日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

腋窩リンパ節郭清術後の患側上肢のリハビリテーションは勧められるか (外科療法・腋窩リンパ節郭清・センチネルリンパ節生検・ID20720)

CQ17 乳癌診療ガイドライン1治療編(249-250ページ)
推奨グレード B 腋窩リンパ節郭清術後の患側上肢のリハビリテーションは勧められる。

推奨グレードを決めるにあたって

 システマティック・レビューにより,リハビリテーションによる術後短期の効果が認められている(エビデンスレベル1a)が,試験ごとの介入の内容や時期にばらつきが大きいため,推奨グレードをBとした。

背景・目的

 センチネルリンパ節生検の登場により,乳癌手術に伴う上肢機能障害は減少しているもののいまだに存在し,その程度は腋窩郭清群で66%に対し,センチネルリンパ節生検群で36%と報告されている1)。乳房再建を行うとさらに上肢機能障害のリスクは高くなるとされている2)。患側上肢のリハビリテーションの介入方法は施設によって大きく異なる。EBMの観点から術後のリハビリテーションの必要性について検討した。

解 説

 乳癌術後の上肢機能障害としては,肩関節可動域低下(<1%~67%),腕の筋力低下(9~28%),肩・腕の疼痛(9~68%),リンパ浮腫(0~34%)が報告されている2)。術後早期では,手術自体,術後の固定,感染,axillary web syndrome注)がその原因といわれている。

 2010年にコクラン・レビューから,乳癌治療による上肢機能障害に対する理学療法による運動介入(リハビリテーション)の効果に関して,ランダム化比較試験全24試験(全2,132例)のシステマティック・レビューが報告された3)。全試験中,放射線療法中の運動介入を比較した2試験以外はすべて腋窩リンパ節郭清施行症例であった。このうち14試験においては,運動介入と通常の指導が比較された。介入の時期はさまざまであったが(術直後6試験,術後治療中3試験,術後治療終了後5試験),このうち,術直後においては,運動訓練プログラムによって,有意に術後短期における肩関節屈曲可動域が回復した。特に3カ月以上の理学療法は,介入なしの群と比較して,介入直後と6カ月後の肩関節機能を改善した。一方で,運動介入によってリンパ浮腫の発症率は低下した(外科CQ 18参照)。また,残りの10試験においては,術後の運動介入の開始時期〔早期(術後1~3日)と遅延(術後4日以降)〕が比較された。早期開始のほうが,遅延開始より短期間に肩関節屈曲の可動域が回復した。しかし,早期開始は,統計学的に有意に創部のドレナージ排液量が増加し,ドレーン留置期間が延長した。

 乳房切除術と乳房温存手術の比較では,乳房切除術のほうが乳房温存手術より肩関節機能の影響が大きく,回復に時間がかかるとする報告4)~6)が多い。上肢機能障害の程度や積極的なリハビリテーション介入の必要性についてはさまざまな要因が関連するため,基本的には個別に評価する必要がある。正確な評価には,術前・術後に前向きのサーベイランスを行う必要があり2)7),多職種からなるチーム医療による実施が適している。腋窩郭清は術後1年以上経過後の肩関節機能にも影響するため8),長期にわたる評価の必要性についても検討が必要である。

 腋窩リンパ節郭清術後の上肢のリハビリテーションは,術後短期の肩関節可動域の改善には意義がある。開始時期については術後早期の介入を考慮すべきであるが,ドレーン排液量の増加と留置期間が延長することに注意する必要がある。理学療法による積極的なリハビリテーション介入の必要性に関しては,個々の患者ごとに評価を行い決定すべきであろう。

 センチネルリンパ節生検症例においても,上肢機能障害の頻度は少なくないため(内転障害44.4%,外転障害0~41.4%),軽視せず評価していく必要がある9)

注)axillary web syndrome:腋窩郭清術後に,腋窩やときには肘前や遠位の腕前内側に線維化した帯状の膜を認める状態をいう2)

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms/surgery,Mastectomy/rehabilitation,Lymph Node Excision/rehabilitation,Physical Therapy Modalitiesのキーワードを用い検索した。また,The Cochrane Library 2010を参考資料として利用した。

参考文献

1) Langer I, Guller U, Berclaz G, Koechli OR, Schaer G, Fehr MK, et al. Morbidity of sentinel lymph node biopsy(SLN)alone versus SLN and completion axillary lymph node dissection after breast cancer surgery:a prospective Swiss multicenter study on 659 patients. Ann Surg. 2007;245(3):452—61.
→PubMed

2) McNeely ML, Binkley JM, Pusic AL, Campbell KL, Gabram S, Soballe PW. A prospective model of care for breast cancer rehabilitation:postoperative and postreconstructive issues. Cancer. 2012;118(8 Suppl):2226—36.
→PubMed

3) McNeely ML, Campbell K, Ospina M, Rowe BH, Dabbs K, Klassen TP, et al. Exercise interventions for upper—limb dysfunction due to breast cancer treatment. Cochrane Database Syst Rev. 2010;(6):CD005211.
→PubMed

4) Gosselink R, Rouffaer L, Vanhelden P, Piot W, Troosters T, Christiaens MR. Recovery of upper limb function after axillary dissection. J Surg Oncol. 2003;83(4):204—11.
→PubMed

5) Lauridsen MC, Overgaard M, Overgaard J, Hessov IB, Cristiansen P. Shoulder disability and late symptoms following surgery for early breast cancer. Acta Oncol. 2008;47(4):569—75.
→PubMed

6) Nesvold IL, Dahl AA, Løkkevik E, Marit Mengshoel A, Fosså SD. Arm and shoulder morbidity in breast cancer patients after breast-conserving therapy versus mastectomy. Acta Oncol. 2008;47(5):835—42.
→PubMed

7) Stout NL, Binkley JM, Schmitz KH, Andrews K, Hayes SC, Campbell KL, et al. A prospective surveillance model for rehabilitation for women with breast cancer. Cancer. 2012;118(8 Suppl):2191—200.
→PubMed

8) Levangie PK, Drouin J. Magnitude of late effects of breast cancer treatments on shoulder function:a systematic review. Breast Cancer Res Treat. 2009;116(1):1—15.
→PubMed

9) Verbelen H, Gebruers N, Eeckhout FM, Verlinden K, Tjalma W. Shoulder and arm morbidity in sentinel node-negative breast cancer patients:a systematic review. Breast Cancer Res Treat. 2014;144(1):21—31.
→PubMed

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