日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

総論2:日本人女性と欧米人女性との乳癌予後の比較 (疫学.予防・総論・ID41110)

乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(006-008ページ)

 日本人の乳癌の予後は欧米と比べてよいといわれることがあるが,これは本当であろうか。ここでは癌患者の生存率を比較する方法について説明する。

 癌患者の生存率は治療効果を判定する最も重要かつ客観的な指標である。ただし,生存率は,計算する対象の特性(性別や年齢),進行度,計算する対象の選び方(外来患者のみか,入院患者のみか,その来院患者すべてを含んでいるかなど)に大きく影響を受ける。そのため,複数の施設(病院)を比較したり,地域や国別の比較を行う場合は,どのような対象について生存率を計算しているかに注意する必要がある。以下順に,わが国を代表する生存率の計測値についてどのようなデータが利用可能か調べ,欧米の数値との比較を試みる。

 生存率は,癌患者の予後を追跡することによって計測される。生存率に関する資料は,①臨床試験のデータ,②院内がん登録のデータに基づき,病院を受診した患者について,それぞれの施設で計算して公表しているもの,③地域がん登録のデータに基づき計算しているものがある。

 ①の臨床試験のデータは,臨床試験という設定上,参加する患者が限られるため,得られる生存率の数字は,一般の患者を代表しているとはいえない。臓器がん登録などのデータであっても,代表性が高くなければ一般化可能な値である保証がないため,他国との比較など外部比較が妥当である保証はない。

 ②の資料の例としては,公益財団法人がん研究振興財団発行の「がんの統計〈2005年〉」に掲載されている,国立がんセンター中央病院の治療成績がある(独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービスより閲覧可能(http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/brochure/backnumber/2005_jp.html)。ただし,これは初回入院患者の生存率である。このように病院ごとの集計値は,集計対象(どのような患者を生存率計算の対象としているのか)によって値が変わってくるため,注意を要する。これらの問題点を克服するため,全国がん(成人病)センター協議会(以下,全がん協)加盟施設では研究班の活動を中心に,2007年10月に「全がん協加盟施設におけるがん患者生存率の公表にあたっての指針」を公表した(http://www.gunma-cc.jp/sarukihan/seizonritu/index.html)。これに基づき,同じ定義で主要部位(胃・肺・乳・大腸)の施設別5年生存率を算定し,一定の精度をクリアした施設で同意の得られた施設のみ,その結果を公表している。共同調査1)によると,全がん協加盟施設に2001~2005年に診断した乳癌患者の相対生存率は91.2%であった(表1)(がんの統計’13. http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/brochure/backnumber/2013_jp.html)。相対生存率とは,生存率を計算する対象者と同じ特性(性,年齢,暦年,地域など)をもつ一般集団の期待生存確率より算出した期待生存率で実測生存率を割ることによって,その影響を補正したものである。

P7_表1

 ③の地域がん登録に基づく生存率については,全国推計値が国立がん研究センターがん情報サービスに掲載されている(http://ganjoho.jp/reg_stat/index.html2)3)。地域レベルの癌の生存率や代表性の高い生存率は,地域がん登録によって把握する必要がある。ただし,すべての地域がん登録が生存率計算に必要な「生存確認調査」を行っているとは限らず,現段階では限られた地域でしか生存率が計算できない。そこでこの報告では,代表性の高い生存率データを把握するために,比較的精度の高い府県を対象に全国推計値が計算されている。この報告では1993年診断例以降の生存率の算出を行っており,2015年2月現在,2003~2005年診断例についての結果が利用可能である。生存率の年次推移についてはデータの蓄積がまだ浅いため,十分に傾向を検証することができないが,少しずつ成績の向上がみられている。全国6地域の2003~2005年診断例についての5年相対生存率では,乳癌は89.1%と高い生存率を示している。

 地域がん登録に基づく乳癌患者(女性)の5年相対生存率を,日本(6府県)と米国(SEER計画参加18登録,http://seer.cancer.gov/)で比較すると,診断年に多少の違いがあり留意が必要であるが,日本89.1%(2003~2005診断例),米国89.0%(2002~2008診断例)であり,大きな違いはない。また,臨床進行度ごとにみても大きな差は認められない(表2)。

P7_表2

 しかし,両者のがん登録には,代表性,登録精度の違い,生存確認精度の違い,診断の違い,治療方針などの違いなどがあるため必ずしも妥当な比較とはいえず,現時点でいえることは,大きな差があるという証拠はないということのみである。

 地域がん登録の生存率に関する上記の数値は,国立がん研究センターがん情報サービス(http://ganjoho.jp/reg_stat/index.html)ならびにSEER(http://seer.cancer.gov)のホームページから利用できる。

参考文献

1) 国立がん研究センターがん研究開発費76「地域がん専門診療施設のソフト面の評価と公表に関する研究」による共同調査.(公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計’13」.2013)

2) 全国がん罹患モニタリング集計2003—2005年生存率報告.(独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター.2013)

3) 独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」平成22年度報告書.

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