日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

不妊治療は乳癌発症リスクを増加させるか (疫学.予防・リスク―既往治療や併用薬・ID41360)

CQ24 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(073-074ページ)
エビデンスグレード Limited-no conclusion(証拠不十分) 妊治療が乳癌発症リスクを増加させるかどうかは結論付けられない。

背景・目的

 現代社会,特に先進国においては女性の晩婚化とともに少産少子化が進んでいる状況を背景として,挙児希望による治療件数が加速度的に増加傾向にあり,今後もいわゆる不妊治療はますます増加していくものと思われる。不妊治療においては排卵を促すためのホルモン剤を中心とした排卵誘発剤や着床を促すための黄体ホルモン製剤など種々の薬剤投与が行われる。排卵誘発はエストロゲンレベルを上昇させ,その他のホルモン剤投与にも乳癌発症リスクの増加が危惧される。そこで不妊治療が乳癌発症リスクに及ぼす影響について検討を行った。

解 説

 卵巣刺激と乳癌発症リスクの関連についてはこれまで多くの研究が行われており,2010年に15件のコホート研究と8件の症例対象研究について行われたメタアナリシス1)では関連を認めないとの結果であった。近年,患者の発癌好発年齢まで長期にフォローアップしたコホート研究の続報も発表されている2)3)が,卵巣刺激による乳癌発症リスクの上昇はみられなかった。個々の薬剤についての検討では,症例対照研究でhMG(human menopausal gonadotropin,ヒト閉経期尿性ゴナドトロピン)を用いた6カ月以上の卵巣刺激ではリスクが有意に増加するとの報告4)や,コホート研究においてクロミフェンの長期投与3)5)6)や大量投与6)ではリスクが上昇する可能性が示唆されている。また,不妊治療による妊娠の有無に着目した姉妹研究においては,不妊治療後に妊娠に至らなかった女性は,未治療者と比較して50歳までに乳癌を発症するリスクがわずかに減少し,むしろ10週間以上妊娠が継続した女性において,未治療群よりわずかながら乳癌のリスクが増加するという結果に至っている7)

 一方,近年,生殖補助医療としての体外受精—胚移植(in vitro fertilization—embryo transfer;IVF—ET)が普及しており,日本においても,年間約100万人出生のうちすでに3万人以上が体外受精児である。IVF—ET時における調節卵巣刺激では過排卵を導き,複数個の採卵を行うため,血中エストロゲンレベルは短期間ではあるものの,通常の月経周期の10倍以上になる場合もあり,さらに乳癌発症リスクが懸念される。しかし,IVFを施行された女性における乳癌発症リスクについて8件のコホート研究をまとめたメタアナリシス8)では,関連は認められなかった〔相対リスク(RR):0.91(95%CI:0.74—1.11)〕。またサブグループ解析では,IVF後に妊娠した女性ではRR:0.86(95%CI:0.74—1.11)とリスクが低くなり,30歳前に最初のIVFを施行した女性ではRR:1.64(95%CI:0.96—2.80)とリスクが高くなる傾向があるが,いずれも有意差を認めなかった。なお,個々の研究においては,30歳を超える9),あるいは40歳を超える年齢10)での施行はリスクを増加させるという報告や逆にIVF治療開始年齢が若い女性で乳癌発症リスクが高くなるという報告11),30歳以上12)や40歳代で初めてIVFを行った場合11)にはむしろ乳癌発症リスクが減少するという報告もあり,コンセンサスは得られていない。

 以上のように,現時点で不妊治療と乳癌発症リスクとの関連については否定的な文献が多い。しかしながら,不妊治療を受ける女性集団の背景には不妊の要因と考えられている肥満や多嚢胞性卵巣など,また,不妊の結果としての未産や初産年齢の高齢化など,他のCQで示されているように,それら自体が乳癌発症リスクを増加させる因子を含んでおり,バイアスが多く明確な結論を得るのは困難である。また,用いられる薬剤の種類や量による差異についても検討が少ないことから,本CQに対する結論を出すには時期尚早と考えられる。

