日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

乳房切除術において乳房皮膚や乳頭・乳輪の温存は勧められるか (外科療法・温存療法・ID20610)

CQ6 乳癌診療ガイドライン1治療編(223-225ページ)
推奨グレード B 乳房皮膚の温存:Skin—sparing mastectomyは根治性と整容性を両立できる有用な術式であり勧められる。
C1 乳頭乳輪の温存:Nipple—sparing mastectomyは早期乳癌で一定の条件を満たす症例を選択したうえで行われることが望ましい。

推奨グレードを決めるにあたって

 乳頭乳輪温存乳房切除術は従来の乳房切除との非劣性が多数報告されているが,大規模な質の高い臨床試験はないため推奨グレードC1にとどめた。

背景・目的

 乳癌の根治手術は従来,乳房切除術(胸筋温存乳房切除術)も乳房温存手術も,腫瘍直上を含め乳房の皮膚を切除してきた。一方,skin—sparing mastectomy(SSM)の概念は乳房皮膚を温存して乳頭・乳輪を含めた全乳腺を切除するもので1990年早期に提唱され,その治療成績は従来の乳房切除と同等であるという報告が多い1)2)

 SSMよりさらに整容性を意識した乳房切除術式としてnipple—sparing mastectomy(NSM)がある。どちらの術式も乳腺の切除量からすれば乳癌取扱い規約上の乳房切除術(Bt)とほぼ同じだが,皮膚切除を伴わない点がBtと区別されている。SSMやNSMでは皮膚が温存されていることによって同時(primary)に一期(one—stage)再建が行えるため,根治性とともに高い整容性が得られるという大きな利点がある(乳房再建の種類についての用語説明外科:乳房再建総論を参照)。SSMもNSMも再建を伴わない限り整容性を向上し得ないが,乳房温存手術のようにBtとの大規模なランダム化比較試験がなされたことはない。特にわが国では,ごく最近まで乳房インプラントが医療材料として認められておらず,これらの術式の適応や手技に関するエビデンスの構築は今後の大きな課題である。乳房再建については関連するCQに譲り,ここではSSM,NSMに関する最近の治療成績を検証する。

解 説

 Lanitisらは9つの研究における3,739例(SSM:1,104例,従来の乳房切除術:2,635例)を対象にシステマティック・レビューを報告しており,ランダム化比較試験がない現時点で最も高いエビデンスであると記している3)。その中で局所再発率はSSMで6.2%,乳房切除術で4.0%と有意差がなく,遠隔転移はそれぞれ10%,2.7%とSSMでやや高かったが,悪性度の記載が不十分であるので言及できないと考察している。SSMの適応としては,T1/T2,多発性乳癌,広範な非浸潤性乳管癌や予防的乳房切除例ばかりでなく,StageⅡB—Ⅲの比較的進行した症例や温存手術後の局所再発例など,適応拡大の可能性を示唆する報告もみられる4,5)。最も症例数の多いCarlsonらの報告ではDCISが多数を占め,平均観察期間65.4カ月で局所再発率は5.5%であったとしている6)。一方で,Agrawalらは2012年までのSSMに関するレビューで,現時点では腫瘍学的な安全性は確約できないとしている7)が,DreadinらはSSMによって94%の症例で乳腺組織は残らずに切除されていたことを示し,33.5カ月の観察期間中局所再発がゼロであったことも踏まえて,ルーチンの皮膚側断端の病理検査は不要であると主張した8)。観察期間が長期に及ぶ研究もあり,Romicsらは術後10年の生存率が90.8%,再発率は18.8%で有意な再発危険因子はStageとGradeであると報告している9)

 以上より,SSMは皮膚や胸筋への浸潤,炎症性乳癌などを除く早期乳癌に対して一定のコンセンサスが得られている。StageⅡB,Ⅲなどの局所進行例については長期の観察期間を伴う前向き比較試験もないため,十分な患者説明を行ったうえで慎重に適用する必要がある。

 NSMについては,Rusbyらは345論文から症例報告や小規模の症例集積は除外してレビューを行った中で,対象が100例以上の病理学的研究では乳頭に癌が潜在するリスクは5.6~31%と報告している10)。Paepkeらは96例109乳房の検討から局所再発率は5%未満で,乳頭に癌が残存するリスクは1%未満であると報告しており,乳頭側の術中迅速検査が陰性なら乳頭温存は可能だが,広範な病変や皮膚浸潤例,炎症性乳癌や乳頭浸潤の疑いのあるものに対しては議論を要するとしている11)。近年の臨床研究によれば,皮膚切開の部位,切除範囲,再建方法は報告者により異なるが,PetitらによるNSMのレビューでは,術後5年における局所再発率は3~6%で,生存率,遠隔転移の観点からも従来の乳房切除と差はなく,整容性の向上に著しく貢献すると述べられている12)。適応としては腫瘍乳頭間距離が遠い,腫瘍径が小さい,悪性度が低い症例が推奨されるが,患者には乳頭壊死や局所再発に関する説明を十分に行うべきであると結論付けている。乳頭乳輪壊死は5~10%とする報告が多く,Algaithyらは,部分的な乳頭乳輪壊死が26%にみられ,危険因子は喫煙,若年者,乳輪縁切開などであったと報告している13)。切開部位については,Moyerらも,乳輪縁切開が乳頭の部分壊死と高い相関を示しているが,ほとんどの場合,保存的に完治が可能であるとしている14)。Wangらは633例981乳房に対してNSMを行っており,そのうち組織拡張器を用いた二次一期再建が89%,筋皮弁が10.2%で,一次一期は0.3%であった15)。合併症については全乳頭壊死が1.0%,感染を伴う皮弁壊死が13.3%,組織拡張器・インプラント留置後の感染は8.5%であった。局所再発は3.0%であったが,乳頭乳輪部にはなかった。さらに合併症のリスクに関してColwellらは,285症例500乳房にNSMを行い,98.8%の症例で乳房再建を併施した(再建材料はインプラントが98%,自家組織は2%で,一次一期が59%,二次一期が38%を占めていた)16)。多変量解析における合併症の危険因子とオッズ比はそれぞれBMI(皮弁壊死:1.154),喫煙(皮弁壊死:7.044),術前照射(乳頭乳輪壊死:4.861),乳輪縁切開(合併症全般:3.626,皮弁壊死:8.328,乳頭乳輪壊死:22.4)であった。Adamらはマッチドコホートスタディで乳輪直下の生検が陰性の症例であればNSMは安全な選択肢であると結論付けた17)

