日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」

BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異をもつ女性に対して卵巣癌の検診を行うことは勧められるか (疫学.予防・癌遺伝子診断と予防・ID41480)

CQ35 乳癌診療ガイドライン2 疫学・診断編(118-120ページ)
推奨グレード C1 BRCA遺伝子変異をもつ女性に対する卵巣癌検診の有用性については,いまだ十分な科学的根拠はないが,行うことを考慮してもよい。

背景・目的

 婦人科癌の検診として検討,あるいは実用化されているものには,子宮頸癌検診,子宮体癌検診と卵巣癌検診がある。BRCA遺伝子変異と子宮頸癌との関連は知られていない。また,子宮内膜癌についてもBRCA遺伝子変異をもつ女性におけるリスクの増加はないと報告されている1)(これらに対する検診については,検診・画像診断:総論3.(4)婦人科検診を参照のこと)。

 一方,BRCA遺伝子変異をもつ女性においては卵巣癌発症リスクも増加することが知られており2),欧米ではリスク低減卵管卵巣摘出術(risk reducing salpingo—oophorectomy;RRSO)が勧められている(疫学・予防CQ 34参照)。しかし,日本ではいまだ普及はしておらず,経過観察されることが多い。そこで,変異が判明した女性における卵巣癌検診の有用性について検討した。

解 説

 BRCA遺伝子変異をもつ女性においては乳癌発症リスクとともに卵巣癌リスクも増加する。卵巣癌検診の手法の候補としては,これまで超音波検査,CA125測定などが検討されてきたが,無症候の女性における卵巣癌の検診については,死亡率を減少させる報告が存在しないことから,現時点での手法ではその有用性は否定されており,日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会による「産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2014」や,米国産科婦人科学会(American Congress of Obstetricians and Gynecologists;ACOG),米国がん協会(American Cancer Society;ACS),米国予防医療専門委員会(U. S. Preventive Services Task Force;USPSTF)のガイドラインにおいても,初期の卵巣癌に有効かつ十分に正確なスクリーニング方法はなく,症状のない一般女性には推奨されないとされている(二次資料①~④参照)。

 一方,BRCA遺伝子変異をもつ女性や家族歴のあるハイリスク症例については,経腟超音波検査とCA125測定が早期の卵巣癌の発見や死亡率の低下にはつながらないという報告があるものの3)4),上記のどのガイドラインにおいても,一般女性同様の推奨ができるかどうかについてはいまだ不明であり,内診,経腟超音波検査,CA125測定を提示できるとされている。その方法としては,全米総合がん情報ネットワーク(National Comprehensive Cancer Network;NCCN)のガイドラインでは,1年ごとの経腟超音波検査とCA125測定はハイリスク女性のスクリーニングに有効な方法ではないという報告があること,また,6カ月ごとの検査の有効性のデータも限られていると注釈しながらも,現状ではハイリスクの女性には,6カ月ごとの経腟超音波検査(閉経前ではできれば月経周期の1~10日目)とCA125測定(閉経前ではできれば月経周期5日目以降)を30歳,あるいは血縁の中で最も若く卵巣癌になった年齢よりも少なくとも5~10歳早くから施行することを勧めている(二次資料⑤参照)。一方,Cancer Australiaや国際産婦人科連合(International Federation of Gynecology and Obstetrics;FIGO)のガイドラインでは,経腟超音波検査やCA125測定は初期の卵巣癌発見に有効ではないというエビデンスがあるため,卵巣癌のハイリスク女性におけるサーベイランスやリスク軽減には勧めないと記載している(二次資料⑥⑦参照)。

 2013年に報告された,家族歴のある女性に対する1年に一度のCA125測定と経腟超音波検査により卵巣癌・卵管癌の発見率を検討した英国での前向きコホート研究,United Kingdom Familial Ovarian Cancer Screening Study(UKFOCSS)では,1年ごとの検査により,前年の検診未受診者と比較して臨床進行期Ⅲc期以上の卵巣癌の発見率は低下させること,つまり卵巣癌を見つけるには1年に1回より頻繁に検査が必要であると報告している。しかし,Ⅰ期の早期癌の発見率は増加させてはいない5)。この研究では,継続して検診間隔の短縮やCA125判定基準の変更などによる有用性を検討しており,現在進行中の米国Gynecologic Oncology Group(GOG)によるGOG—0199“The National Ovarian Cancer Prevention and Early Detection Study”とともにその結果が待たれるところである。