検索式

 検索はPubMedにて,Breast Neoplasms,“Reproductive Techniques,Assisted”,Infertility/therapy,risk,incidence,およびBreast Neoplasms/epidemiology,“Reproductive Techniques,Assisted”,Infertility/therapyのキーワードを用い,発症リスクに関する用語を加えたものと,乳癌の疫学的側面に焦点を当てた検索で得た結果を統合した。検索期間は開始年指定なし~2014年9月とした。該当文献およびその参考文献から論文をリストアップした。原文査読により12件を選択し,引用した。

参考文献

1) Zreik TG, Mazloom A, Chen Y, Vannucci M, Pinnix CC, Fulton S, et al. Fertility drugs and the risk of breast cancer:a meta‒analysis and review. Breast Cancer Res Treat. 2010;124(1):13‒26.
→PubMed

2) Lerner‒Geva L, Rabinovici J, Olmer L, Blumstein T, Mashiach S, Lunenfeld B. Are infertility treatments a potential risk factor for cancer development? Perspective of 30 years of follow‒up. Gynecol Endocrinol. 2012;28(10):809‒14.
→PubMed

3) Brinton LA, Scoccia B, Moghissi KS, Westhoff CL, Niwa S, Ruggieri D, et al. Long‒term relationship of ovulation‒stimulating drugs to breast cancer risk. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2014;23(4):584‒93.
→PubMed

4) Burkman RT, Tang MT, Malone KE, Marchbanks PA, McDonald JA, Folger SG, et al. Infertility drugs and the risk of breast cancer:findings from the National Institute of Child Health and Human Development Women’s Contraceptive and Reproductive Experiences Study. Fertil Steril. 2003;79(4):844‒51.
→PubMed

5) Brinton LA, Scoccia B, Moghissi KS, Westhoff CL, Althuis MD, Mabie JE, et al. Breast cancer risk associated with ovulation‒stimulating drugs. Hum Reprod. 2004;19(9):2005‒13.
→PubMed

6) Orgéas CC, Sanner K, Hall P, Conner P, Holte J, Nilsson SJ, et al. Breast cancer incidence after hormonal infertility treatment in Sweden:a cohort study. Am J Obstet Gynecol. 2009;200(1):72. e1‒7.
→PubMed

7) Fei C, Deroo LA, Sandler DP, Weinberg CR. Fertility drugs and young‒onset breast cancer:results from the Two Sister Study. J Natl Cancer Inst. 2012;104(13):1021‒7.
→PubMed

8) Sergentanis TN, Diamantaras AA, Perlepe C, Kanavidis P, Skalkidou A, Petridou ET. IVF and breast cancer:a systematic review and meta‒analysis. Hum Reprod Update. 2014;20(1):106‒23.
→PubMed

9) Katz D, Paltiel O, Peretz T, Revel A, Sharon N, Maly B, et al. Beginning IVF treatments after age 30 increases the risk of breast cancer:results of a case‒control study. Breast J. 2008;14(6):517‒22.
→PubMed

10) Pappo I, Lerner‒Geva L, Halevy A, Olmer L, Friedler S, Raziel A, et al. The possible association between IVF and breast cancer incidence. Ann Surg Oncol. 2008;15(4):1048‒55.
→PubMed

11) Stewart LM, Holman CD, Hart R, Bulsara MK, Preen DB, Finn JC. In vitro fertilization and breast cancer:is there cause for concern? Fertil Steril. 2012;98(2):334‒40.
→PubMed

12) Källén B, Finnström O, Lindam A, Nilsson E, Nygren KG, Olausson PO. Malignancies among women who gave birth after in vitro fertilization. Hum Reprod. 2011;26(1):253‒8.
→PubMed

乳癌診療ガイドライン

PAGETOP
Copyright © 一般社団法人日本乳癌学会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.