日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

術前薬物療法後の乳房再建は勧められるか (外科療法・乳房再建・ID20780)

CQ22 乳癌診療ガイドライン1治療編(264-266ページ)
推奨グレード C1 術前薬物療法後の乳房再建は勧められるが,適用にあたっては細心の注意が必要である。

推奨グレードを決めるにあたって

 術前薬物療法後の乳房再建に関してはエビデンスが十分ではなく,合併症の頻度についての見解も一致していないため,推奨グレードはC1とした。

背景・目的

 近年,サブタイプに基づいた乳癌治療が標準となってきており,術前薬物療法の適用が広がっている。特に局所進行例では術前薬物療法を行う症例が多く,乳房再建に及ぼす影響についてその安全性,妥当性を検証した。

解 説

 術前薬物療法は,術後経過の観点からは創傷治癒の遅延や易感染性の原因になり得ると考えられるため,術後治療の遅延にもつながることが懸念されてきた。したがって,乳房再建が付加されることによって有害事象は一層増加する可能性があり,その適用については臨床的なコンセンサスが得られていないのが現状である。

 Azzawiは同時再建(人工乳房か自家組織かは問わない)を伴う乳癌症例171例を対象として,術前薬物療法を受けた53例と術前薬物療法を受けていない118例との比較検討を行った1)。平均観察期間21カ月(7~64カ月)の時点における術後合併症は,薬物療群では軽症が10%,重症が9%に対し,薬物療法なし群ではそれぞれ6%と9%であり,術後照射の遅延した割合は薬物療法群が10%,薬物療法なし群が11%といずれも両群間に差はなく,術前薬物療法は一次再建術における有害事象の増加につながらないと結論付けた。また,Warrenらは,一次再建を受けた乳房切除症例163例の術後観察期間19.2カ月における合併症について,術前薬物療法:A群57例,術後薬物療法:B群41例および薬物療法のないC群65例を比較した2)。創感染はA群23%,B群44%,C群25%であり,術後薬物療法群が有意に高かった(p=0.05)。再建材料関連の合併症は,インプラント抜去につながったものがA群26%,B群22%,C群18%,筋皮弁の修復を要したものがA群12%,B群11%,C群20%,緊急再手術はA群33%,B群32%,C群28%と有意差を認めなかった。

 Liuらは,術前薬物療法が組織拡張器を用いた乳房同時再建術に与える影響を後ろ向きに検討した3)。術前薬物療法は組織拡張器を用いた二期再建における合併症を増加させることはなく,術後経過中,薬物療法群12例,薬物療法なし群63例ともに局所再発を認めず,遠隔転移は前者に1例(術後11カ月後),後者に2例(術後32カ月後)認めたと報告した。また,Huらは,術前薬物療法180例と術後薬物療法を受けた485例について詳細な検討をしている4)。再建を受けた割合は術前群が44.4%,術後群が58.1%であった。術前群における再建の時期は一次再建が16.4%,二次再建が33.7%と,有意に一次再建例が少なかった(p<0.01)。これに対して術後群における一次再建の割合は44%であり,再建時期が遅延した割合は術前群で21%,術後群で14%であった(p<0.01)。多変量解析における有意な合併症予測因子は高年齢,高BMI,T3以上の腫瘍,および同時再建であった。Aurilioらは術前薬物療法後の進行乳癌症例133例について,乳房再建の有無による比較検討を行ったが,無病生存率,遠隔転移率には有意差はなく,乳房再建例においてはエストロゲン受容体が陰性の場合,有意に局所再発率が高かったと報告している5)

 このように最近の報告では術前化学療法施行後の乳房再建については安全性,根治性ともに問題はないとする症例対照研究が増えており,臨床的にはコンセンサスが得られつつあるといえる6)~10)

 しかし,一方で懐疑的な報告もある。Mitchemらは術前化学療法を受けたStageⅡ/Ⅲ乳癌120例中,一次再建を受けた乳房切除34例を対象に術前化学療法が組織拡張器やインプラントの留置に及ぼす影響を検討した11)。26例が組織拡張器挿入,4例がインプラント挿入,4例が自家組織による再建を行っていた。同時再建術後に,38%の症例で組織拡張器やインプラントの抜去を余儀なくされた。術前化学療法後の組織拡張器やインプラントを用いた同時再建は計2~5回の手術を受ける場合があり,感染や組織の壊死などによって人工乳房を抜去する危険性が高いので事前に患者への十分な説明を徹底するべきであると警告している。さらにAmoutは炎症性乳癌を含む局所進行乳癌に対する術式の適用についてのレビューの中で,局所進行乳癌は術後照射の可能性も考慮すれば,合併症の頻度も高くインプラント抜去の可能性があるため,自家組織を用いたほうが合併症を減らせるとまとめている12)

