日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

総論:乳癌放射線療法の基本原則 (放射線療法・総論・ID30920)

乳癌診療ガイドライン1治療編(298-305ページ)

総論:乳癌放射線療法の基本原則

解 説

(1)乳癌の疾患概念

 近代における乳癌治療は1890年代に原発巣,リンパ節転移,全身へと順序立てて広がるとするハルステッド理論が提唱されてから約一世紀の間,放射線療法も手術より広い範囲を補完する局所治療として活躍してきた。

 しかし,郭清範囲を拡大しても生存率は改善せず,そのうち有効な全身療法が導入されるようになると,Fisherらによる全身病モデルが提唱されるようになった。そして化学療法や内分泌療法の併用により生存率が向上することが示されると,それまでほぼルーチンに施行されていた乳房切除術後放射線療法(postmastectomy radiation therapy;PMRT)は激減した。

 しかし,1997年にデンマークとカナダから2つのランダム化比較試験の結果が報告され1)2),高リスク群に対する全身化学療法を併用したPMRTは局所再発率を減らすだけでなく,生存率も向上させることが示された。それまでは,局所再発率は減らせても生存率向上には結びつかず,低リスク群や高齢者では,むしろ心臓障害等の晩期有害事象により生存率は低下していた3)。これは,低リスクの患者も含めて,古い治療技術を用いた術後照射が行われていたためと考えられる。

 2005年のEBCTCG(Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group)によるシステマティック・レビューでもリンパ節転移陽性の高リスク群ではPMRTにより局所制御率が改善されるだけでなく,生存率の向上も確認された4)。また,乳房温存手術後では腋窩リンパ節転移の有無に関係なく,術後照射による局所制御率や生存率の向上が報告された。

 このような報告を受けて放射線腫瘍学の分野では,乳癌の疾患概念についてスペクトラム理論が支持されるようになっている5)。すなわち乳癌は原発巣からリンパ節転移を経て血行性転移をするというハルステッド理論と,臨床的に発見されたときにはすでに全身に転移しているという全身病モデルが混在しているというものである。

(2)初期治療の目的と対象

 放射線療法の適応となるのは,局所病変による再発のリスクがある程度,高い場合である。

 先述のシステマティック・レビューによると術後照射などの積極的介入を加えても5年目の局所再発率の減少が10%未満にとどまる臨床試験では,15年原病生存率にほとんど差がみられなかった。一方,積極的治療により5年目の局所再発率が10%を超えて減少した25,000人でみたところ,介入群の5年局所再発率が7%であったのに対して対照群では26%となり,19%の大きな差がみられた。このような群では乳癌による15年死亡率もそれぞれ44.6%および49.5%となり,有意に死亡率の減少がみられた。乳房温存手術後の照射により5年局所再発率が非照射群の26%から照射群の7%へと大きく減少した7,300人では,乳癌による15年死亡率も35.9%から30.5%へと有意に改善した。さらに乳房切除術時の腋窩リンパ節郭清により,リンパ節転移陽性で胸壁および所属リンパ節へ照射した8,500人でも同様の効果がみられた。すなわち5年局所(主に胸壁および所属リンパ節)再発率は照射群で6%,非照射群で23%と前者で大きく減少し,乳癌による15年死亡率もそれぞれ54.7%および60.1%とPMRTにより有意に低下した。また,全死亡率でみても絶対差4.4%となり,有意に改善した。このような放射線療法の局所制御の効果は年齢や腫瘍因子,全身療法の併用に関係なく,一定の割合でみられ,対照群のリスクが高いほど効果的であった4)

 前項で述べたように乳癌術後の局所制御は長期生存率に影響するので,局所再発のリスクが高い患者には初期治療としての集学的治療の中で放射線療法が積極的に検討されるべきである。

(3)再発後治療の目的と対象

 局所・所属リンパ節再発:局所再発とは乳房温存療法後では乳房内への,乳房切除術後では胸壁への再発のことであり,所属リンパ節再発とは腋窩,鎖骨上あるいは胸骨傍リンパ節への再発である。一般的に初期治療として放射線療法が用いられた場合は,耐容線量近くまで照射されるので同じ部位への照射は困難である。よって放射線療法が適応となる局所・所属リンパ節再発は乳房温存療法後では鎖骨上リンパ節再発,乳房切除術後では初期治療で非照射の場合の胸壁再発が多い。このような再発に対しては集学的治療により長期間の無病生存期間の継続を目標とする。

