日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

乳房温存手術後放射線療法の適切な照射法はどのようなものか (放射線療法・浸潤性乳癌に対する乳房温存手術後放射線療法・ID30940

 背景・目的

 乳房温存手術後の放射線療法として経験的に全乳房に対して総線量45~50.4 Gy/1回線量1.8~2.0 Gy/4.5~5.5週が用いられてきたが,カナダやイギリスでは患者の利便を図るため,治療回数と総線量を減らして1回線量を増やす寡分割照射が行われている。また,欧米を中心に一部の症例に対し,全乳房照射の替わりに腫瘍床のみに部分乳房照射を行う試みもなされている。乳房温存手術後放射線療法の適切な照射技術を評価した。 

 照射野として全乳房照射が勧められるか

CQ2-a 乳癌診療ガイドライン1治療編(308-312ページ)
推奨グレード A 乳房温存手術後の照射野としては強く勧められる。

  解 説

 乳房温存療法における放射線療法の有用性を示した臨床試験ではすべて全乳房照射が採用されており,標準治療と位置付けられる(放射線CQ 1参照)。全乳房照射ではなく,腫瘍床のみを対象とした部分乳房照射については放射線CQ 2—dを参照されたい。

 全乳房照射において通常分割照射と同等の治療として寡分割照射は勧められるか

CQ2-b 乳癌診療ガイドライン1治療編(308-312ページ)
推奨グレード B 50歳以上,乳房温存手術後のpT1—2N0,全身化学療法を行っていない,線量均一性が保てる患者では勧められる。
C1 上記以外の患者には,細心の注意のもと行うことを考慮してもよい。

推奨グレードを決めるにあたって

ランダム化比較試験の結果とそのシステマティック・レビュー,米国のガイドラインの推奨をもとに決定したが,日本人の体格の問題等も考慮した。

解 説

 全乳房照射の線量・分割については,総線量45~50.4 Gy/1回線量1.8~2.0 Gy/4.5~5.5週が経験的に行われており,事実上の標準となっている1)2)。カナダで行われたランダム化比較試験では42.5 Gy/16回/22日と50 Gy/25回/35日が比較され,両者の10年局所再発率,全生存率,整容性に差を認めなかった。サブグループ解析でも,年齢,腫瘍径,エストロゲン受容体発現の有無,全身療法の有無で有意差を認めなかった3)

 イギリスでも至適な線量・分割方法を検証すべく,いくつかのランダム化比較試験が行われている。50 Gy/25回/5週,41.6 Gy/13回/5週,39 Gy/13回/5週の3者を比較したSTART—Aでは,5年局所・所属リンパ節再発率はいずれの群でも有意差は認めず,晩期有害事象は39 Gy/13回/5週では50 Gy/25回/5週よりも有意に少なかった4)。50 Gy/25回/5週,40 Gy/15回/3週の2者を比較したSTART—Bでは,5年局所・所属リンパ節再発率は有意差がなかったものの短期照射群のほうが良好であり,その他,晩期有害事象,整容性ともに有意差を認めなかった5)。なお,このSTARTに関しては,最近さらに10年間の長期観察結果が報告された。局所・所属リンパ節再発率は,やはりいずれの群でも有意差を認めず,生存率は40 Gy/15回/3週で有意に良好であった。また晩期有害事象は,39 Gy/13回/5週および40 Gy/15回/3週で50 Gy/25回/5週よりも有意に少ないという結果であり,現在イギリスで広く用いられている40 Gy/15回/3週法の有用性が確認されたとしている6)。しかしながら,これらの報告において評価された有害事象は,乳房の硬結や萎縮・毛細血管拡張や浮腫等であり,心臓に対する障害等は含まれていない。

 STARTの5年間の観察結果も含めた上記ランダム化比較試験の結果からCochrane Databaseのシステマティック・レビューでは,選択された症例に対する寡分割照射は局所再発に影響せず急性期有害事象を低減し得るが,最終的な評価にはより長期の経過観察が必要としている7)