 以上より,術前薬物療法後の乳房再建については安全性,根治性共ともに問題ない可能性が高いが,その見解は必ずしも一致していないため慎重に実施されるべきである。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedでneoadjuvant chemotherapy,breast carcinoma,breast reconstruction,follow up,outcomeをキーワードに検索し,重要なものを選択した。国内文献で参考となるものはなかった。

参考文献

1) Azzawi K, Ismail A, Earl H, Forouhi P, Malata CM. Influence of neoadjuvant chemotherapy on outcomes of immediate breast reconstruction. Plast Reconstr Surg. 2010;126(1):1—11.
→PubMed

2) Warren Peled A, Itakura K, Foster RD, Hamolsky D, Tanaka J, et al. Impact of chemotherapy on postoperative complications after mastectomy and immediate breast reconstruction. Arch Surg. 2010;145(9):880—5.
→PubMed

3) Liu Y, Mori H, Hata Y. Does neoadjuvant chemotherapy for breast cancer increase complications during immediate breast reconstruction? J Med Dent Sci. 2009;56(1):55—60.
→PubMed

4) Mitchem J, Herrmann D, Margenthaler JA, Aft RL. Impact of neoadjuvant chemotherapy on rate of tissue expander/implant loss and progression to successful breast reconstruction following mastectomy. Am J Surg. 2008;196(4):519—22.
→PubMed

5) Hu YY, Weeks CM, In H, Dodgion CM, Golshan M, Chun YS, et al. Impact of neoadjuvant chemotherapy on breast reconstruction. Cancer. 2011;117(13):2833—41.
→PubMed

6) Aurilio G, Bagnardi V, Graffeo R, Nolè F, Petit JY, Locatelli M, et al. Does immediate breast reconstruction after mastectomy and neoadjuvant chemotherapy influence the outcome of patients with non—endocrine responsive breast cancer? Anticancer Res. 2014;34(11):6677—83.
→PubMed

7) Zweifel—Schlatter M, Darhouse N, Roblin P, Ross D, Zweifel M, Farhadi J. Immediate microvascular breast reconstruction after neoadjuvant chemotherapy:complication rates and effect on start of adjuvant treatment. Ann Surg Oncol. 2010;17(11):2945—50.
→PubMed

8) Giacalone PL, Rathat G, Daures JP, Benos P, Azria D, Rouleau C. New concept for immediate breast reconstruction for invasive cancers:feasibility, oncological safety and esthetic outcome of post—neoadjuvant therapy immediate breast reconstruction versus delayed breast reconstruction:a prospective pilot study. Breast Cancer Res Treat. 2010;122(2):439—51.
→PubMed

9) Donker M, Hage JJ, Woerdeman LA, Rutgers EJ, Sonke GS, Vrancken Peeters MJ. Surgical complications of skin sparing mastectomy and immediate prosthetic reconstruction after neoadjuvant chemotherapy for invasive breast cancer. Eur J Surg Oncol. 2012;38(1):25—30.
→PubMed

10) Monrigal E, Dauplat J, Gimbergues P, Le Bouedec G, Peyronie M, Achard JL, et al. Mastectomy with immediate breast reconstruction after neoadjuvant chemotherapy and radiation therapy. A new option for patients with operable invasive breast cancer. Results of a 20 years single institution study. Eur J Surg Oncol. 2011;37(10):864—70.
→PubMed

11) Lim W, Ko BS, Kim HJ, Lee JW, Eom JS, Son BH, et al. Oncological safety of skin sparing mastectomy followed by immediate reconstruction for locally advanced breast cancer. J Surg Oncol. 2010;102(1):39—42.
→PubMed

12) Arnaout A, Boileau JF, Brackstone M. Surgical considerations in locally advanced breast cancer patients receiving neoadjuvant chemotherapy. Curr Opin Support Palliat Care. 2014;8(1):39—45.
→PubMed

乳癌診療ガイドライン

PAGETOP
Copyright © 一般社団法人日本乳癌学会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.