日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

肥満は乳癌発症リスクと関連するか (疫学.予防・リスク―生活習慣と環境因子・ID41210)

CQ9 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(032-034ページ)
エビデンスグレード Limited-suggestive(可能性あり) 閉経前女性では肥満が乳癌発症リスクを増加させる可能性がある。
Convincing(確実) 閉経後女性では肥満が乳癌発症リスクを増加させることは確実である。

エビデンスグレードを決めるにあたって

 Body mass index(BMI)と乳癌発症リスクに関しては,2014年に日本人を対象とした8つのコホート研究のプール解析の結果が報告された。この解析の対象者数は183,940人,平均観察期間は11.9年と,日本人女性を対象とした研究報告としては最大規模である。

 この報告でも,閉経後女性においてはBMIの増加は乳癌発症リスクの増加と有意に関連していた。さらに,閉経前女性においても,BMIが30以上の高度肥満女性で有意な乳癌発症リスクの増加が認められた。これまで閉経前女性の肥満は乳癌発症リスクをほぼ確実に減少させると考えられてきた。しかしこの報告では相反する結果が示され,アジア人と欧米人ではBMIが乳癌発症リスクに及ぼす影響が異なる可能性が示唆された。本版では日本人を対象とした研究を重視し記載の変更を行った。

背景・目的

 肥満が女性の健康に悪い影響を与えることは多くの科学的根拠により示されている。さらに,肥満は女性のあらゆる死亡リスクを増加させる。欧米では多くの女性が肥満状態にあり,乳癌との関連性に関する研究が盛んに行われている。「肥満」の定義は,体重,BMI(body mass index),胴囲,胴囲と殿囲の比(waist—hip ratio;WHR)などさまざまである。本項では一般的に用いられているBMIを採用し,EBMの手法に従って「肥満と乳癌発症リスク」の間に関連性があるか否かを検討した。

解 説

 2007年11月にWorld Cancer Research Fund(WCRF)とAmerican Institute for Cancer Research(AICR)が作成した「Food, Nutrition, Physical Activity and the Prevention of Cancer:a Global Perspective」第2版では「閉経後女性において肥満は,乳癌のリスクを確実に増加させる」とされている。一方,「閉経前女性において肥満は,乳癌のリスクをほぼ確実に減少させる」とされている(二次資料①参照)。2008年に最新の大規模なシステマティック・レビューとメタアナリシスが1件報告されており,同様の結果を示していた(閉経後ではリスク比1.12,95%CI:1.08—1.16,閉経前ではリスク比0.92,95%CI:0.88—0.97)1。なお,BRCA1/2遺伝子の変異陽性者においては肥満と乳癌発症リスクは関連なしとする興味深い研究報告がなされている2)。WCRFとAICRの報告は2010年に改訂されているが,結論は同様である(二次資料②参照)。

 2013年版までに日本人における「肥満と乳癌発症リスク」の関連を検討した研究は,4件の症例対照研究があり3)~6)すべての研究において,肥満は閉経後乳癌の発症リスクを増加させるとの結果である。1件の研究において,肥満は閉経前乳癌のリスクを減少させると報告されていた6)。また,成長期のBMIと乳癌発症リスクを調査した大規模コホート研究では,20歳までのBMI低値は乳癌発症リスクを増加させ,一方で20歳以降のBMI増加は閉経後ホルモン受容体陽性乳癌の発症を増加させると報告されていた7)

 今回の検索の結果,日本人に関する研究は3件であった。1件の症例対照研究において,全体としてはBMIが30以上でホルモン受容体陽性乳癌の発症リスクが増加するとされ(オッズ比2.41,95%CI:1.37—4.23,傾向検定のp=0.0001),閉経後ではそれが顕著である(オッズ比6.24,95%CI:2.68—14.53,傾向検定のp<0.0001)とする報告がなされていた8)。1件の大規模コホート研究で,閉経後の肥満はBMI 24以上29未満でハザード比1.50(95%CI:1.09—2.08),29以上で2.13,(95%CI:1.09—4.16)と直線的に乳癌発症リスクを上昇させると報告されていた9)。特に20歳以降に体重が増加しその後肥満に陥った60歳以上の女性では乳癌発症リスク増加が顕著であった。同報告では閉経前女性ではBMIと乳癌発症リスクとの関連はなしとされていた。一方,8つのコホート研究をプール解析した1件10)で,閉経後の肥満に関しては同様の結果であったが,閉経前女性においてもMBIに比例して直線的に乳癌発症リスクが上昇する傾向が示され(BMI 30以上ではハザード比2.25,95%CI:1.10—4.60),西洋人とアジア人では肥満と乳癌発症リスクの関連が逆である可能性を示唆された。この報告は日本人における大規模なプール解析でありデータの精度はかなり高い。さらに,海外のメタアナリシス1件で閉経前女性における肥満とトリプルネガティブ乳癌発症の関連性を示唆する報告がなされていた11)。癌サブタイプと肥満の関連は検討が始まったばかりであり,今後の重要な研究課題と考えられる。

