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臨床的に明らかな腋窩リンパ節転移陽性乳癌ではレベルIIまでの腋窩リンパ節郭清が勧められるか (外科療法・腋窩リンパ節郭清・センチネルリンパ節生検・ID20620)

CQ7 乳癌診療ガイドライン1治療編(226-227ページ)
推奨グレード A 臨床的に明らかな腋窩リンパ節転移陽性乳癌では,レベルⅡまでの腋窩リンパ節郭清が勧められる。

背景・目的

 腋窩リンパ節の術前画像所見が典型的なリンパ節転移像である,細胞診等で陽性である,術中所見でリンパ節転移を強く疑わせるなど,臨床的に明らかな腋窩リンパ節転移陽性乳癌に対して,根治切除が可能と考えられる場合,あえて腋窩リンパ節郭清を省略してもよいとする根拠はない。一方,局所制御の失敗が生存率を悪化させるというデータは多数ある。原発巣手術後に局所再発を起こしたほうが遠隔転移を起こしやすく1),リンパ節転移陽性乳癌の術後に胸壁照射をすると生存率が改善するといった報告2)は,まさに局所制御の重要性を示すものである。初期治療として臨床的に明らかな腋窩リンパ節転移を有する場合,郭清はどの範囲まで行うのが妥当なのかについてエビデンスをもとに検討した。

解 説

 センチネルリンパ節生検が登場する以前の時代に,臨床的腋窩リンパ節陽性乳癌でのリンパ節転移の範囲を検討した論文では,レベルⅠのみに転移を認める患者は20~58%,レベルⅠ~Ⅱに転移を認める患者は20~29%,レベルⅠ~Ⅲに転移を認める患者は16~32%であり,約20%の患者ではレベルⅢまで病理学的に転移を認めていた3)~6)。また,レベルⅠに転移を認めないが,レベルⅡあるいはⅢに転移を認める患者(skip metastasis)は1.5~14.0%3)~6)と,ある一定数は存在する。

 適切な腋窩リンパ節郭清範囲を決定するため,臨床的N0—1までを対象としたランダム化比較試験が日本で行われた7)。レベルⅠまでとレベルⅢまで郭清した群の比較で,レベルⅢまで郭清した群では,レベルⅡの転移を4.7%に,レベルⅢの転移を7.4%に認めた。しかし,両群間で局所・所属リンパ節再発を含め,無再発生存率,全生存率に有意な差を認めなかった。この結果から術前腋窩リンパ節の評価がN0—1の患者においてはレベルⅠまでの郭清で十分であると結論された。一方,郭清したリンパ節の個数が術後の腋窩リンパ節再発の頻度に関連するという欧米の報告がある。郭清したリンパ節が3個以下の患者で腋窩リンパ節再発率21%に対して,5個以上郭清した患者では再発率2.4%であった8)。現在ではこの年代と異なり術後薬物療法だけでなく放射線治療も含めた集学的治療が施行されるとはいえ,不十分な郭清は腋窩再発を起こす可能性が高いことを示している。

 腋窩リンパ節郭清に伴う合併症(腋窩漿液腫,肩関節の硬直,上腕の知覚鈍麻,上肢の浮腫など)は,郭清範囲が拡大すれば頻度は増加することが知られている9)。しかし,局所制御が生存率の向上につながることが,データの蓄積から明らかとなってきており,EBCTCGのメタアナリシスでも局所再発の増加が15年生存率の低下と関係していることが示された10)。特にリンパ節転移陽性の場合,適切な手術と照射との組合せにて生存率の改善効果は高い。

 以上をまとめると,臨床的に明らかでないsubclinicalなリンパ節転移については,一定数で存在し得ることは過去の研究で示されているものの,照射や薬物療法などの適切な術後療法によってその後の予後に影響しない可能性が十分に考えられる。しかし,術前・術中に臨床的に明らかな腋窩リンパ節転移陽性の患者に関しては,レベルⅡまでの郭清が標準である。術中に明らかなレベルⅢの転移陽性のリンパ節が疑われるときには,その範囲を含めて十分な郭清をすることが望ましい。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms,“Neoplasm Recurrence,Local”,Lymphatic Metastasis のキーワードを用いて検索した。重要と思われる論文と,UpToDate 2014の“management of the regional lymph nodes in breast cancer”の項目を二次資料として活用した。

参考文献

1) Schmoor C, Sauerbrei W, Bastert G, Schumacher M. Role of isolated locoregional recurrence of breast cancer:results of four prospective studies. J Clin Oncol. 2000;18(8):1696—708.
→PubMed

2) Whelan TJ, Julian J, Wright J, Jadad AR, Levine ML. Does locoregional radiation therapy improve survival in breast cancer? A meta—analysis. J Clin Oncol. 2000;18(6):1220—9.
→PubMed

3) Rosen PP, Lesser ML, Kinne DW, Beattie EJ. Discontinuous or “skip” metastases in breast carcinoma. Analysis of 1228 axillary dissections. Ann Surg. 1983;197(3):276—83.
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4) Veronesi U, Rilke F, Luini A, Sacchini V, Galimberti V, Campa T, et al. Distribution of axillary node metastases by level of invasion. An analysis of 539 cases. Cancer. 1987;59(4):682—7.
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5) Chevinsky AH, Ferrara J, James AG, Minton JP, Young D, Farrar WB. Prospective evaluation of clinical and pathologic detection of axillary metastases in patients with carcinoma of the breast. Surgery. 1990;108(4):612—7;discussion 617—8.
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6) Danforth DN Jr, Findlay PA, McDonald HD, Lippman ME, Reichert CM, d’Angelo T, et al. Complete axillary lymph node dissection for stage I—II carcinoma of the breast. J Clin Oncol. 1986;4(5):655—62.
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7) Kodama H, Nio Y, Iguchi C, Kan N. Ten—year follow—up results of a randomized controlled study comparing level—I vs level—III axillary lymph node dissection for primary breast cancer. Br J Cancer. 2006;95(7):811—6.
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8) Fowble B, Solin LJ, Schultz DJ, Goodman RL. Frequency, sites of relapse, and outcome of regional node failures following conservative surgery and radiation for early breast cancer. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1989;17(4):703—10.
→PubMed

9) Pezner RD, Patterson MP, Hill LR, Lipsett JA, Desai KR, Vora N, et al. Arm lymphedema in patients treated conservatively for breast cancer:relationship to patient age and axillary node dissection technique. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1986;12(12):2079—83.
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10) Clarke M, Collins R, Darby S, Davies C, Elphinstone P, Evans E, et al;Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG). Effects of radiotherapy and of differences in the extent of surgery for early breast cancer on local recurrence and 15—year survival:an overview of the randomised trials. Lancet. 2005;366(9503):2087—106.
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