日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

日本人の乳癌発症リスク評価にGailモデルは勧められるか (疫学.予防・リスク―評価と予防・ID41390)

CQ27 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(080-081ページ)
推奨グレード C2 対象としてアジア系アメリカ人が追加されたが,日本在住の日本人を対象としたデータが考慮されていないため勧められない。

背景・目的

 乳癌の治療成績を向上させるためには,発症予防のための一次予防,ならびに早期発見のための二次予防が重要であり,ハイリスク者を同定することができれば臨床的に有用である。

 Gailモデルは,乳癌既往のない健常女性の乳癌罹患リスクを算出する方法であり,今後5年間に乳癌に罹患するリスクおよび生涯にわたるリスクを推計する(乳癌やDCISの既往がある女性の評価はできない)。

解 説

 Gailモデルは,1989年にGailらによって報告された1)。Gailらは,1973~1980年の間にマンモグラフィによる乳癌検診を行うBreast Cancer Detection Demonstration Project(BCDDP)の中で,この期間に乳癌を発症した2,852人の白人女性と対照のmatched pairを抽出して乳癌の発症リスク要因を解析した。その結果,初潮年齢,初産年齢,乳癌家族歴(第1度近親者における乳癌患者数),乳腺生検回数が乳癌発症に大きく関与していることが示された。さらにBCDDPのデータから年齢別乳癌罹患リスクを算出して,毎年マンモグラフィ検診を受けた場合の今後乳癌に罹患する可能性を計算するモデルを作成したのがGailモデル1である。これには乳腺生検の病理診断において異型過形成が新たな因子として加えられている。

 Gailモデル1はマンモグラフィで乳癌検診を受けている女性のデータをもとに算出しているため,スクリーニングを定期的に受けていない若い女性の乳癌リスクを過大に評価する可能性がある。そこでNCIのSEER(Surveillance,Epidemiology,and End Results)から算出された乳癌罹患率を用いて,さらに人種を考慮したものがGailモデル2である2)。これには乳腺生検の病理診断において異型過形成が新たな因子として正式に加えられている。さらにアフリカ系アメリカ人のためのリスク評価モデルが作成され3),2011年にはアジア系アメリカ人のデータが追加されて現在に至っている4)

 Gailモデルの妥当性は複数の臨床研究により確認されているが2)5)~8),第2度近親者,父方親族,乳癌診断時年齢は考慮されていないことから,母や姉妹が高齢になって乳癌と診断された女性ではリスクを過大評価し,若年で乳癌を発症した第2度ないし第3度近親者がいる女性では発症リスクを過小評価する可能性のあること,閉経前の女性のリスクを過大評価する可能性のあることが指摘されている。

 このGailモデルが作成された経緯をみてもわかるように,基礎データは米国在住の女性の疫学データを用いて作成されている。人種に関しては,2011年にアジア系アメリカ人も加わっており,日本人の項もあるが,米国在住の日本人を対象としており,日本在住の日本人に関するデータが考慮されていないことから,日本に在住する日本人女性を対象にGailモデルの使用は推奨されない。二次資料①においても米国外に在住する女性には適用できない可能性を指摘している。

 乳癌の年齢別罹患リスクなど米国在住の日本人と異なっており,このモデルを日本在住の日本人の乳癌発症予測に適用することはできない。

 韓国には韓国人を対象とした乳癌のリスク評価のツールがあり,韓国人女性にはGailモデルよりも予測能が優れていたという〔Korean breast cancer risk assessment tool(KoBCRAT)(二次資料③)〕。わが国にも乳癌発症のリスク評価システムの作成が望まれる。

検索式

 検索はPubMedにて,Breast Neoplasms,Gailのキーワードを用いて行った。検索期間は2012年9月~2014年9月とした。該当した31件のうち採用すべき文献はなかったが,二次資料③を1件加えた。

参考にした二次資料

① ‌Natural Cancer Institute. http://www.cancer.gov/bcrisktool/

② ‌厚生労働省がん研究助成金による研究報告書「日本人女性の乳がん発症リスクに対する新しいロジスティック回帰モデルの臨床への応用に関する研究」,2008.

③ ‌Park B, Ma SH, Shin A, Chang MC, Choi JY, Kim S, et al. Korean risk assessment model for breast cancer risk prediction. PLoS One. 2013;8(10):e76736.

参考文献

1) Gail MH, Brinton LA, Byar DP, Corle DK, Green SB, Schairer C, et al. Projecting individualized probabilities of developing breast cancer for white females who are being examined annually. J Natl Cancer Inst. 1989;81(24):1879‒86.
→PubMed

2) Costantino JP, Gail MH, Pee D, Anderson S, Redmond CK, Benichou J, et al. Validation studies for models projecting the risk of invasive and total breast cancer incidence. J Natl Cancer Inst. 1999;91(18):1541‒8.
→PubMed

3) Gail MH, Costantino JP, Pee D, Bondy M, Newman L, Selvan M, et al. Projecting individualized absolute invasive breast cancer risk in African American women. J Natl Cancer Inst. 2007;99(23):1782‒92.
→PubMed

4) Matsuno RK, Costantino JP, Ziegler RG, Anderson GL, Li H, Pee D, et al. Projecting individualized absolute invasive breast cancer risk in Asian and Pacific Islander American women. J Natl Cancer Inst. 2011;103(12):951‒61.
→PubMed

5) Spiegelman D, Colditz GA, Hunter D, Hertzmark E. Validation of the Gail et al. model for predicting individual breast cancer risk. J Natl Cancer Inst. 1994;86(8):600‒7.
→PubMed

6) Bondy ML, Lustbader ED, Halabi S, Ross E, Vogel VG. Validation of a breast cancer risk assessment model in women with a positive family history. J Natl Cancer Inst. 1994;86(8):620‒5.
→PubMed

7) Rockhill B, Spiegelman D, Byrne C, Hunter DJ, Colditz GA. Validation of the Gail et al. model of breast cancer risk prediction and implications for chemoprevention. J Natl Cancer Inst. 2001;93(5):358‒66.
→PubMed

8) Decarli A, Calza S, Masala G, Specchia C, Palli D, Gail MH. Gail model for prediction of absolute risk of invasive breast cancer:independent evaluation in the Florence‒European Prospective Investigation Into Cancer and Nutrition cohort. J Natl Cancer Inst. 2006;98(23):1686‒93.
→PubMed

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