日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

閉経後女性ホルモン補充療法は乳癌発症リスクを増加させるか (疫学.予防・リスク―既往治療や併用薬・ID41350)

CQ23 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(070-072ページ)
エビデンスグレード Convincing(確実) 合成黄体ホルモンを用いたエストロゲン+黄体ホルモン併用療法では,長期投与により乳癌発症リスクを増加させることは確実である。
Limited-no conclusion(証拠不十分) 5年未満のエストロゲン単独療法では乳癌発症リスクを増加させないことが示唆されているが,長期施行の影響については結論付けられない。

背景・目的

 閉経後女性ホルモン補充療法〔(menopausal)hormone therapy;(M)HTあるいはhormone replacement therapy;HRT〕とは「エストロゲン欠乏に伴う諸症状や疾患の予防ないし治療を目的に考案された療法で,エストロゲン製剤を投与する治療の総称」であり,有子宮者に対しては子宮内膜癌を予防するためにエストロゲン+黄体ホルモン併用療法(combined estrogen—progestogen therapy;EPT)が,一方,子宮摘出後女性にはエストロゲン単独療法(estrogen therapy;ET)が施行される。

 HRTは自然閉経後あるいは両側卵巣摘出術後の外科的閉経や放射線治療後の女性における更年期障害や卵巣欠落症状,脂質異常症,骨粗鬆症などの退行期疾患はもちろんのこと,皺の改善などの皮膚領域,メタボリック症候群などの代謝性疾患などいわゆるアンチエイジングとしての効果も期待できることが知られており,症状を有する閉経後女性に対する治療の第一選択として考慮すべきであると考えられている。しかし,最も懸念される有害事象として,従来エストロゲンに依存する組織の癌,特に乳癌発症のリスク増加が議論されてきた。

解 説

 HRTと乳癌発症リスクについては1980年代から議論されてきた。

(1)エストロゲン+黄体ホルモン併用療法(EPT)

 大規模ランダム化比較試験(RCT)であるWomen’s Health Initiative(WHI)試験の中間解析の結果(平均観察期間5.2年),結合型エストロゲン(CEE)+酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)投与群(E+P群)はプラセボ群と比較し,乳癌発症リスクのハザード比(HR)が1.26(95%CI:1.00—1.59)と有意な乳癌発症リスクの増加が認められている1)。WHI試験はこの中間解析の結果,試験中止となっている。しかしその後の追加解析の結果でも(平均観察期間11年),E+P群において(E+P群の平均投与期間は5.6年),浸潤性乳癌発症リスクはHR:1.25(95%CI:1.07—1.46)とプラセボ群と比較し有意に増加していた。組織型やグレードはプラセボと同様であったが,E+P群で発症した乳癌症例のリンパ節転移率が有意に高く(HR:1.78,95%CI:1.23—2.58),乳癌による死亡もHR:1.96(95%CI:1.00—4.04)と有意に高かったことから,EPTは5年以上の長期投与において乳癌発症リスクを増加させるものと考えられる23他のRCTでは乳癌発症リスク評価が主たる研究ではないものの,2つの研究で増加しない(RR:1.27,95%CI:0.84—1.944)およびHR:0.58,95%CI:0.27—1.275))とされている。また,コホート研究やメタアナリシスにおいてもリスクの増加が報告されているが,多くは1.2~1.4倍程度の増加である。HRT中止後には3~5年でリスクの増加は消失する6)

 一方,併用される黄体ホルモンの種類により,リスクに差異があることも知られている。MPAをはじめとする,現在日本でHRTに利用できる合成黄体ホルモンはすべてリスクを増加させ,種類による差異は認めないが,天然型プロゲステロンやその立体異性体であるジドロゲステロンではリスクを増加させないことが報告されている7)。また,周期的同時投与法よりも持続的同時併用投与法のほうがリスクが高いという報告や,経口薬よりも経皮薬のほうがリスクが低いという報告もあること,閉経からHRT開始までの期間を示すgap timeが5年以上では5年未満と比較して有意にリスクが減少すること6)も報告されており,EPTのレジメンによって乳癌発症リスクは異なると考えられる。

(2)エストロゲン単独療法(ET)

 WHI研究におけるエストロゲン単独試験においては,6.8年時ではHR:0.77(95%CI:0.59—1.01)と有意差はないものの乳癌発症リスクの減少が認められた8)。コホート研究ではETによりリスクが増加するという報告とリスクは増加しないという報告がある。メタアナリシスと疫学研究ではリスクが増加するという報告がある一方で,RCTの結果からは増加させるとはいえない。

 一方,WHI研究のフォローアップにおいては,中央値として5.9年のCEE投与にて中止後平均7.1年,試験開始から中央値で11.8年における乳癌発症リスクの検討にてHR:0.77(95%CI:0.62—0.95)とプラセボと比較して有意に減少しており,死亡についてもET群でHR:0.37(95%CI:0.13—0.91)と有意に低かったことから9)子宮摘出者における5年間程度のETは乳癌罹患リスクと死亡リスクを増加させることはなく,むしろ減少させる可能性が示唆されている。

