨床的腋窩転移陰性の乳癌患者を対象としたセンチネルリンパ節生検と腋窩郭清のランダム化比較試験がいくつか行われている11)12)。いずれの試験においても,両群間の無再発生存率および全生存率に有意差は認めず,センチネルリンパ節生検群では疼痛が少なく腕の運動性が良好であり,入院によるコストの削減がみられた。これらの結果より,臨床的腋窩リンパ節転移陰性乳癌に対するセンチネルリンパ節生検は腋窩郭清に代わる低侵襲の腋窩ステージング法であり,センチネルリンパ節生検を用いた腋窩郭清の省略は標準治療となっている(外科CQ 8参照)。

 センチネルリンパ節転移陽性の場合は腋窩郭清が標準治療であったが,実際に郭清を行っても郭清したリンパ節に転移を認める割合は多くない13)。891例のセンチネルリンパ節転移陽性患者を対象として腋窩郭清の有用性を検討したランダム化比較試験ACOSOG Z0011では,観察期間中央値6.3年の時点において,郭清群と郭清省略群間で5年生存率および5年無病生存率に有意差を認めなかった14)。この結果から,温存手術症例でありセンチネルリンパ節転移個数が2個までの場合,センチネルリンパ節に転移を認めても郭清を省略できる可能性があると考えられる(外科CQ 12参照)。しかし,本試験はイベント数(死亡)が想定(500イベント)よりも低いため,試験は早期に中止された(観察期間中央値6.3年の時点で,死亡数はALND群52例,省略群42例)。そのため,予定患者数(1,900例)の約半数(891例)しか集積されず,また,半分の症例がSLN微小転移症例であったことも問題点として挙げられている。このようなunderpowerのランダム化比較試験によるエビデンスである点は今後も議論が必要であり,実臨床での適用には個々の症例に応じて慎重に検討しなければならない。

参考文献

1) Halsted WS. I. The results of operations for the cure of cancer of the breast performed at the Johns Hopkins Hospital from June, 1889, to January, 1894. Ann Surg. 1894;20(5):497—555.
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2) Fisher B, Redmond C, Fisher ER, Bauer M, Wolmark N, Wickerham DL, et al. Ten—year results of a randomized clinical trial comparing radical mastectomy and total mastectomy with or without radiation. N Engl J Med. 1985;312(11):674—81.
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3) 日本乳癌学会編,乳腺腫瘍学(第1版).東京,金原出版,2012.

4) Turner L, Swindell R, Bell WG, Hartley RC, Tasker JH, Wilson WW, et al. Radical versus modified radical mastectomy for breast cancer. Ann R Coll Surg Engl. 1981;63(4):239—43.
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5) Maddox WA, Carpenter JT Jr, Laws HL, Soong SJ, Cloud G, Urist MM, et al. A randomized prospective trial of radical(Halsted)mastectomy versus modified radical mastectomy in 311 breast cancer patients. Ann Surg. 1983;198(2):207—12.
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6) Veronesi U, Cascinelli N, Mariani L, Greco M, Saccozzi R, Luini A, et al. Twenty—year follow—up of a randomized study comparing breast—conserving surgery with radical mastectomy for early breast cancer. N Engl J Med. 2002;347(16):1227—32.
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7) Orr RK. The impact of prophylactic axillary node dissection on breast cancer survival——a Bayesian meta—analysis. Ann Surg Oncol. 1999;6(1):109—16.
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9) EBCTCG(Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group), McGale P, Taylor C, Correa C, Cutter D, Duane F, et al. Effect of radiotherapy after mastectomy and axillary surgery on 10—year recurrence and 20—year breast cancer mortality:meta—analysis of individual patient data for 8135 women in 22 randomised trials. Lancet. 2014;383(9935):2127—35.
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10) Morton DL, Wen DR, Wong JH, Economou JS, Cagle LA, Storm FK, et al. Technical details of intraoperative lymphatic mapping for early stage melanoma. Arch Surg. 1992;127(4):392—9.
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14) Giuliano AE, Hunt KK, Ballman KV, Beitsch PD, Whitworth PW, Blumencranz PW, et al. Axillary dissection vs no axillary dissection in women with invasive breast cancer and sentinel node metastasis:a randomized clinical trial. JAMA. 2011;305(6):569—75.
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