日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

夜間勤務は乳癌発症リスクを増加させるか (疫学.予防・リスク―生活習慣と環境因子・ID41270)

CQ15 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(047-049ページ)
エビデンスグレード Limited-suggestive(可能性あり) 夜間勤務は乳癌発症リスクを増加させる可能性がある。

背景・目的

 乳癌は一般的に西洋化の進んだ地域での発症率が高いため,疫学研究では食や生活習慣の西洋化に焦点が当てられ,乳癌との関連が疑われるさまざまな因子が取り上げられてきた。西洋化の一面として,夜間業務に携わる女性が増加してきたのは事実であり,女性のサーカディアンリズムの変化や夜間の電光曝露が関連性のあるリスクとして注目されてきた。

 その理論的な根拠となったのは,1978年Cohenらによる松果体と乳癌との関連性についての報告,さらに1987年にStevensが報告した“melatonin hypothesis(メラトニン仮説)”である。Stevensはメラトニンと乳癌の関連性についてさまざまな実験報告をレビューし,電磁波や夜間の電光曝露によるメラトニン減少が内因性女性ホルモンの上昇や免疫系などに影響し,乳癌の発症率を増加させているのではないかと報告した。また,全盲女性における乳癌発症率の低値は,メラトニン仮説を裏付ける疫学的根拠となった。以後,この仮説を検証すべく夜間の電光曝露,あるいは夜間勤務と乳癌発症との関連性についていくつかの疫学研究が行われている。

解 説

 WHOの外部機関,国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer;IARC)は,2010年に発癌と夜間勤務に関するモノグラフを公表し,夜間勤務をGroup 2A(probably carcinogenic to humans)に分類している。これによると,過去に夜間勤務との関連性に関して検討された癌種は乳癌が最も多く,9件の研究報告がある。うち4件がコホート研究,4件が症例対照研究,1件がメタアナリシスである。

 Nurses’ Health StudyⅠ,Ⅱ(NHSⅠ,Ⅱ)は,看護師を対象に米国で実施された大規模なコホート研究である1)2)。NHSⅠでは夜勤労働に従事した78,562人を対象として10年間の経過観察を行った1)。その結果,月に3回以上の夜勤を行った期間が,1~14年,15~29年,30年以上の看護師の相対リスクはそれぞれ,1.08(95%CI:0.99—1.18),1.08(95%CI:0.90—1.30),1.36(95%CI:1.04—1.78)であり,夜勤の従事期間が長いほどリスクが増加する傾向にあった(p=0.02)。NHSⅡでは乳癌発症のない115,022人の看護師を対象として12年間の経過観察を行った2)。全く夜間労働に従事しなかった女性と比較して,夜勤に20年以上従事した女性の相対リスクは1.79(95%CI:1.06—3.01)であったが,数年間の夜間労働では乳癌発症リスクを増加させなかった。一方,一般人女性を対象としたスウェーデンコホート(n=1,148,661),上海コホート(n=73,049)では,いずれも夜間勤務と乳癌発症リスクとの間に有意な関連性を認めていない3)4)

 2005年に報告された夜間勤務と乳癌発症に関するメタアナリシスでは,前述した研究に加え,航空機の客室乗務員,電話交換手などの職種を対象に実施された疫学研究を含めた統合解析がなされている5)。13件の研究(航空機客室乗務員7件,看護師3件,電話交換手1件,職種非特定2件)の統合解析の結果,夜間勤務を行う女性の標準化罹患比は1.48(95%CI:1.36—1.61)であり,有意なリスクの増加が認められた。しかし,このメタアナリシスには,夜間勤務と乳癌発症との関連性調査を主な目的としない研究が多く含まれている。特に航空機の客室乗務員での乳癌発症リスクの増加は,宇宙線内に含まれる放射線,電磁波などの影響も示唆されており,他因子の影響を無視することはできない。

