日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

BRCA 遺伝子変異をもつか、強く疑われる乳癌に対して、乳房手術後の放射線療法は勧められるか (放射線療法・乳房手術後放射線療法―その他・ID31050)

CQ13 乳癌診療ガイドライン1治療編(349-351ページ)
推奨グレード B 乳房切除術後であればBRCA遺伝子変異に関係なく臨床的適応に従って決定する。
C1 乳房温存療法は細心の注意のもと行われるべきであるが,乳房温存手術が行われた場合に放射線療法は考慮してもよい。

推奨グレードを決めるにあたって

 乳房温存療法は相対的禁忌とする意見もあるが,十分なエビデンスはなく乳房温存を希望する患者には実施可能と考えられる。

背景・目的

 日本における調査でも,第2度近親者以内に乳癌あるいは卵巣癌の家族歴をもつ乳癌あるいは卵巣癌患者でBRCA1/2 遺伝子変異を有する割合は125人中34人(27.2%)と比較的高率である1)。一方,BRCA1/2 遺伝子変異陽性女性が70歳までに乳癌に罹患するリスクはそれぞれ57%と49%と高いことも知られている2)BRCA1 BRCA2 はがん抑制遺伝子の一つでDNA二本鎖切断の修復に重要な働きをする。したがってBRCA1/2 の遺伝子変異を有する患者は放射線感受性が高く,二次がんを誘発するリスクが危惧される。そこでBRCA1/2 遺伝子変異を有する乳癌に対する乳房手術後の放射線療法の安全性,有効性を検討する。

解 説

 これまでBRCA1/2 遺伝子変異を有する乳癌で乳房手術後の安全性,有効性を検討したランダム化比較試験はない。そこで乳房手術後の放射線療法を受けた乳癌はBRCA1/2 遺伝子変異の有無により予後に差があるのか,またBRCA1/2 遺伝子変異を有する乳癌に放射線療法が及ぼす影響について検討する。

 まずBRCA1/2 遺伝子変異の有無が予後に与える影響を検討する。米国,カナダなどの11施設から乳房温存療法を受けたBRCA1/2 遺伝子変異陽性乳癌160人と散発性乳癌445人の症例対照研究(観察期間中央値約7年)が報告3)されており,10年および15年温存乳房内再発率は遺伝子変異陽性群で12%,24%,散発群でそれぞれ9%,17%であり,有意な差はなかった(p=0.19)。卵巣摘出術後では差はさらに小さくなった(p=0.37)。対側乳癌の発症は遺伝子変異群では10年,15年でそれぞれ26%,39%であり,散発群の3%,7%と比べて有意に高率であった(p<0.0001)。しかし,タモキシフェンを内服することにより遺伝子変異群で対側乳癌の発症を有意に抑制し(HR:0.31;p=0.05),特に両側卵巣摘出術未施行群ではハザード比0.13とさらに抑制した。しかし,卵巣摘出術後ではタモキシフェンの抑制効果はみられなかった(HR:0.46;p=0.15)。

 また,エール大学からの報告では遺伝子検査を受けた温存療法127乳癌の12年目の温存乳房内再発率をみると遺伝子変異群(22人)で49%と,それ以外105人の21%と比較して有意に高かった(p=0.007)4)。また,対側乳癌の発症もそれぞれ42%と9%であり,遺伝子変異群で有意に高率であった(p=0.001)。これらの遺伝子変異群は卵巣摘出術やタモキシフェン内服を受けておらず,介入の必要性が示唆された。再発や対側乳癌のリスク軽減のためには両側乳房切除術が考慮されるとしている。

 ミラノからは温存療法を受けた,BRCA1/2 遺伝子変異陽性乳癌54人と散発性乳癌162人を対象とした症例対照研究が観察期間中央値4年で報告された5)。10年温存乳房内再発をみると遺伝子変異群は27%で,散発性群の4%に比し,有意に高かった(HR:3.9,p=0.03)。対側乳癌発症率もそれぞれ25%および1%で有意差がみられた(p=0.03)。

 Valachisらはこれらを含む10研究のプール解析で温存乳房内再発率をみたところ,BRCA 遺伝子変異群は17.3%,散発群は11%,リスク比は1.45(0.98—2.14)で有意差を認めなかった。しかしながら観察期間を7年以上に限定するとリスク比は1.51(1.15—1.98)に有意に増加した。温存乳房内再発を下げる因子は化学療法と卵巣摘出であった。対側乳癌についてはリスク比3.56(2.50—5.08)とBRCA 遺伝子変異群で有意に高く,卵巣摘出術,タモキシフェン内服,高年齢で低下していた6)

 次にBRCA1/2 遺伝子変異陽性乳癌における放射線療法の影響をみたものとして米国からの多施設研究がある7)BRCA1/2 遺伝子変異陽性の乳房温存療法302人および乳房切除術353人を観察期間中央値約8~9年で分析した。放射線療法は乳房温存療法群では全員,乳房切除群では30%が受けている。15年局所再発率はそれぞれ23.5%,5.5%であり,乳房温存療法で有意に増加した(p<0.0001)。化学療法を併用すれば温存乳房内再発率は11.9%に減少し,乳房切除群と有意差はなくなった(p=0.08)。手術法に関係なく放射線療法の有無で対側乳癌の発症をみたところ,15年で両群とも40%を超えたが,照射歴による差はなかった(p=0.44)。局所療法の差異による所属リンパ節再発,乳癌特異的生存率および全生存率にも有意差はなく,乳房温存療法での10年および15年乳癌特異的生存率はそれぞれ93.6%および91.7%であり,乳房切除群ではそれぞれ91.8%および89.8%であった(p=0.73)。

