日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

電磁波は乳癌発症リスクを増加させるか (疫学.予防・リスク―生活習慣と環境因子・ID41280)

CQ16 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(050-052ページ)
エビデンスグレード Limited-no conclusion(証拠不十分) 電磁波の曝露が乳癌発症リスクを増加させるかどうかは結論付けられない。

背景・目的

 電磁波とは電界と磁界の相互作用によって伝わる電気の波の総称である。電磁波は自然界からの曝露の他に,送電線や家電製品(電子レンジ,携帯電話,パソコン,テレビ等)の使用など,現代の人間生活の営みからも発生している。電磁波の曝露と健康被害,癌との関連性を明らかにすることは現代人にとって重要な課題であり,1960年代から電磁波曝露と人間の健康に関する研究報告が認められる。日常のほとんどの電力は,50 Hzあるいは60 Hzの周波数で運用されており,これにより人体は電界で10~100 V/m(ボルト毎メートル),磁界で0.1~1μT(マイクロテスラ)の曝露を受けるといわれている。送電線の真下では,電界は数千V/m,磁界は約20μTに達する。なお,電磁波は波長と振幅によりさまざまな呼び名と特徴をもつが,波長の短い紫外線・X線・ガンマ線など人体への影響が明らかな電離放射線と乳癌発症に関しては疫学・予防CQ 18を参照のこと。

解 説

 WHOは,1996年に振幅数0~300 GHzの電磁界が健康リスクに及ぼす影響を調査するためにElectromagnetic fields(EMF)Projectを創設した。同Projectから2007年に公表された調査報告書では,0~100 kHzの超低周波磁界と長期的な健康への影響に関して,「幾つかの実例(心臓血管系疾患や乳癌)については,超低周波磁界がこれらの疾病を誘発しないというエビデンスが報告されている」と記載している(二次資料①参照)。

 過去の電磁波曝露と乳癌発症に関する研究は,調査対象とする曝露状況から,大きく居住区における曝露(送電線や高圧線の分布による居住区での曝露),職場による曝露(曝露の多い職種として電気産業,電話交換手など),日常の家電製品からの曝露(電気毛布,電気マットの使用)の3つに分類できる。

 居住区における電磁波曝露と乳癌発症の関連性を検討した研究は4件あり,コホート内症例対照研究が2件1)2),症例対照研究が2件である。このうち,乳癌発症との有意な関連性を示した研究は,ノルウェーで実施された高圧電線の近傍に居住する住民を対象としたコホート内症例対照研究1件であり,居住区で電磁波曝露のある女性のオッズ比は1.58(95%CI:1.3—1.92)と報告している2)

 職種に関する研究は7件(居住区に関する研究のうち2件が重複)あり,コホート内症例対照研究が2件2)3),症例対照研究が5件である。このうち,乳癌発症との有意な関連性を示した研究は,コホート内症例対照研究1件,症例対照研究2件である。ノルウェーテレコムに勤務する女性2,619人を対象としたコホート内症例対照研究では,ラジオ・電話交換手の有意な発症率増加(標準化罹患比:1.3,95%CI:1.05—1.58)を報告している3)。カナダで実施された症例対照研究(症例608人,対照667人)では,中~高度曝露群のうち,特に35歳未満かつPgR陽性乳癌でオッズ比が1.56(95%CI:1.02—2.39)で有効なリスク増加を報告しているが,小規模な研究であることに注意が必要である4)。米国で実施された大規模な症例対照研究(症例6,213人,対照7,390人)では,職場での曝露が最も低い女性を基準としたオッズ比は,低曝露群で1.06(95%CI:0.99—1.14),中曝露群で1.09(95%CI:0.96—1.23),高曝露群で1.16(95%CI:0.96—12.3)(傾向検定のp=0.04)と,若干のリスク増加の可能性を示唆している5)

 電化器具の使用,特に電気毛布,電化寝具の使用と乳癌発症リスクに関する研究は,症例対照研究が5件ある。このうち有意な相関を報告したのはアフリカ系アメリカ女性を対象とした小規模な研究(症例304人,対照305人)1件のみであり,10年以上の使用歴のある女性のオッズ比は4.9(95%CI:1.5—15.6)と報告している6)。米国で実施された最も大規模な研究(症例2,199人,対照2,009人)では,電気毛布,電気マット,温熱ウォーターベッドの使用経験のある女性のオッズ比は閉経前で1.01(95%CI:0.86—1.18),閉経後で1.12(95%CI:0.87—1.43)であり有意な関連は認められず,使用年数,使用期間による容量—反応関係も認められていない7)

