日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

経口避妊薬や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬の使用は乳癌発症リスクを増加させるか (疫学.予防・リスク―既往治療や併用薬・ID41340)

CQ22 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(067-069ページ)
エビデンスグレード Limited-suggestive(可能性あり) 経口避妊薬や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬の使用は乳癌発症リスクを増加させる可能性がある。

背景・目的

 日本における経口避妊薬(oral contraceptive;OC)は,エストロゲンと黄体ホルモンの合剤であり,避妊目的にて自費で処方される。一方,近年,構成されるホルモンの種類や量はOCと同一であるが,主として月経困難症に対して保険適用のある製剤が臨床に導入されており,低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(low dose estrogen progestin;LEP)と称される。OCは1960年に米国FDAに承認されたが,その後,避妊効果を維持しつつ,エストロゲンや黄体ホルモンによる有害事象を回避し,効果を高めるべく開発が進んできた。エストロゲンに関しては,含有されるエストロゲンであるエチニルエストラジオール(EE)は初期の100~150μg/錠から最近では20~35μg/錠と低用量化が進み,黄体ホルモンは第四世代と呼ばれる新規黄体ホルモンも使用されている。OC/LEPは女性のQOLを向上させる薬剤として,現在広く使われているが,一方,エストロゲンと黄体ホルモンを含有するため,乳癌発症リスクの上昇が危惧されてきた。

解 説

 1996年に発表された54研究の症例対照研究のメタ解析では,OCの使用によって相対リスク(RR):1.24(95% CI:1.15—1.33)と有意な乳癌発症リスク増加が示唆された1)。一方,その後の症例対照研究2)や大規模コホート研究3)では有意なリスクの増加はないと報告されている。その他にもこれまで多くのコホート研究や症例対照研究がなされているが,OC/LEPが乳癌発症リスクを増加させるという報告と,増加しないとする報告の両方がある。前向きコホート研究のメタアナリシスの結果からはRR:1.08(95%CI:0.99—1.17)と有意な上昇を認めていないが4),症例対照研究を含めた2000年以降のメタアナリシスの結果からはオッズ比(OR):1.08(95%CI:1.00—1.17)とわずかではあるが,有意な増加が示されている5)。1990年から2009年までのコホート内症例対照研究においても,OR:1.5(95%CI:1.3—1.9)と有意な増加を認めていた6)。ただし,従来使用されていた1錠あたりEE 30μg以上を含有する製剤では有意なリスクの増加が認められていたものの,最近用いられている1錠あたりEE 20μg含有の製剤ではOR:1.0(95%CI:0.6—1.7)と有意差を認めてはいない。以上のことから,OC/LEPの服用はわずかながら乳癌発症リスクを増加させる可能性があるが,含有されるエストロゲンの量など製剤の種類などを考慮すればリスクが増加しない可能性もあると考えられる。

 製剤やレジメンによる差異については以下のように考えられている。エストロゲン量については上記のとおり,低用量ではリスクが減少する可能性が示唆されている6)。一方,黄体ホルモンの世代による差異については,第二世代ではリスクが増加するという研究7)が1件,どのような黄体ホルモンでもリスクは増加しないという報告8)9)が2件あり,一定の見解は得られていない。投与期間については,メタアナリシスにおいて,乳癌発症リスクはOC開始直後に増加しその後ほぼ一定で,中止後10年間でリスク増加を認めなかったという報告がある1)。一方,長期間のOCについては,乳癌発症リスクの増加を指摘する報告もあり,第一子の出産以前からの4年以上の使用(RR:1.5)2),20歳以下で開始した場合(RR:1.2)1)にリスクが増加するという。前向きコホート研究のメタアナリシスにおいても長期の使用はリスクを増加させるという結果が報告されている4)。また,現在使用中の場合と過去の使用経験ありの場合のリスク比較では,現在使用中では中止後との相対リスクが1.3とする報告10)や,1.6とするコホート研究11)がある。中止後5年以上経過しても乳癌発症リスク増加の影響は残るとする報告もあり,一定の見解は得られていない。

 乳癌の家族歴がある女性はない女性に比べ乳癌のリスクが高いが,OCの使用によってそのリスクがさらに増加することはないと報告されており12)WHOにおけるOC使用に関する医学的適応基準であるWHOMECにおいても乳癌の家族歴がある女性に対するOCの使用制限は不要であるというカテゴリー(WHOMEC1)とされている(二次資料①参照)。英国産婦人科学会のカテゴリー分類では,BRCA遺伝子変異をもつ女性に対してはUKMEC3,つまり,リスクはベネフィットを上回る可能性があるため,使用はできるが専門家に相談したほうがよいとなっている(二次資料②参照)。もちろん,現在乳癌である女性に対するOC投与は禁忌である(WHOMEC4)が,乳癌の既往歴があり最近5年間に再発所見のない女性に対するOC投与はWHOMEC4ではなく,WHOMEC3(他に適切な方法がない場合以外には通常勧められない)とされている。

 以上の検討は主として欧米人に対するものである。日本人のOCの使用頻度は低く,また使用の歴史も約14年と浅い。また,LEPに関しても保険適用後,約6年しか経過していないため,長期の大規模な日本人を対象としたコホート研究は見当たらない。サンプルサイズが小さい限られた研究では,経口避妊薬による乳癌発症リスクの増加は認められていない13)

検索式

 検索はPubMedにて,Breast Neoplasms,“Contraceptive,Oral”,Riskのキーワードを用いて検索した。検索期間は開始年指定なし~2014年12月とした。該当文献およびその参考文献から論文をリストアップした。原文査読により一次資料として13件,二次資料として2件,合計15件の文献を選択し,引用した。

参考にした二次資料

① ‌World Health Organization(WHO). Medical eligibility criteria for contraceptive use. 4th ed, 2009. http://whqlibdoc.who.int/publications/2010/9789241563888_eng.pdf?ua=1(平成26年12月7日アクセス)

② ‌Faculty of Sexual & Reproductive Healthcare;Royal College of Obstetricians and Gynecologists. UK medical eligibility criteria for contraception use(UKMEC 2009). http://www.fsrh.org/pdfs/UKMEC2009.pdf(平成26年12月7日アクセス)

参考文献

1) Collaborative Group on Hormonal Factors in Breast Cancer. Breast cancer and hormonal contraceptives:collaborative reanalysis of individual data on 53,297 women with breast cancer and 100,239 women without breast cancer from 54 epidemiological studies. Lancet. 1996;347(9017):1713‒27.
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2) Kahlenborn C, Modugno F, Potter DM, Severs WB. Oral contraceptive use as a risk factor for premenopausal breast cancer:a meta‒analysis. Mayo Clin Proc. 2006;81(10):1290‒302.
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3) Hannaford PC, Selvaraj S, Elliott AM, Angus V, Iversen L, Lee AJ. Cancer risk among users of oral contraceptives:cohort data from the Royal College of General Practitioner’s oral contraception study. BMJ. 2007;335(7621):651.
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4) Zhu H, Lei X, Feng J, Wang Y. Oral contraceptive use and risk of breast cancer:a meta‒analysis of prospective cohort studies. Eur J Contracept Reprod Health Care. 2012;17(6):402‒14.
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7) Hunter DJ, Colditz GA, Hankinson SE, Malspeis S, Spiegelman D, Chen W, et al. Oral contraceptive use and breast cancer:a prospective study of young women. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2010;19(10):2496‒502.
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