日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

乳癌手術時の予防的抗菌薬投与は勧められるか (外科療法・その他・ID20880)

CQ31 乳癌診療ガイドライン1治療編(288-289ページ)
推奨グレード B 乳癌手術時の予防的抗菌薬投与は勧められる。

推奨グレードを決めるにあたって

 システマティック・レビューにより予防的抗菌薬投与による手術部位感染のリスク減少は確認されているが(エビデンスレベル1a),乳癌手術侵襲の低下に伴い抗菌薬投与の必要性も低下する可能性がある。少なくとも感染リスクを有する患者への抗菌薬投与は勧められると判断し,推奨グレードをBとした。

背景・目的

 一般に感染率の低い清潔手術には予防的抗菌薬投与の必要性は少なく(感染が重篤な結果をもたらす心臓,脳,人工血管,人工関節手術は除く),感染のリスクを有する症例のみへの投与が勧められている。乳癌手術に対する予防的抗菌薬投与の必要性については,EBMの観点と,近年における乳癌手術の低侵襲化という時代背景を考慮する必要がある。両者の観点から乳癌手術時の予防的抗菌薬投与の有効性とその使用法について検討した。

解 説

 EBMの観点からは,2006年に発表された乳房手術についてのランダム化比較試験5試験のメタアナリシス(全1,307例)において,プラセボ群に比べ抗菌薬投与群で創感染のリスクの減少(40%低下)が確認されている1)。また,2014年に改訂されたコクラン・レビューによる乳癌手術についてのランダム化比較試験10試験のシステマティック・レビュー(全2,823例)でも,プラセボ群に比べ予防的抗菌薬投与群で乳癌手術患者の手術部位感染(SSI)のリスクの減少(33%低下)が確認されている2)

 一方で,コクラン・レビューで抽出されたランダム化比較試験10試験中6試験が2005年以前の試験であり,抗菌薬未使用群のSSI発生率は8.5~18.8%とやや高めであった。最も症例数の多いHallらの試験では予防的抗菌薬投与群のSSI発生率は3.2%であったが,未投与群でも4.6%と低く,有意なSSI減少効果は確認されなかった3)。近年の乳癌手術侵襲は低下してきており,乳房温存手術やセンチネルリンパ節生検による腋窩リンパ節郭清省略例などドレーン留置も不要な症例が増加している。手術侵襲の低下により,SSI発生率が低下し,予防的抗菌薬投与の有効性は少なくなる可能性がある。低侵襲乳癌手術に対する抗菌薬投与の有効性に関するより新しいランダム化比較試験の集積が必要となる。

 2012年のメタアナリシスによると,SSI発生の有意なリスク因子としては,高齢,高血圧,BMI高値,糖尿病,米国麻酔科学会における全身状態分類(ASA)3または4,乳房生検または手術既往歴,術前放射線化学療法,温存療法以外の乳癌手術,血腫,漿液腫(seroma),術中出血,術後ドレーン留置,長期のドレーン留置期間であった4)。Penelらは,術前化学療法・乳房再建患者を手術部位感染の高リスク群として選択的に予防的抗菌薬投与を行ったところ,有意に手術部位感染が減少したとして高リスク群への選択的投与が有効であるとしている5)

 予防的抗菌薬の投与方法としては,麻酔導入時の経静脈投与(または皮切前30分以内)が推奨される。抗菌薬の種類と投与回数に関しては安全性,有効性,経済性,耐性菌発生阻止の観点から第一世代セファロスポリン系薬(ほとんどのガイドラインでセファゾリン1~2 gが推奨されている)の単回投与が推奨される。ただし,再建手術など長時間となる手術(血漿半減期の2倍以上:セファゾリンの場合3~4時間以上)では術中の追加投与を考慮する必要がある。投与期間に関しては,Throckmortonらは,乳癌術後の抗菌薬の追加投与によって,SSI発生率は低下しなかったとしている6)。一方で,Claytonらは,組織拡張器や人工物を用いた乳房再建術を行った症例では術前の抗菌薬投与のみではSSIや再手術が多く,不十分であるとしている7)が,至適投与期間についてはさらなる検討が必要である。

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,Breast Neoplasms/surgery,Mastectomy,Surgical Wound Infection,Anti—Bacterial Agents,Antibiotic Prophylaxisのキーワードを用い検索した。さらに,CDCのガイドライン8),SIGN(Scottish Intercollegiate Guidelines Network)のガイドライン(www.sign.ac.uk:No. 104;Antibiotic prophylaxis in surgery,2008年),The Cochrane Library 2014を参考資料として利用した。

参考文献

1) Tejirian T, DiFronzo LA, Haigh PI. Antibiotic prophylaxis for preventing wound infection after breast surgery:a systematic review and metaanalysis. J Am Coll Surg. 2006;203(5):729—34.
→PubMed

2) Jones DJ, Bunn F, Bell—Syer SV. Prophylactic antibiotics to prevent surgical site infection after breast cancer surgery. Cochrane Database Syst Rev. 2014;3:CD005360.
→PubMed

3) Hall JC, Willsher PC, Hall JL. Randomized clinical trial of single—dose antibiotic prophylaxis for non—reconstructive breast surgery. Br J Surg. 2006;93(11):1342—6.
→PubMed

4) Xue DQ, Qian C, Yang L, Wang XF. Risk factors for surgical site infections after breast surgery:a systematic review and meta—analysis. Eur J Surg Oncol. 2012;38(5):375—81.
→PubMed

5) Penel N, Yazdanpanah Y, Chauvet MP, Clisant S, Giard S, Neu JC, et al. Prevention of surgical site infection after breast cancer surgery by targeted prophylaxis antibiotic in patients at high risk of surgical site infection. J Surg Oncol. 2007;96(2):124—9.
→PubMed

6) Throckmorton AD, Boughey JC, Boostrom SY, Holifield AC, Stobbs MM, Hoskin T, et al. Postoperative prophylactic antibiotics and surgical site infection rates in breast surgery patients. Ann Surg Oncol. 2009;16(9):2464—9.
→PubMed

7) Clayton JL, Bazakas A, Lee CN, Hultman CS, Halvorson EG. Once is not enough:withholding postoperative prophylactic antibiotics in prosthetic breast reconstruction is associated with an increased risk of infection. Plast Reconstr Surg. 2012;130(3):495—502.
→PubMed

8) Mangram AJ, Horan TC, Pearson ML, Silver LC, Jarvis WR. Guideline for Prevention of Surgical Site Infection, 1999. Centers for Disease Control and Prevention(CDC)Hospital Infection Control Practices Advisory Committee. Am J Infect Control. 1999;27(2):97—132;quiz 133—4;discussion 96.
→PubMed

乳癌診療ガイドライン

PAGETOP
Copyright © 一般社団法人日本乳癌学会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.