 遠隔再発:血行性転移であり,乳癌で放射線療法の適応となるのは骨転移や脳転移の場合である。これらの部位に対する放射線療法は,基本的に治癒は望めないが,疼痛など患者のQOLを低下させているさまざまな症状を緩和するために用いられる。

(4)放射線療法の種類と対象疾患

 X線:乳癌初期治療ではリニアック(直線加速器)による4~6 MVのエネルギーを用いることが多い。皮膚表面から1~1.5 cmの深さにピークがあり,体の深部に行くほど線量は減少する。

 電子線:X線と同じくリニアックより発生する。飛程が短く,深層に達しないため,比較的表在性の病変の治療に用いられる。乳房温存療法では,全乳房照射後の腫瘍床への追加照射や,PMRTにおける胸壁あるいは胸骨傍リンパ節領域照射に用いられることがある。

 小線源療法:ワイヤー状やシード状(カプセル状)などの放射性物質を用いて,組織内照射や腔内照射として体の中から放射線を照射する。線源としては主にイリジウム—192(192Ir)が用いられ,中程度のエネルギーのガンマ線を放出する。加速乳房部分照射(accelerated partial breast irradiation;APBI)において用いられることがある。

 陽子線,重粒子線:発生装置はシンクロトロンやサイクロトロンで大規模,高額であり,実施施設は限られる。体の中のある深さにおいて急激に線量が増加し,狭い範囲にピーク状の高い線量を与える。乳癌初期治療でのエビデンスは低く,臨床試験レベルである。ごく一部の限局性再発に対して先進医療として行われているがその意義は今のところ不明である。

 脳転移に対する定位放射線照射:定位放射線照射(stereotactic irradiation;STI)は高い位置精度を確保した状態で,脳腫瘍に対して三次元的に多方向から脳転移に放射線を集中的に照射する方法である。1回の照射で治療を行う定位手術的照射(stereotactic radiosurgery;SRS)と数回に分割して照射する定位放射線治療(stereotactic radiotherapy;SRT)がある。

 ガンマナイフ:脳転移に対して用いられることが多い。頭部を覆うヘルメットに201個のコバルト線源を配置し,コバルト線源からのガンマ線を用いる。従来,頭蓋骨に直接金属ネジを刺入して金属フレームを固定した状態で,画像検査・治療計画・治療の一連の操作を行う必要があった。その場合,高い位置精度が得られる一方で,数回に分けて照射するSRTには不適であった。最新のガンマナイフ装置では,着脱式の固定具も使用可能となり,SRTも施行可能となっている。

 リニアックを用いた定位放射線照射:汎用のリニアックの照射口にコーンまたは特殊な多分割コリメータ注1)を使用し,ガンマナイフと同様にナロービームで多方向から照射する。

 サイバーナイフ:小型のリニアックを工業用ロボットで操作して,多方向から病巣に放射線を集中させる。着脱可能な固定具を使用する。

(5)主な照射方法(表1)

 全乳房照射:原発腫瘤とその周囲を摘出し,全乳房組織をターゲットとして術後照射を行う。ターゲット内の線量分布を均等にするためにウェッジフィルターやField—in—field法注2)が用いられることが多いが,欧米では強度変調放射線治療注3)を行う施設もある。肺や心臓などのリスク臓器の被曝低減のために呼吸同期法が用いられることもある。通常は1回線量を2 Gyとし,5週間の治療期間を要するが,寡分割照射法では1回線量を増量し,総治療期間の短縮を図る。

 ブースト照射:全乳房照射後に再発のリスクが高い切除腔およびその周囲組織(腫瘍床)に追加照射することである。通常は電子線を用いて分割照射法で行う。

 乳房部分照射:全乳房照射後の温存乳房内再発の約70%はもとの腫瘍床近傍から発生することより,全乳房照射ではなく,腫瘍床のみを対象とした照射法である。方法としては術中照射,小線源治療,X線による外照射があり,総照射期間を1回ないし2週間程度に短縮した場合は加速乳房部分照射(APBI)と呼ばれる。