 過去の研究で問題とされたのが,電磁波曝露の測定の手法と信頼性である。2010年,Chenらは電磁波曝露の評価に関して,高い質が得られるようになったと考えられる2000年以後の研究報告のみを対象に,メタアナリシスを実施している。15の研究(症例24,338人,対照60,628人)のメタアナリシスの結果,電磁波曝露のオッズ比は0.988(95%CI:0.87—1.09)であり,電磁波曝露と乳癌発症リスクとは無関係であると結論付けている8)。その後,2013年と2014年に電磁波曝露と乳癌発症リスクを示唆する3件のメタアナリシスが報告された。Chenらは,23の症例対照研究についてメタアナリシスを行った結果,オッズ比は1.07(95%CI:1.02—1.13)と報告した9)。しかし,23の研究の中には2000年以前のものが8件含まれており,また電磁波曝露と乳癌発症に有意な関連を示した研究は2件のみであった。同様に,Zhaoらは16の症例対照研究についてメタアナリシスを行い,オッズ比は閉経前で1.10(95%CI:1.01—1.20)と報告した10)。しかし,抄録では2000年から2007年の論文と書かれているものの,実際はそのうちの5つは2000年以前のものであった。また,電磁波曝露と乳癌発症に有意な関連を示した研究は16のうち4件(2000年以降では2件)のみであった。一方,Sunらは電磁波曝露と男性乳癌発症リスクについて,7の症例対照研究と11のコホート研究のメタアナリシスを行った。その結果,1.32(95%CI:1.14—1.52)というオッズ比を報告した11)が,18の研究の中で2000年以降のものは2つのみで,このいずれも有意な関連を示さなかった。

 以上より,電磁波が乳癌発症リスクを増加させることを示す報告はいくつか認められるが,結果にはまだばらつきがあり,さらなる検討が必要である。したがって,電磁波曝露が乳癌発症リスクを増加させるという明確な科学的根拠は乏しく,結論付けることはできない。

検索式

 検索はPubMedにて,Breast Neoplasms,breast cancer,Electromagnetic Fields,electromagnetic waves,electromagnetic wave,Riskのキーワードを用いて行った。検索期間は2012年9月~2014年9月とした。新たに抽出した海外文献該当5件の中から,メタアナリシス3件を採用した。また,2013年版の15件のうち,本文の解説に引用しておらずエビデンスレベルが3b以下の8件を削除し,結果,10件を本文の解説に引用した。国内文献に採択すべき文献はなかった。

参考にした二次資料

① ‌International Labour Organization/International Commission on Non—Ionizing Radiation Protection/World Health Organization. Environmental Health Criteria Monograph No. 238. Extremely Low Frequency Fields. Spain, 2007.

参考文献

1) London SJ, Pogoda JM, Hwang KL, Langholz B, Monroe KR, Kolonel LN, et al. Residential magnetic field exposure and breast cancer risk:a nested case-control study from a multiethnic cohort in Los Angeles County, California. Am J Epidemiol. 2003;158(10):969-80.
→PubMed

2) Kliukiene J, Tynes T, Andersen A. Residential and occupational exposures to 50-Hz magnetic fields and breast cancer in women:a population-based study. Am J Epidemiol. 2004;159(9):852-61.
→PubMed

3) Kliukiene J, Tynes T, Andersen A. Follow-up of radio and telegraph operators with exposure to electromagnetic fields and risk of breast cancer. Eur J Cancer Prev. 2003;12(4):301-7.
→PubMed

4) Labrèche F, Goldberg MS, Valois MF, Nadon L, Richardson L, Lakhani R, et al. Occupational exposures to extremely low frequency magnetic fields and postmenopausal breast cancer. Am J Ind Med. 2003;44(6):643-52.
→PubMed

5) McElroy JA, Egan KM, Titus-Ernstoff L, Anderson HA, Trentham-Dietz A, Hampton JM, et al. Occupational exposure to electromagnetic field and breast cancer risk in a large, population-based, case-control study in the United States. J Occup Environ Med. 2007;49(3):266-74.
→PubMed

6) Zhu K, Hunter S, Payne-Wilks K, Roland CL, Forbes DS. Use of electric bedding devices and risk of breast cancer in African-American women. Am J Epidemiol. 2003;158(8):798-806.
→PubMed

7) Gammon MD, Schoenberg JB, Britton JA, Kelsey JL, Stanford JL, Malone KE, et al. Electric blanket use and breast cancer risk among younger women. Am J Epidemiol. 1998;148(6):556-63.
→PubMed

8) Chen C, Ma X, Zhong M, Yu Z. Extremely low-frequency electromagnetic fields exposure and female breast cancer risk:a meta-analysis based on 24, 338 cases and 60,628 controls. Breast Cancer Res Treat. 2010;123(2):569-76.
→PubMed

9) Chen Q, Lang L, Wu W, Xu G, Zhang X, Li T, et al. A meta-analysis on the relationship between exposure to ELF-EMFs and the risk of female breast cancer. PLoS One. 2013;8(7):e69272.
→PubMed

10) Zhao G, Lin X, Zhou M, Zhao J. Relationship between exposure to extremely low-frequency electromagnetic fields and breast cancer risk:a meta-analysis. Eur J Gynaecol Oncol. 2014;35(3):264-9.
→PubMed

11) Sun JW, Li XR, Gao HY, Yin JY, Qin Q, Nie SF, et al. Electromagnetic field exposure and male breast cancer risk:a meta-analysis of 18 studies. Asian Pac J Cancer Prev. 2013;14(1):523-8.
→PubMed

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