日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

乳癌脳転移に対して放射線療法は勧められるか (放射線療法・転移・再発乳癌に対する放射線療法・ID31080)

CQ16 乳癌診療ガイドライン1治療編(359-364ページ)
推奨グレード B 放射線療法が勧められる。

背景・目的

 脳転移の予後良好例では,手術や定位手術的照射などの積極的な治療により生命予後の改善が期待される。脳転移の予後不良例において,まず重要なことは症状の緩和であり,全脳照射により症状の改善が期待される。乳癌の脳転移例のみを対象とした研究は少ないため,転移性脳腫瘍全般を対象とした研究からも検索した。ほかの治療法については薬物療法CQ25外科療法CQ28を参照されたい。

解 説

 乳癌の脳転移は,病期が進むにつれて頻度が高まる。遠隔転移を有する進行乳癌患者では,症状があり発見される脳転移の頻度は10~16%である。HER2陽性およびトリプルネガティブの転移乳癌患者において,脳転移の頻度は高く,それぞれ30~44%,25~46%であった。乳癌脳転移患者の予後は,脳以外への転移に対する薬物療法の効果が高まったことから,全脳照射例で生存期間中央値が6カ月から14.4カ月へと長くなりつつある1)

 個々の患者の予後を的確に予測し,治療に伴う有害事象を考慮して治療法を選択する必要がある。脳転移の予後予測は,Radiation Therapy Oncology Group(RTOG)により提唱されたRecursive Partitioning Analysis(RPA),Graded Prognostic Assessment(GPA)および疾患特異的GPAなどにより層別化できる2)3)。GPAは,年齢・全身状態・脳転移の個数・頭蓋外活動性病変(無/有)の4因子を点数化して分類した3)。各項目の点数を加算してGPA点数を算出し,期待生存期間を推定する。

P359_表1

 乳癌特異的GPAでは,年齢・全身状態・サブタイプの3因子を点数化して分類し,生存期間の中央値を予測する3)

P360_表2

 脳転移に対する治療方針は,予後予測指標である乳癌特異的GPAにて予後予測を層別化しつつ,脳転移個数と脳転移部位と大きさによって,手術あるいは定位放射線照射などの局所治療と全脳照射の適応や実施時期や毒性を検討して判断する4)~6)

 以下,脳転移個数に従って分類して記載するが,脳転移個数別分類は絶対的な区分ではなく,前述の予後因子を総合的に検討して治療方針を選択する。

極めて正確な位置精度を保ちながら精密な照射を行う放射線療法のことをいう。定位手術的照射(stereotactic radiosurgery;SRS)《1回照射による定位[的]放射線照射》および定位[的]放射線治療(stereotactic radiotherapy;SRT)《分割照射による定位[的]放射線照射》がある(放射線:総論のガンマナイフ,サイバーナイフの項参照)。病巣を座標系で表すことが必要で,小さな領域に対して多方向から照射し,誤差が1 mm以下の正確な照射が可能な装置を用いる。また,線量分布をCTやMRIなどで三次元的に把握可能であることが条件である。

少数個(およそ1~4個まで)乳癌脳転移に対して最初に定位手術的照射を行うことは勧められるか

CQ16-a 乳癌診療ガイドライン1治療編(359-364ページ)
推奨グレード B

最初に定位手術的照射を行うことが勧められる。MRIにて注意深く経過観察すれば,増悪を認めるまで全脳照射を行わないことも可能である。全脳照射を追加併用してもよい。

 解 説

 乳癌特異的GPA生存期間が長いと予測される少数個の脳転移に対しては,積極的な局所治療が重要な役割を果たす5)~13)

(1)単発性脳転移

①単発性脳転移が切除可能な部位にある場合

 大きさが3~4 cm以下の場合は,脳定位手術的照射単独か,脳定位手術的照射+全脳照射か,または,手術+全脳照射のどれかを行うことが推奨される5)6)。脳定位手術的照射単独治療後は頭蓋内再発が多く,MRIにて適切に経過観察することが推奨される。単発性脳転移が切除可能な部位にあり,大きさが3~4 cmを超える場合は,手術+全脳照射を行うことが推奨される5)7)~9)12)。単発性脳転移例に対する全脳照射±手術のランダム化比較試験では,手術と全脳照射の併用療法が全脳照射単独と比較して局所制御率,生存期間,QOLの改善のすべてにおいて優れていた10)。頭蓋外活動性病変を有する単発性脳転移例では手術療法の有用性は明らかではない11)。全脳照射を併用する限り手術療法と脳定位手術的照射の治療成績に差はみられていない12)。手術後に切除腔周囲に脳定位手術的照射を行い,増悪を認めるまで全脳照射を行わないことも試みられている13)

②単発性脳転移が切除不可能な部位にある場合

 大きさが3~4 cm以下の場合は,定位放射線照射単独あるいは定位放射線照射+全脳照射のいずれかを行うことが推奨される5)7)8)。大きさが3~4 cmを超える場合は,全脳照射を行うことが推奨される4)5)。単発性脳転移の場合,頻回の画像診断と救済定位手術的照射が実施可能な条件では,定位放射線照射単独は全脳照射追加と同等の機能維持および生存率を示す可能性がある。

(2)少数個(2~4個)の脳転移

 少数個(2~4個)の脳転移例には,手術あるいは定位放射線照射が推奨される5)14)~19)。全脳照射を加えるべきか頭蓋外病変制御にQOLも加えて検討する。

 少数個脳転移例での3カ月以上の予後が期待できる場合は,全脳照射に手術または脳定位手術的照射を行うことが推奨される5)~7)

