日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

総論1:日本人女性の乳癌罹患率、乳癌死亡率の推移 (疫学.予防・総論・ID41100)

乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(002-005ページ)

 癌対策の立案と評価には,地域,あるいは国レベルでの癌の罹患と死亡の把握が不可欠である。日本人女性における乳癌罹患率,死亡率についてどのようなリソースが存在し,どのような傾向があるかを知ることは乳癌の対策を立てるうえで重要である。

(1)死亡率

 わが国では,癌の死亡動向は厚生労働省の人口動態調査によって全数把握されている。人口動態調査は明治時代から実施されている政府統計であり,国際的にみても精度が高く,また公表時期も調査年から1年遅れと早い。人口動態統計によるがん死亡データ(1958~2013年)ならびにそれを用いた種々のグラフは国立がん研究センターがん対策情報センター(http://ganjoho.ncc.go.jp/professional/statistics/index.html)より入手可能である。

 死亡率には,粗死亡率と年齢調整死亡率がある。粗死亡率とは,一定期間の死亡数を単純にその期間の人口で割った死亡率である。一方,年齢調整死亡率とは,集団全体の死亡率を基準となる集団の年齢構成(基準人口)に合わせたものである。一般に癌は高齢になるほど死亡率が高くなるため,高齢者が多い集団は高齢者が少ない集団より癌の粗死亡率が高くなる。そこで,年齢構成が異なる集団の間で死亡率を比較する場合や,同じ集団で死亡率の年次推移をみる場合には年齢調整死亡率が用いられる。基準人口として,国内では通例昭和60年(1985年)モデル人口(昭和60年人口をベースに作られた仮想人口モデル)が用いられ,国際比較などでは世界人口が用いられる。

 粗死亡率,年齢調整死亡率ともに,乳癌は1960年代以降一貫して増加傾向にある(図1)。2013年の女性の乳癌死亡者数は13,148人であり,粗死亡率は,大腸,肺,胃,膵臓に次いで高く,人口10万対20.4人である(2013年)。年齢調整死亡率は,大腸に次いで高く,次に胃,肺が続き,人口10万対12.0人である(大腸,乳,肺癌はほぼ同率)。年齢別死亡率は50歳代まで直線的に増加し,その後は70歳代まではほぼ一定である(図2)。

 欧米諸国の乳癌年齢調整死亡率は,日本に比べてかなり高い。しかしながら,1990年あたりをピークに減少傾向に転じており,日本との差は縮まる傾向にある1)

P3_図1P3_図2

 

(2)罹患率

 わが国では,死亡と異なり,癌罹患に関するデータを国として系統的に把握するシステムが確立されていなかった。罹患率を推定するためには,ある集団を設定し,その集団で一定期間に発生した罹患数を把握する必要がある。これを実現するためには地域がん登録が不可欠であり,癌対策の立案と評価のために世界の多くの国や地域で行われている。日本では,1950年代に宮城県,広島市,長崎市で開始され,次いで1960年代に大阪府,愛知県などで始められた。2012年には宮崎県と東京都で開始され,すべての都道府県(47都道府県と1市)で地域がん登録事業が実施されている。さらに,2013年12月にがん登録推進法が制定され,2016年1月から全国がん登録が開始される。データの整備にはまだ時間がかかるであろうが,2018年末頃には全国がん登録による罹患率,2023年には全国がん登録に基づく生存率の結果が公表されることが期待できるであろう。

 現在,わが国では,地域がん登録の精度がさまざまであるため,一定の精度基準を満たした数府県~20数府県(年度によって数が異なる)の地域がん登録のデータをもとに全国推計値を算出することで,国レベルの癌の罹患状況を把握している。1975~1999年の全国がん罹患推計は厚生労働省がん研究助成金による「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」班が罹患データの収集,解析・公表を行っている。2000年以降の推計(1995年以降の再推計を含む)は,国立がんセンター(現国立がん研究センター)がん対策情報センターが担当している。各地域からのデータ提出と集計作業には時間がかかるため,公表時期は罹患年より5~6年遅れとなっており,2015年2月現在,全国がん罹患推計の最新年は2010年である。

 女性の乳癌粗罹患率,年齢調整罹患率は,どちらも1975年以降増加傾向が続いている。2010年の乳癌(上皮内癌を含む)の粗罹患率は,他の癌種に比べ最も高い(人口10万対115.7人)。年齢調整罹患率も乳癌が最も高い(人口10万対88.7人)。年齢別にみた女性の乳癌罹患率は30歳代から増加をはじめ,40歳代後半でピークを迎え,その後はほぼ一定に推移し,60代後半から次第に減少する(図3)。

P4_図3

 世界的な年齢調整罹患率の年次推移の傾向をみると,東アジアの人々の乳癌罹患率は,ヨーロッパ人や米国白人に比べ一貫して低いが,日本と同様,中国などの東アジア諸国でも明らかな上昇傾向を示している。ヨーロッパ諸国は同じレベルの年齢調整罹患率であり,増加傾向を示している国が多いが,最近一部の地域では減少傾向が認められている。米国では,白人・黒人とも2000年ごろまでは増加傾向にあったが,2003年には減少し,2004年以降は横這いである。米国では白人が最も高い罹患率を示し,次いで黒人となるが,日本人移民の罹患率も急速に増加し,日本に住む日本人よりも高い罹患率を示している2)

 前述の地域がん登録全国推計によるがん罹患データ(1975~2010年)は国立がん研究センターがん情報サービスよりダウンロード可能である(http://ganjoho.ncc.go.jp/professional/statistics/statistics.html)。

 米国の癌罹患データはSEER(http://seer.cancer.gov/)からダウンロードできる。また,国際がん研究機関(IARC)は世界各国,各地域から癌罹患情報を収集して「5大陸のがん罹患(Cancer Incidence in Five Continents)」として公表している。「5大陸のがん罹患」のデータは,世界保健機関(WHO)がまとめている各国の癌死亡データとともに,IARCで入手が可能である(http://ci5.iarc.fr/)。

参考文献

1) Kawamura T, Sobue T. Comparison of breast cancer mortality in five countries:France, Italy, Japan, the UK and the USA from the WHO mortality database(1960—2000). Jpn J Clin Oncol. 2005;35(12):758—9.
→PubMed

2) Katanoda K, Qiu D. Comparison of time trends in female breast cancer incidence(1973—1997)in East Asia, Europe and USA, from Cancer Incidence in Five Continents, Vols Ⅳ—Ⅷ. Jpn J Clin Oncol. 2007;37(8):638—9.
→PubMed

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