日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

子宮や卵巣の良性疾患は乳癌発症のリスク因子となるか (疫学.予防・リスク―既往歴と家族歴・ID41320)

CQ20 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(061-062ページ)
エビデンスグレード Limited-suggestive(可能性あり) 卵巣嚢腫は乳癌発症リスクの減少に関連する可能性がある。
Limited-no conclusion(証拠不十分) 子宮内膜症が乳癌発症のリスク因子となるかどうかは結論付けられない。
Limited-no conclusion(証拠不十分) 多嚢胞性卵巣症候群が乳癌発症のリスク因子となるかどうかは結論付けられない。

背景・目的

 子宮や卵巣などの女性性器に発生する婦人科良性疾患には,子宮筋腫や卵巣嚢腫,子宮内膜症などがあり,その中には発症・進展に女性ホルモンであるエストロゲンが関与していると考えられている疾患もある。一方,乳癌もエストロゲンの影響を受けるため,婦人科良性疾患と乳癌とのリスク因子の関連を知ることは臨床上重要である。本項では,婦人科良性疾患と乳癌発症リスクについて解説する。

解 説

 婦人科良性疾患と乳癌発症リスクとの関連性を検討した研究報告は限られており,子宮筋腫と関連するものは検索されなかった。これまでに報告のある卵巣嚢腫,子宮内膜症,多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome;PCOS)と乳癌発症リスクとの関連について解説する。

 卵巣嚢腫と乳癌発症リスクについては,卵巣嚢腫症例では,乳癌発症リスクの減少との関連が認められるという複数の報告がある1)~3)。米国,オーストラリア,カナダの3つの地域で行われた症例対照研究では住民対照,姉妹対照の2つの対照群との比較が行われたが,地域,対照群,閉経状況にかかわらず,卵巣嚢腫既往例で乳癌発症リスクの減少が認められた2)。また,スイスとイタリアで行われた3件の症例対照研究の解析においても,卵巣嚢腫と乳癌発症リスク減少との関連が認められた1)詳細な機序は明らかではないが,卵巣嚢腫に対して卵巣摘出を行うことが乳癌発症リスクの減少に関与していると示唆する報告もある45以上のことから,卵巣嚢腫は乳癌発症リスクの減少と関連している可能性がある。

 米国において子宮内膜症の既往と閉経後の乳癌発症リスクを検討したコホート研究では,子宮内膜症と乳癌との関連は認められなかった6)一方,デンマークのケースコホート研究では,子宮内膜症と診断された年齢により乳癌の発症リスクに相違が認められたと報告しており,子宮内膜症を40歳未満で診断された場合では乳癌発症リスクが減少し,40歳以上で診断された場合では逆にリスクが増加する傾向がみられた。ただし,40歳未満では,抗エストロゲン薬による治療例が含まれていることが指摘されている。しかし,本研究でも全体としては子宮内膜症と乳癌との関連は認められていない7)。以上の結果からは,子宮内膜症が乳癌発症のリスク因子となるどうかは結論付けることはできない。

 PCOSとは,内分泌異常から無月経や排卵障害を介して不妊症をきたす病態であり,生殖年齢の女性の約5%,不妊原因の約20%を占めると考えられている。内分泌的には黄体化ホルモンの分泌増加からアンドロゲンの分泌量が増加し,アンドロゲンから変換されたエストロゲンも増加することが問題となると考えられている。

 PCOSと癌の発症リスクに関するメタアナリシスが1件報告されており,乳癌に関しては1件のコホート研究と2件の症例対照研究が含まれている8)PCOSと乳癌発症リスクの増加あるいは減少との関連は認められず(相対リスク:0.95,95%CI:0.64—1.39),54歳以下の若年女性に限定しても関連は認めなかった(相対リスク:0.78,95%CI:0.46—1.32)。

 以上の結果から,PCOSが乳癌発症リスクを増加,減少させる因子であると結論付けることはできない。

検索式

 検索はPubMedにて,Breast Neoplasms/epidemiology,Breast Neoplasms/etiology,“Genital Diseases,Female”,Risk,Humans,のキーワードを用いて行った。検索期間は2012年9月~2014年9月とした。該当85件のうちタイトルと抄録から8件を選択し原論文査読を行った。そのうち1件を選択し,2013年版での引用文献7件と合わせて計8件を本解説に引用した。

参考文献

1) Bosetti C, Scotti L, Negri E, Talamini R, Levi F, Franceschi S, et al. Benign ovarian cysts and breast cancer risk. Int J Cancer. 2006;119(7):1679—82.
→PubMed

2) Knight JA, John EM, Milne RL, Dite GS, Balbuena R, Shi EJ, et al;Breast Cancer Family Registry. An inverse association between ovarian cysts and breast cancer in the breast cancer family registry. Int J Cancer. 2006;118(1):197-202.
→PubMed

3) Knight JA, Lesosky M, Blackmore KM, Voigt LF, Holt VL, Bernstein L, et al. Ovarian cysts and breast cancer:results from the Women’s Contraceptive and Reproductive Experiences Study. Breast Cancer Res Treat. 2008;109(1):157-64.
→PubMed

4) Talamini R, Franceschi S, Favero A, Negri E, Parazzini F, La Vecchia C. Selected medical conditions and risk of breast cancer. Br J Cancer. 1997;75(11):1699-703.
→PubMed

5) Weiss HA, Brinton LA, Potischman NA, Brogan D, Coates RJ, Gammon MD, et al. Breast cancer risk in young women and history of selected medical conditions. Int J Epidemiol. 1999;28(5):816-23.
→PubMed

6) Olson JE, Cerhan JR, Janney CA, Anderson KE, Vachon CM, Sellers TA. Postmenopausal cancer risk after self-reported endometriosis diagnosis in the Iowa Women’s Health Study. Cancer. 2002;94(5):1612-8.
→PubMed

7) Bertelsen L, Mellemkjaer L, Frederiksen K, Kjaer SK, Brinton LA, Sakoda LC, et al. Risk for breast cancer among women with endometriosis. Int J Cancer. 2007;120(6):1372-5.
→PubMed

8) Barry JA, Azizia MM, Hardiman PJ. Risk of endometrial, ovarian and breast cancer in women with polycystic ovary syndrome:a systematic review and meta-analysis. Hum Reprod Update. 2014;20(5):748-58.
→PubMed

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