 最近では,2013年に4件のメタアナリシスが報告された。10件の研究のメタアナリシスでは,相対リスクは1.19(95%CI:1.05—1.35)であり,夜勤の従事期間が長いほどリスクが増加する傾向を示した6)。16件の研究のメタアナリシスと13件の研究のメタアナリシスは,症例対照研究とコホート研究のそれぞれについて解析を行っている。その結果,いずれも症例対照研究では夜間勤務と乳癌発症との関連を示唆しているが(相対リスクはそれぞれ1.09(95%CI:1.02—1.20)と1.32(95%CI:1.17—1.50)),コホート研究では有意な関連を認めないという結果であった(相対リスクはそれぞれ1.01(95%CI:0.97—1.05)と1.08(95%CI:0.97—1.21))7)8)。最後の1件は15の研究をレビューしており,短期間の夜間勤務従事者の相対リスクは1.13(95%CI:0.97—1.32),長期間の夜間勤務従事者の相対リスクは1.04(95%CI:0.92—1.18)と,いずれも有意な関連性を認めていない9)。また,多くの報告において,良質なデザインでの大規模な疫学研究が必要であることが考察されている。

 以上より,これまでの研究の結果では夜間勤務が乳癌発症リスクを増加させることを示す一定の傾向が認められるが,結果にはまだばらつきがあり,さらなる検討が必要である。

検索式

 検索はPubMedにて,Breast Neoplasms,Breast Cancer,Circadian Rhythm,Work Schedule Tolerance,night work,night worker,night workers,night—shift work,night—shift worker,Riskのキーワードを用いて行った。検索期間は2012年9月~2014年9月とした。選択された海外文献該当33件より,タイトルと抄録により,CQに関連がないものや,明らかに抄録や総説とわかる論文を除き9件を選択し,このうちメタアナリシス4件を採用した。旧論文から症例対照研究4件を削除し今回採用した4件を加え,結果,9件を本文の解説に引用した。国内文献に採択すべき文献はなかった。

参考にした二次資料

① ‌Cohen M, Lippman M, Chabner B. Role of pineal gland in aetiology and treatment of breast cancer. Lancet. 1978;2(8094):814—6.

② ‌Stevens RG. Electric power use and breast cancer:a hypothesis. Am J Epidemiol. 1987;125(4):556—61.

③ ‌World Health Organization/International Agency for Research on Cancer. IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenetic Risk to Humans. Vol. 98. Painting, Firefighting, and Shiftwork. Lyon, France, 2010.

参考文献

1) Schernhammer ES, Laden F, Speizer FE, Willett WC, Hunter DJ, Kawachi I, et al. Rotating night shifts and risk of breast cancer in women participating in the nurses’ health study. J Natl Cancer Inst. 2001;93(20):1563—8.
→PubMed

2) Schernhammer ES, Kroenke CH, Laden F, Hankinson SE. Night work and risk of breast cancer. Epidemiology. 2006;17(1):108—11.
→PubMed

3) Schwartzbaum J, Ahlbom A, Feychting M. Cohort study of cancer risk among male and female shift workers. Scand J Work Environ Health. 2007;33(5):336—43.
→PubMed

4) Pronk A, Ji BT, Shu XO, Xue S, Yang G, Li HL, et al. Night—shift work and breast cancer risk in a cohort of Chinese women. Am J Epidemiol. 2010;171(9):953—9.
→PubMed

5) Megdal SP, Kroenke CH, Laden F, Pukkala E, Schernhammer ES. Night work and breast cancer risk:a systematic review and meta—analysis. Eur J Cancer. 2005;41(13):2023—32.
→PubMed

6) Wang F, Yeung KL, Chan WC, Kwok CC, Leung SL, Wu C, et al. A meta—analysis on dose—response relationship between night shift work and the risk of breast cancer. Ann Oncol. 2013;24(11):2724—32.
→PubMed

7) Ijaz S, Verbeek J, Seidler A, Lindbohm ML, Ojajärvi A, Orsini N, et al. Night—shift work and breast cancer——a systematic review and meta—analysis. Scand J Work Environ Health. 2013 1;39(5):431—47.
→PubMed

8) Jia Y, Lu Y, Wu K, Lin Q, Shen W, Zhu M, et al. Does night work increase the risk of breast cancer? A systematic review and meta—analysis of epidemiological studies. Cancer Epidemiol. 2013;37(3):197—206.
→PubMed

9) Kamdar BB, Tergas AI, Mateen FJ, Bhayani NH, Oh J. Night—shift work and risk of breast cancer:a systematic review and meta—analysis. Breast Cancer Res Treat. 2013;138(1):291—301.
→PubMed

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