 以上より,閉経後女性においてはWCRFおよびAICRの報告内容と日本人における報告内容の結果が一致しているため,肥満が乳癌発症リスクを増加させることは確実と判断できる。一方で,閉経前女性においてはWCRFおよびAICRの報告内容と日本人のプール解析10は結果が異なる。後者は結果の信頼性が高く,わが国における最新の報告である点を鑑み,閉経前女性においても肥満が乳癌発症リスクを増加させる可能性があると判断した。

検索式

 2013年版と同様にPubMed(キーワード:breast neoplasms,obesity,risk,japan)にて2010年10月以降の論文について2014年12月に同じキーワードで検索を行った。134件が該当し,本CQの趣旨に合致する日本人を対象にした2件と海外のメタアナリシス1件およびハンドサーチによる1件を選択し,原論文査読によりこれら4件を採択した。

参考にした二次資料

① ‌World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer:a Global Perspective. Washington DC, AICR, 2007.

② ‌World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer:a Global Perspective. Washington DC, AICR, 2010.

参考文献

1) Renehan AG, Tyson M, Egger M, Heller RF, Zwahlen M. Body—mass index and incidence of cancer:a systematic review and meta—analysis of prospective observational studies. Lancet. 2008;371(9612):569—78.
→PubMed

2) Manders P, Pijpe A, Hooning MJ, Kluijt I, Vasen HF, Hoogerbrugge N, et al. Body weight and risk of breast cancer in BRCA1/2 mutation carriers. Breast Cancer Res Treat. 2011;126(1):193—202.
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3) Yoo K, Tajima K, Park S, Kang D, Kim S, Hirose K, et al. Postmenopausal obesity as a breast cancer risk factor according to estrogen and progesterone receptor status(Japan). Cancer Lett. 2001;167(1):57—63.
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4) Hirose K, Tajima K, Hamajima N, Kuroishi T, Kuzuya K, Miura S, et al. Comparative case-referent study of risk factors among hormone—related female cancers in Japan. Jpn J Cancer Res. 1999;90(3):255—61.
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5) Tung HT, Tsukuma H, Tanaka H, Kinoshita N, Koyama Y, Ajiki W, et al. Risk factors for breast cancer in Japan, with special attention to anthropometric measurements and reproductive history. Jpn J Clin Oncol. 1999; 29(3):137—46.
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6) Hu YH, Nagata C, Shimizu H, Kaneda N, Kashiki Y. Association of body mass index, physical activity, and reproductive histories with breast cancer: a case—control study in Gifu, Japan. Breast Cancer Res Treat. 1997;43(1):65—72.
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7) Suzuki R, Iwasaki M, Inoue M, Sasazuki S, Sawada N, Yamaji T, et al;Japan Public Health Center—based Prospective Study Group. Body weight at age 20 years, subsequent weight change and breast cancer risk defined by estrogen and progesterone receptor status——the Japan public health center—based prospective study. Int J Cancer. 2011;129(5):1214—24.
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8) Kawai M, Kakugawa Y, Nishino Y, Hamanaka Y, Ohuchi N, Minami Y. Anthropometric factors, physical activity, and breast cancer risk in relation to hormone receptor and menopausal status in Japanese women:a case-control study. Cancer Causes Control. 2013;24(5):1033—44.
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9) Suzuki S, Kojima M, Tokudome S, Mori M, Sakauchi F, Wakai K, et al. Obesity/weight gain and breast cancer risk:findings from the Japan collaborative cohort study for the evaluation of cancer risk. J Epidemiol. 2013;23(2):139—45.
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10) Wada K, Nagata C, Tamakoshi A, Matsuo K, Oze I, Wakai K, et al;Research Group for the Development and Evaluation of Cancer Prevention Strategies in Japan. Body mass index and breast cancer risk in Japan:a pooled analysis of eight population—based cohort studies. Ann Oncol. 2014;25(2):519—24.
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11) Pierobon M, Frankenfeld CL. Obesity as a risk factor for triple—negative breast cancers:a systematic review and meta—analysis. Breast Cancer Res Treat. 2013;137(1):307—14.
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