 乳房温存療法における所属リンパ節照射:乳房温存手術後の全乳房照射では所属のリンパ節領域を意図的にはターゲットに含めないが,高リスク患者では鎖骨上リンパ節領域を含めることが多い。

 乳房切除術後照射:胸壁および所属リンパ節を含む照射法であり,ターゲット内の均一な線量分布,各照射野との接合部分の合致,リスク臓器の被曝低減が要求される複雑な照射法の一つである。症例によっては創部にブースト照射することもある。X線単独あるいは電子線との併用にて照射する。皮膚線量を高めるために組織等価のボーラスを胸壁に装着して照射することがある。1回線量は2 Gyとする通常分割法を用い,一般的には寡分割照射法は採用しない。

 骨転移に対する照射:疼痛緩和を目的として行われる。これまでは分割照射法で治療されてきたが,最近は8 Gyの1回照射も用いられるようになっている。ストロンチウム—89製剤による内用療法も用いられる。

 脳転移に対する照射:症状改善や時に予後の改善を目的として照射される。脳全体に分割照射をする全脳照射と,病巣部位のみに限局して1回ないし複数回の照射をする定位手術的照射あるいは定位放射線治療がある。

P301_表1

(6)放射線療法による有害事象

 全身:照射期間中に全身倦怠感を訴えることもあるが,終了後2カ月程度までには回復する。

 皮膚,乳房:乳房温存手術後の放射線療法では,ほとんどの患者において急性期に軽度の放射線皮膚炎がみられ,しばらくは色素沈着が残る。乳房の硬さの増加,発汗や皮脂分泌の低下,乳房痛も,照射後数年間はみられることが多いが,軽微である。

 :乳房温存療法における放射線肺臓炎はJoint Center for Radiation Therapy(JCRT)で治療した1,624人中,1.0%でみられ,照射後2~19週(中央値7週)で発症した。順次よりも同時に化学療法を併用する場合や鎖骨上窩を含む広い照射野で治療するときに放射線肺臓炎のリスクが増加する6)。比較的稀ではあるが,照射後1年以内に乾性咳嗽などの呼吸器症状を主とするBOOP(bronchiolitis obliterans organizing pneumonia)様肺炎がみられることがある。その原因や機序について詳細は不明であるが,日本の全国調査では1.8%(37/2,056人)にみられている7)

 PMRTにおいては照射範囲が広くなることもあり,肺への障害は強くなる。デューク大学医療センターではステロイドを要する放射線肺臓炎は全体で2.4%にみられた8)。接線照射のみで治療した場合には放射線肺臓炎は0.9%に生じたが,リンパ節領域照射を加えると4.1%に増加した。しかし,胸骨傍リンパ節領域を接線照射野とは別に前(斜)方からX線と電子線の混合ビームで治療すると肺臓炎はみられなかった。このように,放射線肺臓炎の頻度は照射野に含まれる肺容積や線量,さらには化学療法の併用により左右される。

 上肢,神経,骨:乳房手術後の晩期有害事象である上肢浮腫は腋窩リンパ節郭清の程度や照射範囲に左右される9)10)。マサチューセッツ総合病院からの前向きコホート研究の報告では,乳房または胸壁のみ照射した患者と比べてリンパ節領域照射を加えることによってハザード比1.7(p=0.025)であった10)。上腕神経叢障害は鎖骨上窩にも照射した患者でのみ1.8%にみられたが,50 Gy以上の腋窩線量,さらには化学療法との併用により頻度は増加した11)

 PMRTによる晩期有害事象として上肢浮腫が問題となることが多い。乳房切除術後に放射線療法をしなければ上肢浮腫の合併頻度は平均3%であるが,放射線療法をすることにより12%に増加する12)。肋骨骨折は1.8%にみられる13)