 最近,米国とデンマークの多施設からも603人の両側乳癌ケースと1,199人の片側乳癌コントロールによる研究が報告された8)。全例にBRCA1/2 遺伝子変異検査が行われ,照射歴の有無別比率は2:1であった。放射線療法群では対側乳癌発生部位の被曝線量推定が行われ,平均線量は1.1 Gy(0.02—6.2 Gy)であった。BRCA1/2 遺伝子変異があれば対側乳癌は有意に増加した(リスク比4.5)。しかし,線量との有意な関係はなく,BRCA1/2 遺伝子変異陽性乳癌では放射線療法により明らかに対側乳癌が誘発されることはないとしている。

 BRCA1/2 遺伝子変異陽性を本人または家族に有する乳癌491人を対象にした米国,カナダ10施設からの研究では,対側乳癌は10年目で29.5%に発症した9)。221人(46%)で放射線療法を受けたが,多変量解析では対側乳癌発症のリスク因子ではなかった(p=0.51)。

 正常組織に対する有害事象については米国,カナダの多施設による観察期間中央値約5年の症例対照研究がある10)。乳房温存療法を受けた71人のBRCA1/2 遺伝子変異乳癌と213人の散発性乳癌では急性期の皮膚,肺障害や乳房痛には差がなかった。また,晩発性反応も皮膚,皮下組織,肺,骨で差がなかった。ほかに英国4施設からの観察期間中央値約7年の症例対照研究でも急性および晩期障害に差はなかった11)

 以上より,乳房切除術後であれば BRCA 遺伝子変異の有無に関係なく,臨床的適応に従って決定してよいと思われる10

 また,BRCA1/2 遺伝子変異陽性乳癌で温存療法を選択する場合には,温存乳房内再発などのリスクについて十分な説明を行い,患者が希望すれば放射線療法は合理的なオプションの一つとなり得る6

検索式・参考にした二次資料

 PubMedにて,2000年からBreast Neoplasms/radiotherapy,Breast Neoplasms/therapy,radiotherapy,mastectomy,Breast Neoplasms/surgery,Breast Neoplasms/diagnosis,BreastNeoplasms/genetics,Genes,BRCA1,BRCA2,BRCA1 Protein,BRCA2 Protein,Clinical Trial,Clinical Trials as Topic,Case Control Studies,Prospective Studies,Disease—Free Survival のキーワードを用いて検索した。

参考文献

1) Sugano K, Nakamura S, Ando J, Takayama S, Kamata H, Sekiguchi I, et al. Cross‒sectional analysis of germline BRCA1 and BRCA2 mutations in Japanese patients suspected to have hereditary breast/ovarian cancer. Cancer Sci. 2008;99(10):1967‒76.
→PubMed

2) Chen S, Parmigiani G. Meta‒analysis of BRCA1 and BRCA2 penetrance. J Clin Oncol. 2007;25(11):1329‒33.
→PubMed

3) Pierce LJ, Levin AM, Rebbeck TR, Ben‒David MA, Friedman E, Solin LJ, et al. Ten‒year multi‒institutional results of breast‒conserving surgery and radiotherapy in BRCA1/2‒associated stage Ⅰ/Ⅱ breast cancer. J Clin Oncol. 2006;24(16):2437‒43.
→PubMed

4) Haffty BG, Harrold E, Khan AJ, Pathare P, Smith TE, Turner BC, et al. Outcome of conservatively managed early‒onset breast cancer by BRCA1/2 status. Lancet. 2002;359(9316):1471‒7.
→PubMed

5) Garcia‒Etienne CA, Barile M, Gentilini OD, Botteri E, Rotmensz N, Sagona A, et al. Breast‒conserving surgery in BRCA1/2 mutation carriers:are we approaching an answer? Ann Surg Oncol. 2009;16(12):3380‒7.
→PubMed

6) Valachis A, Nearchou AD, Lind P. Surgical management of breast cancer in BRCA‒mutation carriers:a systematic review and meta‒analysis. Breast Cancer Res Treat. 2014;144(3):443‒55.
→PubMed

7) Pierce LJ, Phillips KA, Griffith KA, Buys S, Gaffney DK, Moran MS, et al. Local therapy in BRCA1 and BRCA2 mutation carriers with operable breast cancer:comparison of breast conservation and mastectomy. Breast Cancer Res Treat. 2010;121(2):389‒98.
→PubMed

8) Bernstein JL, Thomas DC, Shore RE, Robson M, Boice JD Jr, Stovall M, et al;WECARE Study Collaborative Group. Contralateral breast cancer after radiotherapy among BRCA1 and BRCA2 mutation carriers:a WECARE study report. Eur J Cancer. 2013;49(14):2979‒85.
→PubMed

9) Metcalfe K, Lynch HT, Ghadirian P, Tung N, Olivotto I, Warner E, et al. Contralateral breast cancer in BRCA1 and BRCA2 mutation carriers. J Clin Oncol. 2004;22(12):2328‒35.
→PubMed

10) Pierce LJ, Strawderman M, Narod SA, Oliviotto I, Eisen A, Dawson L, et al. Effect of radiotherapy after breast‒conserving treatment in women with breast cancer and germline BRCA1/2 mutations. J Clin Oncol. 2000;18(19):3360‒9.
→PubMed

11) Shanley S, McReynolds K, Ardern‒Jones A, Ahern R, Fernando I, Yarnold J, et al. Late toxicity is not increased in BRCA1/BRCA2 mutation carriers undergoing breast radiotherapy in the United Kingdom. Clin Cancer Res. 2006;12(23):7025‒32.
→PubMed

乳癌診療ガイドライン

PAGETOP
Copyright © 一般社団法人日本乳癌学会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.