日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

乳癌発症リスクを減少させるためにサプリメントを服用することは勧められるか (疫学.予防・リスク―生活習慣と環境因子・ID41190)

CQ7 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(027-029ページ)
エビデンスグレード Limited-no conclusion(証拠不十分) 乳癌発症リスクを減少させる目的で,サプリメントを服用することを勧める十分な根拠はない。

背景・目的

 米国のDietary Supplement Health and Education Act of 1994(栄養補助食品健康教育法)によると,サプリメントの定義は「毎日の摂取量を増加させるために,ヒトに使用されるビタミン,ミネラル,ハーブや植物製品,アミノ酸,あるいは,その濃縮物,代謝物,成分,抽出物あるいは,それらを混合したものを1つかそれ以上含み,食事を補助することを目的とした製品(タバコを除く)」とされている。一方,わが国にはサプリメントを定義した法律はないが,それに類するものとして特定保健用食品制度がある。それによれば,個々の食品別に生理的機能や特定の保健機能について有効性や安全性等に関する科学的根拠に関する審査を受け,厚生労働大臣の許可を受けることで,「保健の用途」が表示できる(健康増進法第26条)。さらに厳しい規準をクリアすれば薬品に近い「疾病のリスク低減表示」も可能であるが,現在までのところこれに該当しているのは,骨粗鬆症に対するカルシウムと二分脊髄に対する葉酸のみである。

 なお,本項で取り上げるサプリメントの定義は,「粉末や錠剤,カプセルのように薬品に類似した形態をもち,薬事法の適用を受けない食品や植物由来の製品」とするが,dietary constituents and supplements(食品成分とサプリメント)という広い観点も含めて検討を行う。

解 説

 2007年11月にWorld Cancer Research Fund(WCRF)とAmerican Institute for Cancer Research(AICR)が共同で作成した「Food, Nutrition, Physical Activity and the Prevention of Cancer:a Global Perspective」第2版が公表された。また,その後の研究成果の追加を踏まえて,同じくWCRFとAICRから,2010年3月に「Continuous Update Report Summary」が出された。本項では,これらの報告書に依拠して解説を加える。

 まず,癌予防全般に関して,同レポートでは栄養摂取は公衆衛生上「食物を通してのみ栄養要求に応えること」とされている。また,個人衛生の目標は「癌予防のための食品サプリメント摂取は推奨できない」とされている。このように乳癌に限らず,癌予防のために食品サプリメントを摂取することは勧められていない。

 また,乳癌発症リスクと食品・サプリメントについては,ある程度以上の関連性(Convincing,probable,Limited—suggestive)をもつものは認められなかった。ビタミンA,ビタミンC,ビタミンB6,葉酸,ビタミンB12,ビタミンD,ビタミンE,カルシウム,鉄,カロテン類,イソフラボンのいずれにおいても,結論は得られていない(Limited—no conclusion)。

 葉酸について,2014年に報告されたメタアナリシスでは,食事による葉酸摂取については25の症例対照研究の結果では若干の発症リスク低減との関連がみられたものの(RR:0.79,95%CI:0.67—0.92),食事による葉酸摂取に対する15の前向き研究および葉酸サプリメント摂取に対する3つの前向き研究による結果では,乳癌発症リスクとの間に関連がみられなかった(RR:0.95,95%CI:0.87—1.03;RR:1.07,95%CI:0.95—1.21)1)。サプリメントの摂取が乳癌発症リスクを増加させる可能性を示唆したコホート研究2)も存在することから,サプリメントを乳癌予防のために摂取することは推奨できない。

 ビタミンA,C,Eといった抗酸化ビタミンについても,乳癌発症リスクを低下させないとしたコホート研究3)や,閉経前乳癌で亜鉛,閉経後乳癌でマルチビタミン,ベータカロテン,ビタミンC,E,亜鉛などを10年以上服用した群でリスクが減少しているという症例対照研究4)などがあり,結果が一致していない。食事ならびにサプリメントとして服用するカロテノイドおよびビタミンC,Eと,ホルモン受容体ごとの乳癌発症率との関係をみたコホート研究5)では,食事中のαカロテン量はホルモン受容体陽性乳癌発症リスクと逆相関が認められたが,サプリメントとして服用されたβカロテンではそうした関係は認められなかった。また,サプリメントとして服用されたビタミンCには,乳癌発症リスク増加との間でわずかながらも正の相関がみられた(RR:1.16,95%CI:1.04—1.30)ことから,サプリメントとして抗酸化剤を服用することの危険性が示唆された。