 心臓:PMRTにおいて,古い時代の照射手技では,左側乳癌治療後の心臓の晩期有害事象が少なくなかった。1975年以前に開始されたランダム化比較試験を用いたメタアナリシスでは,照射群で心臓死が増加していた12)。1982~1988年に診断されたオンタリオ州癌登録を用いた分析によると,高齢,喫煙歴および急性心筋梗塞の既往などのリスク因子に加えて,左側乳癌,前方からの胸骨傍リンパ節領域への照射,さらには左側前方からの追加照射野の拡大に伴い,急性心筋梗塞のリスクが増加した13)。一方,心臓への吸収線量を減らすために胸骨傍リンパ節や胸壁には電子線を用いて48~50 Gy/22~25回を照射したデンマークの臨床試験では,12年経過しても虚血性心疾患は増加しなかった14)。米国SEER(Surveillance, Epidemiology and End Results)の30万人以上の長期データベースを用いた報告でも,1970~80年初頭にかけて照射された乳癌患者は10~20年後の心臓死のリスクが高くなったが,1980年初頭以後は放射線療法技術の進歩とともにこれらのリスクも減少した15)。スウェーデンとデンマークからの2,168例の症例対照研究報告では,主要冠動脈イベント(心筋梗塞・冠動脈再建・虚血性心疾患による死亡など)は心臓の平均線量と相関することを示された16)。心臓全体の平均線量が1 Gy増すごとに,主要冠動脈イベントは7.4%(95%CI:2.9—14.5,p<0.001)ずつ直線的に増加し,閾値は認められなかった。また,その増加は5年以内に始まり,少なくとも20年まで続くことが示された。放射線治療技術の進歩により,心臓への照射線量は低減されつつあるが,可能な限り心臓への線量を減らす配慮が必要である。また,リスク因子としては虚血性心疾患の既往,その他の循環器系疾患,糖尿病,喫煙,高いBMI(body mass index),慢性閉塞性呼吸器疾患,鎮痛薬の常用などが挙げられているので,併存症に対する治療や生活指導も重要である。

 整容性:乳房温存療法後の整容性については追加照射17)や化学療法を同時に併用すると悪影響を及ぼすとされている18)

 二次がん

(ⅰ)対側乳癌

 いくつかの症例対照研究や大規模コホート研究では乳癌の術後照射により全体として対側乳癌の発生率は増加しないという報告もあるが,若年者,特に家族歴を有する場合には留意すべきである。米国コネチカット州腫瘍登録における症例対照研究19)でも全体としては放射線療法により対側乳癌は増加しなかった。しかし,追跡期間や年齢でみると10年までは対側乳癌合併群と対照群における初回の放射線療法施行率に差はなかったが,10年を過ぎるとそれぞれ22.7%および18.2%(RR:1.33)となり,照射による対側乳癌発症リスクは増加し,45歳未満では有意差があった(RR:1.59)。7,425人を対象にしたオランダがん研究所からの報告でも初治療時に35歳未満ならば照射によるリスク比は1.78と高くなり,若い患者への配慮が必要となる。この調査対象では乳房切除術後の胸壁には電子線で照射し,内側占居部位や腋窩リンパ節転移がみられた場合には胸骨傍リンパ節もX線/電子線の混合線で治療された。また,部分切除術後の残存乳房にはX線かガンマ線による接線照射を用いたが,対側乳房の被曝は後者で高く,同時に強い家族歴を有する場合のリスク比は個々のリスクを合算するよりも高く,3.52倍になった20)

(ⅱ)軟部肉腫,肺癌,食道癌,白血病

 58,000人あまりの乳癌患者を対象にオランダの大規模データベースを用いて乳癌以外の二次がんの発生頻度を調査したところ,標準化罹患比注4)は1.22と有意に増加し,10年累積発生率は5.4%であった。特に軟部肉腫,皮膚悪性黒色腫,食道,白血病,腎臓などで高かった。照射との関連をみると50歳以下では肺癌,50歳以上では軟部肉腫のリスクが増加した21)。またCurie研究所における13,472例の乳癌術後照射後の二次がんを調査した結果,肉腫と肺癌のみがそれぞれリスク比7.46,3.09で有意に増加した22)

 肺癌の合併については照射野や喫煙も影響を与える。NSABP B—04およびB—06のランダム化比較試験で照射された患者を20年近く追跡した結果,所属リンパ節まで照射するB—04の場合,非照射群では0.9%であったが,照射群では2.2%と有意に高く肺癌を合併した。しかし,接線照射を用いるB—06では両群間に差はみられなかった23)。M. D. アンダーソンがんセンターからの報告によると乳癌術後の放射線療法単独では肺癌のリスクを高めないが,放射線療法と喫煙の両者に曝露すると相乗的に肺癌発生リスクを高めるとされている24)。食道癌についても照射野との関連が示唆されている。米国の大規模データベースを用いて治療法別に分析した結果,乳房温存療法後には食道癌の増加はみられなかったが,乳房切除術後の照射で5年以後,有意に増加した(リスク比1.8—2.9)。組織型でみると扁平上皮癌のリスクが高くなったが,腹部食道に多い腺癌は増加しなかった25)

