日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

成人期の高身長は乳癌発症リスクを増加させるか (疫学.予防・リスク―生活習慣と環境因子・ID41220)

CQ10 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(035-036ページ)
エビデンスグレード Convincing(確実) 成人期の高身長が乳癌発症リスクを増加させることは確実である

背景・目的

 成人期の身長は,遺伝的要因の他に,環境,小児期・思春期の栄養状態,性ホルモンや成長ホルモンの分泌状況とそれに伴う月経など,様々な因子と複雑に関連している。成人期の身長は,性成熟に関連する要因の影響を反映する指標として,乳癌発症リスクとの関連が検討されてきた。

解 説

 World Cancer Research Fund(WCRF)が2007年11月に出版した報告書では,閉経前を対象としたコホート研究17件,症例対照研究38件,閉経後を対象としたコホート研究22件,症例対照研究34件の結果に基づき,高身長と乳癌発症リスクの関連を評価している(二次資料①)。これらの多くの研究で高身長群におけるリスク増加を報告しており,特に閉経後のコホート研究ではほぼすべての研究で一致した結果であった。メタアナリシスの結果,5 cmあたりのリスク増加は,閉経前のコホート研究で9%,症例対照研究で4%,閉経後のコホート研究で11%,症例対照研究で2%であった。この結果を踏まえ,閉経前では「ほぼ確実」,閉経後は「確実」なリスク要因と評価されている。この報告書は,2005年末までの文献検索結果に基づくものであるが,その後,2007年末までの結果に基づく更新版が公開された(二次資料②)。更新版では,閉経前を対象としたコホート研究3件,閉経後を対象としたコホート研究5件,新たに加わっているが結論は同様であった。

 それ以後に報告された大規模コホート研究においても,WCRFの評価に一致した結果が報告されている。英国の中高年女性約130万人を対象としたコホート研究では,10 cmあたりの相対リスク(95%CI)は,全女性を対象とした解析で1.17(1.14—1.20),閉経前で1.15(1.10—1.19),閉経後で1.16(1.14—1.18)であった1また米国ハワイ州およびカリフォルニア州在住の45~75歳の閉経後女性約8万人を対象にした多民族コホート研究では,10 cmあたりの相対リスク(95%CI)は1.14(1.07—1.21)であった2。この研究の民族による層別解析では,アフリカ系アメリカ人での10 cmあたりの相対リスク(95%CI)は1.27(1.12—1.43),日系アメリカ人は1.21(1.07—1.36)と,白人,ラテン系アメリカ人,ネイティブハワイアンに比べて関連が強い傾向であった。アジア人を対象とした研究として,韓国の40~64歳の女性約34万人を対象とした大規模コホート研究では,全女性を対象とした解析の結果,5 cmあたりの相対リスク(95%CI)は1.18(1.11—1.25)であった3。Metabolic syndrome and cancer project(Me—Can)は,すべての癌腫と身長についてのリスクについて,ノルウェー,スウェーデン,オーストリアの3か国の7つのコホートによる585,928例のメタアナリシスを報告している4)乳癌は6,161例に発症し,5 cmあたりの相対リスク(95%CI)は1.11(1.08—1.13)であった。乳癌診断時の年齢の内訳は50歳未満が1,855例,50~60歳が2,173例,60以上が2,133例であったが,閉経状況別の乳癌発症リスクは不明であった。カナダ人を対象としコホート研究では,10 cmあたりの相対リスク(95%CI)は,閉経前で1.11(1.03—1.20),閉経後は1.12(1.05—1.20)と閉経前後のいずれにおいても,成人期の高身長は,乳癌リスクと有意に関連していた。

 以上より,WCRFの報告書では閉経前で「ほぼ確実」,閉経後で「確実」なリスク要因との結論を主として考慮し,さらにその後の大規模コホート研究においても閉経前後にかかわらずリスク増加が報告されていることから,閉経前後にかかわらず高身長が乳癌発症リスクを増加させることは確実である。

検索式

 検索はPubMedにて,Breast Neoplasms,height,body size,risk,Humansのキーワードを用い,検索期間は2012年9月から2014年9月とした。文献は28件を同定し,5件を選択し論文査読を行った。そのうち3件を選択し,2013年版での引用文献3件と合わせて計6件の構造化抄録を作成し,本解説に引用した。

参考にした二次資料

① ‌World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer:a Global Perspective. Washington DC, AICR, 2007.

② ‌World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer:a Global Perspective. Washington DC, AICR, 2010.

参考文献

1) Green J, Cairns BJ, Casabonne D, Wright FL, Reeves G, Beral V;Million Women Study collaborators. Height and cancer incidence in the Million Women Study:prospective cohort, and meta—analysis of prospective studies of height and total cancer risk. Lancet Oncol. 2011;12(8):785—94.
→PubMed

2) White KK, Park SY, Kolonel LN, Henderson BE, Wilkens LR. Body size and breast cancer risk:the Multiethnic Cohort. Int J Cancer. 2012;131(5):E705—16.
→PubMed

3) Sung J, Song YM, Lawlor DA, Smith GD, Ebrahim S. Height and site—specific cancer risk:A cohort study of a korean adult population. Am J Epidemiol. 2009;170(1):53—64.
→PubMed

4) Wirén S, Häggström C, Ulmer H, Manjer J, Bjørge T, Nagel G, et al. Pooled cohort study on height and risk of cancer and cancer death. Cancer Causes Control. 2014;25(2):151—9.
→PubMed

5) Kabat GC, Heo M, Kamensky V, Miller AB, Rohan TE. Adult height in relation to risk of cancer in a cohort of Canadian women. Int J Cancer. 2013;132(5):1125—32.
→PubMed

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