 以上の結果に基づき米国放射線腫瘍学会(American Society for Radiation Oncology;ASTRO)では,50歳以上,乳房温存手術後のpT1—2N0,全身化学療法を行っていない,中心軸平面での線量均一性が±7%以内の患者については,寡分割照射も従来の照射と同等であるとのガイドラインを発表している8)。このガイドラインでは,それ以外の症例にも寡分割照射が禁忌として取り扱われるべきではないとしている。なお,寡分割照射による心臓障害の明らかな増加はまだ示唆されていないが,1970年代の10~15年以上長期追跡した研究ではすべて心臓障害が増加していたとの報告もある9)。そのため,上記ガイドラインには晩期心臓障害予防のために心臓の被曝線量低減を推奨するとの記載もある。

 一方,人種間の体格の差により日本人では,寡分割照射で皮膚・皮下組織の線量が大きくなる可能性もあり,それに伴う有害事象の増強の有無については独自の検証が必要と考えられる。それを受け,現在わが国では「乳房温存療法の術後照射における短期全乳房照射法の安全性に関する多施設共同試験(JCOG 0906)」を実施中であり,その結果が待たれるところであるが,現在までの知見からは,患者選択や心臓などへの線量に注意したうえで,このような寡分割照射も推奨もしくは許容し得る方法と判断される。

 全乳房照射後に腫瘍床に対するブースト照射は勧められるか

CQ2-c 乳癌診療ガイドライン1治療編(308-312ページ)
推奨グレード B 温存乳房内再発を減少させるので勧められる。

 解 説

 病理学的な断端陽性乳癌では断端陰性乳癌に比べて局所再発率が高いことが知られており,多くの施設で腫瘍床に対する10~16 Gy程度のブースト照射が行われている。後ろ向きの研究でその有用性を示唆するものもあるが,ランダム化比較試験による検証はいまだ少ない10)

 病理学的な断端陰性乳癌については,腫瘍床に対する10~16 Gyのブースト照射が温存乳房内再発のリスクを減少させることはランダム化比較試験で証明されている11)12)。EORTC 22881—10882では70歳以下の単発性腫瘍で病理学的に断端陰性の患者を全乳房照射50 Gyの後ブースト照射16 Gyの有無にランダム化割り付けした結果,観察期間の中央値10.8年で温存乳房内再発率はそれぞれ6.2%および10.2%であり,ブースト照射群で有意に低かった(p<0.0001)。この温存乳房内再発抑制効果はすべての年齢層において有意であり,ブースト照射を加えることによって温存乳房内再発の相対リスクは,加えない場合の51~65%に減少した。絶対リスク減少率については,年齢層により基本的な温存乳房内再発リスクが異なり,40歳未満群では10.4%であるのに対し60歳超群では3.5%にとどまっていた。遠隔転移発生率および全生存率は両群間に差はなかった12)。なお,乳房温存手術の切除範囲は肉眼的マージン1 cm程度と,わが国で主に用いられている部分切除よりも小さく,また断端面に癌細胞が露出しているもののみを病理学的断端陽性と判定していることから,わが国の実地臨床よりも放射線療法が局所制御に及ぼすインパクトが大きい条件での研究結果と考えられる。

 したがって,わが国の実地臨床においては一般的に,局所再発のリスクが高い場合にブースト照射が行われている。なお,頻度は低いがブースト照射によって晩期有害事象として著明な線維化の
頻度が有意に増加したという報告もあり13),注意が必要である。

 照射法として加速乳房部分照射(APBI)は勧められるか

CQ2-d 乳癌診療ガイドライン1治療編(308-312ページ)
推奨グレード C2 エビデンスがまだ十分ではなく,基本的に勧められない。実践する際には臨床試験の枠組みで施行されるべきである。