 以上のことから,2013年に発表された国際閉経学会(International Menopause Society;IMS)のHRTに関するstatementではHRTが乳癌リスクに与える影響は小さいとし10),また,同年に内分泌学や女性医学に関連した主要な7つの国際学会が共同で発表した,HRTに関するglobal consensus statementでは「HRTによる乳癌リスクの上昇は主として併用される黄体ホルモンと施行期間に関連している」と述べられている(二次資料①参照)。

 一方,日本人を対象とした症例対照研究ではHRTによる乳癌発症リスクはRR:0.432(95%CI:0.352—0.530)と少なくともリスクの増加を認めてはいない11)。また,日本人を対象としたコホート研究でもリスクの増加は認められなかった12)

検索式

 検索はPubMedにて,Breast Neoplasms,Hormone Replacement Therapy,Riskのキーワードを用いて行った。検索期間は開始年指定なし~2014年12月とした。該当文献およびその参考文献から論文をリストアップした。原文査読により13件を選択し,引用した。

参考にした二次資料

① ‌de Villiers TJ, Gass ML, Haines CJ, Hall JE, Lobo RA, Pierroz DD, et al. Global consensus statement on menopausal hormone therapy. Climacteric. 2013;16(2):203—204.

参考文献

1) Rossouw JE, Anderson GL, Prentice RL, LaCroix AZ, Kooperberg C, Stefanick ML, et al;Writing Group for the Women’s Health Initiative Investigators. Risks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women:principal results From the Women’s Health Initiative randomized controlled trial. JAMA. 2002;288(3):321‒33.
→PubMed

2) Heiss G, Wallace R, Anderson GL, Aragaki A, Beresford SA, Brzyski R, et al;WHI Investigators. Health risks and benefits 3 years after stopping randomized treatment with estrogen and progestin. JAMA. 2008 5;299(9):1036‒45.
→PubMed

3) Chlebowski RT, Anderson GL, Gass M, Lane DS, Aragaki AK, Kuller LH, et al;WHI Investigators. Estrogen plus progestin and breast cancer incidence and mortality in postmenopausal women. JAMA. 2010;304(15):1684‒92.
→PubMed

4) Hulley S, Furberg C, Barrett‒Connor E, Cauley J, Grady D, Haskell W, et al;HERS Research Group. Noncardiovascular disease outcomes during 6.8 years of hormone therapy:Heart and Estrogen/progestin Replacement Study follow‒up(HERS II). JAMA. 2002;288(1):58‒66.
→PubMed

5) Schierbeck LL, Rejnmark L, Tofteng CL, Stilgren L, Eiken P, Mosekilde L, et al. Effect of hormone replacement therapy on cardiovascular events in recently postmenopausal women:randomised trial. BMJ. 2012;345:e6409.
→PubMed

6) Beral V, Reeves G, Bull D, Green J;Million Women Study Collaborators. Breast cancer risk in relation to the interval between menopause and starting hormonetherapy. J Natl Cancer Inst. 2011;103(4):296‒305.
→PubMed

7) Fournier A, Berrino F, Clavel‒Chapelon F. Unequal risks for breast cancer associated with different hormone replacement therapies:results from the E3N cohort study. Breast Cancer Res Treat. 2008;107(1):103‒11.
→PubMed

8) Anderson GL, Limacher M, Assaf AR, Bassford T, Beresford SA, Black H, et al;Women’s Health Initiative Steering Committee. Effects of conjugated equine estrogen in postmenopausal women with hysterectomy:the Women’s Health Initiative randomized controlled trial. JAMA. 2004;291(14):1701‒12.
→PubMed

9) Anderson GL, Chlebowski RT, Aragaki AK, Kuller LH, Manson JE, Gass M, et al. Conjugated equine oestrogen and breast cancer incidence and mortality in postmenopausal women with hysterectomy:extended follow‒up of the Women’s Health Initiative randomised placebo‒controlled trial. Lancet Oncol. 2012;13(5):476‒86.
→PubMed

10) de Villiers TJ, Pines A, Panay N, Gambacciani M, Archer DF, Baber RJ, et al;International Menopause Society. Updated 2013 International Menopause Society recommendations on menopausal hormone therapy and preventive strategies for midlife health. Climacteric. 2013;16(3):316‒37.
→PubMed

11) Saeki T, Sano M, Komoike Y, Sonoo H, Honjyo H, Ochiai K, et al. No increase of breast cancer incidence in Japanese women who received hormone replacement therapy:overview of a case‒control study of breast cancer risk in Japan. Int J Clin Oncol. 2008;13(1):8‒11.
→PubMed

12) Kawai M, Minami Y, Kuriyama S, Kakizaki M, Kakugawa Y, Nishino Y, et al. Reproductive factors, exogenous female hormone use and breast cancer risk in Japanese:the Miyagi Cohort Study. Cancer Causes Control. 2010;21(1):135‒45.
→PubMed

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