 以上より,NSMについても大規模な質の高い臨床試験はないものの,臨床論文数は確実に増加しており,どの報告も根治性における乳房切除との非劣性と有意な整容性に関して一致した見解である。したがって,NSMを選択するにあたっては厳密に症例を選択し,乳頭壊死などの合併症に関するインフォームドコンセントを施行のうえ,実施することが望ましい。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedで“skin—sparing mastectomy”,“nipple—sparing mastectomy”,”breast neoplasms” をキーワードに検索した。NSMに関する知見についてはAmerican Society of Clinical OncologyによるEditorial(J Clin Oncol, 2009)を参考にした。

参考文献

1) Lim W, Ko BS, Kim HJ, Lee JW, Eom JS, Son BH, et al. Oncological safety of skin sparing mastectomy followed by immediate reconstruction for locally advanced breast cancer. J Surg Oncol. 2010;102(1):39—42.
→PubMed

2) Ueda S, Tamaki Y, Yano K, Okishiro N, Yanagisawa T, Imasato M, et al. Cosmetic outcome and patient satisfaction after skin—sparing mastectomy for breast cancer with immediate reconstruction of the breast. Surgery. 2008;143(3):414—25.
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3) Lanitis S, Tekkis PP, Sgourakis G, Dimopoulos N, Al Mufti R, Hadjiminas DJ. Comparison of skin—sparing mastectomy versus non—skin—sparing mastectomy for breast cancer:a meta—analysis of observational studies. Ann Surg. 2010;251(4):632—9.
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4) Lindford AJ, Meretoja TJ, von Smitten KA, Jahkola TA. Skin—sparing mastectomy and immediate breast reconstruction in the management of locally recurrent breast cancer. Ann Surg Oncol. 2010;17(6):1669—74.
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5) Meretoja TJ, Rasia S, von Smitten KA, Asko—Seljavaara SL, Kuokkanen HO, Jahkola TA. Late results of skin—sparing mastectomy followed by immediate breast reconstruction. Br J Surg. 2007;94(10):1220—5.
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6) Carlson GW, Styblo TM, Lyles RH, Bostwick J, Murray DR, Staley CA, et al. Local recurrence after skin—sparing mastectomy:tumor biology or surgical conservatism? Ann Surg Oncol. 2003;10(2):108—12.
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7) Agrawal A, Sibbering DM, Courtney CA. Skin sparing mastectomy and immediate breast reconstruction:a review. Eur J Surg Oncol. 2013;39(4):320—8.
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8) Dreadin J, Sarode V, Saint—Cyr M, Hynan LS, Rao R. Risk of residual breast tissue after skin—sparing mastectomy. Breast J. 2012;18(3):248—52.
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9) Romics L Jr, Chew BK, Weiler—Mithoff E, Doughty JC, Brown IM, Stallard S, et al. Ten—year follow—up of skin—sparing mastectomy followed by immediate breast reconstruction. Br J Surg. 2012;99(6):799—806.
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10) Rusby JE, Smith BL, Gui GP. Nipple—sparing mastectomy. Br J Surg. 2010;97(3):305—16.
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11) Paepke S, Schmid R, Fleckner S, Paepke D, Niemeyer M, Schmalfeldt B, et al. Subcutaneous mastectomy with conservation of the nipple—areola skin:broadening the indications. Ann Surg. 2009;250(2):288—92.
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12) Petit JY, Veronesi U, Lohsiriwat V, Rey P, Curigliano G, Martella S, et al. Nipple—sparing mastectomy——is it worth the risk? Nat Rev Clin Oncol. 2011;8(12):742—7.
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13) Algaithy ZK, Petit JY, Lohsiriwat V, Maisonneuve P, Rey PC, Baros N, et al. Nipple sparing mastectomy:can we predict the factors predisposing to necrosis? Eur J Surg Oncol. 2012;38(2):125—9.
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14) Moyer HR, Ghazi B, Daniel JR, Gasgarth R, Carlson GW. Nipple—sparing mastectomy:technical aspects and aesthetic outcomes. Ann Plast Surg. 2012;68(5):446—50.
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15) Wang F, Peled AW, Garwood E, Fiscalini AS, Sbitany H, Foster RD, et al. Total skin—sparing mastectomy and immediate breast reconstruction:an evolution of technique and assessment of outcomes. Ann Surg Oncol. 2014;21(10):3223—30.
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16) Colwell AS, Tessler O, Lin AM, Liao E, Winograd J, Cetrulo CL, et al. Breast reconstruction following nipple—sparing mastectomy:predictors of complications, reconstruction outcomes, and 5—year trends. Plast Reconstr Surg. 2014;133(3):496—506.
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17) Adam H, Bygdeson M, de Boniface J. The oncological safety of nipple—sparing mastectomy— a Swedish matched cohort study. Eur J Surg Oncol. 2014;40(10):1209—15.
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