推奨グレードを決めるにあたって

 終了した,あるいは実施中のランダム化比較試験の結果を参考にしたが,いずれの試験もいまだ経過観察期間が十分ではないことを考慮して決定した。

解 説

 乳房温存療法における放射線療法の有用性を示した臨床試験の結果より,乳房温存療法後の温存乳房内再発の約70%はもとの腫瘍床の周辺から生じること,およびそれ以外の部位からの再発は対側乳癌の発生と時期および頻度が類似することが明らかになり,全乳房ではなく腫瘍床のみを対象とした放射線療法の可能性が検討された。照射野を縮小することにより,大線量小分割で短期間に照射を終えることも可能になり,APBIとして欧米で臨床導入が開始された。具体的な方法としては小線源を用いた組織内照射や腔内照射,術中照射,三次元外照射が用いられている。

 ランダム化比較試験を含む初期の報告では,対象に大きい腫瘍(<4 cm)や切除断端陽性例,非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ;DCIS)や広範な乳管内進展(EIC)陽性乳癌を含んでいたため,一般的な全乳房照射の成績に比べて明らかに不良であったが14)15),適格条件を厳しくした研究では用いる方法にかかわらずおおむね良好な温存乳房内制御と整容性が得られている。

 その後いくつかのランダム化比較試験が終了あるいは実施中で,APBIの有用性が報告されているが16),いずれも観察期間が十分とはいえず,さらなる経過観察が必要である。

 現在,RTOG/NSABPでランダム化比較試験が進行中であり,その結果が明らかになるまでは標準治療として全乳房照射が勧められる。米国放射線腫瘍学会(ASTRO)のコンセンサスでもAPBIに適している規準として,60歳以上,pT1N0の単発病変で切除マージン2 mm以上,ER陽性などを挙げているが,一方でAPBIに関心のある患者はすべて臨床試験に参加することを強く勧めている17)

 また,わが国にAPBIを導入するにあたっては,これらの問題以外に欧米の患者との体格や乳房サイズの差による技術的な問題についてさらなる検討が必要である。

 なお,粒子線によるAPBIに関してはいまだ治験レベルの域を出ず,その実臨床への応用は時期尚早と思われる。

検索式・参考にした二次資料

 「乳癌診療ガイドライン①治療編2013年版」の参考文献に加え,PubMedにて,Breast Neoplasms/radiotherapy,“Mastectomy,Segmental”,conserving,conservation,conservative,conserved,whole breast,WBI,Dose Fractionation,boost,Accelerated Partial Breast Irradiation,APBIのキーワードを用いて検索した。また,他のガイドラインや二次資料などから重要と思われる文献を採用した。

参考文献

1) Fisher B, Redmond C, Poisson R, Margolese R, Wolmark N, Wickerham L, et al. Eight—year results of a randomized clinical trial comparing total mastectomy and lumpectomy with or without irradiation in the treatment of breast cancer. N Engl J Med. 1989;320(13):822—8. Erratum in:N Engl J Med 1994;330(20):1467.
→PubMed

2) van Dongen JA, Voogd AC, Fentiman IS, Legrand C, Sylvester RJ, Tong D, et al. Long—term results of a randomized trial comparing breast—conserving therapy with mastectomy:European Organization for Research and Treatment of Cancer 10801 trial. J Natl Cancer Inst. 2000;92(14):1143—50.
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3) Whelan TJ, Pignol JP, Levine MN, Julian JA, MacKenzie R, Parpia S, et al. Long—term results of hypofractionated radiation therapy for breast cancer. N Engl J Med. 2010;362(6):513—20.
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4) START Trialists’Group, Bentzen SM, Agrawal RK, Aird EG, Barrett JM, Barrett—Lee PJ, et al. The UK Standardisation of Breast Radiotherapy(START)Trial A of radiotherapy hypofractionation for treatment of early breast cancer:a randomised trial. Lancet Oncol. 2008;9(4):331—41.
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5) START Trialists’Group, Bentzen SM, Agrawal RK, Aird EG, Barrett JM, Barrett—Lee PJ, et al. The UK Standardisation of Breast Radiotherapy(START)Trial B of radiotherapy hypofractionation for treatment of early breast cancer:a randomised trial. Lancet. 2008;371(9618):1098—107.
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