 白血病についてはNSABP B—04からB—10までに登録された8,483例を対象に分析した結果,照射群,化学療法群ともに発生頻度は0.5%と稀であり,治療による利益のほうがリスクより大きい26)

 このように全体として皮膚炎以外の有害事象の頻度は低い。PMRTの場合は乳房温存手術後の照射よりも有害事象は強くなるが,許容範囲である。また,低い頻度ではあるが,放射線療法による二次がんが発生している。しかし,多くはコバルト60などの古い照射装置を用いたもので超高圧放射線装置を用いた最近の放射線療法では三次元放射線療法計画装置や多分割コリメータ注1)を用いることが多く,これらのデータを超えることはないであろう。放射線療法の有用性はこれらの有害事象の発生リスクを大きく上回ると考えられる。

(7)放射線療法計画時の留意事項

 毎回の照射時の再現性の向上を図るために固定具を使用してCT画像を撮像する。

 次いでCT画像を取り込んだ三次元治療計画装置上で標的体積(ターゲット)を決定する。切除可能乳癌では外科切除により取り除かれていることが多いが,画像上で肉眼的腫瘍体積(gross tumor volume;GTV)が同定できる場合は,GTVに周辺の顕微鏡的な進展範囲や必要に応じて所属のリンパ節領域を含めた臨床標的体積(clinical target volume;CTV)を設定する。さらに毎回のセットアップ時の再現性の誤差や呼吸性移動を考慮して,最終的に照射すべき計画標的体積(planning target volume;PTV)を決定する。

 PTV内はできるだけ均等な線量分布が得られるようにウェッジフィルターあるいはField—in—field法注2)などを用いて治療計画を立てるが,ウェッジフィルターからの散乱線による対側乳房への被曝も考慮しなければならない。照射野の設定には多分割コリメータ注1)やカスタムブロックなどを用いて,リスク臓器である肺および心臓への照射線量や容積を減らすように工夫する。

 肺へのリスク:乳房温存手術後の全乳房照射では,照射野に含まれる肺野がCT画像上で3 cmを超えなければ放射線肺臓炎は稀である6)。PMRTの場合は照射方法により照射野に含まれる肺容積が異なり27),特に胸骨傍リンパ節領域を含める場合は放射線肺臓炎のリスクは高まる。

 心臓へのリスク:最近の治療技術を用いれば大きく問題になることはないが28),長期予後が期待できる若年者では前下行枝への線量を少なくするなどの注意が必要である。

 対側乳房:若年者,特に家族歴を有する場合には,対側乳房への散乱線による被曝に注意が必要である。PTV内の線量を均等にするためにウェッジフィルターを使用する場合はできるだけ角度の小さいものを使用するなどの工夫が必要である29)。Field—in—field法注2)などでウェッジフィルターを用いずに均等な線量分布を得る工夫30)も重要となる。

 このように三次元治療計画装置と多分割コリメータ注1)などの最新の治療装置により,リスク臓器への晩期障害はかなり軽減できるものと思われる。

注1)多分割コリメータ:照射装置には照射野を限定するための絞り装置(コリメータ)がある。矩形の照射野を形成する主コリメータに付随する小さい幅の多数のコリメータのことであり,不整形の複雑な照射野を作ることができる。

注2)Field—in—field法:通常の照射法では高線量域が生じる場合,その領域を遮蔽した照射野で少量の線量を追加することを反復し,目的とする均等な線量分布を得る方法。

注3)強度変調放射線治療(intensity modulated radiation therapy;IMRT):最新のテクノロジーを用いて照射野内の放射線の強度を変化(変調)させて照射を行う。癌の形に凹凸があってもその形に合わせた線量分布を作ることができるが,位置のずれや放射線の線量の誤差に対する精度管理が厳しく要求される。

注4)標準化罹患比:ある特定の状況下にある対象集団の罹患数と,その集団が罹患率の分かっている標準人口と同じ罹患率を有すると仮定したときに期待される罹患数との比。

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