 複合ビタミンサプリメントと乳癌発症リスクの関係をみた米国のコホート研究では,両者に相関は認められなかった6)。一方,スウェーデンのコホート研究では,複合ビタミンの使用はむしろ乳癌発症リスクを増加させる可能性が示唆された7)。前述のビタミンCサプリメントの結果と重ね合わせて興味深い所見と思われる。葉酸,ビタミンB6,ビタミンB12の併用効果をみたランダム化比較試験においても,乳癌の発症に有意な影響は認められていない8)。5つのコホート研究と3つの症例対照研究をまとめたメタアナリシスでは,要約相対リスクが0.10(95%CI:0.60—1.63),要約オッズ比が1.00(95%CI:0.51—1.00)であった9)

 その他には,ビタミンD摂取量に関するメタアナリシスがあり10)~12),ビタミンDの大量摂取が乳癌発症リスクを低下させる可能性が示唆されているものの10),ランダム化比較試験ではカルシウムとビタミンDサプリメント服用による乳癌の発症率低下は認められなかった(HR:1.04,95%CI:0.94—1.14)13)。この試験のサブグループアナリシスでは,ベースラインのビタミンD摂取量が600 IU/d以上のグループでは,両サプリメントの服用で乳癌発症リスクが上昇していた(HR:1.28,95%CI:1.03—1.60)。また,ビタミンDサプリメントのみ11),カルシウムサプリメントのみ12)の効果を調べたランダム化比較試験のメタアナリシスはどちらも乳癌発症リスクとの関連がみられなかった(RR:1.11,95%CI:0.74—1.68;RR:1.01,95%CI:0.64—1.59)。

 栄養素の量について,食物に含まれる程度の量(生理量)と比較して,それ以上は「薬用量」あるいは「大量(mega—doses)」と称される。少量(生理量)では癌予防に効果のある栄養素も,大量(薬用量)では有害であったり,場合によっては癌の病因になることもある。サプリメント摂取は食事からの栄養摂取が制限される状況下では許容されるが,薬品に近い扱いで大量に服用することは癌予防の観点からは推奨できないというのがWCRFとAICRの基本的スタンスである。

 例を挙げれば,大豆食品摂取については乳癌発症リスクを低下させるという報告もあるが,そこから短絡してイソフラボンのサプリメントを乳癌予防の目的で大量に摂取することは,推奨できない(疫学・予防CQ 6参照)。

 検索式

 検索はPubMedにて,Breast Neoplasms,Dietary Supplements,Riskのキーワードを用いて行った。今回の検索期間は2012年9月~2014年9月とした。検索結果の中から,本項に関連するメタアナリシス3件,ランダム化比較試験1件を追加した。

参考にした二次資料

① ‌World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Food, Nutrition, Physical Activity and the Prevention of Cancer:a Global Perspective. Washington DC, AICR, pp179—189, 289—295, 2007.

② ‌Continuous Updated Report summary. Food, Nutrition and Physical Activity, and the Prevention of Breast Cancer. pp1—17. 2010.

参考文献

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2) Kim YI. Does a high folate intake increase the risk of breast cancer? Nutr Rev. 2006;64(10 Pt 1):468—75.
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3) Kushi LH, Fee RM, Sellers TA, Zheng W, Folsom AR. Intake of vitamins A, C, and E and postmenopausal breast cancer. The Iowa Women’s Health Study. Am J Epidemiol. 1996;144(2):165—74.
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4) Pan SY, Zhou J, Gibbons L, Morrison H, Wen SW;Canadian Cancer Registries Epidemiology Research Group [CCRERG]. Antioxidants and breast cancer risk—a population—based case—control study in Canada. BMC Cancer. 2011;11:372.
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5) Cui Y, Shikany JM, Liu S, Shagufta Y, Rohan TE. Selected antioxidants and risk of hormone receptor—defined invasive breast cancers among postmenopausal women in the Women’s Health Initiative Observational Study. Am J Clin Nutr. 2008;87(4):1009—18.
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