 以上より,現在のところ,BRCA遺伝子変異をもつ女性に対する卵巣癌検診の有用性は確立されていないものの,実際の臨床上では多くの欧米のガイドラインに記載があるとおり,その可能性に期待して,検査(内診,経腟超音波検査,CA125測定)が検討されている状況にあるといえる。

検索式

 PubMedにて,BRCA,Cervical Cancer,また,BRCA,endometrial cancer,ならびにBreast Neoplasms,BRCA,risk factors,Cervical Cancer,Endometrial Cancer,Ovarian Cancer,screeningのキーワードを用いて検索した。検索期間は1995年1月~2014年12月とした。さらに関連文献を検索して,一次資料として5件,二次資料として7件,合計12件の文献を選択し,引用した。

参考にした二次資料

① ‌日本産科婦人科学会, 日本産婦人科医会編. 産婦人科診療ガイドライン‒婦人科外来編2014. 東京, 日本産科婦人科学会, 2014.

② ‌American College of Obstetricians and Gynecologists Committee on Gynecologic Practice. Committee Opinion No. 477:the role of the obstetrician‒gynecologist in the early detection of epithelial ovarian cancer. Obstet Gynecol. 2011;117(3):742‒6.

③ ‌American Cancer Society. Cancer Facts & Figures 2014. http://www.cancer.org/research/cancerfactsfigures/cancerpreventionearlydetectionfactsfigures/index(平成26年11月26日アクセス)

④ ‌U. S.  Preventive Services Task Force. Screening for Ovarian Cancer‒U. S.  Preventive Services Task Force Reaffirmation Recommendation Statement. http://www.uspreventiveservicestaskforce.
org/uspstf12/ovarian/ovarcancerrs.htm(平成26年11月26日アクセス)

⑤ ‌National Comprehensive Cancer Network clinical practice guidelines in oncology:Genetic/Familial High‒Risk Assessment‒Breast and Ovarian, ver2. 2014.

⑥ ‌Cancer Australia. Recommendations for management of women at high risk of ovarian cancer. http://guidelines.nbocc.org.au/guidelines/high_risk_ovarian/ch01s04.php(平成26年11月26日アクセス)

⑦ ‌Mutch D, Denny L, Quinn M;FIGO Committee on Gynecologic Oncology. Hereditary gynecologic cancers. Int J Gynaecol Obstet. 2014;124(3):189‒92.

参考文献

1) Levine DA, Lin O, Barakat RR, Robson ME, McDermott D, Cohen L, et al. Risk of endometrial carcinoma associated with BRCA mutation. Gynecol Oncol. 2001;80(3):395‒8.
→PubMed

2) Chen S, Iversen ES, Friebel T, Finkelstein D, Weber BL, Eisen A, et al. Characterization of BRCA1 and BRCA2 mutations in a large United States sample. J Clin Oncol. 2006;24(6):863‒71.
→PubMed

3) Hermsen BB, Olivier RI, Verheijen RH, van Beurden M, de Hullu JA, Massuger LF, et al. No efficacy of annual gynaecological screening in BRCA1/2 mutation carriers;an observational follow‒up study. Br J Cancer. 2007;96(9):1335‒42.
→PubMed

4) Woodward ER, Sleightholme HV, Considine AM, Williamson S, McHugo JM, Cruger DG. Annual surveillance by CA125 and transvaginal ultrasound for ovarian cancer in both high‒risk and population risk women is ineffective. BJOG. 2007;114(12):1500‒9.
→PubMed

5) Rosenthal AN, Fraser L, Manchanda R, Badman P, Philpott S, Mozersky J, et al. Results of annual screening in phase I of the United Kingdom familial ovarian cancer screening study highlight the need for strict adherence to screening schedule. J Clin Oncol. 2013;31(1):49‒57.
→PubMed

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