P361_表

 定位放射線照射単独と定位放射線照射+全脳照射は同程度の生存率である。定位手術的照射後の全脳照射を省いた場合では,頭蓋内再発や新病変の頻度が高いため,これらを早期に診断できるように頻回に画像診断を行う必要がある16)。わが国では定位放射線照射単独が一次治療として選択される傾向がある17)

 全脳照射と全脳照射+脳定位手術的照射を比較した2つのランダム化比較試験19)20)での1年頭蓋内制御率は,全脳照射群0~71%に対して全脳照射+脳定位手術的照射群82~92%と有意に良好であった。生存期間の中央値は,全脳照射群5.7~7.5カ月,全脳照射+脳定位手術的照射群5~11カ月と有意差はない。全脳照射に脳定位手術的照射を追加することにより,有害事象が増加することはない。1~3個までの脳転移患者333人を対象とした臨床試験RTOG 95—0818)における急性期/晩期有害事象は,全脳照射群で0~3%,全脳照射+脳定位手術的照射群で3~6%であり,照射後6カ月のQOL低下がみられない割合が全脳照射群で27%,全脳照射+脳定位手術的照射群で43%であった。

 適応を限って用いれば,脳定位手術的照射単独は,全脳照射と生存率に変わりはないが,全脳照射を省くと頭蓋内制御率は低下する。1個から4個までの脳転移患者120人を対象とした臨床試験JROSG 99—1における1年頭蓋内再発率は,全脳照射+脳定位手術的照射群で46.8%,脳定位手術的照射群で76.4%(p<0.001)であり,照射野内制御率は脳定位手術的照射群で72.5%,全脳照射+脳定位手術的照射群で88.7%(p=0.02)であった19)。救済追加治療の頻度は,全脳照射併用群で少なかった(p<0.001)。全脳照射を併用すると局所制御率が高いことが示されている。

 一方で1~3個の脳転移患者359人を対象としたEORTC 22952—26001では,全脳照射を併用することにより,9カ月間の全身状態・8週後の身体機能・12カ月後の認知機能・8週後の疲労度などQOLが低下することが示された20)。全脳照射の意義や待機に関して,より大規模なNorth Central Cancer Treatment Groupによる臨床試験(NCT00377156)が進行中である。

 定位放射線照射に用いる線量は全脳照射の併用の有無によっても異なるが,腫瘍辺縁の線量は10~27 Gyが用いられている14)~16)18)19)21)。全脳照射を行った場合には,晩期有害事象として一部の患者では学習障害や記銘力障害が問題となることがあり,予後良好例に適用する際には線量と分割方法に注意が必要である。

多数個の乳癌脳転移に対して最初に全脳照射を行うことは勧められるか

CQ16-b 乳癌診療ガイドライン1治療編(359-364ページ)
推奨グレード B 最初に全脳照射が勧められる。

解 説

 多数個(およそ4個を超える)の脳転移例では長期予後が期待できない場合が多い。また,放射線療法による大幅な生存期間の延長は期待できず,症状緩和が治療の主目的であるため,全脳照射が基本である。

 全脳照射では約70%の患者で神経症状の改善が認められ,その効果の持続期間は長い4)20)。全脳照射のスケジュールにはさまざまなものがあるが,30 Gy/10回,37.5 Gy/15回,40 Gy/20回,20 Gy/5回などが患者ごとに選択されている4)~7)20)。全身状態や他臓器の転移病巣の状況などを考慮して,期待生存期間が長いほど分割回数が多い治療が選択される。

 無治療と放射線療法を直接比較した報告はないが,無治療例の予後はごく限られたものである。ステロイドのみでも約半数の症例に症状改善を認めるが,短期間に効果が減弱し神経症状の再増悪を認めることが多い。

 多発性脳転移例や全身状態不良などの予後不良例では,定位放射線照射や手術療法の適応は限られる。一方,およそ5~10個までの脳転移に対しては,定位手術的照射を行い,MRIにて注意深く経過観察すれば,増悪を認めるまで全脳照射を行わないことも可能である。全身状態のよい/全腫瘍体積が15 mL以下の5~10個の脳転移症例を対象に,定位放射線治療を行い,2~4個の症例と全生存率に有意差はないという日本(JLGK 0901)からの報告がなされた22)。1,194例中の10%は乳癌症例であり,全生存期中央値は,1個,2~4個,5個以上の脳転移別にそれぞれ27.2カ月,13.7カ月,10.5カ月であった。脳転移が5~10個ある患者であっても,脳転移制御により長期予後が期待でき,全腫瘍体積が大きくない場合は,初回の治療として定位放射線照射も選択肢に挙がり,増悪を認めるまで全脳照射を行わないことも可能である。

 全脳照射の神経毒性,特に認知機能温存を意図する海馬を回避した強度変調放射線療法は,まだ研究治療である23)

 乳癌の癌性髄膜炎の症状緩和には緩和的な放射線療法が行われ,薬物療法より症状緩和効果が高い。全脳全脊髄照射は毒性が強いので,30 Gy/1回3 Gy程度の全脳照射が適応となる。

検索式・参考にした二次資料

 「乳癌診療ガイドライン①治療編2013年版」の参考文献に加え,PubMedにて,Brain Neoplasms/radiotherapy,Brain Neoplasms/secondary,Neoplasm Metastasisのキーワードを用いて検索した。また,他のガイドラインや二次資料などから重要と思われる文献を採用した。

参考文献

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